《夢見まくら》第六話 三度目の明晰夢

「……おお、本當にまた夢だ」

……改めて聲に出してみると、かなり妙なじがする。

今までに二回験したのと同じ覚。

俺はまた、昨日の夢の続きにいた。覚的には完全に寢起きだが。

暑くないし、攜帯を確認してみると七月二十五日だったので、間違いなく夢の中である。

……さて。

「どうしようか……」

さすがに、三日連続で同じようなじの夢を見るなんていう現象を、偶然だ、と言い切れるほど俺はリアリストではない。

明晰夢を見る才能に目覚めたのだろうか。封印されていた右眼の封印が解かれた、的なノリで。

……その可能もないとは言い切れないが、疑問は殘る。

いや待て落ちつけ。右眼に封印なんてない。いつまで中二を引き摺るつもりだ。

そんな可能は皆無だ。

話を戻そう。

疑問というのは、何故明晰夢を見るようになったのか、ということだ。

今まで、こんなことは一度もなかった。

現象には必ず理由というものがある。

ある有名な科學者の言葉だ。

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この明晰夢という現象にも、何か原因となったものがあるはずなのだ。

とはいえ殘念なことに、俺は明晰夢について全くと言っていいほど何も知らない。

明晰夢が発生する條件、方法などがわかれば、この現象を理解することができるかもしれない。

目が覚めたら、明晰夢についてし調べてみることにしよう。

それはとりあえず置いておく。

あとは皐月のことだ。

正直、どう接すればいいのか分からない。

告白して、砕玉砕大喝采した後の相手との接し方なんて知らない。

こちとら経験人數ゼロだぜ。貞舐めんな。

……強がっても仕方ないな。

それに、どう接すればいいのか、なんて些細な問題だ。

……いや、全然些細じゃないけど、こうでもして自分に言い聞かせないと、前に進めない。ヘタレ故に。

俺は皐月と一緒にいたい。

皐月と一緒に、買いしたり、ご飯食べたり……とにかく々したい。

あと何回これと同じような夢を見れるのかはわからないけれど、一回一回の機會を大切にしたい。

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……よし。

そうと決まれば話は早い。

皐月に會いに行こう。

多分あの家にいるはずだ。

「……その前に腹ごしらえだな」

夢の中でも何故か腹は空く。

腹が減っては何もできない。

と、いうことで、まずは朝飯を作ることした。

朝飯を食べた後、支度を整えて、すぐに皐月の家に向かった。

「さあ、やって參りました。前橋邸前、前橋邸前でございます。ご覧下さい。落ち著いた雰囲気の、とても住み心地の良さそうな家だと思いませんか? わたしはリポーターでも何でもないので、気の利いたコメントなんてできませんが、とにかく素晴らしい家であることに間違いはありません」

ん?

俺のテンションが妙なことになっているって?

気のせいだろう。

思い過ごし。

錯覚。

そう、錯覚だ。

俺のテンションがおかしいのは錯覚であって、第三者に今の俺の姿を見られても特に何も思われないはずだ。

ちょっと人の家の前で行ったり來たりしているだけだ。大丈夫。

不審者というのは、もう見た目からして不審なことが多い。

その點、俺の場合はただの大學生だ。外見がヤバい、ということはないはず。

顔もそんなに悪くない……はず。

どうでもいいが、さっきからはずはず言い過ぎだ。どんだけテンパってんだよ俺。

とにかく落ち著け。深呼吸だ。

かの有名なでも言っている。

吸って吐くのが深呼吸、吸って吐くのが深呼吸だ、と。

……何度か深呼吸をすると、多は落ち著いてきた気がする。

ふう。

そろそろインターホンを押さないと、ご近所の人に怪しまれるかもしれない。

意を決し、インターホンを押した。

「……はい」

しばらく待っていると、誰か出た。皐月のお母さんかな?

  「あ、え、えと、海斗、です。皐月さんいらっしゃいますか?」

……盛大にどもってしまったが、用件は伝えられたはずだ。

「海斗、わたしが皐月だよ。ちょっと待っててね」

……お母さんかと思ったら、本人だった。

なんかすごく恥ずかしい。どもった辺りが。

皐月はすぐに出てきた。

「どうしたの、こんな時間に?」

朝だからか、夏だからか分からないが、皐月は非常にラフな格好をしていた。

いい。

惜しげも無くさらし出された健康的な生腳が、スゴく、いい。

……おっと。そんなことを考えている場合じゃなかった。

「……今ちょっと目がエロかったような」

「気のせいだ。それより皐月、今日暇か?」

「え? んー、そうだね。暇と言えば暇、かな?」

なぜに疑問系。

いや、そんなことはどうでもいい。

「もしよかったらさ、今日一緒に出掛けないか?」

「……それってもしかして、デートのおいってやつなのかな?」

お、皐月のやつ、ちょっと顔が赤くなってる。

「……お、おう。まあ、そうともいう、な」

かくいう俺の顔も真っ赤っかだろう。

面と向かって言うのも恥ずかしい。

「……ふーん。そっかぁ……」

皐月がスゴくいい笑顔してる。可い。

というか昨日の慘敗は何だったんだ? あれ夢だったのか?

今のこれも夢なんだけど。

……あれ? わけわかんなくなってきた。

「と、と、とにかく、暇だったら十二時に迎えに來るから!」

「うん、わかった。じゃあ待ってるね。お晝は一緒に食べよっか」

「そ、そうだな。じゃあまた後で」

「あ、待って海斗」

帰ろうとしたら、皐月に呼び止められた。

「どうした?」

「メアド。換しといたほうがいいよね?」

皐月はポケットから攜帯電話を取り出しながら、そんなことを言った。

「あ、ああ。そうだな。……えーと、ここをこうして、だったかな?  ……あれ? 違う?」

「いや、こっちじゃないかな? ……あれ? どうやるんだっけ?」

実は機械音癡な二人であった。

あの後、メアドを手力することでなんとかメアド換に功した俺は、家に帰ってきていた。

「……なんかイマイチなんだよなぁ」

そして、鏡とにらめっこしていた。

理由はもちろん、皐月とデートするからである。

初デート。

絶対に失敗は許されない。

とはいえ、気合いをれすぎたられすぎたで恐ろしいことになりそうで怖い。

「どうしたもんかね……」

どの服を著て行くか悩んでいるうちに、十一時五十分になってしまった。

「ヤバいぞ……もう行かないと……」

これ以上悩んでいても仕方がない。

絞った候補の三つの中から、適當に選んで著て行くことにした。

「お待たせー。……あれ、海斗、どうしたの? 汗びっしょりだよ?」

「大丈夫。ちょっと急いだだけだから」

「そう? それならいいんだけど。気分が悪くなったりしたらすぐ言わなきゃダメだよ?」

お母さんみたいなことを言ってのけた皐月は、さっきの服ではなく、白いワンピースを著ていた。

「そのワンピース、スゴく似合ってるよ、皐月」

「えっ!? あ、ありがとう……」

しまった。思わず本音がポロリと。

この癖は直したほうがいいんだろうな……これから気をつけよう。

「それじゃ、晝飯行くか」

「うん!」

なんか皐月がさっきよりもご機嫌な気がする。

……今のはいいように働いてくれたっぽいが、いつもいい結果を生むとは限らないよなぁ。「脇臭い」とかいきなり言われたら傷つくだろうし。……いや、臭くないよ?

そんなことを考えている俺と、しテンション高めな皐月は、2人並んで商店街のほうに歩いていった。

商店街の喫茶店で晝飯を済ませた俺たちは、カラオケに行くことにした。

「カラオケなんて久しぶりー。海斗は?」

「俺は割と行ってるな。先月も佐原と二條と一緒に行ったし。あ、お前は佐原も二條も知らないよな?」

「佐原さんは知らないけど、二條さんなら昨日會った人だよね? 一応記憶力はいいほうなんだよ!」

「お前の記憶力がいいのは誰も疑わないだろうよ……。著いたぞ、ここだ」

俺がいつも來ているカラオケ店は、雑居ビルの二階にある。

付を済ませて、部屋にった。夏休みの平日だったので、問題なくれたようだ。

いや、そもそも夢だから待ち時間があるとかあり得ないんじゃなかろうか。

「じゃあ、遠慮なくお先にいかせてもらおうかな」

皐月はそう言うと、早速曲をれたようだ。

俺もれるか。

「ふーっ、楽しかった!」

俺たちはカラオケで買っても歌い疲れたあと、買いをするために商店街に來ていた。

「でも、皐月があんなに歌うのが上手いとは思わなかった。正直したわ」

そう、俺は知らなかったのだが、皐月は歌うのが得意らしい。

皐月が歌うと、採點で九十點以上がバンバン出てびっくりした。それに、何というか……心に響くものがあった。人の歌を聴いて、涙する経験をたまに耳にするが、こういう覚なのかもしれない。

ちなみに俺の平均は八十五點ぐらいだと思う。俺の點數もそんなに低くはないと思うのだが……いや、皆まで言うまい。

「ありがと! そう言ってもらえると嬉しいな」

「と、いうわけで、そんな素敵な歌聲をもつ皐月さんに今日の晩ご飯の用意を手伝ってほしいのですが……」

「いいよ。今日も海斗の家で晩ご飯食べていいの?」

「だいじょーぶ」

「……何でそんな間延びした返事なのかわからないけど、わかった。何かリクエストはある?」

系がいい。あとは任せる」

「んー、じゃあハンバーグにしょっか。行こ! 屋で買うものですぜ旦那」

「……お前も人のこと言えないくらい頻繁に口調変わってるからな」

「わたしのは癖みたいなものだから。気にしなくていいよ」

気にしなくていいってどういうことなんだよ……。

「で、屋ってどっちだっけ?」

「こっちだよ。……ねぇ海斗、手、繋いでいい?」

「何故にこのタイミング?」

「いや、何となく」

そう言う割にはかなり照れ臭そうなんだが……まあいいか。

「ほら」

俺が右手を差し出すと、皐月も左手を差し出した。

そして握る。

「痛い! 強いから皐月! 握力鍛えるやつじゃないから俺の手は!」

「ご、ごめんなさい!」

すぐに緩くなった。

しかし今、すごい力で握り締められたぞ。俺より握力強い気がする。

あーでも、いいわこれ。皐月の手、やわらかい。

「……んふふ」

ちらりと隣を見ると、皐月も俺みたいな狀態だった。すぐに目を逸らす。

「……行くか」

「うん!」

皐月はすごく嬉しそうだ。

今日皐月をってよかったと、心底思った。

「ごちそうさまでした」

「はい、おそまつさまでした」

皐月が作ったハンバーグは、なかなか味かった。

なんか皐月の作った料理って、すごく安心するんだよな。お袋の味、みたいな。

ここ三日連続で夕食を一緒に食べているので、しこの味に慣れてきたような気がする。

「洗いは俺がやるから」

「そう? じゃあわたしはそろそろお暇しようかな」

「いや、泊まってけよ」

「……え?」

皐月は直している。無理もないか。

「今、なんと?」

「だから、泊まってけって」

「……お、おう、そうか……」

話し方が男っぽくなった皐月は、しばらく何か思案している様子だったが、やがて口を開いた。

「じゃあ、よろしくお願いします」

その後も、皐月と喋りながら過ごして、そろそろ寢るか、という流れになった。

「エロいのは、なしの方向でお願いします」

そして、皐月のその宣言は突然だった。

「……もちろんじゃないか」

「今一瞬間があったよね?」

「まんなそさか。そんなことはありえません」

「そう。ならいいんだけどね」

大丈夫だよ皐月。もともと俺にそんな甲斐はない。

「じゃあ一緒に寢よっか」

「…………はい?」

今度は俺が直する番だった。

「いや、だってお布団ひとつしかないし。また家主を臺所っぽいスペースで寢かせるわけにもいかないでしょ?」

確かに俺の家は家というより部屋に近い広さだが、もう一人ぐらいなら何とか……あー、でも確かに臺所っぽいスペースしか空いてないわ。

「……いや、しかしなぁ……」

「わたしも海斗のお願い聞いてあげたんだから、海斗もわたしのお願い聞いてよ」

「……はい。わかりました」

  

そして現在、何故か俺の手の屆くところに皐月が寢ております。

だが手は出せない。

生殺しです。

こんなんで眠れる訳がないよね。

皐月は本當に寢てるっぽいけど。すごいね。心だね。

左を見ると、皐月の寢顔があった。その可らしい口元からかすかに息がれているのがわかった。

今日一緒に皐月と過ごしてみて思ったのだが、昨日告白して玉砕した割には、皐月は俺を疎ましく思っているじはしなかった。

もしかしたら、正式なお付き合いができない理由があるのかもしれない。……すごくポジティブな考えではあるが。

……し、眠くなってきた。

明日も、また皐月に會えるだろうか。

まだ、この夢について何もわかっていないのだ。

今日でこの夢が終わってしまうことが一番怖い。

皐月のほうを見る。

俺は皐月の頭を軽くでて、言った。

「おやすみ、皐月。また明日な」

その後、俺の意識は薄れていった。

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