《朝、流れ星を見たんだ》不用男はけが人を運ぶ
「痛っ!」
鬼ごっこをしている最中だった。一人の小學校三、四年生ほどの小柄な男子生徒が、校庭の端の方で、派手にすっ転んだ。人目につかない場所でこけたので、誰も彼がこけたことには気づいていないようだ。しかしその男子生徒は、大量のを流す右膝を抱えて座り込み、黙って痛みをこらえている。気づいているのかいないのか、その右肘にもがにじんでいた。
「うぅ…。」
痛いのは痛いのだが、これはり傷だ。人を呼ぶほどのケガでもないが、一人で立つのは難しい。どうにもできない狀態で、男子生徒は歯を食いしばって、痛みを我慢する。
それでも數秒経つと、男子生徒の目が一瞬だけ潤んでしまった。男子生徒は慌てて目のあたりをこすると、自分に言い聞かせるように口を開いた。
「痛くなんか…ない、もん。」
「…大翔。」
上から降ってきた聞き覚えのある聲に、大翔ははっとして顔を上げた。
「修也…。」
「痛いんだろ。」
その聲は小學生とは思えないほど冷めていて、大翔を見下ろす目もどこか憂げで冷たい。どうせこのことをあとで、嫌味ったらしくからかうのだろう。大翔は嫌なところを見つかってしまい、修也から目をそらした。だがそらした先に、日に焼けたゴツゴツとした腕があったので、大翔はもう一度修也を見上げた。
「…えっ?」
思わず大翔は、修也を凝視した。なんと修也がこちらに背を向けて、しゃがんでいるのだ。
「なに…してんの?」
「痛いんだろ。保健室までおぶっていくよ。」
こちらに顔を向けず、修也はぶっきらぼうに言った。
大翔は長いまつげをパチパチっとかし、數回瞬きする。あまりにも意外な行だったので、まだ狀況を飲み込めずにいるのだ。
ようやく狀況を理解した時、大翔の顔はでも放ちそうな、明るい笑顔に満ちていた。
「…ありがと。」
大翔をおぶった修也は、重いと文句を言うでもなく、表をピクリとも変えずに、涼しい顔で立ち上がった。その周辺にいた生徒たちが二人をぎょっとしたように見るが、當の本人たちは気にしていないらしい。
「…ありがとね。」
大翔がもう一度禮を言うが、修也は何も言わない。大翔からは修也の顔は見えないが、きっといつもの仏頂面なのだろう。でも心底、禮を言われて嬉しいに違いない。
「よーし、修也號しゅっぱーつ!」
「…捨てるぞ。」
大翔はうんざりした顔の修也の髪を、楽しそうに引っ張った。
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