《-COStMOSt- 世界変革の語》第15話:文化祭④

早朝、6時05分――

「ハァッ、ハァッ……快晴!」

「おうっ! ハッ……今日は學校來いよ!」

「昨日も、行った、ハァ、よっ……!」

エンカウントを行い、パァンと手を合わせてから快晴と別れる。朝の習慣は変わらない、僕等は力を落とさないためにもランニングは続けていた。

実力があれば、嫌われ者だからって文句は言われないだろう。

「ハッ……ハッ……フゥッ……」

息が切れている。しっかり睡眠をとって力は回復したが、それとこれとは話が別だ。20分ぶっつけで全力で走り、息が切れない人は殆ど居ないだろう。

だが、まだ足を止めるわけにはいかない。晴子さん、競華とのエンカウントはまだだったから。だけど、そろそろランニングも止める時間が迫っている。

辛いし、今すぐ辭めたいという気持ちは今でもある。だけど辭めたいところで何もならないと、理がずっとそう言い続けているから、僕は足を止めなかった。

それでも、今日は2人に會えなかった。そんな日もよくあるし、特に気にはしなかった。そもそも街で4人で走って全員と會うなんて、中々ある話ではないのだから。

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6時18分、僕はランニングをやめて家路を目指す。今日やることは変わらない、家に帰ったらシャワーを浴びて、朝食を作って、食べ終わったら皿洗いをする。ただ、學校に行くかは決めていなかった。

皿洗いまで終わって、僕は私服のまま自室にる。學校に行くか、行くにしてもどのタイミングで行くか、考えねばならない。晴子さんにとってのベストを盡くさないと、僕はいらないだろうから。

しかし、自分で自分の行も決められないようでは奴隷と変わらない。今できる最善は、學校にいることだろう。彼は生徒會長、開會の放送もあるはずだ。

それに――

「――北野とも、戦うんだよな」

ポツンと呟いたその言葉。1呼吸ついてから僕はベッドに腰掛け、思考する。

晴子さんなら――僕が居なくとも、北野を退けるだろう。彼は僕より強い人間だ。は男より200g脳が小さいようだが、晴子さんは賢かしこすぎる。

まぁ、それでも、念のために。

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「……行こうか」

開會の言葉も聞いておいて損はないだろう。億劫だが、僕は制服へと著替え始めた。

生徒會長とか聖人君子とか、種々の呼び名がある私こと神代晴子は登校から忙しい。

「おはようございます、晴子さん!」

「晴子さん、おはよう!」

「あっ、おはよー晴子さん」

「ああ、おはよう。おはよう」

學校て挨拶をくれる人に挨拶をし、

「君達、おはようっ」

「え……ああ、生徒會長。おはようございます」

「おお、いつも挨拶してくるよな。よくやるよアンタ」

「私も君達も同じ生徒だ。対等であるなら、仲が良い方が良いだろう? 仲良くなるには、まず挨拶からだ!」

ニカッと笑って言うと、挨拶された彼らも笑ってくれる。こうして自分から挨拶するのも、勿論大切な事だ。

それからまず、クラスに向かって今日のスケジュールをチェックする。

「じゃあ、このメンバーで午前と午後は頑張ってもらうからね。君達、遅刻してはならんぞ〜? ほら、今日も黒瀬くんは居ないからね。1人居ないぶん、みんなで頑張ろう」

黒板にクラスメイトを分類した図を指しながら、クラスメイト達の前で指導する。また、この時に幸矢くんの株を落としておくのもポイントだ。幸矢くんとの対立関係は顕著でなければならない。

ただ、今日は1つ、気になることがあった。

(……彼は、來てないのだな)

それは北野くんの欠席だった。當初から彼も文化祭に不參加だとわかって居たため、特にクラス行事で困ることはないが、不安を煽っている。

しかし、私は逃げないし、正面切って倒したいと思う。――まぁ、私は生徒會の出しもやらなくてはならないし、クラスでは人探しとして赤ずきんをやるのだからここに居続けるわけでもない。彼と対峙するなら、それはいつになるやら。

「では、私は放送に向かう。あとは任せたよ、文化祭実行委員の諸君」

「おっ、行ってらっしゃーい」

「クラスは俺達がなんとかするから、生徒會も行ってこいよ」

「ああ。ありがとう」

クラスメイトに見送られ、私は1-1を後にする。廊下せかせかと人が行きい、文化祭に勵む者達の聲が聴こえてくる。楽しむため、學校に來てくれる人のため、みんな頑張っているのがよくわかった。

聲をかけられれば挨拶を返す。手伝いを求められれば後で行くと伝える。電話もえ、手伝える人員を向かわせもする。そうやって時には電話しながら放送室につくと、マイクをオンにして全校への放送を確認。前置きの音楽を流してから、マイクに向けて発聲する。

『皆さん、おはようございます。生徒會長の、神代晴子です』

聲音は優しく、慎ましやかに。普段とは違うですます調ではあるけれど、"私"が喋っているとわかるように話す。

『本日は2日目の文化祭です。9時にチャイムが鳴りましたら開始ですが、準備の方は進んでいますでしょうか? 昨日は大功だったようで、各クラス、各部共に良いおもてなしをしているのがわかり、私個人としても、とても嬉しいです。昨日に引き続き、來校される方々には相のないように。また、私達も悔いのないように思いきり楽しみましょう』

放送終了の音を流し、マイクを切る。さて、やることはやった。後は生徒會室に見にいき行ってる間に開始のチャイムは鳴るだろう。

さぁ、北野くん――どこからでもかかってくるがいい。

僕が校舎裏で読書していると、晴子さんの放送が聞こえた。平然と全校放送をするあたり、気合が篭ってるのだろう。

僕はどうしたものだろう。友達も居ないし、文化祭を見て回るなんて選択肢はない。時間を無駄にしたくないから本を読んでいたいけど、今でも蚊が飛んでいて外に居るのは嫌だった。

「幸矢」

漠然と次の行を考えていると、僕の名前を呼ぶ鋭い聲があった。僕を君付けせずに呼ぶ人間はない。チラリと聲のする方を向くと、草木を背景に凜然と立つ黒髪の、競華が立っていた。

「……よく、ここがわかったね……」

「貴様は晴子のために學校に來るのはわかっていた。しかし人目につきたくないだろうし、探す場所は限られるだろう」

「…………」

言われてみれば、簡単な推理で僕の居場所は當てられるようだった。それはつまり――北野にもバレてるのだろう。

とはいえ、今日の相手は晴子さんの筈だから、僕の所に用は無いだろうが。

「……それで? 僕に、何か用……?」

「ああ。返信をくれないもんだから、破されて死んだかと思ったぞ。返信ぐらいよこせ」

「……悪かったよ」

僕が謝ると同時に、競華はこちらに向かってゆっくりと足を進めた。怒ってる風にも見えるが、それはいつもの事なので見分けがつかない。

目つきが悪いというのは、厄介な事だ……。

「……なぁ、幸矢」

「……?」

「お前は北野椛を悪人だと思うか?」

突然の問いに対し、僕は沈黙する。

學校で友人になった存在、北野を悪い人だと思うか、という事。普通に考えれば、僕は友達をバカにされたのだから怒っていいだろう。

しかし、北野は學校を破しようとした人。怒っていいかは疑問にあたる。

さて、それは普通の思考の話だろう。僕と北野は友人という名の敵対者、彼を悪人呼ばわりされても怒る義理はない。だとすれば冷靜に彼が悪人かを考えられる――と、前置きはここまでとしよう。

そんなことを考えずとも、答えは出ている。

「悪人だよ」

當たり前のように純粋に、思いのままにその言葉を口にした。競華は眉ひとつかさず、再度尋ねる。

「何故にそう思う?」

「彼は単に、誰かに構ってしいとか、遊んでしいって願いてるんだろう……。だったら、それで弾を持ち出して、人が危険に曬されるのは、悪いことだよ……」

言葉を區切り、右手の人差し指を空に向けて説明する。

「噓をつく子供って話があるだろう……? いつも噓をついて構ってもらおうとする子供が、狼が現れた時に信じてもらえなくて、村人がみんな狼に殺される話……。噓つきの子供が信じてもらえなかったのは、いつも噓をつくという悪いことをするから、信用がなかった。構ってもらおうとして悪いことをするのは……悪だよ」

「なるほどな。懇切丁寧な解説だった。まぁ、実際に弾を仕掛けけた時點で悪だから、そんな説明は不要だったがな」

「…………」

競華は僕の隣に立ってそう言った。

改まって話して來たからそれなりの答えを聞きたかったと思ったのに、彼にとってはどうでもいいことだったらしい。

「……では、ここではひとまず、北野を悪人としよう。幸矢、お前は悪人をどうする? 裁くのか、更生するのか、放置するのか」

「……それは、僕が決めること?」

僕が問いかけると、競華は饒舌な舌を隠して沈黙した。他人をどうするか、それを決めるのは僕の仕事じゃない。晴子さんの仕事だ。

「……この後、晴子さんは北野と戦うんだろう。何で戦うかは知らないけど、ね」

「その時に晴子が決めてくれればいい、と?」

「……いや、おそらく北野の処遇は保留だよ。1月――この舞臺が幕を閉じたら、そこから考えるだろう」

それまで北野は野放しにする。今の所、彼に困る事をされた訳でもないし、この程度の嫌がらせなら僕は慣れてるから問題ない。いざとなれば晴子さんから指示があるだろうし、今は無視していいだろう。

1月――晴子さんのシナリオも終われば、晴子さんの興味も北野に向くだろう。

「……ふん。その他力本願を無くせば、貴様ももっと上に行けるだろうにな」

「勿論、僕だって全てが他力本願じゃないよ……。やりたい事があって、晴子さんの事より大切だと判斷すれば、そっちを優先するさ……」

「だと良いがな。貴様らは共依存狀態だ。私のように獨りで強くあってしい。どちらかが欠けても、困らないようにな……」

「…………」

どちらか欠ける、それは何年後の事だろう。天才とはいえ、ただの高校生に変わりはない。ストレスで自殺する訳でもないし、殺人犯への対処もできるはず。僕等が死ぬというのは、あまり考えられなかった。

北野弾で死ぬとすれば、それは予想外かもしれないけど――なくとも、出會ってひと月も経たない僕等を殺すような、早計な真似はしないだろう、

「競華……君が何を忠告しようとしてるのかわからない。でも……僕等に危険が及んでるという忠告なんだろう?」

「……さて、どうだかな。ただ、私はそうならないように祈ってるだけだ」

「……それは、僕等の就してしい、ってこと……?」

「ふざけるな。心などさっさと捨ててしまえ」

「…………」

競華の言葉に、僕はし微笑んだ。君は孤高な人だから、みたいな甘え合う関係を嫌うんだろう。でも、それは友人に忠告する者の言葉じゃないじゃないか――。(※1)

「……まぁ、死なないように頑張るさ」

「ふん……」

競華は鼻を鳴らし、僕の元を去って行く。雄々しく力強い背中を見送り、僕はまた読書を続けるのだった。

※1:友人であることも孤高とは別のことであるが故の言葉。

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