《-COStMOSt- 世界変革の語》第10話:神代家
支度したくとか移時間とかを合わせ、ギリギリ21時より前に晴子さんの住むマンションに著いた。彼が凄い人だから大豪邸に住んでると予想する人が多いが、そんな事はない。賃貸契約でマンションの1部屋を借りて両親と同居している、それが晴子さんの住まいだ。
そもそも凄いのは晴子さん本人なので、彼の両親が借りて住むマンションなど関係はないだろう。それでも、普通の人はこの事実を知ると気落ちするので、滅多に人を招かないらしいが……。
僕や快晴なんかは古くからの付き合いのため、年に一回くらいは行ったりする。それでも今日みたいに呼ばれるのは珍しかった。
3階にある、廊下の真ん中ぐらいの扉の前で立ち止まり、インターホンを鳴らした。5秒、10秒と待つと、中から晴子さんが顔を覗かせる。
「おお、よく來てくれたね。こんばんは、幸矢くん」
「こんばんは。……それで、何? 裝?」
「そうそう、時間が無いから早速ってくれたまえ」
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「…………」
晴子さんが踵を返すと、閉まろうとする扉を抑えて僕も中にる。……晴子さん、その黃い服は寢巻きじゃないか。僕に任せて寢ないでくれよ……。
細い廊下を抜けてリビングに出ると、し頬のたるんだ、らかい表持ちのご婦人に遭遇する。この人も寢巻きだ……。
「あら、いらっしゃい幸矢くん。お正月以來かしら?」
「どうも、靜子しずこさん。……春に一度、お會いしましたよ」
「そうだったかしら……? 歳のせいか、最近忘れが激しくってねぇ……」
「…………」
どう會話を繋げればいいのかわからず、僕がしたじろぐと橫から晴子さんが現れる。
「母さん、幸矢くんを困らせないでくれたまえ。ほら、幸矢くんはこっちだ」
「あらあら、ハルったら。私と話しているので妬くなんて……」
「妬いてないから!」
僕を部屋の方へ押しながら、後ろに向かって晴子さんがぶ。そうやって興してるって事は……いや、考えるのを止めよう。
晴子さんの使っている6畳の和室は今、足の踏み場がなかった。裁斷された布が並べられ、ミシン臺も置いてある。
そこまでは良い、しかし……。
「……なんで君がいるの?」
「いや、呼ばれたから」
部屋の隅に、快晴がいた。その高長を丸めてすみっこに固まりながらスマホゲームをやっている。どう考えても邪魔なのに、なんで快晴が?
そう思って晴子さんを見ると、彼は疑問に答えてくれる。
「キミだけ泊めるわけにはいかんだろう。何かあったら怖いからね」
あぁ、そういう保険か。思ったより僕は信用されてないらしい。
「漫畫に出そうな握力してる癖に……。君が本気を出したら、僕を吹っ飛ばすぐらい訳ないだろうに……」
「箸ですら重いとじる気いたいけなに何を言うか。それより手をかしたまえ」
「はいはい」
「うぁーっ、負けたーっ!」
そういうわけで、僕は布を踏まないように進んで中にり、晴子さんはミシン臺の前に座る。各々がブツを取り、作業を開始した。
僕がやるのは主に花を手いしたりポケットのような簡単なパーツを付けていくこと。晴子さんはずっとミシン臺をかし、快晴は2時間後に睡していた。ミシンの音が煩いのに、よく寢れるなと心する。こいつは居る意味があったんだろうか……。
靜子さんはリビングで作業を手伝ってくれていて、部屋は実質2人だけだった。騒音があっても快晴は起きないから、作業をしながら晴子さんと會話をする。危ないかもしれないが、僕等は思考を分散できるから問題なかった。
「キミが家に來ると、いつも昔の事を思い出すよ。何もない我が家に、キミは參考書を持ってきてくれたね。一緒に勉強をしていた」
「……あの時、君が勉強好きじゃなかったら、今みたいにはなっていなかったね」
「そうさなぁ……。でも、それもこれもキミのせいだ。キミが全てをくれたから今の私がある。キミはあの頃とだいぶ変わってしまったけど、私はずっと謝しているよ……」
「……どうも」
「褒めたわけではないがね。今のキミは、昔のキミと違うのだから」
「…………」
昔は僕も気だったから、言ってることは合ってるんだろうけど……メリハリを持った言葉で諌められると僕も嬉しかった。
昔の自分を褒められたって仕方ないから、ちゃんと"今のキミはダメだ"と言われた方がいい。
「……晴子さんは、ずっと変わらないよね」
「この話し方、容姿、立ち振る舞いこそがキミたちが私に求める偶像である限り、私はこの態度を変えないよ。……それに、私がこうじゃないと、キミの隣に並べない気がしてね」
「馴染なんだから、気にしないよ。君がどうであれ、僕と時間を共有したことは変わりないし、親友だからね……」
「……。ありがとう」
今度は、普通にお禮の言葉だった。
急にありがとうと言われると、しはドキりとするものだけど、そうやって僕がい途中の花を睨みつけていると、晴子さんがクスクスと笑い出す。
「……何かおかしい?」
「いやっ、キミは口調や態度こそ冷たくなったものの、本質的な優しさは全く変わっていないからね。それが嬉しくて……」
「どこをどう見てそう思ったのかは知らないけど、勘違いだよ……」
「なら私は今、優しくない、非道で常識知らずな男と同室しているわけか」
「…………」
言い方が面倒になって來たし、話の容も無意味なので無視を決め込むことにした。
けど、確かに懐かしい。この晴子さんの部屋も、昔は広くじたのに、高校生3人では手狹にじるぐらいか……。
「……無視されると傷つくんだが?」
コツンと僕の頭にらかいものがぶつかり、う手を止める。足元には投げられたであろう布でできた青いバラがあって、晴子さんが投合フォームのまま固まっていた。
拗ねた子供みたいな態度で、おそらくこんな姿は普段見せないであろう。甘えられてる……のだろう。面倒な……。
「心にもないことを言ってないで、手を進めなよ。じゃないと、寢れないよ?」
「しぐらい、話したい。どうせなら隣に座って話したいが、ミシンだからそうもいかぬし……しばかり、寂しい気持ちになるよ」
「…………」
晴子さんは寂しそうに目を伏せ、ガタガタとミシンを再稼働しだす。いつもは頼り甲斐のある振る舞いをする癖に、僕の前でそんな姿を見せるのは、なんだかズルい気もした。
だけど、この仕草こそ、本當に懐かしい。
彼は小學4年生まで、引っ込み思案な格だった。逆に僕は快活で、晴子さんの手を取っては一緒に遊んだりして――。
ジジくさいセリフかもしれないけれど、本當に若返った気分だった。だから――
「まったく、晴ちゃんは仕方ないなぁ」
この呼び方で、いつもよりトーンの高い聲で呼んでも良いだろう。僕が呼ぶと、彼は笑顔で答えた。
「……わがままなの子で、悪いね」
「いいよ。ほら、そっち行くから」
「そ、そこまでしてくれなくても……」
「自分から呼んだ癖に、それはないでしょ。よっこいしょっと」
畳の上から立ち上がって、僕はミシンの前に座る晴子さんの隣にそのまま腰を下ろす。彼は椅子に座り、僕は畳だからし距離がある。
「……とてもやりにくいのだが」
「そう? ……僕は君が近くにいる方が落ち著くけど」
「……幸矢くん。殘暑が殘ってまだ暑いんだから、そんなこと言うのはやめたまえ……」
顔を上げると、真っ赤になった晴子さんの顔があった。この人は本當に僕の事が好きだから……それでも、が將來の邪魔になるからとしなくて、こんな風に悶えてるんだけど、それもまた可かった。
「晴ちゃん」
「その呼び方はやめたまえ……頰が緩む」
「晴子」
「……。キミを家に呼ばねばならぬ狀況だったが、今になって呼ぶんじゃなかったと後悔しているよ。手をいそうだ」
「元はと言えば、君が僕をおちょくってきたんだろうに……」
とはいうものの作業は絶賛進行中で、既に2著が完している。話を舞臺にした裝の數々は、なんとか日が昇るまでに作れそうだった。
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