《-COStMOSt- 世界変革の語》第20話:背面世界③
班分けして片付け作業が進む1年1組の教室。文化祭では神代晴子の絵が表紙を飾り、最大客數を獲得し、最優秀出店クラスという名譽もけ、様々な分野を総なめしたクラスも、片付けの姿は普通のものだった。
班毎に作業を分擔し、クラスの飾り付けを取り、箒や雑巾掛け、學校指定の紺ジャージにを包んだクラスの諸君は、サボりもせずに掃除をしている。
いや、黒瀬幸矢だけは、姿を見せていなかったが――。
それでも、他の生徒がサボらず掃除をする風景は異常であろう。そして、みんな楽しそうに面倒な雑務に勤しんでいる。その理由は當然、クラス委員である晴子が原因だ。
――晴子は學當初から、自クラスの掃除のサボりを見つければ、即刻注意し、一緒にやろうと手を引いていた。
「早さを競ったり、集めたゴミの量を競うでも良い。何かミニゲームでもしよう。楽しくやれば、掃除さえも楽しくなる」
笑顔でその言葉を屆け続け、やがてサボる者は居なくなった。晴子は目を見て話し、相手にとって安心させるように言葉を心に浸させる。
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そして、幸矢という反面教師がいる以上、クラスはより団結し、幸矢のようにならないため、掃除でさえも頑張るのだ。
そんな素晴らしい掃除風景の中、2人のが特有のお喋り・・・を始める。
「北野くん」
「あら?」
北野は明るい聲を掛けられ、振り返ればそこには學級委員のが笑顔で佇んでいた。手には何も持っておらず、上下ジャージ姿で出は全くない。夏も終わりの9月末、汗1つ掻いていなかった。
北野は箒を持つ手を止め、晴子の方へと向き直る。
「何か用かしら? 貴がおサボりなんて、いけないわね」
「ははは、サボりじゃないさ。やることはやってきたからね」
「そう」
晴子の言葉に、北野はポツリと短く返す。今のはただの軽口、特に意味があるわけではない。
晴子はスッと右手を差し出し、優しく微笑んだ。
「ありがとう。キミのおかげで文化祭は事なきを得た」
「……そう。フフフ、私だってクラスメイトですもの。當然の事だわ」
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「そう言ってもらえると、とても助かるよ」
笑顔で話し合う子2人。しかし、その表には見せないだけでお互いに黒い気持ちをに潛ませていた。
「それとね、私もキミの催しのおかげで楽しかったよ」
漆黒の瞳を歪ませ、口元を釣り上げた笑みを浮かべる晴子に、北野は全のが逆立つのをじた。それは決して恐怖したからではない。「お前のした事なんて屁でもないぞ」と挑発をけたからだ。打ち上げの際にも禮を述べられたが、それとは違う。
名前を汚されてなお、楽しかった・・・・・と威勢を張るのは、意味がまるで違う。
「……フフ、フフフフ……。そう……それは何よりだわ」
「ああ。是非また遊んでくれ」
「――――」
もはや北野の全には、快めいたものが駆け巡っていた。もう一度來いと挑発される、こんな事は初めての経験だったから――。
遊ぼう、それは違う。互いの命や尊厳を掛けた戦いである。
「――ええ、また遊びましょう。今度はもっと楽しませてあげるわ」
そして再選を約束し合う。2人は握手を酌みわすが、互いの笑みはニヒルなもので、狂気をじるのだった――。
◇
9月が終わり、10月を迎える。北野は10月に決行すると言っていたが、それがいつになるかは見當もつかない。
10月になって學校も始まり、変わった事は幾つかある。まずはどうでもいいことから話そう。僕の義妹、黒瀬代だが、テストの績が中の上レベルで、代にしてはかなり頑張っていた。平均75點なら十分だろう。
次に、辛い話。
北野は僕と距離を置かず、かといってクラスメイトともお喋りをする、奇妙な立ち位置になっていた。僕という嫌われ者と一緒に居るのがデフォルメだけど、休み時間に子とお喋りすることも多々ある。
その事について、僕と晴子さんは意見しなかった。そんな危うい立ち位置に立っていれば、いつか自滅するとわかっていたから。長くは持たない。それに――晴子さんと戦うのだから。
「子供と遊ぶ時、貴様ならどうする?」
北野が先に帰った日の放課後、珍しく競華に呼び止められ、一緒に下校していた。下校中に振られる藪から棒な言葉は、何を表してるのかすぐにわかった。
「……広い所でのびのびと、をかしてもらうよ」
「何故?」
「……発育にいいから」
「そうだな。貴様の言うことは理に敵っている。小さい時にをかしているか否かで人間の能力は大きく変わる。小さい頃から鬼ごっこなんかで遊んでいると、車に跳ね飛ばされても咄嗟に飛んで衝撃を小さくすることもある」
「まぁ……そうかもね……」
その話を僕は知らないけど、し考えれば合點のいく話だった。しかし、今言っている子供というのは北野の事で、発育は関係ないのだろう。
しかし、元気が良いと外で遊びたがる。彼は一、どんな遊びをするんだろうな……。
競華はし間を置いて、僕の顔を見上げながら話を続けた。
「幸矢よ、お前は外で遊びたいか?」
「……? 何さ、急に……」
「外でスポーツや、鬼ごっこのようなゲーム遊びをしたいかと訊いているんだ」
「……いや、別に」
やりたいとはさほど思わなかったため、僕はフイッと視線を逸らした。スポーツは遊びでやる分には楽しいけど、僕等には目標があるんだし、育以外でやる必要はない。鬼ごっこなんかは小學校高學年からやらなくなった。あんなに楽しかったのに――というのも、僕等が大人になったからだろう。公立の小學校に通っていれば、中學生になって急に制服になったりして、振る舞い方に気をつける。そういうものだろう。
僕等は晴子さんと友達で居たからか、小學校の高學年になる頃に、既に辭めていたけれど……。
僕の反応を見て、競華は何故か、僕の脇腹に右ストレートをれてくる。……痛いけど、我慢できる痛みだし、競華にとってはこれがコミュニケーションの取り方だから、特に気に留めなかった。
「そう、貴様ならそんな事をして遊ばんだろう」
自信ありげに、高揚しながら競華は言う。どうやら、僕の回答は正解だったらしい。
「幸矢、私達は將來を見據えている。どんな人間になるか、どんな仕事に就くか、的でも大雑把でも、なんとなくでも理解している人間は同世代に多いだろう。だからこそ、その將來に向けた立ち振る舞いをする。近にいる"大人"と呼ばれる先駆者達を見習ってな。――大人はどうだ? 外で走り回る姿なんてテレビでしか見ないだろう?」
「……テレビは見ないけど」
「ああ、そうだったな」
バスバスと脇腹に追撃のジャブを喰らう。競華は生まれつき筋繊維が多いわけでもなく普通のの子なのだから、これはあまり痛くなかった。しかし、意に沿わなかっただけで毆らないでほしい。
「ともあれ、そういう事だ」
「……?」
「わからなそうな顔をするな。人が自分の姿や振る舞いをするのは、目的や憧れがあるからだ。目的や憧れ、それは未來についてのカテゴリーだろう。――つまり、未來が見えていないうちは、まだまだ子供なのだ」
「……そう、かもね」
小學生の頃、僕は総務省勤務の父や國會議員の祖父に憧れて"立派な大人になる"と言っていた。けど、そんな曖昧な夢だけじゃダメだ。子供に將來の夢を尋ねたって、そんなのわかるわけないし、長続きする夢じゃない事が多い。明確な夢があること、それがわかること。そうしたら、きっと大人なんだろう。
「北野椛はまだまだ子供だ。目的がないから遊び続ける。晴子が奴を懲らしめた先の事、お前がどう行するかは理解してるつもりだ。貴様が奴の目的を作ってやれ」
「……そんな他人事みたいに……」
「私は北野の事なぞどうでもいい。しかし幸矢、貴様はそうじゃあるまい。々頑張る事だな」
「…………」
気が付くと駅まで來ていたようで、僕等は改札を通ってから別れた。家の方向は同じだけど、競華はこれから出社――いや、家の手伝い・・・・・をするのだから。
殘された僕は、帰りの電車で考える。大人や子供という例えを出されても、僕等はみんな同年代。賢さの大小、神の合、その他いくらか差はあれど、歳は変わらない。
生きた時間は同じ。僕等が大人であるかどうかは、僕等には決められないだろう。(※1)
大人になろう、そう思っても大人になれない。しかし、落ち著いた振る舞いをすれば、大人に近付くのだろう。
※1:子供がいくら「自分は大人だ」と誇示したところで、大人であるかを決めるのは世間であるから無意味である。行や態度次第では大人のように扱われるが、それでも外見的、年齢的に見た先観は払拭できない。
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