《朝、流れ星を見たんだ》二週間前〜大翔side〜

ガンだと宣告されたのは、ちょうど一年ぐらい前だったかな。

「殘念ながら、あなたの命はあと一年持つかどうか…。」

醫者の言葉を聞いて、俺は頭が狂いそうだった。思わず、醫者につかみかかりそうになった。ウソでしょ? ねぇ、ウソだって言ってよ! 俺はあと一年で死ぬの!? 一年しか生きられないの!? なんで、なんで――――!?

そして今、病院のベッドで、俺は寢ている。窓の外は真っ暗で、星がまたたいていた。蛍燈の白々しい明かりが、俺たちを照らしている。明かりはたまにチカチカと點滅して、今にも消えそうだ。まるで、俺の命を表しているかのようだった。

「なんで俺が死ななきゃならないんだろ…。」

ため息混じりの聲は、けないほど震えていた。それは、死に対する恐怖からだろうか。それとも、もうこの世にいられないのが、悔しいからだろうか…。

「…大翔ひろと。」

俺のベッドの橫に立っている男――――修也しゅうやが、俺の名前を呼ぶ。その聲には、どこか慈しむような響きがあった。

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修也は普段は無口だけど、俺と話す時だけ、口數が増えた。といっても、憎まれ口や嫌味、皮、揚げ足とりとか、そこらへんの事しか言ってくれなかったけど…。みんなからは冷たくて、暗くて、話しかけにくいヤツだと思われてる。でも俺はそうは思わない。だって修也は、本當はすっごく優しいんだ。俺のわがままに付き合ってくれたり、俺がピンチになったりすると、一番に駆けつけてくれるのは、修也だった。俺よりもずっと優しい人だからこそ、俺よりもずっと頼れる人だからこそ、俺はこの人を絶対無二の「親友」だと思っている。

「俺、まだ十八歳なのに…。なんで死ななきゃならないの? まだ修也と一緒におしゃべりしたかった…。もっと修也の憎まれ口を、聞きたかった…。」

俺は、目の上に腕を乗せる。出かけていた涙を隠すためだ。嗚咽がせり上がってくるのも、頑張って我慢した。それでも、が震えてくるのは隠せない。

「…大翔。」

もう一度、修也が俺の名前を呼ぶ。めてくれるのかな…。

「…何?」

「晝間、薬を飲むの忘れただろ。今飲め。」

その口調は、いつもと対して変わらず、淡々としていた。修也が俺に、薬と水のったコップを差し出す。俺はため息をついて、それらをけ取った。

修也は分かっていないんだろうか、俺があと數日で、この世からいなくなるってこと。修也は何も思っていないんだろうか、俺の死のこと。

俺が薬を飲んだのを見屆けると、修也は俺のコップを近くの機の上に置いた。

「…!」

そのあとの修也の行が、なかなかに思いがけなかったもんだから、俺は言葉を失った。修也が俺の事を、抱きしめていたんだ。いつも俺が面白半分に抱きついたら、この世の終わりみたいな顔して、拒絶してくるのに、今は自ら俺を抱きしめている。息がつまりそうなほど、ぎゅっと――――。

「最近、お前がいなくなった後の夢を見る。それで気づいたんだけど――――お前の存在は、俺が思っていたよりも大きすぎる。だからお前がいなくなったら俺は――――正直どうなるかわからない。」

「…。」

「…。」

修也の家族は、もうどこにもいなかった。そして修也には、友達もいない。唯一「親友」である俺は、もうそろそろ命が終わろうとしている。修也の事を理解してくれる人は、俺が死んだらもうどこにもいない。

「…。」

修也は俺をそっとベッドに戻すと、床に膝をついた。俺の顔の位置に、修也のがある。

「お前に、二つ約束してほしい事がある。」

「うん、何?」

「一つ目は、ちゃんと毎日薬を飲む事。」

「うん…それぐらい、ちゃんとやるよ。」

「もう一つは…俺が戻ってくるまで、死ぬな。」

その瞬間、涙腺が緩んだのをじた。頬を溫かい涙が伝って、枕の上に落ちた。一滴だけじゃない、何度も何度も、滝のようにとめどなく…。

「修也の、バカっ…!」

俺は修也のを、力いっぱい叩く。これが俺の全力だけど、弱った俺が叩いても、修也は痛くもくもないだろう。それでも竜也は、痛そうに、辛そうに、苦しそうに、顔を歪めていた。俺が一回叩く度に、修也の眉間のシワが、どんどん深くなっていった。

「そんなの、無理だよ…! 修也、明日からテニスの遠征で、一ヶ月もイギリスに行くんでしょ…! 俺バカだけど、修也が戻って來るまで俺が生きてられないってことぐらい、わかるよ…!」

「…。」

枕の上に、黒いシミがいくつもできる。涙で視界がぐしゃぐしゃで、修也の顔をまともに見ることができない。修也は子供みたいに泣きじゃくる俺を見て、何を思っているんだろう。よくわからない。

「…わかった。できるだけ、頑張ってみるよ。」

し経って落ち著くと、俺はしっかりと修也の目を見て、そう答えた。修也は薄いの端をきゅっと上げて微笑む。

「だから修也も遠征、頑張ってよね。想よくするんだよ。」

「…人を心配してる場合か。」

いつもの皮な言葉も、今となってはおしい。昔は修也の皮にカチンときて、よくケンカしてたっけなぁ…。

思い出すと、また涙がこみ上げてくる。もう二度とケンカができないと思うと、急に寂しさが襲う。だから俺は目を閉じた。もう泣き顔なんて、見せたくない。

「…俺からも一つ、約束したい事あるんだけど。」

「…。」

「俺が死んでも、泣かないで。俺泣き顔見て喜ぶような、変な人じゃないから。それよりもさ…笑ってよ。」

「人が一人死んだところで、泣きはしない。」

修也らしい答え方に、思わず微笑む。俺は目を開けると、修也の頭に手をのせた。

「約束だよ、修也。」

「…ああ。」

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