あたしの名前は小島ハツナ。

ショッピングついでに隣町にある水族館に友達と遊びにきた高校一年生だ。

「みなさーん！　こんにちわー！」

水族館のパフォーマンススタジアム。

インカムをつけた司會のお姉さんが、両手を口にかざして観客たちに大きな聲で挨拶をする。

座席の観客たちは「こんにちわー！」と、元気よく挨拶を返した。

「今日は宇地シーパラダイス、トドショーに來ていただきありがとうございます！　それではさっそく當館きっての人気者！　トドの『カンチョーくん』に出てもらいましょー！　カンチョーくーん！　おーい！」

司會のお姉さんが何かを呼んだ。

パフォーマンススタジアムのプールから、得の知れない鳴き聲が聞こえた。

じゃない。

人間の聲。

それも、男の人のき聲だ。

過したプールの水をよく見ると、まるっこい何かの生きが泳いでいるのがわかる。

おっさんだ。

それも、素っのおっさんだ。

五、六人ののおっさんたちが、魚の群れのようにプールの周りを優雅に泳いでいる。

「あれあれ？　カンチョーくん出てこないぞ？　あー！　きっとみんなの聲がカンチョーくんに屆いてないからだ！」

司會のお姉さんが、首から下げたホイッスルを咥え、笛を鳴らした。

「さぁ、もう一度！　せーの！」

観客たちが一斉に「カンチョーくーん！」と呼んだ。

「あうあうあう」

プールからのおっさんたちが上がってきた。

水に濡れたのおっさんたちは、芋蟲のようにをよじらせ、司會のお姉さんの足元に寄っていく。

「おー！　カンチョーくんは恥ずかしがり屋だねー！　お友達も一緒に來てくれたねー」

司會のお姉さんはバケツを手に持つと、のおっさんたちに向けて生魚を放り投げた。

おっさんたちは投げられた生魚を用に口でキャッチし、むしゃむしゃとむさぼり食っている。

「はーい！　ここでみなさんにクイズです！　この中で、本のカンチョーくんはどれでしょー？」

座席の観客たちが、それぞれ「右！　一番右！」「真ん中！」「手前手前！」と答えを當てようとする。

「はーい！　正解はこの子でーす！」

お姉さんが指差したのは、群れの中で一番な年老いたおっさんだった。

「カンチョーくんはこう見えても立派なトドです！　見た目はおじさんに見えますけど、お姉さんが【蛆神様】にお願いして《見た目をおじさん》にしてもらったの！」

カンチョーくんと呼ばれたの老人が、「あうあうあう！」と鳴き聲を上げた。

「みなさーん！　カンチョーくん可いですよねー！　可いと思ったら、可いー！っていってくださいね！　さーん、はいっ！」

観客席から「可いー！」と、賛同コールが響く。

司會のお姉さんは満面の笑顔を浮かべた。

「だよねー！　可いよねー！　みんなわかってるー！　じゃーさっそくショーを始めちゃいまーす！」

ホイッスルが鳴った。

水しぶきを上げて、のおっさんたちが続々とプールに飛び込んでいく。

観客席から拍手が送られる。

「あ、悪趣味ぃ」

トモミが顔を歪ませ、ドン引いていた。

うーん。

そうかな。

あたしは結構アリかも。

そう思った。

終