《-COStMOSt- 世界変革の語》第6話:握手

「隨分と長い話だったな」

「一言一句逃さず話したからね……。君の方から言ってきたんじゃないか……」

電車を下車すると、退屈と不満に顔を歪めた競華はズカズカと歩き出す。スカート丈が短いのに颯爽と歩いていくのはお見事というか、付いていくのが大変だった。

階段を降りて駅を出ると太の熱線が降り注ぐ。まだ夏のように熱い9月の初め、近くを歩くサラリーマンも殆どがクールビズだった。

「まぁ、貴様が北野と友人になるのなら都合が良い。私に紹介しろ」

「それこそどうしてさ……。君がリスクを冒す理由がわからない」

「好奇心がある、それだけで十分だろう?」

「…………」

晴子さんを見たくて転校し、僕にケンカを売るようなに興味があるって……。

競華の真意はわからないが、確かに理由は十分だろう。好奇心は貓をも殺すという、しかし僕達は狼だ。

狼は好奇心が高く、話に出てくるような殘は殆どないそうで、好奇心のあまり人間を殺してしまう事もあるようだ。仲間を思いやる優しい生きだ。

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それを僕達自に比喩することは、決してお調子者だからではない。好奇心があるからこそ知があるし、お互いを信じ合っているのは本當の事だから。信じ合ってるからこそ、競華の言葉に真意が無いのはわかるんだ。こうして問いかけても答えてくれないなら、真意は教えてくれないだろう。

「……はぁ。どうなっても知らないからね」

「誰にを言っている」

「……ああ、君が心配されるほどヤワじゃないのは、よくわかっているよ……」

競華なら大丈夫、だから僕も、北野に話をしなきゃな――。

朝のHR前、やっぱり一番にクラスにいるのは晴子さんだった。昨日は事件があったから挨拶をしたが、基本的には挨拶をしないでいる。馴染なのに顔も合わせない、不思議な関係だった。

クラスメイトがチラホラとやってきて、北野は8時10分頃の登校だった。

「おはよう、幸矢くん」

「……おはよう、北野さん」

の方から挨拶をして來た。それだけでクラスに異様な空気が流れる。

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僕という嫌われ者と話す――それはクラスメイトにとっては許せない行為のはずだから。それでも注意の聲はかけられないだろう。僕の眼前で僕を卑下する行為をすれば、どうなるかわかっているはずだから。あとでこっそりと北野に注意の聲が掛かるだろう。

「……? どうしたのかしら、浮かない顔をしているわ」

「……この顔は生まれつきだけど?」

「そう。そうね。昨日も同じ顔だったわ」

椅子を引き、北野はスカートを抑えながら腰を下ろす。自然なその作が、彼生徒として普通に過ごして來たんだなと思わせた。

「幸矢くん……貴方、世界に絶してるような顔してるけど、死ななくて良いの?」

……このは出會って1日2日の相手に、なんで平然と罵れるんだろうな。

「なら君は、なんで生きてるの?」

「死んでないからよ。そして、生きたいという意志がちゃんとあるわ」

「そう……。だったら僕もそうさ。生きる理由がある……。あとは、単純に死にたくないという、人間の原始的な求だ」

「へぇ……生きる理由、伺っても?」

「…………」

視線が錯する。

の妖艶な笑みは今日もまた気持ち悪く、漆黒の瞳も妖しくっている。

このは――瑠璃奈にどこまで聞いたんだ?

「……答える義理が、今の所ないかな」

「あら殘念。私はもっと幸矢くんの事が知りたいのに……」

「……なら、友達になる?」

なるべく自然に提案した。今の言葉から繋げれば、全く問題ないように思えたから。

なのに、北野は目が點になって固まっていた。今時友達になる?なんて聞くような事は珍しいが、そんなに驚くほどだろうか?

「……北野さん?」

「……フフ。大丈夫。そう、それが貴方の選択なのね」

「…………」

選択とは、どういった事だろう。今の僕の立場なら、北野を突き放すこともできたからか。

は自分が危険な人だと、自覚があるのだろう。危険な人間と付き合うのはリスクしか無いのに、僕が友達になるという選択は確かにおかしなものだ。

勿論、自分の意思じゃないからおかしいのだが――。

「いいわよ、同學年で同じクラス、席も隣。友達にならない理由はないわ」

「……隨分と俯瞰的だね」

「いろいろと達観してるのよ、フフフフ……」

「…………」

北野はスッと右手を僕の方に差し出した。握手――それは信頼の証。このは、僕の事なんて信頼してないだろうに……。

「……どうしたの? 握手ぐらいしないと」

「……古典的だね」

「そう思う? ビジネスマナーでも握手はするのよ?」

「それ、社會のルールだろうに……」

は手を差し出しながらも手のひらは見せなかった。手のは開かせないという意味もあるんだろうが、殘念な事にそんな手と握手はできない。

僕は北野の右手を、手のひらが上に向くようにひっくり返した。

手のひらの中心には畫鋲があって、鋭い針が天井に向くのだった。

「……握手されたらどうしようと思ったわ」

「その時點で僕と手を切るつもりだったんだろう? 文字通り、ね……」

「まぁ、酷い言い草ね。刺すだけに留めるつもりだったのに……私、そんなに冷酷じゃないのよ?」

「はいはい……」

の手から畫鋲を取り、握手をわす。らしくらかい手だったが、込められた力は僕と同程度だった。

「よろしくね、幸矢くん」

「ああ、よろしく……」

こんなしっかりとした形で友達になるとは思わなかった。立って握手なんかしてるもんだから、多くのクラスメイトが僕らを見ている。嫌われ者の僕が友達……北野もこれから騒々しい生活を送る事になるだろう。

中でも、晴子さんがしっかりこちらを見ているのは、僕も北野も、橫目で確認していた――。

誰かと共にする晝休みは久し振りだった。1人である方が自由に時間を使えていいが、北野の話は飽きないし、とても興味深いものだった。

「この世界に複雑じゃないものなんて、ないのよ。幸矢くんは酢酸を作ったことがある? CH3COOH……水素、炭素、酸素だけの簡単な化學式。二酸化炭素と水を混ぜれば出來そうなものなのに、風説でできるのは炭酸水……簡単にいかないのよね。酢酸を作るのは、し複雑……」

「……確か、酢酸を作るのに使うのは、殆どがメタノールだったっけ?」

「ええ。幸矢くんは知りね」

「……どうも」

あまり褒められてる気もせず、僕はため息まじりに頬杖をつくのだった。

晝食を取ってからの暇な時間、僕と北野は1つの機を挾んで向かい合っている。僕らの周りに人が寄って來ず、とても話しやすかった。

「複雑って、人間を悩ませるのよね。複雑に絡まった糸を解くのって、とても面倒でしょう?」

「そうだね……けど、もしも複雑なものがなかったら、世の中はこんなに発展しなかった……」

「まぁね。良いこともあれば、悪いこともある。私達はこの複雑な世界の恩恵をし、そして、足に糸が絡まっているの。気付いていないだけで、ね」

「…………」

言葉を上手く解釈するなら、與えられると同時に蝕まれる、という事だろう。飴と鞭で上手く教育されてるのに、教育されている人には自分が教育されていることがわからない。罠にハマっているとも気付かず、滅びていく。

複雑なこの世界では、さらに気付かない。

學校教育を経て社會人となる、そんなわかりやすいレールを敷いて、子供を社會に食べさせていく。レールから逸れた行いは大半が犯罪で、レールから逸れた道は狹い。子供から見れば、今の社會は牢獄にしか思えないだろう。

無論、"気付いた人"に限るけども――。

「……お喋りが過ぎたわね。幸矢くん、まだテストがあるんでしょう?」

突然話題を橫に置き、藪から棒に訊いてくる。今更だが、今日は夏休み明けテストが行われていたのだ。

「次は適検査……格診斷みたいなもので、勉強する必要はないよ」

「そう……。まぁ、次の時間が試験でも、貴方は100點取りそうね」

「……まぁ、そうだね」

否定はしなかった、おそらく午前に行われたテストは満點だろう。いつも勉強してきたんだから、當然の事だ。

しかし、つい昨日転校してきた北野もテストをけている。勉強などした様子はないのに。

つまり、彼も相當な努力家なんだろう。

怖い事だ。信用できない上に賢い人間が、近くに居るのは。

晝休みはこうして過ぎて行く。

チャイムが鳴る間際、競華からメールがあった――。

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