《-COStMOSt- 世界変革の語》第37話:初

12月16日、金曜日。

最近毎日のように行われてる球技大會の練習は今日も行われるらしく、放課後にも殘ってる生徒は多かった。かく言う僕も、今日は自分の席に座って考え事をしている……ように見えて、今日の演技について脳シミュレーションをしていた。

昨夜、晴子さんから電話があって、今日からいよいよ始まることが告げられる。もちろんわかってはいたが、気を引き締めなければならない。

「帰らないの?」

「…………」

目の前には、長い黒髪を持つ艶やかな笑みを浮かべたが立っていた。いつもなら一緒に帰るものを、僕が殘っているのが不思議なんだろう。しかし、僕はただ、

「考え事をしてるんだ……先に帰ってていいよ……」

と、邪険に扱うしかなかった。椛はいつものようにクスクスと笑いながら、僕の前から僕の後ろに立ち位置を変える。僕が帰るまで殘ってるつもりなんだろう。

やれやれ――とため息を吐いていると、新たな人が目の前に立った。

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「――やぁ、黒瀬くん」

いつも顔を合わせてる友人であり、クラスの総指揮者。神代晴子は、僕を見下ろしながら笑顔で居た。

……今日もまた、細かい指示はない。明確なやるべきことだけを、遂行するとしよう。

「……何、神代?」

「いつもは目を瞑っていたが、今日は球技大會の練習に加わってもらう。男子の方では、快晴くんが出る5組が優勝候補になる。でも、キミの運神経を持ってすれば、5組にも勝てるかもしれない……。頼む、練習に參加してほしい」

「…………」

直球で來た。參加しろ、それを言うのは不思議じゃない。だけど、ここは當然

「斷る」

まだその時じゃないから、拒絶した。すると晴子さんは眉をひそめて僕の機に手を置いた。

――さて、対話のスタートだ。

「參加しない理由はなんだね? スポーツはかして健康にもいいだろう? キミほど賢い男なら、しばかりスポーツを嗜たしなんだっていいだろう」

わざといつもより大きな聲で、晴子さんは言いつけた。僕も顔を上げて答える。

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「嗜む……バカじゃないのか? チームプレイってさ、チームメンバーの実力が同レベルじゃないとり立たない。メンバーが思い通りいてくれるからしっかりとしたプレイができる……。個人競技ならともかく、チームプレイなんて、ね……。まぁそれがどうであれ、やる意味のない競技で疲れたくないよ」

「そんなのキミの自己中じゃないか。メンバーが思い通りにかないなら、その中で最大限けばいい。疲れたくないなんてのはみんな同じだ。キミだけやらないのはおかしい」

「學校の規則だから従ってる……ってだけなら、ボイコットして無くせばいい。そうすれば僕の意見も、自己中じゃなくなるだろう……? だいたい、思い通りいかなくてストレス抱えたり、走り回って疲れるだけのゲームをやる事自、理解できないね……」

「キミの言うことには心が加味されていない。人と人との心を調和することでスポーツは楽しくなる。チームワークを作ること、それこそがプロでもない我々が、競技に臨む理由なのだよ」

「……ああ言えばこう言う。人の心なんて考える必要がどこにあるのさ……。世の中は弱強食、弱者が食われる……。その強者、弱者を決めるのは人生の中での取捨選択。こんな無意味な運をする輩は……弱者に値するだろう。なぜ強者が弱者の居る側にを投じなければならない……?」

「強者、弱者などと僅な事だよ。所詮は1人の人間なのだ、できることなどたかが知れてる。だからこそチームワークをするのだ。キミだって將來社會に出れば、嫌でもグループワークをするのだから」

「…………」

悉ことごとく意見を覆される。流石と言いたいところだ、クラス中の視線も僕等を見ている。僕が黙ると、世界が止まったように靜かだった。

さて、次の僕の言葉は重要だ。ここまで意見を覆されるとキツいけど、今日の予定は"いを斷って帰る"こと。なんとか言い負かさないといけない。それは晴子さんだってわかってるだろう。

僕を育てるための対立でもある。今僕が述べている意見は全て本音だ。昔は鬼ごっことかを楽しいからとやっていたが、今では楽しさがわからない。運なんて疲れるだけ、頭が良くなることでもないし、集中力だって勉強で何時間も機に向かってる方が高い。

球技大會、そんなものに何があるんだろう……?

「……とてもくだらない。將來グループワークをするにしても、それは合意形だろう? まともな意見だけをれて、それ以外は弾く。僕の意見は殆ど通るはずだし、必要ないね」

「本當にそうかな? なくとも今、參加した方がいいと言う意見にキミは耳を貸していないじゃないか」

「全員やらないべきだ、と思うからね。球遊び――そんなことをするほど、僕は子供じゃないよ……」

その言葉を告げると、僕はカバンを持って席を立ち、教室の外に出て行った。止める聲はない、付いてくる足音は1人分。いつも通り、後ろには椛が居るのだろう。

今日はいつもより喋った気がする。迫真に素の意見を言うのは疲れた。僕はため息を1つ吐いて、校舎を出るために正門へと足を運んだ。

「今日は隨分と絡まれたわね」

罠も張られずにスイスイ侵できた、甘い香り漂う椛の部屋。部屋にあった化學反応に関する文獻を読んでいると、椛が絡んできた。

「學級委員として、當然だろう……。クラスの不和は、よくないからね……」

「でも、本來なら男子の學級委員がやるべきじゃないかしらねぇ……。神代晴子もオンナノコだし」

「……男子の學級委員を、僕は背負い投げしたことがある」

「……何があったのかは聞かないでおくわ」

椛は不敵に笑って話をやめた。別に、適當に嗾けしかけて一発毆らせ、正當防衛がり立つようにしてから黙らせただけ。なんでかと言うと、晴子さんと僕が対立している構図を目指すのであり、僕と男子學級委員が対立する構図を作りたくなかったからだ。

…………。

……フッ化アンモニウムは沸點の報がないのか。42℃程度だと思ってたけど……火に近付けてたら怖いな。これもか。有毒で発もする、こういう化學品が日常的に工場とかで使われてると考えたら怖い話だ。

「……化學の本、面白いかしら?」

僕がなかなか視線をあげないからか、本について言及してきた。僕は次のページをめくりながら答える。

「面白いというか、怖いね……。君が使ったら怖い質ばかり載ってる……」

「そんなものよ、化學なんて。スーパーにあるドライアイスと水道水だけでも人は殺せる。その気になれば、落ちているものだけでを作って人間を殺せるの。薬品が怖いとか、元素が怖いとか、そんなの馬鹿よ」

「……でも、その怖い薬品とか元素で化粧品や治療薬を作れる。使い方次第なんだよ、なんでもさ……」

「そうね、使用目的に合った正しい使い方をすることが大事。まぁ、私みたいな欠陥人間は、その限りじゃないけどね」

カチャリという音の後に、お茶を啜る音がした。……正しい使い方。もともと戦爭用の無線機だったものが、現代では攜帯電話として普及している。正しさなんてものは、100年も経たずに変わってしまうんだろう。今の正しさが本當に正しいのか、それが謎だな……。

「……欠陥、ね……」

そして、欠陥といえば僕も欠陥品だろう。というものがあまりにも希薄だ。最大のとも言える

僕は、晴子さんが好きだ。

でも、その好きな気持ちがあまり出てこない。

ドキドキするとか顔が赤くなるとか、そういう事がないんだ。

馴染だからというのもある。しかし、それにしても他のもあまりない。楽しいとか嫌いとか、そういうのがない。競華や椛の事は苦手だけど、なんとか相手をできるし……。

……喜ぶとか悲しむとか、そういうのはこの先の人生で、ないんだろう。

妹が死んで、兄が死んで、母親が捕まった。

それ以上の悲しみを迎えるなんて、想像もつかないしな――。

ともあれ、元の話は使用方法の是非だ。

別にが希薄だからって、薬で人を殺すような真似はしないだろう。欠陥の質が、椛とは違う。

「……僕は、欠陥しても正義だったんだと思う。自分が嫌がることを人にはしてないつもりだよ」

「……逆なのねぇ、私達」

「それはもとから、わかってただろうに……」

もともと僕等は違う人間だ。これでも僕は、善人を名乗れると思う。育祭のリレーで歩いたり、文化祭に參加しなかったのだって、無駄だからやめろと思うが故だった。楽しいを共有する、とても結構な事だ。でも、それで未來は作れない。無駄な事を省いてこの社會の未來のために生きる――というていで、僕は活している。

弾を仕掛けてわざわざ人を嫌な気持ちにしたいんじゃない。

こうした方がいいんじゃないかなって、主張を持ってるだけだ。

「――もしも対極の存在にあるとしても、一緒に居ることは出來る。他の電子をけ取る事ができず、既に安定狀態にある希ガスは反応しないと言うけれど、キセノンは酸素と化合もできる。私達も、一緒に居る事がなんら不思議じゃないの。欠陥品とか、善とか悪とか、人間の寄り合いにはあまり関係ないのね」

「……それはどうだろうね。なんとなく寂しいから、誰でもいいから一緒にいてしい。心の奧底で、そう思っているのかもしれない。君に至っては、家族もいない1人だしね……」

「そうかしら……でも、貴方がいいわ……」

「…………」

きっと椛は、熱を帯びた視線を僕に送ってるんだろう。僕はなるべくそれを見ないようにして、ペラリと本のページを捲めくるのだった。

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