《蛆神様》第48話《呪い》-其ノ四-

私の名前は刑部ぎょうぶマチコ。

都心で探偵業を営んでいる二六歳の獨だ。

私の生家である刑部家は、『クチヨセ』を生業とする一族である。

クチヨセ。

いわゆる降霊だ。

死んだ人間の魂を現世に呼び戻し、自に憑依させるアレのこと。一時期テレビとかで取り沙汰された茶番である。

映畫や小説などフィクションの世界ではかなり気を遣って降霊のシーンを大袈裟に演出していたりするが、現実はもっと地味だ。

というより。

実際のクチヨセは、世間でイメージされる降霊なんかではない。

どちらかというと。

カウンセリング。

民間の心療科とやっていることに大差はない。

病気で亡くなった母親。

事故で亡くなった旦那。

する人。

もう一度會って話がしたい。

そんな彼らの願いを葉えるように、自分のに亡くなった想い人の魂を憑依させるパフォーマンスを行う。

それが刑部家のクチヨセである。

茶番には変わりない。

善良な人たちの心を弄ぶ、詐欺だペテンだと罵られ、死者に対する冒涜だとこき下ろされることもしばしば。

そうかもしれない。

否定はしない。

しかし。

「最後にあの人と會うことができてよかった」

そういってくれる人もいる。

たとえ本の降霊じゃなくとも、意義がないと決めつけるのは早計だ。

それに。

テレビの馬鹿なタレントたちの前で織田信長とか坂本龍馬を降霊するシャーマンもどきよりかは、まだマシだと私は思う。

私にクチヨセを教えてくれたのは、祖母だった。

祖母曰く、刑部のクチヨセは、いうなれば高度な演技力を求められる『モノマネ』であると。

聲帯模寫。

パントマイム。

その中でもとくに重要なのが、『調査力』だと祖母はいった。

亡くなった人間の経歴や人柄など、徹底的に調べ上げる。

そして調べ上げた故人の報をすべてを頭の中に叩き込み、自を使って故人を再現する。

そうすることで。

死者を降霊することができる。

実際、あの世から本當に魂を呼ぶことができるわけではない。

「死んだ人はな、この世におらんから死んだ人なんじゃよ。ほんまに蘇ったらこわいじゃろう」

祖母はいつも笑って私にいった。

私は祖母からクチヨセの技を引き継いだ後、都心の大學に進學した。

そして。

クチヨセのを転用し、探偵業を興すことになった。

故人の人格を調べることと、浮気の現場撮影や元不明となった家族を探すことはそう難しいことではない。

大儲けするほどの繁盛はなくとも、生活する分には困らないほどの収は得ることはできている。

探偵業を始めてから四年経った。

そんなある日のことだ。

事務所に電話が一本かかった。

「はい。刑部探偵事務所です」

「もしもし」

聞き覚えのない老婆の聲だ。

聲の印象から、年齢はおそらく八〇歳を超えていると思われる。

「ご相談したいことがあります」

「ええ。なんでしょうか?」

「町に棲んでいる『神様』について、調べてほしいのです」

浮気調査でも素行調査でもない。

この老婆は神様を調べてほしいといった。

なんだか嫌な予がする。

「【蛆神様】をご存知でしょうか?」

うじがみさま?

神道における集落を守る神様のことか。

「いえ、その『氏神』ではなく、蛆蟲の『蛆』と書いての蛆神様です」

「あの……失禮ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

私が訊ねると、老婆はいった。

「小島ハツナといいます」

ハツナと名乗った老婆は、それから依頼について私に話してくれた。

続く

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