がイルディーナたちの元に帰ると、鈴音は満面の笑みで迎えた。

「お待ちしておりました。兄様」

「ただいま、鈴音」

は鈴音に挨拶し、二人でイルディーナのもとへ向かう。

「すまない、待たせたか？」

「いえ、たいして待っておりませんよ。むしろシャードさんにれさせていただいて……至福でした……」

けた顔でそう述べるイルディーナに、は苦笑を浮かべる。

「ああ、シャードも満更じゃなさそうだし、會長さえよければいつでもモフってやってくれ」

「おい、私はペットではないのだぞ！」

「でもでられて気持ちよかったんだろ？」

「…………否定はしない」

シャードも満更ではなさそうに答える。

「さて、そろそろ食事にしようか」

がそう言いながら、背負っていたかごと引き摺っていた熊と豬を目の前に投げる。

「山菜とかキノコとかは別に不自然ではないのですが…………その熊と豬はいったい…………しかも大きすぎませんか？」

イルディーナはが獲ってきた熊や豬を見ながら、そう呟く。

「ここの森あんまりがいなくてな……仕方なく魔のテリトリーに侵して狩ってきた」

の行に理解が追い付いていないのか、イルディーナはポカンと呆けていた。

一方鈴音はの行は理解できる範囲なのか、あんまり驚いていない。

「え、じゃあこれ……魔なんですか！？」

イルディーナの疑問には當たり前だと言ったように頷く。

「でも魔を食べるなんて、そんなこと聞いたことも………………」

「まあ、そりゃあ食糧をしっかり持っていれば魔を食うことはないんだが…………魔でも食材として扱われているのは知っているか？」

の問いにイルディーナと鈴音は頷く。

「いや、鈴音はもう知ってるはずなんだけど……まあいいか。それで、魔で食材とされている例として、ホワイト・コーンラビット、イエロークラブ、禍の草、あとは、レッド・カウなんかもそうだな」

が挙げている魔は、庶民用として知られているものから高級食材として扱われているものである。

ホワイト・コーンラビットやレッドカウは、極めて特殊な環境でしか生息していないため、手することが困難とされている。

「まあ、例に挙げたのはあくまで一般人でも知られている食材なんだが……意外に知られていないのが、コボルドやオークといった小型魔クリーチャークラス、オーガやグランドフィッシュみたいな中型魔モンスタークラスみたいなやつも、まぁにもよるが食えるってことだな」

鈴音はの説明に何の疑問をじていないようだが、イルディーナからすれば驚きである。

モンスターを食すという考えは、イルディーナだけでなくほかの生徒でも持たないだろう。

過去の魔法大戦ならいざしらず、今は平和な世の中だ。食料に困るなどということには基本的にならない。

それをに伝えると、は逆に呆れた顔をしてこうのたまった。

「確かに魔を食うってのはもはや廃れた文化だろう。だが、魔が食えるって知ってるやつは結構現地で食料を調達するやつが多いんだぜ？」

ものは試しだ、と言っては慣れた手つきで魔を解していく。

として食べられる部分と、換金できる素材とちゃんと分けているみたいだ。

結果として、熊とイノシシの魔のは非常に味だった。

鈴音もイルディーナも満足げに食べている。

はそれを見てとてもうれしそうな表をしていた。

「さて、腹も膨れたことだし、今日はここで野宿して明日からまた探索を開始すんぞ」

食事に費やした時間、約二十分。

かなりの量のがあったはずだが、今はもう見る影もない。

「わかりました。では、私が最初に見張りを…………」

鈴音がそう申し出るが、は首を橫に振った。

「今日は俺が見張りをやるよ。慣れてるし、何かあったときの対処に困らないだろ？」

この中で最も戦闘経験が富であり、數多のサバイバル知識を持つにそう言われ、鈴音はしぶしぶ納得した。

なお、イルディーナは終始何か言いたげな顔をいてたが、は気づかぬふりをした。

子二人が寢靜まったころ、は火を焚きながらひとりでに呟く。

「やはりこの森はおかしい……いくら超弩級型魔レジェンドクラスが呪カースをけているとはいえ、ここまで変化するものなのか？」

『これは超弩級魔レジェンドが原因じゃないかもしれないね』

誰もいなかったはず・・・・・・・・・の空間から聲が聞こえる。

はそこに目を向ける。

そこにいたのは一匹の貓。

そう、貓だ。

だがただの貓ではない。

は真っ黒な炎で覆われており、尾が三つに分かれている。

なにより最も貓と違うのは、その深紅に染まった眼だろう

だが、は対して驚いた様子もなく、むしろ気楽に話しかける。

「久しぶりに姿を現したな、《殺鬼・・》？」

そう、この黒貓はイルディーナとの決闘で使用したの刀、《殺鬼》である。

「ごめんごめん、ちょっと寢坊したよ」

「そのちょっとが一か月だということには突っ込まないでおこうか」

殺鬼はケタケタと笑うと満足したのか、早速本題にる。

「さっきの話だけど、ちょっときな臭いことになってきたよ～」

「どういうことだ？」

「この件、第三者の介があって間違いないね。まぁ超弩級魔レジェンドクラスが呪カースになるなんてこと、偶然できるにはちょっと無理があるしね」

殺鬼の言う通り、仮にも超弩級魔レジェンドクラス、守護獣と奉られるだけあって、知もそこらへんの一般人よりも高い。

そんな魔が、偶然呪カースに罹るなんてことがあるのだろうか。

「ありえねぇよなぁ…………」

「うん。それにちょっとやばい報も混ざってたしね」

「やばい報だと？」

「うん。この件に関わってる第三者の目星はついてるんだよね。ウロボロスっていう闇組織なんだけど、聞いたことある？」

「ああ。この世に存在する闇組織の中でもかなり質の悪いって評判の奴らだろ？」

の言葉に、殺鬼は頷く。

「そのウロボロスがさ、近々ベルクリオ學園を襲撃するっていう噂が流れててね」

「ウロボロスがベルクリオ學園を襲撃だと？　いったい何を…………まさか」

が何か心當たりがあったのか、眉間にしわを寄せる。

そんな様子のに、殺鬼は確信した様子で答える。

「奴らは間違いなく…………………龍寶玉を狙ってる」