《-COStMOSt- 世界変革の語》第25話:面倒事

――椛もみじは、暫く晴子さんを避けるらしい。代わりに僕の事をもっと知りたいだなんて豹変ぶりに、驚きを隠せなかった。

ここまでは、晴子さんの予定通りだったから。

晴子さんは人の心理が手に取るようにわかる。惚れるとは思ってなかったものの、椛が僕に好を抱くのはわかっていた。だから作戦は順調なんだけど、本心から好きにさせてしまったのは、申し訳なく思う。

僕は、晴子さんが好きなのだから――。

「……明日から、どんな顔して會えばいいんだか」

僕は自室で溜息を吐きながら単語帳をペラリとめくった。考え事をしながらでも、勉強はしなくちゃな……。なんとなく見てるだけでも、繰り返せば覚えるものだから。

とはいえ、頭で主に考えるのは椛の事。名前呼びになって、しかも、

「今度、私の家に來なさい」

なんておいまでされた。

僕は椛と仲良くなるために、家に行くだろう。そして、彼を子供から大人へと長させたい。

――それは【理想郷】に必要な事だろうか?

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僕等の目的は曖昧だ。理想郷を作る、では理想郷とは何か?

瑠璃奈は【完全個人主義社會】だと書いていた。不平等を最大限まで無くし、個人の力量に見合った地位が與えられる、と。

晴子さんは、そういった展を語らない。とりあえず総理大臣になろう、などと悠長な事を言っている。

もっと的な理想郷案を考えればいいものだが……彼のやり方を否定したいわけじゃないし、あまり言わないけども、瑠璃奈に先を越されてただの駒にならないでしいな……。

「兄さーん」

ガチャリと扉が開き、なんの遠慮もなく義妹がって來た。

既にパジャマ姿の代を薄目で睨むも、彼は怯むことなく僕の方へやってくる。

「見て見て兄さん。世間で有名なモモスターだよ〜!」

「…………」

代は僕に、桃のヒトデにだらしない顔が書かれた人形……人形? を見せつけてくる。

「……それで?」

「可いでしょ?」

「…………」

返す言葉がなかった。桃のヒトデっていっても、桃みたいに素が薄いヒトデ。そして、だらしない顔文字みたいな顔。……可いとは思えないが、代の口ぶりから察するに、このデザインは可くて人気なのだろう。

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……僕のが悪いのか、ただ困するのだった。

「……もうっ! なんで兄さんはこの可さがわかんないの!?」

「……そんな事で怒られても、困るんだけど……」

「兄さんはわかってないよ! この顔! この微妙な位置に書かれたこの顔! ……可いのになぁ〜?」

そう言って、人形を自分の頬にり付ける代。むしろ君の方が可いんだが、余計な事は言わない方がいいだろう。

「……で、用事はそれだけ?」

「それだけだけど……なによ、兄妹のスキンシップじゃん」

「はぁ……」

両手を腰に當てて怒る代。言われてみれば、僕からスキンシップを取りにいく事はないな。

妹か。

代と知り合ったのは14歳の頃。その時の僕はもっと暗く、とっつきにくかった事だろう。それでも代は僕に、積極的に話しかけてきて、今では話しかけてきても何も思わない。

僕は彼を他人・・だと思っている。互いに連れ子で、親の縁があっただけで子供まで家族になれるか……それは、違うだろう。

妹、今の僕は、妹にどんな態度を取るのだろう。

「…………」

「……兄さん?」

……そうだな。きっと、こうかな。

僕は立ち上がり、ポンっと彼の肩を叩いた。

「そんな事より、お勉強しようか」

そして、ニヤリと笑ってそう言った。

……あれ、笑顔じゃなければいつもと言う事が変わらないな。僕は僕だし、當然だけど。

しかし、代は僕が笑ったことについて驚いていた。普段、家の中でも一切表を崩さないのだから、笑ったのが不思議なんだろう。

……不気味がられても困るし、できるだけ昔みたいな・・・・・言や笑顔を努めよう。

「えっ……に、兄さん?」

「可いものを見て浮かばれるのもいいけどさ、勉強も大事だよ。ヒトデなんて5億年も歴史があるのに、人間の方が強いんだからね。知識は凄いっ!」

「え……そ、そうだね? どうしちゃったの、兄さん?」

「…………」

し引かれてるようだった。僕としても、昔と今じゃキャラが真逆だからギャップがあるのは分かってたし、し恥ずかしい。

「……ごめん、今のはなかったことにして」

「うん……。兄さん、學校で々疲れてるのはわかるよ。に無理がないうちにたくさん寢てね」

「…………」

悲しい顔で注意をし、代は部屋を去って行った。妹は扱いが難しいなと、心が複雑なのだった。

それに、"僕の妹"は――代だけじゃないのだから。

10月、それは殘暑もなくなり秋をじ始める月だ。替えも終わり、學校で半袖は1人もいなくなった。ブレザーを著る生徒が増えると、白だったものが急に黒になり、クラスのは暗くなったように思える。一部では何故かピンクや青という目立つガラのセーターやカーディガンを著ているが、僕の知人には快晴ぐらいしかそれを著る人が居なくて、他はみんなブレザーだった。

隣に座る椛もみじも、例外なくブレザーだった。

を隠す――という事は、そのには隠すべき何かがあるって思わない?」

休み時間、彼はなんでもないように僕の方を見ながら喋る。右手では頬杖をつき、左手の裾からゴム栓された試験管を出して、プラプラと遊ばせながら。

試験管は不明だが、赤くて危険そうだった。イチゴシロップとかなら良いのだが、彼の場合、絶対そんな事はないだろう。

「ねぇ、幸矢くん? 人は何故、を隠すのかしら?」

「……を守るためだろう? 人間はのまま冬を越す事はできない……。何かをに纏うことで、生き延びることができた」

「そうね、原始的なことを考えればそうなる……。そしてね、人間は後々、著飾る事を覚えたわ」

「…………」

なにやら面倒臭いことを言い出した椛。著飾る事って、紀元前からある事だし……。

「かの貌で有名なクレオパトラ7世も、一時はの神アフロディーテのように著飾った。……ねぇ、著飾るってなにかしら?」

「人に見られるために著ることだろう……? なくとも君のそれは、著飾ってるんじゃなくて、ただの裝備だろうに……」

「ウフフ、確かにね……」

僕の言葉にクスクス笑って返す椛。その試験管のを使って毒ガスでも作るのか、発でもさせられるのかと考えると、まったく笑えないんだよね……。

「……あのさぁ。君、神代が怖いんだろう? 目をつけられたくなかったら、そういう行は控えたら……?」

「あら、これは護用よ。富士宮競華もスカートの中にスタンガン隠し持ってるじゃない。それと同じ」

「……まぁ」

確かに、競華はスカートの中、太ももにスタンガンを括り付けている。それにしたって、スタンガンは周りの人間を殺す事はないからいい。その怪しいは何を起こすかわからないため、晴子さんから注意が飛びそうなものだが……。

「しかしね、隠しているのは著飾ってるのと別なのよ。貴方はこれを、裝備と言った。私からすれば、著飾ってるのと同じなの」

「……つまり?」

「見せつけてるのよ。私はこれを持っている、って。見せつけるのは著飾るのと一緒。"しい自分を見て"ってね……。私の場合、私の力を見てしいってだけ……」

「……僕に?」

「そうよ。私だってを守るは持ってる、ってこと」

それがなんだと言いたいが、黙ることにした。

を守る……そんなの、僕等はみんな持ってるから。しかも種明かしをするだなんて、僕に気を許し過ぎだろう。いや、の正まではわからないんだけども……。

「……何も言わないのね。その程度當然、とでも言いたげだわ」

「……まぁ、ね。僕だってさ、一応お偉いさんの孫だし……」

「それなら、護を見せてもらいたいところだわ」

「…………」

見せるものじゃないだろうし、やれやれと言いたげに肩を竦めた。椛は僕を見て、またクスクスと笑う。僕をからかって面白いのだろう。

休み時間も、もうすぐ終わる。 カチコチとく秒針を眺めていると、再び椛は口を開いた。

「ねぇ? 今日、私の家に來ない?」

話をバッサリと切り、突然重たい話を持って來た。

しかし、懐に飛び込む好機でもある。虎らずんば虎子を得ない。

時間もない、僕はほぼ直で頷いた。

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