《夢見まくら》第零話

「――――――――あ」

俺は、その場に崩れ落ちた。

寒い。

焼けたと錯覚するほどの痛みを訴えていた腹部の裂傷からも、もはや何もじない。

を流しすぎたせいか、視界が霞む。

俺は、まるでその慘狀に初めて気が付いたかのように、ただ呆然と辺りを見回した。

赤。

の雨くらいでは到底浄化しきれない穢れが、そこにはあった。

地面には、未だに不浄のを垂れ流しつづけている、四つの塊が転がっている。

――の死

――の死

――の死

そして、俺の足元に転がっている――の死

「…………う」

見たくない。

見たくない。見たくない。見たくない。

見たくないのに、目を閉じることができない。

「……おえっ」

胃がひっくり返るような強烈な不快が消えない。

「おえええええ……っ」

堪えきれなくなり、俺は吐いた。

嘔吐が止まらない。

と思しき白濁との朱が混じった薄紅の吐瀉としゃぶつが、雨に濡れた地面を汚していく。

今の俺はまさに、ただただ延々と汚を吐き出し続けるだけの存在だった。

「――――あ、あ」

これは夢だ。

悪い夢だ。

――これも・きっと、明晰夢に違いない。

そうだ。そうに決まっている。

俺は、その最後の淡い期待に縋りつき――

――そうやって、都合の悪い現実から逃げて、逃げて、逃げ続けて。

最期に辿り著いたのが……ここ・・なんじゃないのか?

「――――――――」

――その淡い期待が自の中で々に打ち砕かれた瞬間、から力が抜けた。

ばしゃん、という音と共に、俺のが汚水に沈む。

「……うっ…………ううっ……」

涙が溢れた。

もう、いやだ。

楽になりたい。

辛いのも、痛いのも、もう十分だ。

「……赦してくれ、皐月」

無意識だった。

「ごめん。ごめん。ごめんなさい。ごめんなさい……ごめん……なさい……」

俺は無意識のうちに、そんなことを口走っていた。

「赦して、許してくれ……俺を……」

自分のあまりの淺ましさに、涙を流しながら口元を緩ませる。

ああ。

何と救いようのない愚か者だろうか。

この期に及んで、まだ赦されようとしている自分自に。

この期に及んで、まだ救われようとしている自分自に、蟲唾が走る。

「……死ねば、いい」

死。

それは、天啓のように俺の心をとらえた。

この出量だ。

どうせ俺は助からない。

だから、せめて。

死んで皐月に詫びよう。

俺が犯した罪は、永遠に赦されることなどないのだから。

「…………あ、あ……」

死が、唯一の救いに思えた。

殘酷な現実に絶して、ただ安らかな死をむ、俺の耳の奧で――

『あはははは』

――楽しげな、奴の笑い聲が聴こえた気がした。

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