《朝、流れ星を見たんだ》一週間前〜修也side〜
「あー…。」
一時間の走り込みがやっと終わって、俺は肩で息をしながらその場に座り込んだ。見れば周りのメンバーも、テニスコートの周辺に座り込んだり、倒れていたりと様々だ。
「十分間の休憩をとる。」
監督はそう言ったものの、誰も喜びを表さない。心喜んでいるはずだけど、喜びを表現する気力がないのだ。もちろん、俺もそう。スポーツドリンクを飲みたいところだけど、荷置き場にある水筒のところまで行く力すらない。
でも俺はよろよろと立ち上がって、荷置き場までふらふらと歩く。じっとしてたって、仕方ないし。
イギリスでの練習が始まって、もう一週間近く経つだろうか。なのに毎日こんな調子。ボールなんかほとんど打ってない。わざわざ海外にまで來て、なんでこんなに走ってんだろ、俺。
手首についている腕時計に目を落とすと、針はちょうど一時を指していた。一時間前に晝飯食ったはずなのに、もう腹が減ってる。
「一時か…。」
つぶやいて考える。イギリスと日本の時差は、だいたい九時間ぐらいだ。ということは今、日本は四月六日の午後十時頃。大翔は、一人で何をしているんだろう…。
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暗い病室で一人、ベッドに橫たわっている小さな大翔を想像すると、涙腺が緩んでいくのがわかった。
俺だって、大翔を置いて行きたくはなかった。ずっと大翔の傍にいてやりたかった。だから今…後悔してる。なんで一緒にいてやらなかったのか。なんで自分を優先したのか…。俺には、人を思いやる心というものが、ないのだろうか?
バッグを開け、水筒を取り出そうとする。でも水筒がなかなか見つからない。水筒、たしかこの中にれたはずなんだけどな…。
「…ん?」
バッグの底に、見覚えのない四角い紙がある。真っ白なその紙を取り出してみると、それは封筒だった。よくわからん間抜け面したキャラクターの絵がプリントされている。いつからっていたんだろう。
首をかしげながら、何気なく封筒の裏を見る。その瞬間、目玉が飛び出るかと思うほど、驚いた。
『藤堂修也様』
その文字には、見覚えがある。シャーペンか鉛筆で書いたもので、ずいぶんと薄く弱々しい字だが、丸みを帯びたらかいこの字は間違いなく、大翔の字。懐かしい、大翔の字。
震える指で封筒を開けると、中から四つ折りになった紙と、一枚の寫真が出てきた。その寫真には、俺と大翔が寫っている。
いつ撮ったものだろう。背景には観覧車が寫っていて、その前に俺たちが寫っている。俺の表は険しくて、まるで睨んでいるみたいだけど、俺の肩に腕を回し、もう片方の手でピースサインをしている大翔の顔は、あどけなさ全開の、花が咲いたような笑顔だった。もよく、痩せてはいるが、今のように不自然な痩せ方はしていない。ガンが進行する前のものなのか。
寫真を封筒に戻し、四つ折りの手紙を開く。ここには一、何が書いてあるんだろう。なかなか手紙が開けない。自分が揺しているのが分かる。大翔の手紙がバッグにあったことに、驚いているからだろうか。それとも中を見るのが、怖いからだろうか…。
手紙には、頼りなくか細い字で、こんなことが書いてあった。
修也へ
修也、元気? この手紙読んでるってことは、今イギリスにいるのかな? それとも飛行機の中かな?
なんでもいいけど、読んでくれてよかったぁ。
最後に修也と會った日、あのまま修也、病室で寢ちゃったでしょ? その時にこの手紙書いて、修也のバッグの底にれておいたんだよ。言い忘れたことがあったからね。どうしても伝えたくて。
修也はいっつも顔怖いし、無表だし、無想だし、冷たくて暗くて付き合いにくいヤツって思われてるみたいだよ、周りに。俺はそう思わないけどさ。
だからね、本當の修也を本當に理解してくれる人は、ないと思う。
でも、修也を理解してくれる人は、きっとどこかにいるはずだよ。俺がいなくなっても、その人を探して、大切にしてあげて。俺にしてくれてみたいに。
あと、修也ってさ、俺がガンで死んじゃうって思ってない?
でもそれ大間違い。俺は死なないよ。ただ長い間、寢てるだけだから。
寢てる間に、俺は星になって、修也のこと応援してあげるね。晝でも、夜でもだよ。星はいつも、空の上にあるんだから。
俺はまたいつか、生まれ変わった別の姿になって、この世界に戻って來るよ。
だからその時、もし俺が修也と會うことができたら
俺をまた『親友』と呼んでくれますか?
南雲大翔
最後の文章を読んだ瞬間、俺の頬を、一筋の涙がつーっと伝った。それを合図にしたかのように、涙がとめどなく溢れてきた。涙が手紙の上に落ちて、手紙にグレーの水玉模様ができあがる。でもそんなことは、どうでもよかった。
「…いくら、でも…呼んでやる、よ…っ! 聞きあきるほどっ…呼ん、で…やる…っ!」
封筒から、ハラリと一枚の寫真が落ちた。さっき見たものとは違う寫真だ。大翔が真っ白いコートを著て、雪景の中に立っている。手には雪玉を持ち、それを子供子供した白な顔の橫に掲げていた。その姿はは雪に負けず劣らず白く、れたら消えてしまいそうなほど儚くて、まるで雪の白に溶けていってしまいそうな…。
「大翔…!」
その寫真を見て、騒ぎがした。心臓の音が、まるで何かのサイレンのように大きくなっていく。頭の中で、ガンガンと何かが激しく音を立てた。それはすごく耳障りで、いてもたってもいられなくなるような、不快な音。
「監督!」
どこにそんな力が殘っていたのか、俺は監督に向かって全力疾走していた。驚いた監督が、俺を見てぎょっと目を見開く。
「藤堂…? お前、なんで泣いて…?」
「監督、俺…日本に帰ります。」
「はっ…?」
監督の目が、落っこちそうなほど開いた。しかしすぐに、その顔がみるみる真っ赤になっていく。
「ダメだ! いいか、お前はプロのテニスプレイヤーになるんだ! 今回の遠征を一秒でも抜け出したら、次の大會には出さないぞ! お前のプロへの道だって、そこでなくなるんだからな!」
次の大會――――テニスの全國大會のことだ。俺のこれからの道が決まる、今までの人生で最も大事な大會。でも…。
「いいです、そんなもの! 今俺の親友が…南雲が急事態なんです! 死にそうなんです! 早く行ってやらないと…!」
「これからの未來と、死にかけた南雲と、どっちが大事なんだ!?」
その言葉を聞いた俺の頭の中で、なにかがブチッと音と立てて切れた。
俺はわめく監督のぐらをつかみ、相手が監督だということも忘れ、怒鳴った。
「なんなんだよ、その言い方は!? お前は大翔の何も分かってない! 大翔だってお前の教え子だろうが! 心配する素振りぐらい見せろよ!」
「お前、監督に向かって何を…!」
「日本に帰るって言ってんだろ! 大翔にもう一回會えるんなら、これからの俺なんてどうなってもいい!」
俺は監督を突き飛ばすと、自分の荷を持ち、練習場をあとにした。周りの目なんて、もうどうでもいい。とにかく早く日本に戻って、大翔と會うんだ。
でも、まだ騒ぎは収まらない。あの手紙の容と、雪景の中の真っ白な大翔の寫真――――ゾッとする。もしかすると、もう大翔は…。
俺は首を激しく橫に振る。その考えを追い払うように。
大翔は絶対に生きてる。だって俺と、約束したんだから。
アイツは噓をつくような男じゃない。アイツは、勝手に俺を置いて行ったりしない。
もうちょっと、待ってろ。すぐ行くから…。
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8 161香川外科の愉快な仲間たち
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