は空を見上げている。

部隊に編された時から、いや、自我を持ち始めた頃から、空を――特に夜空を見るのが好きだった。

「星を見ているとなんだが心が落ち著くんだ」

がそう言っていたのを、殺鬼は覚えている。

「さて、そろそろ夜が明ける。二人を起こしてさっさと進もう」

そう言っては二人を起こし始めた。

「ここが迷宮のり口か」

たちは朝食すました後、たちは迷宮のり口に來ていた。

そこは神獣が住んでいるような雰囲気は決してなく、闇に染まったような空気で満ちていた。

「おかしいですね…………」

イルディーナは訝しげな眼で迷宮のり口を見つめている。

「おかしいって、何がだ？」

「以前ここに來たときは、こんな雰囲気じゃなくて、もっと神々しい雰囲気だったんです。それに、こんな扉はなかったはずなんですが…………」

そう、イルディーナが言った通り、目の前の迷宮には扉ができていた。まるで神殿である。

イルディーナが言っていることが正しいのか、鈴音に目を向ける。

鈴音は本當だと言わんばかりに頷いている。

「つまりこれは自然にできたものではなく、人為的に作られたものということか……」

そう言っては扉にれる。

「しかもただの扉じゃないな。魔力をじる……封印魔法の類か。しかも上級魔法ギガノクラスときた。」

 鈴音も確認するように扉にれる。

「本當ですね。しかもこれは固有魔法オリジナルですよ。どうしますか？」

「ここはやはり一度學園に戻って応援を要請するしか……」

鈴音の問いに、イルディーナが答える。

確かに、それが模範的な回答だろう。

だが。

「いや、めんどくさいから強行突破でいこう」

その模範的な回答は普通の學生だった場合に當てはまるわけであって。

その普通の學生に、は含まれているはずがないわけで。

なら強行突破ができても無理はないだろう。

しかし、イルディーナは反論する。

「いくらあなたが強いといっても、力技で封印魔法が解けるほど、簡単ではな――――」

ズガァァァァァァァァァァァンッッッッ！！！！

イルディーナが何かを言おうとした直後、突如音が鳴り響いた。

イルディーナは慌てて耳をふさぎ、目を閉じる。

そして再び目を開いた瞬間――――絶句した。

扉が破られている。

いや、砕されているといったほうが正しいのかもしれない。

はこぶしを空中で止めており、その足元には扉の破片らしきが転がっている。

これだけで、イルディーナは理解する。あぁ、毆り飛ばしたんだなと。

「よし」

「いやよしじゃないですよぉぉぉ！？」

が小さくガッツポーズするのに対し、イルディーナは悲鳴を上げていた。

たちは扉を砕した後、迷宮の中に侵した。

「隨分と暗いな。まだ一階層だぞ」

は中の暗さに毒づく。

「あまり気にするものではないですよ」

イルディーナは苦笑しながらに言う。

やはり事前にったことだけあって、進むペースはかなり早い。

「隨分と速いペースだが、道を覚えているのか？」

「はい。基本的に潛ったダンジョンの構造はすべて覚えていますよ」

さらりと超人的発言をする生徒會長様はやはり只者ではない。

「ここの最下層はまだ発見されてないんだよな？」

「はい。前回潛ったときは確か百三十階層までだったはずです」

それなら最深部は二百階層かもしれない。まあ、最大規模のものでも百五十階層が最深部だったから、今回もその程度だろう、とは高を括る。

「私たちのレベルでは一階層程度の魔などいないに等しいので、さっさと降りることを提案します」

鈴音がさっさと降りることを提案する。まあ、鈴音の言う通り、三人ともこの程度なら一人でも大丈夫なのだが。

「そうですね。では行きましょうか」

たちは下の改裝に続く階段に急いだ。

そこからたちはかなりのスピードで迷宮を攻略していった。

本來ならば十階層ごとに強力な大型魔アビスクラスの魔が待ち構えているのだが、それらは全てが一撃で葬っていた。

そんなペースで、約一時間半。

たちは今、百五十階層まで降りていた。

「す、し……休みま……せんか……」

イルディーナは息も絶え絶えにそう言った。

や鈴音はメルガリアに所屬するにあたって、殺人トレーニングをいやというほどこなしている。

たとえ神獣が住む迷宮であっても、この程度・・・・と言わせるほどには、やわには鍛えていない。

イルディーナが彼らのペースについてこれないのも仕方がないというものである。

「そうだな。そろそろ休んでもいいかもしれないな。ここのボスを倒したらな」

イルディーナはすでに諦め顔でうなだれており、鈴音はイルディーナに憐みの視線を向けている。

「？」

はそんな二人の様子に首をかしげながらも、扉の前に立った。

そのままは扉を蹴り飛ばした・・・・・・。

轟音が響く中、は特に気にした様子もなく部屋の中にっていく。

イルディーナと鈴音もそれに続く。

たちは部屋の中央に行くと、そこで足を止めた。

「…………何もじない。むしろ靜かすぎる」

それはだけでなく、ほかの二人もじていたことだった。

今までの経験上、十階層ごとに大きな邪気を持った大型魔アビスクラスが必ず出現していた。

だが、この部屋からは一切その邪気がじられない。

「一何が………ッ！　このは！？」

たちの足元が突然輝き始めた。

は直でわかる。これは魔方陣だと。

「鈴音！　生徒會長！　後方に下がれ！」

の指示に鈴音は何の疑問も持たずに従う。イルディーナは何が起こっているのかわからない様子だが、とりあえず従った。

直後、魔法陣から大量の鎖が飛び出してくる。

「ッ！　引き千切れ、『殺鬼さつき』！！」

は咄嗟に殺鬼を出現させ、鎖を斷ち切る。

だが、鎖は勢いを止めずに迫ってきた。

「焼け爛れた荒野 そこに殘るは赤熱した地と

流れ出る溶巖の海　やがてそれは意思を持ち

目の前にあるものを打ち砕く　煉獄溶巖弾ボルケーノ・バレット！！」

鈴音が魔法で鎖を燃やし、

「打ち鳴らせ！　『リゼール』！　【ライジング・フィール】！」

イルディーナはその持ち味の速度で鎖を切り崩していた。

だが、それでも鎖の勢いは止まらない。

徐々に焦り始める鈴音とイルディーナ。

たとえ強いといっても、これほどの數をいなすにはまだ実力が追い付いていない。

「キリがありません……ね！」

「さすがにこのままでは魔力が持ちませんよ……ッ」

「吐いた言葉は偽りで　昏き瞳は宙を見て

楽に死ぬ方法を探す　因果を回り続け

生きるものを喰らい　恨みを果たす　永遠ノ地獄インフェルノ」

鎖たちが燃え始める。いや、焼かれ始めるといったほうが正しいのかもしれない。

鈴音は咄嗟にのほうを見た。そして確信し、安堵する。

今の魔法はが放ったものだと。

は、殺鬼を地面に突き刺し、魔法陣に右手を掲げていた。

永遠ノ地獄インフェルノ。それは範囲魔法の中でも高い殺傷能力を持つ魔法である。

炎魔法ではあるものの、その黒い炎のから、闇魔法とも言われている。そして、この魔法は自我を持っており、自分が認めたものではないと者をも飲み込んで燃やそうとする厄介な魔法でもある。

故に、すでに認められている以外、この魔法を使うことは不可能なのである。

「さすがです。兄様……」

鈴音は恍惚とした表でを見つめる。

ちなみに、イルディーナが終始ポカンと呆けていたのは言うまでもない。

は後ろの二人には目を向けず、魔法陣の中心に向かう。

鎖は全て焼き盡くしたが、それだけで警戒心を解くではない。

魔法陣の中央には、黒い棺桶が置かれていた。

はその棺桶にれる。

すると、棺桶はひとりでにき出し、蓋が開き始める。

その様子に鈴音とイルディーナはそれぞれの得を構え直し、警戒する。

しかし、は警戒を解き、棺桶の中を覗き込む。

「これは……まさか、人か…………？」

の視界に映ったもの。それは、棺桶の中で祈りを捧げるの姿だった。