ある日の午後、二人で部室を開けて自習をしていた時のこと。

遙はるかが回転椅子で二回転半してからぼやいた。

「最終回を迎えたい」

「はっや。その心は？」

「退屈」

「いやいや、部員募集中にして一日しか経ってないし、そう簡単に新部員も新キャラも増えないでしょーが」

「でぇーもぉー」

遙はるかはぼやいて、何故か部室に敷いてある畳の上をしばらくゴロゴロしたあと、ガバッと起き上がって言う。

「そうだ！　翼つばさくんとバトればよいのでは！？？」

「ことわる」

「なんでー」

「俺の専門、癒いじゅつなんだけど」

癒いじゅつとは、魔の一種で、魔力を使って傷や痛みを癒すこと。ゲーム的に言うと「白魔」「ヒーラー」みたいなものだ。

つまり、初歩的な魔は一通り使えるが、それ以外はからっきし。遙はるか相手なら、――言葉は悪いが――たぶん毆った方が早い。

「進路分岐はまだ先でしょー、我が弟子よ」

「俺は戦闘要員ではありませんヨ、お師匠」

「そも、魔も戦闘向きの能力じゃないけどねー」

魔の原則その一（再掲）。魔は人を傷つけるのには使えない。

「や、お前の使う幻はかなり例外だろ」

「そう！　おかげで最近全然披する機會ないからつーまーんーなーいーー！」

「俺相手なら使うんかいっ」

「臨死系は使わないから！　お願いー」

臨死……今にも死にそうな幻覚を見せる……頭を撃ち抜かれるとか、がいっぱい出るとか、そういうの……。いくら使わないと言われても。逆に言うとそれ以外はやるということで。

俺はしばらく考えてしぶしぶ応える。

「……一回だけだぞ」

「やた」

「復元裝置セーブクリスタル借りられないんだから、ガチでダメージ殘るやつはやめてね」

復元裝置セーブクリスタルというのは、決闘や危険な戦闘任務の時に使われる安全裝置のことだ。魔的に加工された水晶で、一時的に個人のと神の狀態を保存することができる。萬一の重傷を負った際に、水晶に保存された報を癒を使ってに戻すことで、一瞬で治療が完了する。

ちなみに、先日の決闘でも使われていたが、話をするテンポの関係で書いていなかった。でもって、高級品なので簡単には借りられない。

「おっけー」

俺の提案を遙はるかは軽く引きけて、空き教室を探しに部室を出ようとする。

彼はドアを開けて、廊下に出る直前に、思い出したようにこちらへ振り返り、サディスティックな聲でこう言った。

「あ、でも自分の道は持ってきてねー。今回ガチンコ勝負だから」