宿直室にて。

「弁解は？」

「アリマセン」

「反省してるか？」

「シテマス」

「はぁぁぁ～……」

簀巻すまきのままパイプ椅子に座らされた遙はるかが、片言の猛省を口にしている。

話し相手は、常に白に無ひげでしかめっ面な男子寮の寮監、青あお谷木やぎだ。

「フツーこういう時ってのは男の方を疑うもんなんだよな？」

「ハイ」

「けど、ここの寮は理的にも魔的にもセキュリティがはたらいていて、ちょっとやそっと中にいる奴がって忍び込ませようとしたところで無理なんだわ」

「はぁ……ソウナンデスカ」

「おい、今知ったみたいな顔するな。俺個人的にはお前が反省してるって言うならそこは突っ込まねえが、數多の網をかいくぐって侵おおせたのは何故だ」

「え？　結構簡単でしたけど……」

何やら口走る遙はるかの脳天に、背後に立っていた俺がチョップをくらわす。

「痛いのだーっ」

「……やっぱり反省してねえな」

その様子を見ていた青あお谷木やぎがそう言ってため息をつく。

「瀬野せの。反省文一枚と、的な侵経路と方法を書いた報告書。明後日の十八時までに出せ」

「うそんっ！　センセーッ。明後日は學式ですよォ」

「だったらどうした。學式は午前で終わりだし、逆に時間がたっぷりあっていいじゃねえか。書き終わるまで外出許可もけ取らねえように花鐘はなかねの奴にも言っておく」

花鐘はなかねというのは子寮の寮監の名前だ。

「先生のいけずぅ」

「あほか。まったく明日には他の生徒もほとんど帰ってくるってのに、直前にやらかしやがって」

青あお谷木やぎがそうブツブツ言いながら、子寮に線をかける。

程なくして、遙はるかの柄は無事引き渡されたのだった。

二日後の學式。

と言っても、硝鍵しょうけん學院は、初等部から高等部まであってその殆どが部生のために、そこまで盛り上がったり慨にふけったりするわけではないのだった。

そんなわけで、多くの高校と大して変わりないであろう式を終えて、教室に戻る。クラス分けは學式の前に確認してある。運がいいのか悪いのか、空也ソラと遙はるかとも同じクラスだ。

黒板に書かれた席表を見て、自分の席に著く。ふと遙はるかの席を見るが、荷はあれど姿がない。空也ソラの方は、自席で本を読んでいた。

「月城つきしろ様？」

急に聲をかけられて見上げると、知らない子がこちらを見ていた。

その子は俺と目線があったとたん頬を染め、手前勝手に名乗りはじめ、同じクラスで嬉しいだの當たり障りのない話題を振ってくる。

俺が返事もせずにぼんやり見ていると、次から次へと子が寄ってきて銘々に名乗ってきたり自己アピールをしてきた。

あっという間に周りが見えないくらい囲まれてしまったが、半ば話の腰を折るように子たちに話しかける。

「あーの、悪いんだけど、遙はるかのこと、知らない？」

俺の言葉に、子たちはとぼけた顔で首を橫に振る。

「ホームルームが始まる頃には戻ってきますわ」

サラッとそう返されて、けなくも何も言えなくなってしまう。

子達が俺をにれようと闘しているのにあたふたしていると、の外から聲がかかった。

「翼つばさ」

子の山の向こうに、空也ソラの頭が見えた。

「わりぃ、ちょっと行ってくるわ」

スマートさの欠片もないが、一切気にせずに席から立って、空也ソラを連れて教室の外に出る。

廊下を見渡すが、遙はるかの姿はない。

一先ず空也ソラに禮を言う。

「マジ助かった」

「大変だな。こういうのも、月城つきしろの……、ってやつなのか？」

二人で話をしながら、遙はるかを探すことにした。

──魔師は、家々によって、特殊な能力や質を持ち合わせている場合がある。

俺のうち、月城つきしろが持っているのは、“魅了みりょう”……。とどのつまり、俺自の行どうこうにかかわらず、人が──主に異が──數多あまた寄ってくるという代だ。

「こっちは全くその気はないんだがな。実家には何の権力もないし親戚付き合いもろくにない。代々だいだい系にょけいだから跡取りは妹だ」

魅了持ち、なんて言えば、すごく羨ましがられそうな能力だが、現狀迷この上ない。

いや――、俺自、數年前まではこの質を幸運だと思っていた。

何もせずとも、向こうから寄ってくるなら、その中から良いものを選べばいい、と。

「いた」

渡り廊下を見渡して、曲がり角に遙はるかが立っているのが見えた。

呼びかけながら手を挙げると、こちらに元気よく手を振り返してきた。

──今あいつ、ちょっと嫌そうな顔しなかったか？