朝、いつも通りに見えるがいつもとはちょっと違う朝。

一昨日まで満開だった桜が、今ではほとんど散っている。

殘ったのはない花びらだけど、それすら春をじさせてくれる。

新しい出會いがある季節。

今日から私たちは、高校生になるんだ。

隣の家のインターフォンを鳴らすと、今日もまた綺麗なの人が出迎えてくれる。

この人が伊吹のお母さん。

伊吹とよく似ている。

「あら千聖ちゃん、おはよう。

  ...ごめんね、伊吹はまだ寢てるのよ。いつも悪いんだけど、起こしてもらえない？」

そう頼まれたので、笑顔で返した。

「おはようございます、任せてください」

馴染の“三上 伊吹みかみ いぶき”は、昔から朝に弱いのだ。

だから私が、寢坊してしまう伊吹を起こしてあげている。

それは小學生の頃から日常茶飯事であった。

「...いーぶーきー！起ーきて」

伊吹が寢ているベッドに、制服のまま乗っかって揺さぶってみるが、流石に一筋縄ではいかない。

微だにせず、いい夢でも見ているのだろうか幸せそうな顔で眠っている。

伊吹の寢顔は天使みたいにかわいい。多分ずっと見ていられるけど、それじゃあ2人とも遅刻してしまう。

今度は何時もより強く揺さぶってみるが、小さなうなり聲をあげるだけで、一向に起きる気配はなかった。

いつもはこのくらいで起きるのに。

今日は一層眠りが深いなあ。

はぁ、と小さく溜息を吐き、私は遂に最終手段に出る。

「...こちょこちょ〜」

「はうわっ！！？」

伊吹の脇の近くをくすぐる。

するとあんなに睡していた伊吹が目を覚まし、面白いくらいに飛び上がった。

いつもこれでやれば一発なんだけど、こちょこちょは伊吹が嫌がるから、あくまでも最終手段にしている。

「ち、千聖ちゃん！？！」

「おはよ、伊吹」

「お、おはよ！わ、い、急いで支度するから玄関で待ってて！！」

「はいはい」

彼の挙不審な様子を見て思わず笑う。

彼の顔が真っ赤だ。

伊吹が赤面するのは寢起きの顔を私に見られることが恥ずかしいから、らしい。

伊吹の前でも睡できちゃう私にとっては、それはわからないなのだけど。

それを未だに気にするなんて、伊吹は私よりもの子みたいだ。

支度する伊吹を玄関で待ちながら、そんなことを思っていた。