「そ、奏太君…はい、あ～ん…」

晝休み。今日はいつもと違い人気スポットで飯を食うことにした俺たち。

ここ學校の裏庭は普段ならカップルに人気のランチスポットなのだが、まだ時間が早いせいか、今現在こにいるのは俺と、目の前で目を伏せ、恥らいながらも俺に手作り弁當を食べさせようとしているの二人だけ。

小さなに白い。サラサラとした綺麗な黒髪――これが俺の彼だということはこの學校では有名だ。

が、しかし…

「いや、食べさせてくれるのは嬉しいんだが…せめて俺が食べられる奴にしてくれません…？」

「で、でも、こうでもしないと奏太君嫌いなもの食べてくれないし…好き嫌いしてたらに良くないよ？」

笑顔で手作弁當を“あ～ん”で食べさせようとしたり、それを拒否されオドオドしながら上目遣いで注意する――そんな彼が“波志江なごみ”だと知っている者は極々わずか。

恐らくクラスメートが今の景を見たら、『…あぁ、そっくりさんっているんだな』とか『なんだよ、波志江って雙子いたんだ』と現実逃避するほど信じられないことだろう。

まぁ、クラスの連中が“今の彼”を波志江なごみと信じられないのも無理はない。

だって、“今の彼”は普段教室で見せる彼とは明らかに別人なのだから…。

「っていうか、なごみだってトマト食ってねぇじゃん！」

「え？わ、私はちょっと今日食がないだけで…べ、別に嫌いってわけじゃ――」

「そういえば昨日うちの親がトマト買い過ぎて余ったとか言ってたな～。明日特別に分けて――」

「うぅ～…奏太君のいじわる…」

ヤバい…俺の彼マジで可いんですけど！

…と、若干涙目でいじけるなごみに心ニヤける俺だったが…“クラスの連中が良く知るなごみ”に戻る時は突然訪れた。

「いやいや、なごみさん？今は午後の授業よりトマトの話じゃないですかね？ほら、お前今日うちに來るんだろ？その時に――！！」

ついつい調子に乗ってしまい、ニヤニヤしながら彼をさらにからかってやろうと企む俺だったが…

「ねぇねぇ、今日はゆう君のお弁當気合れてきたんだ～」

「え！？本當に！？楽しみだな～」

喋っている途中でこちらに近づいてくる見知らぬ男を見つけた瞬間、フリーズした。

よりにもよって俺が調子に乗ってしまった時に…！！クソッ頼む…今はこっちに來ないでくれ！せめてそのまま離れた場所に…！！

しかし、そんな願いを嘲笑うかのように、そのカップルはイチャイチャしながら近くにやってきて、

「じゃあここにしよっか」

「ほら、ハンカチ。そのままだと汚れちゃうだろ？」

「ゆう君優しい～！！」

人の目など気にすることなく惚気まくりながら俺たちの近くの木に腰を下ろした。

頭を抱える俺…。

そして、次の瞬間…

「あら、どうしたの、奏太君？急に黙っちゃって」

顔を上げると、そこに先程まで目を泳がせて下手な誤魔化しをしていたはおらず。

案の定、代わりにいたのは姿形は全く同じ…うっすらとサディスティックな笑みを浮かべるがそこにいた。

「い、いやぁ、何話してたっけ？途中で話してる容ど忘れしちゃって――」

「今日奏太君の家に行ってトマトをけ取るって話でしょ？いいわよ、ありがたくいただくわ」

そっくりさんとか雙子なんかじゃない。ＤＮＡ100％一致の完全な同一人のは上から目線で余裕たっぷり。會話の主導権はすっかり彼に移譲されていた。

「そ、そうか。そりゃよかっ――」

「そして私が『ごめんなさい…何でもするからトマトだけは許して…』って涙目で懇願する姿を見て興したいんでしょ？」

「なっ！そんなわけ――」

「大丈夫、わかってるわ。奏太君は別に変態じゃない。ただ、私が困っている姿にしてしまうだけなのよね…」

「いや！全然わかってないよね！？っていうか、誤解を生むような発言をすんなよ！」

「あら、違うの？私奏太君の癖はドＳだと思ってたわ」

「いや、違うから！人の癖勝手に想像して公の場で暴すんのやめてくんない！？」

「なるほど。ごめんね。奏太君はドＳに見せかけて実はドＭだったのね…」

「いやいや！何言ってんの、この子！？」

「あら、それともＳ、Ｍ両刀だった？」

「アホか！お前は！！」

「大丈夫。私頑張るから。私奏太君が満足できるように、頑張るから」

「いいから！頑張らなくていいから！俺全然ノーマルだから！！」

先程とは完全に立場逆転。楽しげに俺をからかう我が彼。

「ねぇねぇ、ゆう君…あそこの男子、なんかヤバいよね…」

「ああ。ドＳの上にドＭとか…ああいう奴って絶対將來犯罪やらかすよな…」

ヒソヒソ聲でしゃべっているつもりなのかもしれないが。殘念ながら100％丸聞こえです…。

「ねぇ、もうちょっと向こうで食べない？」

「ああ、そうだな…」

そして、言いたい放題言い終えるたカップルは、俺に犯罪者でも見るような目を向けながら立ち去って行った。

「あ、あの人達もう行ったみたいだね！――それで、トマトの話なんだけど…」

そして、彼らが移したのを確認したなごみは再び“先程の狀態“へと戻って喋りだす…。

別に二重人格者とか大それたことじゃない。

俺と二人の時は、恥ずかしがり屋で素直な、思わずいじわるしてやりたくなる可らしい“素の格”。

普段人前では、上から目線で俺をからかい毒を吐くちょっとサディスティックな“作った格”。――ただ単に、彼がこんなじで二つの“キャラ”を使い分けているだけ。

「…お前、狙ってやってるだろ？」

「そ、そんなことないよ！！“あのキャラ”になると自然とああなっちゃうだけで…」

彼曰く、作った格である“ドＳ毒舌キャラ”のときは本心とは関係なく、勝手に人をからかったり毒舌になったりするらしい…。

まぁ、にわかには信じられないことだが別にそれは大した問題じゃない。からかわれるくらいなら別にいい。…いや、よくはないが、ここは良しとしよう。

だが…

「俺の評判、お前と再會してからダダ下がりなんだが…」

「ご、ごめん…」

なごみの言葉を真にけた連中による風評被害…これだけは本當に厄介だ。

友達もなく普段からひねくれた言ばかり取っている変な人…どうやら、そんな元々あったイメージもあってか、俺の悪評は真にけられやすいらしい…。

正直他人にどう思われていようが構わないんだが…さすがに口を叩かれたり後ろ指を指されるのはダメージがデカかった…。

多自業自得な部分はあるにせよ、マジでこれ以上は勘弁してもらいたい…本気でそう思っている今日この頃である。

でも…

「まぁでも、元々“迷かけるのが當たり前”とか偉そうなこと言ったのは俺だしな」

「そ、奏太君…！――ありがとう！私も頑張って奏太君の力になるから！」

元はと言えば、この非常に面倒くさくて厄介な“二重格”になった決定打は俺だったのだ…。

『やっぱり學校でも素の格で頼む！』――偉そうなこと言っておいて、今更そんな無責任なこと言えるはずもなく…。

「あぁ…卒業まで俺の神もつかな…」

俺はため息じりに小さく愚癡をこぼしつつ、こんな狀況になった経緯を思い返すのだった…。