《闇夜の世界と消滅者》二十九話 阿賀崎 黑葉 1

は、から聞いた名に、驚きを隠せずにいた。

「何か知っているのですか?」

の反応に、イルディーナはには心當たりがあるのだろうと見當をつける。

はイルディーナの問いに答えず、はイリヤに問う。

「お前は何時………封印されたんだ………?」

の問いに、イリヤは恐る恐るといった風に答える。

「ちょ、ちょうどご、五年前……」

「ッ!」

は鋭く息をのむ。

五年前。が十一歳のときだ。そしての許嫁、黑葉の命日・・の日と重なる。

の反応を見て、鈴音とイルディーナは心配そうな顔をしている。

やがて鈴音が意を決したようにに問うた。

「あの、兄様。黑葉とはいったい誰なのですか?」

鈴音の問いに、し考えるそぶりを見せると、答えた。

「生徒會長はともかく、鈴音。お前なら知っているはずだ」

「?」

鈴音がわからないという風に首をかしげる。

「阿賀崎あがさき黑葉。阿賀崎家の次であり、三觜島家次男の俺と婚約関係……許嫁とされていた子供。いや、お前にはメルガリア特殊諜報部隊――ライバースNo.4【無者ノーカラー】のクロハという名前のほうが通じるか?」

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「!?」

が言った言葉に、鈴音は絶句する。

それも當然だろう。

メルガリア三大謎のうちの一つである諜報機関――ライバース。

その中でも、No.4【無者ノーカラー】のクロハの話は有名である。

曰く、誰も素顔を見たことがない。

曰く、気配をじることができない

曰く、その素は一切不明で、年齢でさえ偽造されているなど。

ほかにもクロハの伝説はあり、その存在そのものを否定する者もいるのだとか。

「では、兄様は【無】の素顔を知っていらっしゃるのですか?」

「ああ、よく知っている。この際だ、なぜ俺が驚いているのか教えてやるよ」

は棺桶の淵に座り、遠い過去を見つめるような目で語り始めた――――――――――

が初めて黑葉とであったのは、が七歳の頃だった。

このころ、は親から勘當され、協力関係でつながっていた朱雀院家の家に保護された。

鈴音はが自主的に家出したと思っているようだが、実質的にあれは勘當して自分たちとのつながりを斷ちたかったのだろう。

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もちろん朱雀院家でもあまりいい顔はされなかった。主に執事やメイドたちが。

だが、は拾ってもらった朱雀院家に対して謝はしていた。故に何か手伝いをしたいと申しれ、その家の警備員として配屬され、仕事を與えてもらえるようになった。

三か月ほどでは朱雀院家になじみ込んでいた。その時にはすでに嫌いするものはほんのわずかになっており、は朱雀院家の次である朱雀院憐奈の護衛を任せられるようになっていた。

護衛の仕事について二か月、はそこで初めて阿賀崎黑葉に出會うことになる。

よ」

現在の朱雀院家の當主、朱雀院一真に呼び止められる。

「お呼びでしょうか」

「うむ。近々、おぬしの許嫁を連れてこようかと思っての」

は不思議そうに首をかしげる。あまり外の世界に興味がなく、ただひたすらに護衛の仕事をこなしているだけに、そういった風習のことも知らない。

もちろんそんなことは重々承知しているようで、一真もに対してやさしく諭すように教えてくれる。

「お前は知らないかもしれないが、優秀な子供には將來のお嫁さんとなる人が決まるのだ」

合っているには合っているのだが、細々として部分では違う。

まあ、相手は子供なのでこの説明でも問題はないのだが。

「旦那様。私に婚約者は必要ありません」

は一真の発言をばっさり切り捨てる。

家族から見放された彼は、例え仕事仲間であったとしても心を開いたりはしない。

朱雀院家や、自分の家族であるはずの三觜島家でも、彼は徹底して自分の心を閉ざしていた。

しかし、そんなことは一真も重々承知の上なのだろう。彼は説得を続ける。

「君が他人に対して距離を置いているの十分理解しているつもりだ。しかしずっと心を閉ざしているだけでは、君の護衛対象である憐奈を守り抜くことはできないだろう」

実際には護衛に従事するだけならば、別に心を閉ざしていようが構わないのだが、一真はそれを良しとしないようだ。

「私が許嫁を得たとして、いったい何のメリットがあるのですか?」

で言うことが子供のそれではない。

普通子供が事に対してメリットとデメリットを気にするだろうか。

一真もこれに対して苦笑している。

「ははは。君。を相手をするということは、紳士としてメリットデメリットを考えないものなのだよ」

一真は話は終わりだというようにその場を後にする。

「許嫁と會うんだから、ちゃんと禮服を著ていくんだよ」

そんな捨て臺詞をのこしながら。

一真との話し合いから一週間後。は待合室にて許嫁である阿賀崎黑葉を待っていた。

なんでも、朱雀家も阿賀崎家もお互いの顔合わせをしたいとのことらしい。

いくらなんでも本人の意思を確認しないで勝手に話を進め過ぎなのではないかとは思うのだが、は一言も文句を言わずに待合室で待機している。

の隣には一真も一緒に座っているのだが、約30分くらい前から無言の狀態である。

やがれ一真の神がマッハで削られていくこと一時間。ついに阿賀崎家の面々が到著した。

「これはこれは遠路はるばるようこそおいでくださいました」

一真は席を立って丁寧に腰を折る。

もつられて禮をする。

「いやいや、僕と一君の仲じゃないか。そこまで畏まった挨拶は不要だよ」

阿賀崎家の當主である阿賀崎雄介朗らかに笑いながら言う。隣に立っているも微笑をたたえている。

し後ろで立っているに目を向ける。

は無表のことを見返している。

背丈はと同じくらい。黒い髪は肩までできれいに切りそろえられ、目元はし垂れ目。

十分なではなかろうか。

「初めまして。君が三觜島君でいいのかな?」

雄介の言葉には靜かに頷く。

「一君からこの子の良い婿候補が見つかったと聞いてね。飛んできたんだよ。それに非常に優秀な子が部下になったって自慢してたから、見に來たんだよ」

雄介の言葉には首をかしげる。

それから、朱雀院家と阿賀崎家は一時間ほど談笑し、後は許嫁同紙に任せたほうがいいということで客室で二人っきりにされた。

はもともとの起伏がほぼないといってもいいくらいになく、同じ年ごとの異と會話はおろか面と向かってあったこともない。

一方、黑葉もあまりを表に出すことを苦手とする人間であるため、たとえ二人っきりにされたとしても話すことがない。

よって、先ほどからずっと沈黙が続き、非常に気まずい空気となっている。

さすがにこの場の空気に耐えかねたのか、黑葉がに向かって口を開く。

「あなたの……名前は……三觜島と……いうの?」

突然の問いかけに首をかしげながらもは頷く。

「なのにあなたは……どうして朱雀院家で……働いて……いるの?」

はその問いにどうこたえるか迷った。

の起伏が恐ろしいほどにないといっても、だって言葉を選びはするし、空気も読む。

故に自分の家庭事を話していいのか迷ったのである。

(まあ、べつにいいか)

も大概である。

「最初に言っておくが、大した話じゃないぞ?」

は先に斷りをれてから、今までのいきさつを話し始めた。

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