《蛆神様》第16話《勝負》
あたしの名前は小島ハツナ。
何かの大會で賞して賞金五萬円をゲットした野球部キャプテンが、調子こいて同級生を買春しようとするのを阻止する高校一年生だ。
「いいよな? 柴田。別に問題ないよな?」
放課後。誰もいない廊下の階段付近で、野球部キャプテンが柴田と渉していた。
キャプテンの手には札束がった白い封筒が握られている。
柴田はすぐには返事をせず、キャプテンの手に握られている封筒を見つめていた。
「前にいってたよな。五萬ならやらせてくれるって。だからいいよな?」
「まぁ……別に」
「ストップストップ! ストップ!」
強引にあたしは二人の間に割ってった。
での事ならともかく、買春は立派な犯罪行為。
いくら柴田がそのへんの覚ぶっ飛んでるとはいえ、形はの子なんだし、止めないとやばい。見て見ぬフリはできない。
「お前、たしかサッカー部の小島か」
「陸上部です!」
もっというならマネージャーだ。
野球部キャプテンはあからさまに嫌な顔をこちらに向けた。
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「は? いいじゃん! ギブアンドテイクで金払うんだし」
「それが良くないんです! てか、柴田ももっと自分を大切にしな! ダメだよ! こんな形で初めてとか」
「いや、初めてじゃねーぞ」
え、そうなの? いつ? どこで?
って、違う違う! そうじゃない。そこじゃない!
「とにかく、そういうことはダメですよ! 絶対にダメ!」
「……なぁ、柴田。小島ってこんなキャラだっけ?」
「さぁ? いつもはもっと靜かなんすけどねー」
冷めた眼差しで二人があたしを見つめてくる。
たしかにそうだ。
いつもはこういう役割はトモミとかミクの擔當だけど、今二人はいないし、あたしがやるしかない。
できることなら、あたしだってやりたくないよ。こんな面倒なこと。
「でもなぁー、小島のいうのも一利あるよなぁ。金もらってヤるってのは味気ねーしなー」
柴田は腕を組んで「そうだなぁ」とつぶやく。
「どうせ先輩。一発出したら終わりだろうし。つか、セックス下手そうだし。こっちにメリットねーし」
さらりと柴田が毒を吐く。
キャプテンが「え?」と柴田に振り向いた。
「先輩ドーテーだろ? 洗ってないち◯こでつっこむつもりでしょ」
さすが元男。遠慮がない。同級のの子がドン引く危険ワードを使うのにまるで躊躇がない。
「正直、になってわかったけど、そういうのが一番萎えるんだよなー。全然こっちは気持ちよくないで終わるし、ぶっちゃけ金もらっても嬉しくないっつーかさ。むしろ金もらうことで更に冷めるっていうか」
「じゃ、じゃー、なんだったらいいんだよ?」
柴田に言われたい放題の野球部キャプテンが半べそ一歩手前の顔面で柴田に訊き返した。
柴田は「だったらこーしよーぜー」といった。
「先輩ピッチャーなんだろ? バッティング三本勝負でどうよ?」
提案を聞いた野球部キャプテンの目が輝いた。
あたしは柴田の腕を摑み、こっちに無理やりたぐり寄せる。
「どういうつもり? あんた」
ひそひそ聲で柴田を問い詰めた。
柴田は「別に」と、肩をすくませて答える。
「あいつ野球部のエースみたいだし? だったらあいつが納得する負け方した方が早くねって思っただけだよ」
「いや、そもそも勝てるの? うちの野球部って結構強いんだよ?」
ニシ先輩から聞いた話だと、野球部キャプテンのストレートは最高一四〇は出ることもあるそうだ。ほとんどプロで通用する球速だ。
「いけるだろ。まー、任せとけ」
「おい、何ぶつぶつ話しこんでる?」
さっきの半べそ一歩手前の顔つきとは打って変わって、自分の得意ジャンルでの勝負となったことで野球部キャプテンの表が生き生きしている。
ぶん毆りてぇ。
本當、腹立つ笑顔だ。こいつ。
「あれすよ。ルールの話し合いしてんたんすよ」
「へぇー、変わったのか?」
「ああ。俺が勝ったらその五萬そっくりもらきますよ。負けたら俺と小島とで3Pでどうすか?」
「乗った!」
は? はぁあああ?
「なに勝手に巻き込んでるのよ!」
「うるせぇなー別にいいだろ。どーせやるならそれぐらいリスク背負わねーと面白くないっしょ」
あたし全然関係ないじゃん!
「嫌なら別に帰っていいぜ。元々おめーは部外者なんだからよ」
冷たく柴田が突き放す。
このまま本當に帰ってやろうかと思った。
けど、ここであたしがいなくなれば二人で何をしでかすかわかったものじゃない。
いろいろ悩んだ結果。
柴田と野球部キャプテンが暴走しない見張り役として、グラウンドについていくことにした。
「ストレートしか投げねーよ」
マウンドに立つ野球部キャプテンが柴田に堂々宣言する。
柴田は金屬バットを構え、バットの先端を柴田に向けた。
「來やがれ。一発でかいの打ってやるよ」
「いいこと教えてやるよ。俺、蛆神様にお願いしたんだ」
「なに?」
驚く柴田に、キャプテンが勝ち誇った笑顔を見せつける。
「《投球で時速一六〇キロをコンロールして出せるように》ってな。だから俺はぶっちゃけ一六〇キロを出すことができる!」
ふっと柴田が鼻で笑った。
「おめー、バカだな。蛆神様は要通りに葉うと限らねぇんだぞ。それに、仮に投げられたとしても一六〇なんてスピードで投げてみろ。肩ぶっ壊すぞ」
「なら証明してやるよ。今回の賞金、この一六〇の肩で手にれたってことをな」
聞いてない新報を聞き、あたしのがざわつく。
やばい。なんか野球部キャプテンの雰囲気がつ自信に満ち溢れている。
噓じゃない。あれは一六〇キロのボールを確実に投げる投球フォームだ。
「いくぜ! 第一球!」
野球部キャプテンがボールを投げようと、上半を捻った。
瞬間。
鈍い衝撃音がグラウンドに響いた。
「は、い?」
柴田の両手には金屬バットが握られてなかった。
見ると、金屬バットは野球部キャプテンの顔面にめり込んでいた。
「うし! 勝った!」
拳を握って柴田は勝利のポーズを決める。
マウントでは、野球部キャプテンが口から泡とを吹いて大の字に倒れていた。
唖然となるあたしをよそに、柴田はあたしにいった。
「五萬ゲットしたけどどうする? 逆ナンでもして遊ぶか?」
あたしは靜かに首を橫に振る。
グラウンドの彼方からカラスの鳴き聲が聞こえた。
終
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