《-COStMOSt- 世界変革の語》第49話:終幕・前編

死刑を待つ囚人みたいな気持ちというのは、こういうことだろう。短授業の6時間目、普段は授業を聞き流して勉強するものの、今日ばかりは僕も手を休めている。

この後、また晴子さんとの対話がある。普通に考えれば僕は授業をフケるのが利口なんだろう。わざわざ晴子さんと話すのも億劫だろうに――と、クラスメイトは考えるだろう。不良ならそれが賢い選択だ。しかし、僕は違うから対話をしてきた。

しかし、今日でそれも最後だ。

に疎いはずなのに、憂鬱な気持ちは抜け落ちなかった。時間の流れが遅い。空を眺めていると、今日も普通の日なんだと実して嫌になる。

安らかな時間も終わりを告げ、授業は終了する。帰りのHR、相変わらず晴子さんは立ち歩く人を座らせたり、ゲームをしてる暇そうな奴等にプリントを配らせたりしている。そんな中、ふと隣に座る椛と目が合った。彼がこちらを見る間際、ピンクのイヤリングがチラリとこちらを覗く。

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「……今日はやけに靜かだったわね、幸矢くん?」

「……別に」

「ま、あれだけ毎日神代さんに絡まれてたら、放課後が嫌になるのはわかるわ。ただ、貴方達の対話は聞いていて楽しいわよ。お喋りと対話は別もの――対話はいいわね、幸矢くん」

「……そんなに言うなら、君が神代に絡めば? 僕はそれを見てるからさ……」

「嫌よ、口論なんて醜いだけだわ。スマートにいきましょ」

「……君、遠回しに僕のことバカにしてるだろう」

まぁそれはいいけれど、椛は僕を手助けするつもりもなく、晴子さんに付くわけでもない。やはり1対1での対話になるだろう。當初の計畫通りだ。今日も上手くいくのだろう。

教卓の前で教師が明日の連絡事項を言っている。聞いても全く頭にってこなかったけど、聞かなくても良いことだろう。どうでもいいHRは、すぐに終わった。

今日は教室の掃除が無い。HRが終わるとすぐに練習のはずで、だからこそ晴子さんは僕の方へと向かって來ていた。その目には憂や迷いなどかけらもない。これからの事は、今後の學校生活を左右する重要な事なのに、さも當然といった様子で僕の方に歩いてくる。

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その勇ましく自信に満ちた姿を見ていると、僕も憂いがなくなった。

そうだ、晴子さんは昔からああだった。自信に満ちて、言葉に強くて行力もある。そんな彼だから、不安なんてなくなるんだ。

これで最後だ。終わりが來るというのなら面倒ごとでさえ歓迎する。よし、……しはやる気を出そう。

晴子さんが目の前に立ち、僕の暗い瞳を覗く。彼の優しい笑顔は、嫌われ者の僕にも平等に向けられていた。さて、開始の合図は貴方の役目だ。僕は目を閉じてその言葉を待とう。

「……黒瀬くん」

名字を呼ばれる。演技ではいつもそうたった。それもおそらく、今日までだろう。

「――今日こそ、練習に參加してもらうよ」

……さて、対話のスタートだ。全てをぶつけよう。

「……神代。いい加減、お前のその言葉も聞き飽きたよ。無駄だと言っている筈だ。僕は參加しない。君達と玉遊びをすることに意義が見出せないよ」

「意義があると、私は散々言ってきた。キミがまだそんなことを言うのなら、何度でも教えてあげるよ」

「……そこまで言うのなら――覆してみろ。僕の信念を」

僕も立ち上がり、機を1つ挾んで向かい合う。お互いに口を閉じると、世界は靜まり返った。誰も邪魔はしない、2人だけの世界、睨む僕と微笑む彼。先に口を開いたのは、彼だった。

「――キミは、球技大會の參加なんて無駄だと言ったね。そう思ってるからこれまで參加してないんだろうし、噓は吐いてなさそうだ」

「……そうだ。僕は本當の事を言ってる。時間の無駄な事はする必要がない、ってね」

「なぜ無駄だと思うのかね?」

第1の質問が來た。

今日の指令は簡単なもので、晴子さんの言う質問を僕が答えるだけ。まずはその1つ、団が無駄かどうかという質問だ。

育祭は疲れるだけ、文化祭はやったところで儲けにもならないし、作ったものは壊してしまう……。実に無駄な労力だよ。そう考えれば、団を伴う學校行事がある必要はないだろう? 僕は社會に反逆してると言ってもいいから、そんな無益なことなんてしない」

それは行事そのものの存在否定だった。育祭とか文化祭とか、存在そのものが不思議だ。何を思ってそんな事をし始めたのかすら謎に思う人が多いだろう。心躍るほど優れたものがあるのだろうか。

僕の提示した疑問を、晴子さんは素早く答える。

「クラスが出來た時から、私達は団を強いられている。キミの言う質問は、我々が何故こんな學校という場所に來て集団で勉強するのか、ということに起因する」

スラスラと前座を話しつつ、晴子さんは機の列を沿って橫に歩いていく。

「勉強なんて、家でも出來る。なのに學校に來るのが義務なのは、社のためだろう。引きこもっているだけでは、話す力が衰えるだけさ。人見知りだって、學校でなら手早く自力で解消することもできる。文化祭や育祭なんかは人が協力し合うのだから、矢張り人間同士のわりが必然となる。協力することができるなら、きっと將來でも――」

「お前の意見は推論にすぎないよ。それに、僕は1人でも生きていける。実際、今だって僕は嫌われ者でありながら學校という社會の場に來ているし、君達と敵対しているとして、劣勢だと思った事は1度もない」

「だがキミは確実に我々に劣っているのだ。話す力は私達よりも確実に低い。たとえキミがどんなに賢くとも、コミュニケーション力は劣るんだ」

ほぼ毎日話す人に、真剣にそんな事を言われる日が來ようとは。……まぁ、これは遊びみたいなものだから、構わないけど……。

僕は嫌な顔を必死に堪え、言葉にし怒りを乗せて意見する。

「1人で生きていくのなら、コミュニケーションなんて必要ない。なくとも今ここでキミと議論するぐらいの力はあるし、僕には団作業なんて不要……君達が絡んで來ようと勝手だけど、參加する気はないよ」

「それは、社會から逃のがれて生きるということでよいかね?」

これは既に提示された質問ではなかった。どう答えてもいいだろうけど、僕らしく答えなければ次の質問に行けないだろう。僕のことを信頼した上で、晴子さんは質問を考えてるはずだから。

「……逃れられるなら、逃れたいね。ただ、高卒の資格ぐらい持っておきたいからさ……それが學校に來る理由だよ」

し矛盾のある回答をした。それなら通信制でも事足りる――そう言い返されても仕方のないこと。まぁ、世間を気にするって理由づけることもできるし、その點は構わないが――

「なるほどね。確かに高校は卒業したい。……だが、キミはそれでいいのかい? 學校にいるだけで、時間を無為にして?」

――晴子さんが僕の言葉に僕自不満に思った疑問をスルーしてしまう。すると、椛にはわかるはずだ。

この2人は、繋がってるんじゃないか、って――。

「……時間を無駄にしてるつもりはないし、君は僕の人生に干渉する権利もないだろう。余計なお世話なんだよ……」

軽口を返しながら、僕の脳には別の疑問がよぎる。

この議論により、晴子さんは椛に僕等の関係をバラすんじゃないか、と――。

「私はキミの道をしでも示したいだけさ。――キミはそうやって、人に何かを教えもせず、教えられもせずに生きるつもりかい?」

悩むのも束の間、第2の質問がやってきた。

余計なことを考える暇はない、この議論に集中しないとな――。

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