あたしの名前は小島ハツナ。

Web畫はバラエティよりスポーツ実況を観ることが多い高校一年生だ。

とくに興味が湧かないのが、ユアチューバーっていわれる自稱畫クリエーターがつくる自主制作畫。

たまにユアチューブを観ていると、オススメ広告で自再生されたりとかして、毎回その度にテンションを下げさせられる。はっきりいってあたしは大嫌いだ。

「俺、ユアチューバーになる！」

兄貴のアキヒロが、なぜかあたしの部屋で宣言した。

どうぞ。

ご勝手に。

それで縁切らせてもらうから、それじゃ。

「俺本気だよ？」

「は？　だからなに？　つか、邪魔だから部屋から出てって」

「つめてー！　ちょーつめてー！　ちょっとはかまってくれてもいいじゃん！」

うざ。

このうざさは、間違いなくおじいちゃん譲りだわ。

「今就活してるんでしょ？　なんで収が不安なユアチューバーになりたがるの？」

「現実逃避」

部屋に戻れやアホ。

「真面目に聞こうとしたあたしがバカだった」

「おいおい、マジでけとるなよ。ユアチューバーは結構ガチだぜ？」

なおさら呆れるわ。

「いや、聞けって。ユアチューブの一回の畫再生で広告費ってどれくらい稼げるか知ってるか？」

「知ってる。1.2円だっけ？」

この前、ニュースでユアチューバー特集が組まれていたのを観ていた。

1.2円ということは、一萬回再生されても単純計算で一萬二千円の稼ぎ。しかもそれは売れっ子のユアチューバーだったらの前提條件であって、出たての素人ユアチューバーならよくてせいぜい數百回程度の再生回數しか稼ぐことができない。

それが現実だ。

ユアチューブで功するのは、プロサッカー選手になるよりもはるかに難しいことだ。それをわかっているのかこのバカ兄貴は。

「そりゃ普通にやったって再生回數なんてびやしないさ。けどな、うちの隣町にすげぇー便利な奴がいるだろ？」

そこまでアキヒロがいった後、あたしは頭を抱えた。

「アキ。あんたまさか【蛆神様】使うとかいわないよね？」

「お、鋭いな」

でたよ。

こういうバカなこと考えるやつ、いつか出ると想像していた。

まさか、自分の兄貴だったなんて。

「あのさ。自分が何言ってるのかわかってる？　うまくいくわけないよ」

「そう思うだろ？　俺も最初そう思った。けど、うちの大學の先輩がすげー畫期的な方法を思いついたんだ。これなら間違いねーよ」

アキヒロはベッドに座るあたしの隣に座ると、手に持っていたスマホ畫面をあたしに見せてきた。

「って、あんたまだ風呂ってないでしょ！　ジーンズであたしのベッド座んなきでよ！」

「うるせぇなぁー、いいからこれ見ろよ」

アキヒロのスマホ畫面には、大學生らしき男子がはしゃぎながら炭酸りジュースを一気飲みしている畫が再生されていた。

よくあるユアチューバーの畫だ。

これがどうした。

「再生回數見てみな」

畫の再生バー下にあった再生回數カウンターに視線をかす。

一一三、一一四、一一五、一三六、二八九。

カウンターがリアルタイムに數が増えていっている。

「これって」

「先輩が撮影してアップした畫だ。ちなみに蛆神様にお願いしたのは《アップロードした畫一つにつき、一〇萬回以上再生されますように》って」

「一〇萬回以上？」

「そうだ。そこがミソなんだよ。たとえば、百萬回と一千萬回とかいったら、アーティストとかそういう有名人とかじゃない限り、運営側から不正をしていると疑われて消される可能があるんだ」

「素人でもいるじゃない」

「ごくまれにな。でも、そういうのが毎日一千萬回以上の再生回數の畫を投稿したらおかしくないか？　いっちゃーあれだが、大して面白くないこんな畫が毎回一千萬回以上だと不自然すぎるだろ」

そりゃ、まぁそうか。

「仕事にする以上、定期収っているじゃん。百億回再生させてハイ終わりじょ、それだけの収しかってこない。かといって張って百億回の再生回數の畫をばんばんアップすれば、運営側から怪しまれてアカウントごと凍結させられる危険もある」

「つまり、目立たず定期的に畫収を得るために、あえて十萬回以上？」

「そういうことだ。この十萬回以上っていうのがなかなかいいみたいでさ、ほとんどの確率で『端數』がるみたいなんだ。十萬飛んで六〇回とか、調子いい時は十四萬回とか」

なるほど。

それが蛆神様を使った不正のカモフラージュになるということか。

へぇ。

あまり褒められたことじゃないのはわかっているけど、ちょっと心する。

「先輩、それで月四十萬以上稼いでるんだって。一人暮らしの男にしてはそこそこ稼いでるだろ？　俺もそれいいなーって思ってさ」

「お兄ちゃん」

あたしはお兄ちゃんをじっと見つめた。

「おじいちゃん。蛆神様好きじゃなかったの覚えてる？」

お兄ちゃんはしばらく黙った。

にかっと笑い、ベッドから立ち上がった。

「悪りぃ。今の忘れてくれ。就活で疲れてたんだわ」

アキヒロはあたしに背を向けて、「風呂行ってくるわ」といって、部屋を出ていった。

それから數日後。

スーツ姿で帰ってきたアキヒロが、あたしにお菓子を渡してくれた。

「なにこれ？」

「定一個決まったから、謝のプレゼント」

「あ、ありがとう」

ダイニングの椅子にどかっと座るアキヒロは、ネクタイを緩めながら「つかれたぁー」っとぼやいた。

「テレビつけるぞ」

リモコンのスイッチを押し、アキヒロはニュース番組にチャンネルを変えた。

「次のニュースです。C県在住の無職男が外國人を殺害した事件が起こりました」

アナウンサーが原稿を読む畫面右上に、警察に連行される青年の姿がワイブで映っている。

「男はユアチューバーと稱し、畫投稿サイトにアップロードした自主制作畫の再生回數を増やすという目的で、観に訪れた中國籍の、王玲さん(23歳)を拉致し、ナイフで殺害したと供述しています。警察は詳しい……」

テレビ畫面がバラエティ番組に切り変わった。

「ハツナ。昨日録畫した広島戦観ないか？」

「え？　あ、うん」

あたしはアキヒロからリモコンをけ取ると、昨日録畫したサッカーの試合を再生させた。

その後、アキヒロがユアチューバーになりたいということはなくなった。

アキヒロの先輩がアップロードした畫は、運営側によって殘らず消されていた。

終