「私服で來て大丈夫？」

「時間がないので……」

靜子さんと共に、僕は高校へと向かっていた。赤い枯葉、間違いなく北野だろう。彼の下の名前は椛もみじなのだから。

學校を破する、なんて脅しにしか思えないが、北野ならやりかねない。彼は學式に育館を破するような危険人なのだから。

「昨日作った裝、晴子も著るのよねぇ〜。幸矢くん、惚れ直しちゃうんじゃない？」

「……學校では、訳あって話さないようにしてるんです。たとえ可すぎて抱きしめたくなっても、理で抑えて貶してやりますよ」

「……ほんっと、複雑な関係よねー」

はぁっ、と靜子さんはため息を吐く。複雑とはいえ、とてもい信頼があるから大丈夫だけども……。

2人で學校にるのはし気が引けたので、僕は靜子さんと別れて昇降口からって行った。

下駄箱の中、から上履きを取り出すと、同時に手紙が落ちてくる。

手紙を拾い上げ、便箋を開いた。

〈いかがお過ごしかしら？

貴方と私の前で、普通の文化祭なんて退屈だし、し工夫をしてみたの。私からのプレゼントよ、楽しんでちょうだい。フフ、ちょっとしたゲームだから、強張こわばらなくていいわ。気楽にやってね。

容なのだけど、貴方には謎を解いてもらい、謎の先には新たな謎がある。そうして謎を解いていき、最終的には私に辿り著く。簡単でしょ？

期限は明日の午後3時、文化祭終了時刻ね。

因みに、クリアできなかった場合には學校を破させちゃうから、頑張ってね。

赤い枯葉より〉

「……まったく、嬉しくないプレゼントだ」

紙を裏っ返しながらぼやく。便箋の裏面には「2-3ロ31」と書かれていた。単純に考えるなら、2年3組のロッカー、出席番號31番、かな？　これ以上のヒントがない以上、行くしかない。

僕は急いで2年の教室がある3階に向かった。階段も廊下も、生徒や一般客の雑踏で歩きにくく、本當にお祭り騒ぎだった。

2年3組は投げや的なんかを提供している、祭り屋というタイトルで看板がられていた。ロッカーは廊下にあるので、そのまま出席番號31のロッカーを開く。

中には135gのった塩の瓶と、手紙がっていた。

塩――何故こんなものを用意した？　用途は不明だが、持ってなければいけないのだろう。

僕は塩をズボンのポケットにれ、手紙を開いた。

〈書き忘れてたけど、クリアする毎に景品があるわ。嬉しいでしょう？　初めのプレゼントは塩よ。頑張ってたくさん集めてね。

さて、次の指示はこれよ。

私はおばあちゃんのお見舞いに來ました。しかし、おばあちゃんは私を食べようとしました。私は今、逃げているの。助けに來て、私の王子様〉

「…………」

隨分と腳された赤ずきんだな、と思った。おばあちゃんが娘食べようとする、それはどう考えても話の赤ずきんで、きっと赤ずきんが次の指示書を持っているのだろう。

さて――念の為、文化祭のスケジュール自は頭に叩き込んである。

赤ずきんの居そうなエリアは僕らの1-1のキャラクター探しと、2-3の仮裝喫茶。仮裝喫茶なら教室に行けばわかるが、キャラクター探しはコスプレをした學生が口を歩き回り、客に探されるものだったから見つけにくい。

しかし、仮裝喫茶に赤ずきんがいるかはわからない。人探しの方は昨日赤ずきんの裝を作ったからわかっていた。

1-1の教室は、廊下まで行列ができていた。あの人が指揮するクラスだ、それも當然か――なんて思いつつ、30人は居るであろう廊下の列に並ぶ。思ったより長いな、なんて思っていると、服の裾を引っ張られる。

「何をしているのかね、キミは」

凜とした聲で睨みつけて來たのは、晴子さんだった。そして、とても都合の良い事に赤ずきんの格好をしている。る程、この人にお願いすれば必ず僕に渡してくれる。あの指示書の赤ずきんは、晴子さんだろう。

「キミはクラスメイトなのだから、堂々とってくれば良い。それとも何かね？　私服で學校に來て客気分かい？」

「ごめん晴子さん、今はそんな事言ってる場合じゃないんだ」

「…………」

僕が彼の言葉を切り捨てると、ジト目で彼は睨んでくる。今は演技をしている場合じゃない。この人の力も借りたいが、晴子さんはクラスを抜けられないだろうから手短に用を済ませよう。

「晴子さん……北野から預かりはない？」

「あー……手紙と、試験管を2本預かっておるよ。ホレ」

そう言って、彼は手提げのバスケットから試験管を2本と手紙を取り出す。試験管……なんだか雲行きが怪しくなって來たな。

「ありがとう、晴子さ――」

を取ろうとして振った手が、空振りに終わる。晴子さんが手に持った試験管達を、手前に引いたのだ。

「手伝いもせず・・・・・・、用事が済んだらトンズラかい？　しは手伝って行ったらどうなんだね？」

その言葉には、しの怒気が含まれていた。しかし、顔は寂しそうなもので、僕と対立しているような演技をしつつも、一緒にできない事が寂しいと伝えていた。

――ああ、もう。この人はめんどくさい。

ガシャン！

僕は、晴子さんをロッカーに押し付けた。一瞬だが、晴子さんの表が苦悶に歪む。

「急いでるんだよ、神代・・……さっさと渡せ」

「あっ……幸矢、く……」

「…………」

悲しむ彼の表が僕を見據える。……こんなにも、神代晴子は弱かっただろうか？　僕の知る晴子さんは、こんな狀況でも僕を笑顔で諭そうとする人間だ。何か裏があるように見えるが、なんだ……？

「おい黒瀬！　テメェ何やってんだ！」

「…………」

ちょうど良く狼年のようなクラスメイトが駆け寄ってくる。周囲もざわついていた、晴子さんにとっては好都合だろう。

僕は彼の手から無理やり試験管と手紙を奪って逃げ出す。彼らはクラスから離れられないから、僕は50mも走れば追って來られない。

さて、気を取り直して次の問題だ。僕は赤いハートマークのシールがられた手紙を開く。

中に書かれていたのは3つのイラスト。

左から順に、猿、フラミンゴ、狼。

今回はし厄介そうだなと、僕は頭を掻いた。

◇

幸矢くんが行ってしまい、し寂しくなりつつも、吸鬼の仮裝をした黒いマントを羽織る生徒に肩を摑まれる。

「大丈夫ですか、晴子さん！」

「ああ、心配ないよ。ありがとう」

私はニコリと笑って男子生徒に禮を言い、彼を強引に押して共に教室に戻る。

「さぁさぁ、今日は忙しいからね。さっきの事は忘れて頑張ろう」

「あ、あぁ……」

男子は不肖そうだったが、パンパンと背中を叩いてやると、元気に接客へ戻って行った。私はその差を見送り、満足げに1つ息を吐いて幸矢くんのことを考える。

彼が顔を歪ませて嫌そうな顔をしていた。とても申し訳ないように思う。だけど、私はあの手紙と試験管を預かった時、北野くんにこう言われていた。

「できるだけ幸矢くんの事を引き止めてくれるかしら？　ああ、毆り合いとかにならないようにはしておいてね」

だからし引き止めたものの、怒らせてしまった。

(ああ見えての起伏が激しいからなぁ、幸矢くんは……)

クールで知的でカッコいいのに、年らしくの起伏は激しいし、たまーに凄く怒ると怒鳴ったりもする。

後で謝っておけば、きっと許してくれるだろう。

それよりも――試験管か。そして焦燥に駆られた幸矢くんの表、何かあるのは明白だが、私はここでの仕事がある。

幸矢くん、キミは優秀な私の友人だ。キミならばどんな困難でも解決できると、私は信じているよ――。

晝の休憩時、〈赤ずきん姿可かった〉という幸矢からのmessenjerで悶絶するのは、また別の話である。