《蛆神様》第68話《隠神様》-03-

アタシの名前は椎名ミヅキ。

S地方隠神村という山と川しかないスーパーど田舎に住んでいるごく普通な高校一年生だ。

通學時間は片道三時間。

山越えをして辿り著くのは、隣村で唯一ある村立高校だ。

本屋がない。

カラオケもない。

映畫館もなければ、ショッピングができる店もない。

あるとすれば。

村役場と郵便局、それと山。

のどかでいい場所だって、観客が賛辭することがあるけど。

アタシからすれば。

何もない退屈なところだとしかじられない。

そんな退屈な田舎の學校に。

今日。

転校生がやってきた。

「小島ハツナです。よろしくお願いします」

黒板に名前を書いた転校生、小島ハツナがアタシたちに挨拶した。

背の高い、すらっとしたつきのキレイなの子だ。

なんでも両親の仕事が一年間の海外勤務に決まったらしく、一年間限定で転校してきたそうだ。

今は母方の祖父母が住んでいる刑部さんの家にお世話になっていると先生が説明してくれた。

「おお、転校生だ」

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「すんげぇ、可い」

転校生を前にクラスメイトたちのテンションが上がっている。

わぁ、都會のの子だ。

田舎のもっさいイモのようなにはないアカ抜けた雰囲気というか、すごいキラキラしていて、なんだか圧倒されてしまう。

そうアタシは思った。

「おい、椎名。そこ空いてるよな?」

先生がアタシを指差して訊ねてきた。

うわ!

アタシの近くに座るん?

マジで?

やば。

どないしよ。

都會のキレイな転校生が近くに座るなんて。

何話そう。

仲良くできるかな。

「先生! ウチの隣空いてますよ?」

アタシの斜め前に座る子、若菜チヒロが手を上げていった。

チヒロがちらっとこっちを見る。

いいよな。

そう目で合図してくる。

「そうか。じゃ、若菜のところで」

ハツナがチヒロの隣の席に座った。

「よろしく! あたし若菜チヒロ!」

「あ、よろしく」

チヒロはハツナの席に自分の席をくっつけて「教科書見せたげるね!」と積極的にハツナと絡んでいた。

アタシはその様子を後ろから眺める。

ああ。

だよね。

こうなるよね。

ちょっと期待したけど、結局こうなるよね。

「小島さん! お晝一緒食べへん?」

晝休み。

ハツナの席の周りにチヒロと、その腰巾著の子たちがぞろぞろ群がっていた。

なんか、今日は教室で食べると辛くなるだけだから、外で食べようかな。

そう考えたアタシは、弁當箱と水筒を抱えて席を立った。

「椎名さん」

ハツナが聲をかけた。

一瞬、アタシのことだと気づかず、反応できなかった。

「お晝みんなで食べるんだけど、一緒に來ない?」

アタシはそれを言われて固まった。

「え、アタシ?」

ふわっと気持ちが浮き足立つ。

やった!

思わずガッツポーズ取りたくなった。

が。

白い目でアタシを見つめるチヒロや子たちの視線にすぐに気づき、すぐに冷靜になった。

「あ、アタシはええよ。約束があるから」

「そうなの?」

つぶらで大きなハツナの眼が、アタシをじっと見つめてくる。

できるなら。

一緒にお弁當を食べたい。

ハツナ自のことも聞きたいのはもちろん、都會で何が流行っているのかとか、彼氏がいるのかとかとか、おしゃべりしたいことは山積みだ。

だけど。

アタシにはできない。

きっとチヒロが許してくれないと思う。

「どうせ約束なんてないんやろ。來れば?」

不機嫌な表でチヒロはいった。

え、ええの?

アタシ行ってええの?

「じゃ、行こっか。椎名さん」

ハツナがアタシにそういった。

嬉しさ半分、辛さ半分。

ハツナと一緒の空間にはいられるけど、それと同時にアタシの発言権はなくなったことが決定した。

「へぇ! サッカーしてたんや」

中庭。

二つあるベンチにハツナとチヒロ。それにチヒロの取り巻き三人が座ってお弁當を食べている。

アタシは中庭の池の石垣に腰掛け、みなから離れたとこらでお弁當を食べていた。

「すごいなぁ! サッカーって男がやるスポーツ思ってたけど、都會やとの子みんなやってるん?」

「いや、そんなことないよ? てか、こっちにも子サッカー部とかないの?」

「ないない! 部活なんてみんなやらへんよ! やってたら家帰れなくなるから!」

きゃはははは!

チヒロが大笑した。

腰巾著たちもチヒロに合わせるように、手を叩いて笑っている。

ハツナは笑いどころがわからないといった様子で、苦笑いをして戸っている様子だった。

「若菜さんって、椎名さんと結構付き合い長いの?」

ビクッと肩が跳ね上がった。

箸を咥えたまま、おそるおそるチヒロの顔をアタシは覗いた。

さっきまでの笑顔が消え、骨に冷めた表となる。

「まぁ、せやな」

馴染とか?」

「そうかもね」

つっけんどんな態度のチヒロに、ハツナがアタシや腰巾著の子たちの顔を見て確かめる。

心臓の音がばくばくと聞こえる。

食べていたご飯の味が、一気に不味くじるようになった。

「ああ、そういうことね」

ハツナがつぶやいた。

転校初日からクラスの人間関係がどうなってるかなんてわからないし、ましてやアタシがチヒロからイジメられてるなんてもっと知らないことなのはわかる。

わかるけど。

しは空気察してほしいと思った。

あきらかに、アタシに対する扱いが全然違う。

ハツナって都會出だからそういう機微には鋭いのかなって思ったけど、案外抜けてるのやろうか。

にしても。

この気まずさ、どうするつもりなんやろうか。ハツナは。

「イジメてるんだね。椎名さんを」

の鳥が立った。

めちゃくちゃストレートな発言。

チヒロは口元をひくつかせ、「こいつ」と一言小さな聲で悪態を吐くと、すぐに笑顔を作った。

「誤解やって! そんなことないで? ウチと椎名はめっちゃくちゃ仲良いで!」

「ふーん」

ハツナはつぶやくようにいった。

「くくくく」

急にハツナが噴き出した。

「え、何がおもろいん?」

「ウケる! めちゃくちゃマジになってるじゃん!」

足をバタバタさせてハツナが笑する。

笑っているハツナを橫に、チヒロも合わせて笑った。

「なーんや! 冗談か」

「當たり前じゃん! そんな面と向かっていうなんて頭おかしい奴だよ!」

「そやそや! たしかに!」

ハツナとチヒロの笑い聲が中庭に響いた。

こんなに生きてる心地のしないお晝を今までアタシは食べたことがない。

翌日。

チヒロはハツナをお弁當にわなくなった。

続く

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