《蛆神様》第66話《隠神様》-01-
あたしの名前は小島ハツナ。
電車に轢かれて満創痍な狀態になりながらも、無敵のコイ人を倒すことができた高校一年生だ。
最前列車両。
運転席を隔てる仕切り壁を背に立つトモミは、怯えた表であたしを見つめる。
もうトモミが『コイ人』を呼び出すことはない。
仮に呼んでも。
あたしには通用しない。
コイ人。
トモミの願いであるコイ人を創ったのは【蛆神様】だ。
願った本人はトモミだけど。
葉えたのは【蛆神様】だ。
その【蛆神様】があたしの味方になっている。
発注者が違っても製造元が同じなら。
コントロールすることはそう難しくない。
それを、トモミの目の前で証明してみせた。
「妙なことは考えないでよ」
あたしはトモミに牽制をかける。
「今、マチコさんに『コイ人』を送れば、ただじゃ済まさない。わかるよね?」
こっちは足やら手やら折られて、おまけに目を二回潰されたんだ。
二、三発顔面グーパンチをしても、文句をいわれる筋合いはない。
っていうか、マジで痛いんだよ。
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一回やってやろうか?
そうトモミにいってやりたい。
「う、ううう」
トモミはヘビに睨まれたカエルのごとく、ガタガタとを震わせ、その場に立ち盡くしている。そんな様子だった。
トモミにもう戦意はない。
追い込まれたことに対する恐怖だけが彼を支配してる。
とりあえず。
あたしがやることは二つだ。
ひとつは。
一発ぶん毆る。
殺さない代わりに、トモミの鼻に思いっきりあたしの拳骨めり込ませてやる。
それぐらいはやっていいと思う。
ふたつめは。
黒幕についてトモミに尋問する。
誰が何をトモミに吹き込んだのか。
なぜマチコを狙ったのか。
何もかもだ。
すべてトモミから聞き出すつもりだ。
「うううう……うじ……がみさま……」
ぼそりとトモミがつぶやいた。
なに?
今なんて言ったの?
「蛆神様……お許しください……」
トモミの両眼が潤んだ。
瞬間。
まるで崩壊したダムのように、涙がどばどば流れ始める。
「ううううう……お許しください……」
両膝を床につき、トモミは合掌をしながら深々と頭を下げた。
え?
まさか。
これって。
命乞い。とかいうやつ?
マンガの悪役が正義のヒーローに対してやったりするシーンを見たことあったけど。
まさか親友がそれをするなんて。
思いもしなかった。
というか、どうしよう。
なんか困る。戸いしかないぞこれ。
「うじがみさまぁあああ」
どこからか聲が聞こえた。
はっと、あたしは気づいた。
車両にいる人たち。
みんなあたしをじぃっと見つめている。
「蛆神様……」
「蛆神様よ」
「おお、蛆神様だ」
「蛆神様だわ」
「ありがたやありがたや……うじがみさまうじがみさまうじがみさまうじがみさまうじがみさま」
車両の人たちが、あたしに向けて合掌していた。
まるで仏様を拝むように、みんな口々と「ありがたやありがたや」とつぶやいている。
「蛆神様ぁあああああああ」
戸うあたしに、中年のおばさんがあたしの手を握り、自分の頬にり當てはじめた。
「ダイエットをしても全く痩せられません! 重を二〇キロ以上減らしてくださいッッッ」
中年のおばさんが頬をり當てるところから、あたしの手の甲をべろべろ舐めはじめた。
「うわ!」
反的にあたしは手を引いた。
すると。
「蛆神様ぁ! パチンコで遊べる金がほしい!」
「模試で一位になりたい!」
「ブランドのバックがほしい!」
「あたしのことをちやほやしてくれるいい男をつくってぇえええ!」
「いいとセックスしたい!」
「むかつく姑を殺して!」
「一生遊んで暮らせる金がほしい!」
四方八方から、あらゆる種類の《願いごと》があたしに告げられてくる。
そこにいる人みんなが。
あたしを取り囲もうとする。
取り囲んで。
あたしにろうと手をばしたくる。
「いや、やめて! こないで!」
あたしは近づいてくる人たち全員の手を払い、車両から飛び出した。
が。
ホームにいる人たちみんなが。
あたしを見つめ、にたにたと不気味な笑みを浮かべる。
「蛆神様ぁあああ」
「蛆神様だぁああああ」
そこにいる人たち全員が、まるでゾンビになったかのように、あたしに向かって歩み寄ってくる。
みんな、目が座っている。
まともじゃない。
やばい。
この狀況どう考えても危なすぎる。
「ハツナ!!」
車のクラクションが激しく鳴った。
見ると、線路の踏切あたりで車に乗ったマチコがあたしに手を振っているのがわかった。
「マチコさん!」
「早く! 走ってきて!」
あたしは線路に降り、全速力で走った。
後ろから人が追いかけてくる。
何人も。
何十人も。
「まってぇええええ! 蛆神様ぁああああ」
「《願いごと》を葉えてくれぇえええ」
ダメだ。
さっき全速力で走ったから、力がもたない。
マチコの車に著く前に、つかまってしまう。
そう思った。
剎那。
あたしの頭上高く、放線を描いて金屬のかたまりが飛來しているのが見えた。
空き缶のように見えた金屬のかたまり。
金屬のかたまりはあたしのずっとうしろあたりに落下し、中から黃い煙をもうもうと吐きだした。
煙幕球?
いや。
きっとあれだ。
暴用に警察隊とかが使うあれだ。
催涙弾だ。
「ごほっごほっ!」
煙に取り込まれた人たちは、激しくむせかえり足が止まった。
いまのうちよ。
マチコの合図で、あたしは車に乗り込むことに功した。
「ハツナ!」
後部シートには、お母さんが座っていた。
あたしはお母さんの顔を一瞬見て、ハグをした。
よかった。
無事で本當によかった。
安心したせいか、目頭が熱くなってきた。
「の再會をしたいのはわかるけど、狀況が変わったわよ」
マチコはエンジンのキーを回しながら、ルームミラー越しに映るあたしたちに視線を向けた。
「あの、マチコさん。何が起こったのですか?」
「ちょっと説明が面倒だから今ははしょるけど、ざっくりと要件だけいうわよ」
マチコがこちらに振り向き、あたしを見つめた。
「ハツナ。この町から逃げなさい。今すぐに」
「え?」
戸うあたしがなにか聞こうとすると、マチコは答えようとせず、ギアチェンジをして車を発進させた。
その日は。
セミの鳴き聲が聞こえなくなってきた。
日差しの強い殘暑の秋になる気配をどことなくあたしはじ取った。
続く
人類最後の発明品は超知能AGIでした
「世界最初の超知能マシンが、人類最後の発明品になるだろう。ただしそのマシンは従順で、自らの制御方法を我々に教えてくれるものでなければならない」アーヴィング・J・グッド(1965年) 日本有數のとある大企業に、人工知能(AI)システムを開発する研究所があった。 ここの研究員たちには、ある重要な任務が課せられていた。 それは「人類を凌駕する汎用人工知能(AGI)を作る」こと。 進化したAIは人類にとって救世主となるのか、破壊神となるのか。 その答えは、まだ誰にもわからない。 ※本作品はアイザック・アシモフによる「ロボット工學ハンドブック」第56版『われはロボット(I, Robot )』內の、「人間への安全性、命令への服従、自己防衛」を目的とする3つの原則「ロボット工學三原則」を引用しています。 ※『暗殺一家のギフテッド』スピンオフ作品です。単體でも読めますが、ラストが物足りないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。 本作品のあとの世界を描いたものが本編です。ローファンタジージャンルで、SFに加え、魔法世界が出てきます。 ※この作品は、ノベプラにもほとんど同じ內容で投稿しています。
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