《死んだ悪魔一家の日常》第二話 黒華の食事
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん」
「はいはい、何だ妹」
朝。
リビングでくつろいでいた俺の元に妹がやって來た。
…自分の首を抱えて。
「なんだよお前また首取れたのかー」
「……。ベランダを飛び越えて庭に落ちてたんだけどさ」
「へー、お前究極お馬鹿だったのか。ベランダって…」
黒華はじーっとこちらを見つめたあと、俺の頭を鷲摑みにした。
…。ヤバイな、殺意をじる。
「とぼけんなよ、私の首が何であんなところまで飛んでたの?昨日ったい目までブチ切れてさ。私の首が泥だらけなんだが…」
「お前の寢相が問題なんじゃねーの?……ていうか頭痛くなってきたからそろそろ放してください」
妹に摑まれた頭がギリギリと悲鳴を上げている。
──説明しよう。
俺は寢坊すけバカ妹と違い、早寢早起きができる優等生のため、まず早朝に寢ている妹の部屋に忍び込んだ。
そして、起こさないように昨日塗っておいたい目に糸切りバサミを通し、完全に取れた妹の首をベランダから放り投げ、事前に取っておいた泥を上からぶっかけたのである。
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「俺は、何も悪くない」
そしてすぐさま立ち上がり、妹を指差した。
「お前は妹である自覚はあるか!俺は兄だ!紛れもない、お前の兄だっ!今までの貴様の態度は兄である俺の立場を汚した!」
威勢の良い兄。それに怖気づく妹はこちらを睨みつけ、構えている。
ふん、首の取れたその不自由なで何ができる。
すっ転んでバッドエンドだっ!
「貴様を屈辱の彼方へ叩き落とし、二度とそんな口を聞けないようにしてや──」
「どおりゃぁあー!!」
「おわぁぁああ??!!」
妹は自分の首を俺の顔面に投げつけてきた。
額から煙を立てながら俺は倒れた。
妹は床に転がった自分の首を再び拾うと俺の元へ歩み寄り、
「おっふっ…!」
俺の落ちに向かって叩きつけた。
朦朧とする意識の中、勝ち誇った表の首を抱えた、妹が俺を見下ろしているのを見た─。
「まったく、朝から兄妹喧嘩はやめてってば」
母さんに首をい直してもらいながら妹はぶすくれた。
「だってお兄ちゃんが私の首を─!」
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「どっちもどっち。仲良くしないとだめよ」
妹の首をって包帯を巻きながら母さんはため息をつく。
「母さん、俺は不登校の妹へ救いの手を差しべただけなのに…。反抗期だよ!これ!」
黒華はギロリと俺を睨む。
「私、誰かさんみたいに優等生ぶるの嫌いだし人間の真似事なんてしたくない!」
俺は怯まず睨み返す。
このアマ。いつか痛い目見させてやる。
「…。そもそも夕飯前に作戦を実行したのが駄目だったよね」
クラスメイトの音子は殘念な表で肩を落とす。
友達との楽しげな會話やチャイム。教師。
これらの全ては人間が作った環境であるがどうやら妹はこの雰囲気に反吐が出るらしい。
「まったく、昔はお兄ちゃんお兄ちゃんって駆け寄ってきて生きの死をくれたのにな…」
「人は長すると変わるんだよ。特にの子は難しいんだから」
音子は本を取り出した。
かと思えば何故か相談中に読み始める自由人。
「……いや、急に読む?」
「にゃ?読みたくなったから読むんだよ?」
いやガチの自由人。
何だコイツ。
「何の本?」
音子は無表で淡々と述べる。
「笑いや楽しさもあるけどその分、後先悲しくなる殘酷語」
「お前、この前はどんなの読んでたっけ?」
「全員即死の殘酷語」
「あ、前より良いね」
そんなことより、人の不幸で暇を持て余す悪である宮未音子。
その趣味でさえも黒に染まっているのである。
と、チャイムが鳴り席につき始める。
「うわー、授業始まる。憂鬱だわ、寢るわ」
舌打ちをして本を閉じる音子。
「お前また寢るのか?怒られるぞー」
「怒ってる先生の顔を隠し撮りしてラクガキするんだー」
「お前今までそんなことしてたの!?」
教室のドアが開き、擔任がってくる。
またねーん、と音子も著席。
學校嫌い、というより人間嫌いな黒華。作戦を実行したのが夕飯前だったのがいけなかったらしい。
ならば、休日だ。
俺は気を引き締め、次なる行を考えた。
休日。
「黒華!」
部屋を開けたが誰もいない。
あの引きこもりは一どこに行きやがった?
「…。何の匂いだ」
その異様な匂いに首を傾げる。その匂いは機の上に置かれたバケツから放たれていた。
「この匂い…。嗅いだことあるぞ」
そう、毎日毎日嗅ぎ続けたとんでもないもの。
「─母さんの飯だっ!」
すぐさまバケツを摑んで中を覗く。
ほーらやっぱり生ってるよ。これが何の生きかはさておき。
「この家が山奧で良かった…」
よくテレビで見かける。
『この家からフラン臭がしたんですぅ』
とか言ってたがいたが。
実際この匂いが充満している延元家は客など呼べない。
いつも出かけるときは消臭剤をかけなければ落ち著かない。
いや、前向きに考えろ。『消臭剤』=『臭いものを全滅』とか思うからこんなネガティブになるんだ。
──消臭剤は香水だ!オシャレだ!
「そう、よく考えろ。延元家は普通の家族だ」
生料理を披する頭おかしい母親とか、この慘狀の中で平然と過ごす父親とか、すぐ人を殺そうとするもはや救いようのない妹とか、地下に巣くう謎の巨大番犬(二頭)とか!
そんなもの、よーくよーく考えれば普通の……普通の一家だ!
何も心配いらん!
ならこのバケツの中の謎のは何かって?
──これはミンチだっ!
「母さんがハンバーグ作るように持ってきたミンチを誤って臺所ではなく妹の部屋に持ってきたんだ!もー、母さんったらうっかりさん…」
「何してんの」
「ぎゃあぁっ!」
振り返れば妹の冷ややかな目線が突き刺さる。
「黒華……いたのか」
「あ!お兄ちゃん、私のお弁當食べないでよ!」
「これお弁當!?」
俺は手元にある、母が間違って持ってきたハンバーグのミンチと信じたいモノを見つめた。
「さすが妹。母さんに似て獨特なセンスのものをお食べになるのか」
「人のでしょ。何いってるの」
「延元家の評価をあげようとした俺の努力を葬り去らないでよ!!」
黒華は訳がわからない、と眉を顰めた。
なんだかな…。コイツまさか世に言うKYというやつでは。
「評価って…。どういうこと?」
「あのね、普通のご家庭では生食わないの!味しいほっかほかのご飯食べるの!わかる!?」
「だからたまにそこで死んでるを取ってきてるだけじゃん」
黒華はバケツを取りあげると中のものを手摑みで食べ始めた。
ね…。
「じゃあ、その拾ってきたの中で黒華が好きな食べは?」
「人間」
「ほらね!隠すなよ!もうお前と母さんの好なんてわかりきってるんだよ!」
黒華の非常に不愉快そうな視線が俺を捉える。
「何?じゃあ人間食べるなって言うの?お兄ちゃんとお父さんはその余ったを飲んでるのに?」
妹の歪んだ笑顔を見ながら俺は怖気づく。
「諦めな。そして認めなよ」
「…やめろ」
「うちは……」
「おい、待てそれ以上は…」
黒華はニッと笑う。
何かとんでもないものを噛み砕けそうなほど頑丈な歯が見えた。
「人食って生きる、怪だっ!」
「…っ」
「人間のようにわけわからんもの食って幸せ健康生活なんかできるかよ!!」
「うわぁあ!!」
「私たちは人間の真似事などしない。だから私は學校には行かん!!」
「それは違うね」
「………」
うん。全く持って違う。若干話ズレてたがやっとここに來た真の目的を思い出した。
「黒華、何度でも言う!お前が何を言おうと人間が頂點に立つこの星では、人間と同じことを學ばなければ生きていけないんだよ!」
「人間狩っとけば生きていけるもん!」
「そういうことじゃないんだよね!?」
涙目になって言い張る黒華の言葉は全てがアホらしく思う。
まず、このアホ(二回目)には人間の常識を學んでもらわねば。今の世、怪たちが堂々と暮らすことなど不可能。
ひっそりとを隠すことでしか生きていけない。
「今學校に行けなくたって構わない。外に出るぐらいはしよう!」
「………」
「………」
「……じゃあ、お兄ちゃん。ゲーム買って」
「死ねや」
ただいま、延元兄妹は久々に二人で出かけた。
俺の片手には最新型ゲームがった袋があり、もう片方にはすでに底をつきた寂しい財布が握られている。
黒華は久々の外を眺め、意外と満喫している様子である。
「この野郎…。いつか俺の小遣いの敵をうってやる…」
「いやー、謝してるよ?このゲーム機しかったんだー」
妹の殘な目を見て、目潰しをしたい衝を必死に抑えている拳を握りしめた。
「でも、久々の外。なんか変わったのか変わってないのか…」
黒華はキョロキョロと辺りを見回すと笑みを零した。
…そう、コイツは笑ったのだ。
やはり、學校に行けるんじゃないか?
何も心配する必要はない。徐々に周りの環境にも慣れて、いつかきっと人間たちと同じように生きていけるはずだ。
──それに、うるさい妹もしは常識を學び行できるようになるはず。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん」
「今度は何だ。死がしいのか?」
「違う違う。生きた人間を……」
「余計に駄目ですね」
黒華は眉を顰めて駄々をこねる。
「いーやーだ。お腹空いたの。人間食うの!おーにーくぅー!」
「ちょっと、とんでもないことをばないでくれる!?」
黒華の口を塞ぎ、慌てて周囲を見渡したが今のところ人間の姿は見えなかった。
──やはり、コイツが學校に行けるようになるには隨分と時間かかる気がする。
「フンフン。あの二人、人間じゃないのかな??」
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