《闇夜の世界と消滅者》十四話 無効者

「宿のこと聞くの忘れてた………」

また野宿かと、は落膽したように呟いた。

は校長室を後にし、校舎に繋がる渡り廊下を歩いていた。

それにしても、とは思考する。

學園での行方不明者事件。

複數人が行方不明になるものの、四日で発見される。

行方不明者のの一人は、以前とは比べにならないほどに長していたという。

…………………あり得るのだろうか?

確かに、未な魔導士が師の下で修行して、急激に長し才能を開花させるという話はよくある。

だがそれはあくまで優秀な魔導士に指導してもらってという條件下でだ。

學園おの教師は全員がランクBまたはランクA。ティナはランクSSなのだ。

これ以上に優秀な魔導士がいるとはとても考えにくい。

となると考えられるのはおそらく………。

「薬か、または脳魔法処理演算領域の改竄かいざんか………」

薬。世で言うダークエリクサーと呼ばれるものだ。

魔力を補給するエリクサーとは違い、人間の魔力容量を力づくで拡張するものだ。しかも、ダークエリクサーを摂取した人間は、その濃すぎる魔力に耐え切れずに自我を失い暴走するものも多い。

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対して脳魔法処理演算領域の改竄かいざんは、簡単に言えば人間の脳を弄って魔力容量を増やすという方法だ。

これを行えば確実に魔力が増大することが確認されている。しかしやり方が殘すぎるうえ、実験対象の消失も確認されており、薬とともに國際魔法協定では止項目の筆頭に挙がっている。

これ以外にも魔力容量を上げる方法は確認されているが、それは魔導士の間でもタブーになっていたりする。

「薬なら売者を徹底的に調べ上げれば出てくるかもしれんが、校舎となると流石に俺一人では荷が重い」

だが、かといって誰かに頼るのも忍びない。

はてさてどうしたものかとが悩みながら歩いていると、

「お困りのようだね、君」

と、聲がかかった。

「誰だ、あんた」

聲が発せられた場所に視線をやると、そこにはまるでモデルをやっているではないかと疑うほどの形の男子生徒が立っていた。

「はじめまして。僕はベルクリオ學園三年の寫影うつしかげ朧おぼろというものだ。以後よろしく」

託はいいから要件を話せよ」

警戒を解かないを見て寫影は肩をすくめる。

「そんなに警戒しなくてもいいよ」

そう言って見せるが、正直なところ無理である。

「あんた、ただの生徒じゃないな。察するに軍人か何かか?」

が言い放つと、驚いたように目を丸くすると、愉快そうに笑い始めた。

「あはは、すごいね君。初対面なのにたった一回見ただけで僕の正を暴くなんて。そうだね。軍人ってばれているなら隠す必要もないし、一から名乗らせていただこうかな」

そう言って寫影はまるで役者のように舞いながら事項紹介を始めた。

なお余談だが、寫影が男子であるため、そんな気障な恰好をしても映えるので、々イラッとするだったりする。

「改めて名乗らせてもらおう。僕の名前は寫影朧。メルガリア特殊諜報機関ーライバースの無効者キャンセラーという者だ」

決め顔で名乗る寫影に、は茫然と呟いた。

「メルガリア……しかも無効者キャンセラーだと?」

「おや? 知っているのかい?」

「知っているも何も、メルガリアの無効者キャンセラーといえば、知らないやつはいないんじゃないのか?」

メルガリア特殊諜報機関ーライバース。

それは裏社會ではかなり、いや非常に有名な機関である。

曰く、厳重に保管されていた報がいつの間にか外部にれ出ていたり。

曰く、知らずうちに自分たちが不利なように仕組まれている。

曰く、曰くと、様々な破壊工作や報収集に長けた集団。

その中でも特に危険人扱いされていたのが、無効者キャンセラーという異名を持つ魔導士だった。

彼は特に魔法が得意なわけでも、能力が高いわけでもない。

ならなぜ、そこまで彼を危険視するのか。それは単純に彼の固有能力が理由であった。

無効者キャンセラー。その名の通り、彼には一切の魔法が通用しない。

たとえそれが上級魔法ディオガクラスだったとしても、彼はそれを無効してしまう。

その効果は魔法だけにはとどまらず、ある程度の理攻撃なら無効化してしまう。

故に危険人として認識されているのだ。

「まさか僕ことを知っているなんてねぇ」

「知っているというか、あんたの噂は有名だからな。それにしてもよくこの學園に學してもばれなかったな」

「それには関しては大丈夫なんだよ。なにせ僕の顔を知っているのはこの世に三人……あ、君をれて四人かな」

そう言いながら寫影はに問う。

「そういう君はいったい何者なのかな? 無効者キャンセラーだけじゃなく、メルガリアのことも知っているようだったし」

その問いには顔を顰めた。

その顔をみた寫影は數秒の顔をジッと見つめていたが、やがて諦めたようにため息をついた。

「そんな顔をするってことは、聞かれたくないことなんだね」

「すまない。それに関しては答えるつもりはない」

「別に気にしてないよ」

そこでお互い不干渉ということで手を打った。

「さて、ここでは僕たちは先輩後輩という関係になるわけだからね。できるだけ敬語でしゃべるようにしてくれないかな」

「…………………必要なことなのか?」

「うん。必要なことだよ」

「わかった………じゃなくてわかりました」

「うんうん。先輩って呼ばれるのも悪い気はしないねっ」

危険人認定の先輩様は嬉しそうにくるくる回って喜んでいる。死ね。

「じゃあ僕はこの辺で。何か困ったことがあればいつでも相談に來てくれたまえ」

手を振りながら歩いていく寫影を見てはぽつりと呟く。

「嵐みたいなひとだったな…………」

そしては寢床を確保するために歩き始めた。

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