《蛆神様》第23話《反省會》
あたしの名前は小島ハツナ。
陸上部のマネージャーと子サッカー部の補欠部員の掛け持ちをしている高校一年生だ。
今日は子サッカー部の地區大會初戦日。〇対二という慘敗を喫し、子更室が重苦しいチーム反省會が行われた。
「悪いけど、みんなをフォローする気ないから。あたしも含めて」
キーパーで副キャプテンの山岸先輩が部員全員に冷たく告げた。
あたしを含めた一年生たちは怯えた様子で山岸先輩の前に立ち、二年生は目をそらさず真っ直ぐ三年生先輩たちと対峙している。
いつも爽やかな笑顔の三浦先輩も、この時ばかりく厳しい表で部員の前に立っていた。
「今日の結果。これがすべてだから。去年まで全國行けたのも、先輩たちの努力があって行けただけだから。思い上がりだったわけ。わかる? みんな」
全員、黙って山岸先輩を見つめている。
そうかもしれない。あたしも含めてサッカー経験者が多かったし、春の地區大會で圧勝できたりして自信もついていた。
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だけど、上には上がいることを思い知った。
前半戦は勢いでガンガン攻めることができたけど、後半戦からスタミナ切れた先輩たちが続出して、流れが完全に変わってしまった。
PKからのシュートを立て続けに二度もれられたのが痛い。
點數を二點もれられて、守りに徹した相手チームからボールを奪うことがほとんどできず、タイムアップで試合終了。
全然、自分たちのサッカーができなかった。山岸先輩の言う通り、思い上がっていたといわざるを得ないひどい容だった。
「大原。あんた、今日の試合どうだった?」
山岸先輩がトモミに問い詰めた。
トモミの目が泳ぎ、自信なさげに「あたしは……その」とつぶやく。
「は? なに?」
「先輩たちの足引っ張らないように、その」
「足引っ張らないように? は? なにそれ? うちらに遠慮してるっていいたいわけ? そんなんあっても嬉しくないし、あんた、うちらの接待でサッカーしてたわけ?」
「ち、違います」
「違うんだったら遠慮しないでよ。三年とか二年とか関係ないし。先輩ダサいっすよっていうぐらい噛みけって。あたしに詰められたぐらいでブルってんじゃないわよ」
靜かな口調で山岸先輩はトモミを詰めている。
トモミは涙目になりながらも、山岸先輩から目をそらさずに「はい!」と力強く返事する。
「小島! あんたもよ」
げっ。あたしかよ。
頑張って存在を消そうと空気化していたのに。
「あんた。自分が陸部のマネージャーだからって自分には関係ないって思ってない?」
ごめんなさい、先輩。
すごい思ってます。
「たしかに頼んだのはこっちだよ。大原の代理として、経験者のあんたに助っ人やってもらってるよ。だけどね、いくら掛け持ちだからって半端な気持ちでやられるとこっちも困るの」
だったら頼むなよ。
そういいたくてしょうがない。
「あんた悔しくないの? あんなサッカーしかできなくて」
「悔しいです」
ウソ。悔しくない。
だってベスト盡くしたし、こっちも。
けど、間違っても、この場で悔しくないといえない。
うっかり本音をらせば、もれなくをみることになる。
「じゃーどうすんの? 今のままで勝てるの?」
「頑張ります」
「どう頑張るの? 悪いけど、神論なんか聞いてないの。的にどうするかって聞いてるの」
これは……まずい流れだ。
きっと山岸先輩はあたしにこういわせたいんだ。
「陸上部マネージャーを辭めて、サッカー部に集中します」
って。
なんかどさくさに紛れてメンバーの確保とか反則だ。こっちの納得がいかない。
とにかく、それだけは回避しないと。
「あ、朝練に參加します」
「朝練? それだけ?」
山岸先輩が三浦先輩に振り向く。
三浦先輩が「小島」といった。
「山岸が大原にいったことあんたにもいうよ。あたしらに遠慮されても困るの。あんたの本気度はその程度なの?」
容赦なく三浦先輩があたしを追い詰める。
三浦先輩。マジ勘弁して。
そりゃ、サッカー一筋の先輩たちからすれば、あたしみたいな掛け持ちは半端者にじるのは仕方のないことだ。
だけど、今回の試合の敗因はあたしだけじゃない。チーム競技なんだし、それぞれ反省するところはあるはず。
っていう正論を今あたしがこの場で吐いてしまえば、もれなくサッカー部全員を敵に回す事態になること必至だ。
これだから育會系の上下関係システムは嫌になる。
本當、あたしのバカ。
こうなることが予想できなかったわけじゃないのに、つい軽い気持ちで助っ人部員をけてしまった過去の自分を恨みたくなる。
しょうがない。
いうしかのいか。あれを。
「ねぇ、どうするの? 小島」
「ダセェすよ先輩」
「は?」
「この地區大會。先輩のいうように練習量が足りなかったと思います。そして先輩たちに遠慮してました。負けた原因、先輩にあると思います」
更室が騒然となった。
「なにがいいたいのあんた」
「こんな狹い部屋で暗い反省會やったって次勝てるわけないですよ。正直、ガッカリです。先輩たちには失しました」
「ハ、ハツナ? ちょっとあんた……」
震えた聲でトモミがあたしを止めようとする。
あたしはトモミを振り切り、山岸先輩の前に立った。
「へー、いうじゃない小島。そんだけでかい口叩いて、どうするつもり?」
腕を組んで山岸先輩があたしを見つめる。
あたしは生唾を飲み込む。
「次の全國予選。うちら一年で勝ってみせます。先輩たちは引っ込んでてください」
「……撤回するなら今だよ」
「こんなところで凹んでいるあたしらじゃないんで」
「やれんの?」
「やります!」
「やれんの!?」
「やりますッ!」
腹の底からあたしは聲を出した。
山岸先輩は満面の笑みを浮かべた。
「おーし、気にった。あんたたち! 聞いたな! 小島が気合れるってさ! 二年! 一年がこんな気合れるっつーのに黙ってるだけか?」
「やります!」
「一年にかっこつけさせません!」
「二年の意地見せてやりますよ!」
更室が暗い反省會ムードから一気に闘志溢れる熱気ムードに切り替わった。
うちのサッカー部の伝統だ。
先輩が後輩を煽ることで、メンタル部分を躍起にさせる。ある意味お約束的なところもあって、今回は生意気な一年生の役割をやるのがあたしになったということだ。
チームの空気が良い方向に流れたのはいいことだと思う。
でも、いいたい。
その役割、あたしじゃなくてもよくね?
ついでに陸上部も辭める流れになっているし、正直、釈然としない。ぶっちゃけハメられた気がするのはあたしだけだろうか。
「よし! 次の全國予選に向けて【生首リフティング】を一〇〇回追加!」
山岸先輩が宣言する。
ぴたっとメンバーのが止まった。
更室の端に置いてある布が被った網かご。
三浦先輩が布をめくると、網かごいっぱいに詰まったおじさんの生首がにやぁっと不気味に笑っ。
「やるんだったら徹底的だ! みせてみなあんたたち!」
メンバー全員があたしに視線を送る。
あたしは顔を伏せ、すごすごと後退った。
やっぱりハメられた。
そうじて仕方がなかった。
終
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