《輝の一等星》星団會に集うは7つの魔
旅館で詠と別れた涼たちは再び車に乗った。なんでも會合がいつまでかかるかわからないため、帰りも、もう一泊同じ旅館でするそうだ。
詠もあと數日はこの旅館でゆっくりするようなので、また會える。
それは嬉しかったのだが、一方で、もう一泊するとなると、琴織聖の機嫌の問題が気になってくる。
車の中、飛鷲涼は、何とも言えない空気を味わっていた。
目の前にいる聖は、まだ怒っているのか、ムスッとしており、しかし、涼と目を合わせるとし顔を赤らめてそっぽを向いてしまう。
説明したはずなのだが、どうやら、まだ半信半疑のようで、誤解は解けていない様子である。
さて、どうしたものかと、考えていると、思わぬところから助け舟が來た。
「お嬢様、じきに第5バーンにります。飛鷲様に確認しておかなければならないことがあるのではないのですかな」
「そう、ですね」
歯切れの悪い返事の後、深呼吸を一つし、気持ちをれ換えたらしい聖は説明を始めた。やらなければならいことは気乗りしなくても無理やり心を変えてやる、そんな神は尊敬に値すると思った。
「まず、今からることになる、第5バーンのことから」
「貧富の差が激しいのよね?」
はい、と言った聖は、そのあと、おかしなことをいった。
「ならば説明が早いですね。関連しての約束事を一つ。多くの人が苦しんでいると思いますが、誰にも手をさしのべないでください」
「……? 逆じゃないのかしら?」
「いえ、間違っていません。第5バーンでは、誰も助けてはなりません」
琴織聖というがどれ程に優しいのかを、涼はそのをもって知っているので、否定はしない。ただ、疑問には思った。
涼たちの最終目的は人間とプレフュード、そのどちらもが共存し、平和に暮らせる世界を作るというもの。
平和の意味するところは人それぞれであるが、なくとも涼はすべての生きが笑って過ごせる世界だと信じている。
だから、手を差しべるな、などという言葉には、なからず反の意を覚えた。
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「……どうしてかしら?」
「郷にっては郷に従え、ですよ。場所によれば、優しさというものが必ずしも良いとは限らないということです」
一応、わかったわ、とは言ったものの、聖の言っている意味はよくわからなかった。
次に、と一呼吸置いた聖は、
「早乙真珠を除いた11のバーンの『ルード』の集う今回の會ーー『星団會』ですが、私たちの目的はわかっていますよね?」
「第9バーンの獨立を宣言すること……よね?」
「はい、その認識で問題ありません」
ふう、と息をつく。これで答えられなかったら、朝のこともあり、「どうしてここにいるのですか? の子をハンティングしにきたのですか?」とか皮めいたことを言われ……たりは流石にしないか。
ただ、変わらずに聖の機嫌は良くはないのも確か。その証拠に、必要最低限のことしか、事務的な會話しかしてくれていない。
「ここでの注意點は一つ――『喧嘩を売らないこと』です」
「…………?」
そんな聖の言葉が全く理解できず、涼は首をかしげる。
そもそも、涼たちは『ルード』たちに喧嘩を売りに行くのではないのか?
いや、直接的でないにしても、バーンを獨立させるというのは、すなわち宣戦布告。それは喧嘩を売ることと同義ではないのか。
「今回の會合は、公式の場。獨立の宣言をしたところで、こちらが正式に宣言する以上は、すぐに斬りかかられることはないでしょう。なくとも、公の場では」
「暗殺注意ってこと?」
「違います」
ばっさり、切られてしまった。やはり、し怒っているのか容赦がない。
「獨立した『ベガ』と『アルタイル』としての戦いは、今日は行われないでしょう……その代わり、私事での戦いはあるということです」
「意味わからないわよ」
「第9バーンの代表としてではない、飛鷲涼個人としての戦闘ならば起こる可能があるということです」
どうやら彼の言いたいのは、私怨としての戦いはあるということらしい。
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「でも、私、『ルード』に知り合いはいないし、恨まれるようなことをした覚えもないわよ?」
「當たり前でしょう! もしも、貴に『ルード』の知り合いがいるのならば、そもそも私はここに連れてきていません。私が言いたいのは、恨みを買われるような言はしないでください、ということです!」
なんだ、そんな事かと思う。初めから最後の言葉のように簡潔にまとめてほしいものだ。
「それって、普通にしていればいいってことよね?」
堅苦しい作法とかはわからないが、昨日熊谷が、この會合には作法とかはないと言っていたので、おそらくは大丈夫だろうと思う。
じー、と聖がこちらを見てくる。
「……の子を會合に連れてきて、その……変なことを始めるとか、ダメですよ」
「しないわよ!?」
宣戦布告しにきて、公開プレイとか、頭おかしいというレベルじゃない。
そんなぶっ飛んだ発想が出てくる聖が怖かった…………。というか、そろそろ許してくれないだろうか。
「まあ、冗談はこれくらいにしましょう」
「……ごめん、何処までが冗談でどこまでが本気だったのかわからないわ」
自分で考えてください、などという無責任な言葉が降ってくる。結構真面目なツッコミだったはずだが。
コホン、と席払いをした聖は、
「今回の會合、私たちを除くと13人のプレフュードが出席する予定です。そこには絶対に喧嘩を売ってはいけない人が二名います」
「ちょっと待って、『ルード』は11人よね?」
各バーンから『ルード』が一人ずつならば、一が合わない。あと二人は一誰なのだろうか。
「第6バーンの『ルード』は二人います。そして、もう一人はプレフュードの王『デネブ』から『ルード』および全てのバーンの統制を一任された、いわば地下世界の統治者です」
「わかったわ、で、その気を付けないとけない二人は一誰なのよ?」
喧嘩を売るな、というからには、その人には注意しろということなのだろう。
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「一人は第11バーンの『ルード』である『アンタレス』。そしてもう一人は、この會を取り仕切っている地下世界の統治者である『オルクス』。この二人だけは、絶対に、関わらないことです」
「でも、第9バーンを獨立させる以上、いつかは戦うことになるのよね?」
「いえ、この二人とは、何があっても、出來るだけ衝突を避けたいと思っています」
勝負自を避けるとは、一何が脅威なのだろうか。
いや、それよりも、そんな脅威があるというのに、果たして宣戦布告などしてよいのだろうか。時期尚早という言葉が一瞬、脳裏を過ぎった。
ちょうどその時、車が止まる。
「いいですか、もう一度だけ言います。『アンタレス』と『オルクス』の二人だけは絶対に戦ってはいけませんよ」
不安のを隠せていない涼に対して、ニコッ、と笑いかけた聖は、涼の手を引いて、
「さあ、行きましょう」
一つ息を吐いた涼は頷く。
その表は、怒っていない時の彼のであり、普通の笑顔だと言うのに、発的にしいのであった。
まったく、不思議なことだが、聖の笑顔を見た途端、不安が吹き飛んでしまう。
一瞬前の弱気になりかけた自分を笑い、涼は、まだ見ぬ土地へ足を踏みれたのであった。
さて、第5バーンに足を踏みれた飛鷲涼であったが、その町を歩いての想は、一言でいえば『ひどい』につきた。
一つのバーンはおよそ地上の県一つ程度の規模であるため、一概にすべてが悪いとは言えないが、なくとも涼たちの歩く郊外はひどいところのようにじた。
富裕層の暮らす、町の中心はもうしマシになっているようだが、どうして、そこまで車で行かなかったかと言うと、『目立つから』らしい。襲われる心配があるとか。
ならば、そんな高級車に乗ってこなければよいと思うのだが……。
スモッグが覆う辺りの空気は最悪で、マスクでもしたいくらいである。ネズミが前を橫切るし、當たり前のように歩道で寢ている人がいる。怒鳴り聲もよく聞こえる。
時計を見ると、九時半という時間なのに、辺りは薄暗い。頭上のディスプレイが機能していないのではないかと思うくらいだ。
こんな場所を、二人で歩くというのは、あまりにも危険のように思えた。二人に『結界グラス』という特殊な力がなければ、とてもではないがここを歩こうとは思えなかっただろう。
熊谷は、車に乗って何処かへ行ってしまったし、々不安であった。
と、その時、袖を引かれる。
聖が怖がって摑んできたのかと思って見るが、そうではなかった。
「お姉ちゃん、何か、食べ……」
そこにいたのは、小學生低學年くらいのの子であった。ボロボロの布きれをに纏い、顔は煤汚れており、微かに異臭も漂ってくる。聲からでしか、の子と認識できなかった。
の姿が憐れに思えた涼は、その場に立ち止まってを見た。
「涼、ダメです」
聖の言葉が後ろから刺さってくる。
しかし、の子に裾を引かれた涼はその子と目をあわせてしまう。助けるなと言う、聖の言葉はちゃんと頭にあった。
でも、無理だ。こんな小さな子供は罪という言葉自曖昧であり、彼たちに罪はあるはずもないのだから。に何の施しもしないということは、良心の呵責に耐えられなかった。
ポケットを探ると、數枚の小銭がある。しだが、何かお菓子かおにぎりくらいは買える金額だ。
「これで何か食べなさい」
「涼!」
ありがとう、と言ったの子は、深々と頭を下げてから、踵を返して走り出す。
すぐに、聖が手を握ってくる。
「早くここから離れましょう」
どうして、聖がそんなことを言ったのか、すぐにわかった。
どこから集まってきたのか、年齢も別もバラバラな人たちが、一人、また一人と、涼たちの元に歩いてくるではないか。
聖がどうして助けてはいけないと言ったのか、その理由がようやくわかった。
たった一人を助けるだけで、それに乗じて助けを乞う人々が、まるでハイエナのように湧いて來る。一人だけを助けることなど、ここでは許されない。
人が人を救えるこの世界で、一人を救うという行為。
それは神になる、つまり、その他全て人々さえもを救う覚悟が必要となる。
軽率な行を後悔し、心が寒くなった涼が、聖と共に、その場を離れようとしたとき、背後からガシャンという凄い音が聞こえた。
ドクン、と心臓が嫌な音を立てる。
音が聞こえた方向、それを考えたくなかった。故に、確認したくもなかった。
走ってもいないというのに、息が荒くなる。聖の手を握る手が強くなる。振り返ってはいけないと第六がんでいる。
だが、涼は、ゆっくりと、振り返る。
瞬間、全てを後悔する。
涼たちの後ろ、十メートルほど前のところ、そこには大きなトラックが、壁に衝突していた。
そして――先程のの子の小さな手だけが、トラックの下から見えていた。
涼たちに迫っていた人々は散り散りになり、消えていく。轢かれたの子の手からこぼれ出た數枚の貨をも誰かが持っていき、走り去っていった。
今は、そう、驚いている場合でも、懺悔する場合でも、ましては逃げている場合でもない。
聖の手を振りほどいた涼は、トラックの下敷きにされているの元へと駆け寄っていく。
呼びかけるが、返事はなかった。見えている手も、いていない。
何をすれば良いのかわからず、真っ白になりかけた頭から浮かび上がったのは命を救う『119』の數字であった。
ポケットからスマートフォンを取り出した涼は、すぐに電話をかける。
『119番。消防署です。救急ですか、火事ですか?』
「の子がトラックに轢かれたのよ! 早く、救急車を」
『貴はそのの子とどのような関係でしょうか?』
「知らない、の子よ、なんでそんなことを聞くのよ?」
こうしている間にも、目の前のの子の命は、消えていっているかもしれないのに。
『……すみませんが、その子、ホームレスではないでしょうか』
「だからどうしたのよ、早く救急車を――」
電話を持ってんでいると、話の向こう側から、あまりにも無慈悲な言葉が飛んでくる。
『申し訳ありません、私たちは、今、忙しいので救急車は迎えそうにありません』
「……は? 貴方たち、何言って――」
ブツッ、と言う音と共に、電話が向こうから切られる。ツーツーという音だけが続いていた。
もう一度かけなおそうと、再度『119』と打っていると、聖が「涼」と名前を読んでくる。
答えている場合じゃない涼は、無視して、もう一度電話をする――が、『おかけになった電話番號は――』という生気のない聲しか耳に屆いてこない。
どうすれば良いのか、わからなくなってしまった涼は、その場に崩れ落ちる。
「涼、もう……」
「うるさいわよ、聖、貴も考え――っ!」
ギュッ、と聖に抱きしめられる。そして、涼は、自分が泣いていることに気づいた。
「貴の責任ではありません……」
「……っ!」
わかっていた、の手にれた瞬間に。彼の魂が既にここにはないことを。
それでも、まだ助かると思って、可能を0にしたくなくて、認めたくなくて。
もしかしたら、それは涼が、責任をじていたからであって、のためではなかったのかもしれない。だから、聖の言葉が心に突き刺さったのかもしれない。
純粋な正義を持っていないかもしれない自分の偽善さに気づいて、それが悔しくて、同時に名も知らないのことを思い、聖に抱かれるようにして涙を流した。
人の死をすぐにけれられない自分は、どうしようもなく、弱い人間なのだろうか。
その時、トラックの運転席が開く音がした。
「ちっ、ミスっちまった。おい、商品に傷ついていないか見てこい」
降りてきて、助手席のもう一人に命令していたのはガラの悪い男である。前歯が上下と一本ずつないのが特徴的であった。
その言葉を聞いて、涙を流していた涼のは、悲しみから、怒りへと転換されていった。
人を轢いたのだ、彼らはそこに何一つれていない。それよりも、車の中の『商品』とやらの心配をしているのだ。
トラックの前にきた男の、次の行を見てしまった瞬間に、涼の頭のどこかがプツリと切れたような気がした。
「ああ、で汚れちまってら。だから、こいつらは嫌なんだ」
そう言った男は、あろうことか、のに向かって、ペッ、と唾を吐きかけたのだ。
「ダメです、涼!」
聖の言葉は、耳に屆いてこなかった。
「……『フェンリル』」
ゆっくりと立ち上がった涼がそう呟くと、『結界グラス』が展開され、涼の右手が武裝化される。頬には、星に一本の斜線を引いた蒼のマークが浮かび上がる。
世の中には、善悪の概念など、法律上以外では、ないと考えていた。
しかし、涼は思う。
目の前にいる男は、確実に『悪』だということを。
聖が止めにってくるよりも先に、早く、いた涼は、男のぐらを巨大な右手でつかみながら、トラックに打ち付ける。
突然のことに男は驚いている様子であった。その眼に、後悔のは見られなかった。
「あんた、何もじないの?」
「なんだ、てめぇは……」
「ひとを、それも、子供を殺しておいて、何もじないのかって、聞いているのよ!」
男は苦しそうであったが、涼の怒鳴り聲に対して耳を傾けている様子はなかった。
「その程度のことで激昂するなんてよ、お前、ここの人間じゃないだろ?」
「っ!……聞いていないわ!」
ふう、とため息をついた男は、いつの間にか、懐から一丁の銃を取り出しており、その手に持っていた。
マズイ、と思った時には、回避できるはずもない距離であった。
脳天に響く銃聲音が辺りに響き渡る。それも一発ではない、男の持つ拳銃の弾丸がなくなるまで、それは続いた。
その時、銃聲の合間に、涼は、トラックの中で何か複數のがうごめくのを、そして、何かをんでいるのを聞いた。
「ここじゃ、常識的な奴から死んでいくんだよ」
「なら、一度死んで常識を學んできなさい!」
そう言った、涼は、男を、右手で車の通っていない、道路の向こう側まで投げた。放線を描いた男はごみ袋が積み重なったごみ置き場に頭から突っ込むことになる。もちろん本當に殺したわけではないのだが。
「……ありがとう、聖」
後ろを見た涼は、一言だけ禮を言う。
弾丸を止めてくれたのは、一枚の明な布であった。これがなければ、涼は致命傷をけていたことだろう。
涼は、何かが聞こえたトラックの中を確認するために、後ろから、トラックの扉を開ける。
開けた瞬間に、一人の男が鉄の棒を振り下ろしてきたが、『フェンリル』の力で難なく鉄の棒を折り曲げ、睨むと、『やっ、安さん!』といい、ごみ袋の山に頭を突っ込んでいる男の元へと駆けていった。
気を取り直して、中を見る。
「何よ……これ……」
そこには、十數人ものたちが押し込められていた。年齢はバラバラであるが、稚園児くらいの子供から小學校高學年くらいまでの間で大人は一人もいなかった。
皆が生気のない顔をこちらに向けてくる。
「どうしてこんなところにいるのよ?」
一番手前の、一番年齢の高そうなに聲をかける。
一応人間らしい服は著せられており、見た目は汚れている部分はない。綺麗な顔をしており、ここに笑顔があれば、とても可らしいの子だっただろう。
「私たちは、これから、売りに出されるのです」
「……う……り?」
トラックの運転席にいた男の『商品』という言葉が、脳裏を過ぎる。
そこからすぐに導き出される答えは、あまりにも、ひどすぎるものであった。
「オークションですよ。私たちは、これから買われていくのです」
無表で言うは、何もかもを諦めた様子であった。まるで、をアンインストールしてしまったような、ロボットのような人間と化していた。
人間が人間を売り買いするなどということは、吐き気がするくらいにおぞましいと思った。
だからこそ、涼は、その場にいるたち全員に向けて、
「ここから出ましょう、私と一緒に、逃げましょう。そうして、両親の元に帰りましょう?」
買われていくなんて、彼たち自も嫌なはず、そう思っていた涼は、當然たちがついてくると考えていた。
しかし、たちはかない。
皆、ただただ、俯いているだけであった。
「どうしたのよ、このままじゃ、あなたたちは――」
「やめるです、それ以上は聞きたくないですよ!」
社の一番奧から、聞こえてきた聲、んで、立ち上がったは、涼の元へと歩いてくる。
短いエメラルドグリーンの髪に、白の、小奇麗な顔。年齢はおそらく、小學校3,4年生くらいだろうか。何よりも、印象深いのが、目を閉じていることであった。
「シノノたちは親に売られて、ここにいるのです……帰るところなんて、ないですよ」
「それでも、きっと親は心配しているでしょう?」
「なくとも、シノノは親の元に戻りたくはないです。きっと、ここにいる他の子もそうです」
その理由を聞くこともなく、に『出ていってくださいです』と言われた涼は、その剣幕に押されていく。
ジリジリと後退していき、ついには、を強く押されて、トラックから外に出されてしまう。
「どこかに買われ、そして、いつか自由になれると信じて、奉仕する。それしかシノノたちに生きる道なんて、ないのですよ」
「…………」
そんな、目を閉じたままのの聲は、どこか寂しそうであった。
涼が外に出されるや否や、トラックが発進する。危うく轢かれるところであったが、聖の『羽』に包まれ、怪我をすることはなかった。
そして、その場に殘ったのは、トラックに轢かれた、見るも無殘なのと、やりきれないだけであった。
「このバーンは、腐りきっているわ!」
行き場のないをぶつけて思い切り、右手を壁に打ち付ける。『フェンリル』ではなくなっていた右手は、ジンジンと痛んだ。
あまりにも、ここは、涼の住んでいた世界と違いすぎる。住んでいる距離はさほど遠くないと言うのに、欠如していることが多すぎる。
何か、この狀況を打破する方法はないのか?
そう考えたときに、一つだけ、思い浮かんだことがあった。
「私たち、これから『ルード』に宣戦布告するのよね、それって、私たちが他のバーンを侵しても良いってこと?」
自のハンカチをの顔に被せた聖に、尋ねる。
聖は、出來たとしても、危険過ぎると言って否定してくると思ったのだが、その予想は外れた。
「もちろんです」
このバーンを取り仕切っているのは表向きでは人間だが、裏では『ルード』の力が働いている。
ここの『ルード』を潰せば、ここの治安も、しは、良くなるだろうか。
いや、良くなると言う確信があるからこそ、聖は、そう答えたのだろう。
「今日の會合の後、私たちはここ第5バーンを制圧するわ。そして、この馬鹿げた世界を終わらせる」
はい、と聖が同意してくれる。もしかしたら、彼は、初めからこのバーンの狀況を知っていて、同じことを考えていたのかもしれない。
こうして、新たな決意をめた涼たちは、この地下世界の最高権力者たちの集まる場へと、歩を進めていくのであった。
その重苦しい空気というのは、大抵の場合、人間自が作り出すものではなく、その人間の外見や地位、環境、狀況により形されるのである。
例えるなら、 列をなした組員の前に立つと組長の纏う空気はそばにいて苦しいとさえ思うかもしれないが、銭湯にて一対一で出會った時はただのおっさんである。まあ、銭湯で龍の刺青や銃で撃たれたような大きな傷跡があれば違うだろうが、それも外見だけの判斷にすぎない。
人間自が元から纏っている雰囲気だけで、そう、周りが目を瞑っていたとしても、変化した空気をじさせられる人間というのは、例え首相や大臣であったとしてもそうはいない。
しかし、現実にそういう人は存在する。
そこにいるだけで他人を畏怖させることができる、つまり、生きの本能に訴えかけさせることができる。
涼は武虎たけとら一朗こういちろうという男を知っている。彼にもその気はあった。それは、百年以上衰えずに生き、戦い続けた先に磨かれていったものなのだろう。
ただ、彼の場合は、歳を重ねてに著けたもの。若いように見えるが、そこには時間と言う目に見えない力が存在している。年を重ねていくたびに、人間という生きは威厳を増していく。壽命と衰えさえなければ、その果てにどうなっていくのか、それを示したのが一朗のような男であるのだろう。
だが、生きには彼とは違う、才能的に、時間という概念を使わずに、人を畏怖させることができる、化けがいる。人が百年以上を費やさなければ手にれることができない力を短時間で自分のものにする怪がいる。
そんな馬鹿げた存在は、今、飛鷲涼の目の前にいた。
ここは、第5バーンの中心にある、巨大な建の最上階の一室。バーン全が見渡せる高さであるが、カーテンをめくらなければ見えない。
聖の話だとこのバーンの『ルード』の所有らしい。
さて、日を遮った々薄暗い部屋にて、長方形の長いテーブルに座ったのは、涼たちを含めて9人であった。ちなみに涼たちは一番末席である。
涼たちとは対極の位置、そこには他とは違う、一つだけ大きな赤い椅子がある。
そこに座っているのは、赤いドレスにを包んだ淑である。銀髪碧眼に、クルクルと縦ロールの前髪、後ろは複雑に編んである。まるで、中世ヨーロッパの王様のような風貌のであった。おそらく、彼が聖の言っていた『決して喧嘩を売ってはいけない』プレフュードの中の一人だろうことは容易に予想ができた。
ならば、もう一人は一誰だろうか。
涼たちの他に7人いるが、その中でも彼の纏う空気は飛び抜けて危険なものにじた。
他の人はというと、前の彼のような圧倒さはないものの、誰もが個的である。
涼の正面にいるトゲトゲ頭のサングラスの男は、機に足をかけ手で枕を作っていた。まるでバカンスに來ているような風貌で、アロハシャツに短パンと、服裝が浮いている。いや、こいつは比較的にまだマシな部類にってくる。予想の範疇といっていい。
アロハ男のとなりには、アロハの倍はあるだろう、筋質のツルツル頭の男が鎮座しているのだが、その強面の顔面にっぽい化粧をしていた。もしかしなくとも、オカマさんなのだろう。
一番隅である涼の隣は聖がいるのだが、さらにその隣にいるのは無表なである。年齢は涼たちとあまり変わらないのではないか。見たこともない可らしい制服を著ているが、可さよりも不気味さが目立つであった。
更にその隣は、涼からすれば本來ならば見辛い位置だというのに、一番よく目にってくる。それがあまりにも異形の姿をしているからだ。
どこのピカソだよ、と思わず突っ込みたくなるような、目も口も鼻も點でバラバラで鮮やかな仮面に、その姿は全マントで覆われており別すら分からない。しかし、でかい。隣のの數倍はある。気味の悪い姿と、何処からがなのかわからないに、潛在的な恐怖をじてしまうのは仕様がないことなのだろう。
その怪の向かい側にいるのは、一見、一番まともそうに見える男であった。男にしては長い髪のをクルクルと手で弄っている。別がわかりにくい形の青年であったが、ただ、一つ、薔薇を口に加えている點だけが気になる。
その隣、オカマのオッサンの隣、無表のちょうど向かい側にあたる席に座っているのは、これまた変な男。どう変なのかというと、さっきから「フフフッ……」などと笑っており、年は恐らく20代くらいだろう、剃っていない髭は中途半端にびている。明らかにカラーコンタクトだと思われる赤い目を片目だけにしており、痛々しいことこの上ない。
こうして見ると第9バーンの早乙真珠という男はかなりまともな『ルード』だったことがわかった。彼がリベレイターズを取り込み、地上にいるプレフュードの王『デネブ』に反逆しようとしたのは、この『ルード』たちの中だと、どうしても薄くなってしまう影をしでも濃くしようと努力した結果だったのかもしれない。
そんな個かな面子が揃う中、一番奧に座る前髪銀髪ドリルの王様が口を開く。
「誰か、殘りの『ルード』の所在をわかるものはありますか?」
その問いに対して、答えたのは、片目カラコンの廚二全開男である。
「囀る二羽の小鳥は駕籠から出れねえ、夢見る羊は空間を拒絶、眠り姫様は闇の中、後はこの俺の『究極アルティメットの脳ブレイン』をもってしても理解できないな」
「……まあ、要するに、『ジェミニ』はいつもの所用。『アリエス』は家から出る気なし。『カプリコーン』は眠っている。あとは知らない……って、ところかしら?」
廚二男の言葉がわからないのは當然にしても、それを要約したオカマのおっさんの言葉に関しても意味が分からないのは、涼が彼ら『ルード』のことを知らなさすぎるからだろうか。
そうですか、と言ってため息をついた王様は、
「皆さんお変わりのないようで私わたくし嬉しいですわ。ただ、もうし出席率を上げてもらわないと『デネブ』様がお怒りになるかもしれませんので、今日欠席なさった方には後日、この『オルクス』からきつく言っておきますわ」
一番奧にいる王様の名前はどうやら『オルクス』というらしい。やはり、聖が言っていた『喧嘩ダメ、絶対』の人の一人であった。
ニコッ、と微笑んだ『オルクス』は、改めて、口を開く。
「それでは、『星団會』を始めましょう」
「……その前に、ちょっといいかしら?」
「なんでしょうか『リブラ』」
そう言った無表――『リブラ』というらしい――は、隣にいる聖を右親指で指さしながら、
「この雌豚どもはどこの豚小屋から迷い込んだのかしら?」
「めすぶっ―――」
あまりにも斜め上過ぎるの言葉に、思わず復唱しそうになる。この『リブラ』とかいう、平然となんてことを言いやがる。
揺を隠せない涼に対して、特に反応しなかった聖は、その場から立ち上がる。
「申し遅れました、私は『ベガ』。そして、彼が『アルタイル』。本日は第9バーンの『スピカ』の代理にて參上しました」
聖が、『アルタイル』と言った時に、自分のことかと思った涼は慌てて席を立ちあがる。恥ずかしかったが、周りは特に気にしていない様子だった。
「久しいですわね『ベガ』――何年振りでしたかしら?」
「五年ぶりでしょうか――『オルクス』様もお元気で何よりです」
意外なことに、二人は知り合いだったらしい。しかし、その形式的な挨拶からして、舊友の再會というわけではなさそうだった。
「なんで、そのお姫様が代理なんてやっとるんや」
関西弁でそう言ったのは、涼の目の前のアロハシャツの男であった。
「確かに『アクアリウス』の言う通りよ、そもそも、王族だからと言ってこの會議に出て良いということにはならないわよ」
「それは私わたくしが許可したのですわ、『キャンサー』」
そうだったのね、と納得したのはオカマのおっさん。
アロハの男が『アクアリウス』で、濃い顔面に化粧を塗りたくっているオカマのおっさんが『キャンサー』
名前が飛びっていて頭がごちゃごちゃしてくる。それも日本人の名前ならばともかく、よくわからないコードネームのような『家名』もので呼び合うため、ここにいる全員を覚えるのは骨が折れると思った。
「今回の會議の一つ目は、彼たちに関連してのことですわ。『ベガ』、貴の言いたいことをお言いなさい」
わかりました、と言って立ち上がった聖は、その場にいる8人を見渡すと、
「私たち第9バーンは、かつての王『ベガ』と『アルタイル』の名のもとに、バーンの役割を放棄し、王『デネブ』の元から獨立します」
『…………っ!』
まあ、言葉の通りのわけだが、聖の言葉を聞いてもじずに優雅に笑う『オルクス』と事の重大さを理解していない涼を除いた6人の『ルード』たちは凍り付いた。
それもしようがないことなのだろう、聖の言葉はつまり、『今からお前たちは敵だぜ、この野郎』と敵陣のど真ん中、四面楚歌の狀態で言っているようなものだ。
その空気を破ったのは、後方の扉が開いた音であった。
「中々、面白い話をしているじゃないのぉ」
そう言ってってきたのは、『オルクス』と同等の、他人を圧倒させる気配を持つであった。
長い黒髪は、綺麗に結われており、細く鋭い目はマムシを連想させ、妖艶で絶対的なしさを持つの姿。結った髪に、著崩した著にその手には細長い銀のパイプを持っている、所謂『花魁風』のファッション。男ならば釘づけになること間違いなしの格好であった。
「遅刻ですわよ、『アンタレス』」
そういう『オルクス』の言葉を、華麗なまでにスルーした、――『アンタレス』は、
「第9バーンの人間は『事実』を知っているのかしらぁ?」
彼の言う『事実』というのは、この地下世界の、プレフュードによって人間が支配されていることを言っているのだろう。
聖は首を橫に振って、「いいえ」と答える。
プファ、と煙を吐き出した『アンタレス』は、ニヤリ、と笑った。その笑みに、涼は背筋が寒くなるのをじる。
「なら尚のこと面白いじゃない、つまりは、たった二人で私たちと戦爭しようってことでしょうがぁ」
その発言と同時に、零れ出た『アンタレス』の笑い聲に、彼から一番近くにいた涼はその場から逃げ出したい衝にかられた。
聖が言っていた爭いたくない相手、『オルクス』と、もう一人がこの『アンタレス』であることを、涼は的な勘でじ取っていた。
「挑発するのはよろしいのですが、その前に、ここは會議の場ですわよ。自の席に座ったらどうですの?」
そう言った『オルクス』を嫌そうに見た『アンタレス』一瞬、火花が散ったかのように見えたが、フンッ、と鼻を鳴らした『アンダレス』一番手前の、つまり、『オルクス』と離れた距離でちょうど向かい合う席に座った。
その様子をみた『オルクス』は、
「殘念ですが、『ベガ』、貴の言葉が承諾しかねますわ」
「なぜ、でしょうか?」
本來ならば、聖の言葉は意見でも提案でもない宣言であるため、他人がそれを拒絶することなどできないはずである。
「ならば逆に聞きましょう、第9バーンは『デネブ』様の、私たちプレフュードのための家畜小屋ですの。それを勝手に獨立するなどと、これでは王ではなく、ただの泥棒ですわよ?」
聖は、『オルクス』の正論に、多、揺する。確かに、第9バーンは『ルード』の早乙真珠のものではなく、その遙か上である『デネブ』の所有なのだ。
正論の果てに『泥棒』などと言われてしまえば、流石の聖のプライドからして、強くは反論できないだろう。
「でっ、ですが、『オルクス』様、私たちは『人間とプレフュードの共存する世界』を作ろうとしております。そもそも、その世界にはバーンというもの自存在しないのです」
「ならば、もうしうまい言い方があるのではなくて?」
そこで聖は口を紡ぐ。何かを考えている様子だった。
二人の様子を聖の隣で聞いている涼は、二人が何を話しているのかよくわからなかった。代わりに気になったのは、涼から、隣にいる聖の次に近い席に座っているである。
「『オルクス』も、一々面倒くさいだわねぇ」
近くで見ると、ますますわかる危険な香を持ったしさ。彼にされるものなら、きっと、男ならもちろんのこと、でも簡単に籠絡してしまうような気がした。
「あんたが、『アルタイル』かい?」
そんな涼の視線に気づいたのか、あるいは、暇だったのか、『アンタレス』が話しかけてきたではないか。
「家はそうみたいだけれど、実はないわ。本名の『飛鷲とびわし涼りょう』の方がしっくりくるわね」
一瞬、聖の注意通り機嫌を損ねさせないように敬語を使おうかどうか迷ったが、普段使い慣れていないぎこちない口調の方が、彼の場合、付け込まれるような気がしたので、口調は変えなかった。
しばらく、『アンタレス』は涼の方を見ていた。それはまるで品定めをしているかのような、あまり好きではない類の視線である。彼の持っている、細長いパイプから煙が綺麗な一本の線となって出ていた。
「中々、いいになったじゃないのぉ、これは……楽しめそうねぇ」
一どういう意味なのか、これが翔馬の書いた小説の言葉ならば、問い詰めて小一時間説教するところであるが、今の涼は何も言うことができなかった。
まるで、蛇に睨まれた蛙のように、くことさえもできない。
もちろん、これは誇張された表現で彼が涼に何かしているわけではなく、恐怖で勝手に涼がけないと錯覚しているだけである。
ようやく、聖が彼にだけは『喧嘩売るな』と言った意味を理解した。不甲斐無いことに、それが互いを傷つける戦い以外のことであっても、向かい合って一対一で何か勝負事をしたとして、彼には全く勝てる気がしなかった。
その時、『アンタレス』が立ち上がった。そして、そのまま、背を向ける。
「會議を投げるつもりですの『アンタレス』?」
「私も暇じゃないのよぉ、飽きたから帰るわぁ――もちろん、『ベガ』の言葉を聞いた後……でねぇ?」
思わぬ方向から渡されたバトンであったが、聖は、頷いた。
「私たちは、今、第9バーン改め、人間とプレフュードが共存する國、『日本』という國の建國、および獨立を宣言します」
なぜここで『日本』が出てくるのだろうと、首をかしげている涼であったが、彼以外は納得した様子であった。
くくっ、と笑った『アンタレス』は、
「後は報告書でも作ってよこしなさぁい」
と言って、そのまま、出ていってしまった。けっこう、この會は、自由なのだろうか(いや、きっと彼が特別なだけだとは思うが……)。
出ていった『アンタレス』を見た後、「仕様がないですわね」と言った、『オルクス』は、
「つまりこれで、貴方は『デネブ』様のものではなくなりました。第9バーンの様々な権利書は『スピカ』が持っていましたし、これで、完全に分離した――となれば、話しは簡単なのですが、私わたくしはまだ認めたくはありませんわ」
「どういうことしょうか?」
「私わたくしだって、『デネブ』様に報告しなければなりませんの。できることなら事は起こる前に鎮圧させておきたい……ただでさえ、バーンには『リベレイターズ』などという反國家組織があるのです、これ以上は本當に面倒ですの」
クスリ、と笑った『オルクス』に涼は、警戒のをわにする。彼が殺気を纏ったような気がしたからだ。
言葉の意味を理解した聖は、頬に一筋の汗を垂らしていた。無理もない、涼よりも遙かに相手を知っているのだから。
しかし、次に続く『オルクス』の言葉が、涼たちの予想に反したものとなった。
「だから、私わたくしたちと、一つ賭けをしましょう。それに勝ったのならば、第9バーン――いえ、『日本』の獨立を認めて差し上げますわ」
てっきり、真っ向勝負をするのかと思っていた涼は、ほっ、とをなでおろす。
橫にいる聖もまた、『オルクス』の予想だにしなかった言葉に、疑問符を浮かべている。
「賭け、でしょうか……?」
そうですわ、と言った『オルクス』は、パチン、と指を鳴らした。すると、會議室のカーテンが一気に開いて、窓の外から、広い第5バーンが見渡せる。
「私わたくしたち『星団會』は前回から、この第5バーンの腐敗した狀況を改善させるべく、このバーンの『ルード』である『アルデバラン』を追っています。本日もそのことを議題に挙げようと考えていましたわ。お恥ずかしい話、私わたくしたちは、二カ月かかってもまだ、捕らえきれていませんの」
まったく彼の言いたいことがどんな方向にあるのか、わからない。彼の言い出した『賭け』の話ではなかったのか?
優雅に立ち上がった『オルクス』は、右腕を広げて見せる。
「『賭け』の容はシンプル。『アルデバラン』を殺し、この第5バーンを先に治めた方が勝ち、一秒でも先に相手に殺されれば負け……ほら、簡単ですわ」
涼は、ゴクリ、とつばを飲み込む。賭けとやらに勝つには、『ルード』を一人、殺さなければならないらしい。他者の命を奪う、様々な死を目の當たりにしてきた涼であっても、考えただけで恐ろしいことであった。
青い顔をしている涼の隣では聖が、一つ質問していた。
「私たちが負けたときはどうするのでしょうか」
當然、その先にあるものは『死』に違いないと涼はわかっていた。ノーリスクハイリターンの賭け事などあるはずもない。
だが、『オルクス』の返答は、またもや涼たちの思いもしないものであった。
「何もしません、ただ、永遠に平和に暮らしてもらうだけですわ」
「……一、何が目的ですか?」
聖の問いを『オルクス』は微笑んだだけで、何も答えなかった。しかし、彼が簡単に噓をつくような人間にも見えなかった。
しかし、あまりに蟲が良すぎる話。『オルクス』は一何を考えているのだろう。
「そうと決まれば私わたくしも油売っているわけにはいきませんわ。これはきっと短期決戦になります、うかうかしていれば負けてしまいますもの」
それでは、と言った『オルクス』は、部屋から退出するために、こちらへと歩いてくる。やはり、彼との距離が近くなるほどに、その人を圧する力は強くなってくるようにじた。
琴織聖と『オルクス』がすれ違う瞬間、おそらく、わかったのは近くにいる涼だけだろうが、二人が何か一言ずつ言ったのが見えた。
何を言ったのかまでは聞き取れなかったが、この二人の間に、確かに何か繋がりがあるのをだけはじ取れた。
優雅に立ち去った『オルクス』の後は、一人、また一人、と『ルード』たちが無言で帰っていく。いや、賭けに勝つために『アルデバラン』とやらを見つけ殺しに行くのだろう。
數分後に殘ったのは、涼たちを含めて三人だけであった。
「自分、どうするつもりや。この賭け、けるつもりかいな?」
そう涼たちに言ったのは、『ルード』の中でただ一人、この場に殘ったアロハシャツを著た男である。黒のサングラスのせいで、今まで眠っていると思っていたが、話は聞いていたらしい。
「もちろん、けますよ……えーと」
「家名は『アクアリウス』、まあ、呼びにくいやろうから高瓶たかがめ粋河すいが……粋河すいがでええぞ」
どうやら、聖も人の顔と名前を把握できていないようだったので、し安心した。
「なら、私も聖せいでいいですよ。本名は、琴織聖です」
「飛鷲涼よ」
よろしくな、という粋河。そんな會話は普通の人間同士のものと同じであった。
機から腳を下した粋河は、ツンツンした素の薄い髪をガシガシと掻きながら、立ち上がり、涼たちの近くに來る。
そして、涼、聖、ともにその顔をマジマジと眺めた後、
「二人とも、かわええな、わいの人にならへん?」
『ならないわよ(なりませんよ)!』
二人で聲を合わせてツッコミをれる。普通、初対面の人間に対して、いきなり聲を張り上げるようなことはしないものだが、彼の口調のせいか、いつの間にか聲に出ていた。
流石に涼が(悲しいことに同にのみに)モテるといっても、初対面からいきなり、しかも『人』になれ、などとは言われたことがなかった。
「冗談、わいはこう見えても一途なんや」
口をゆがめてニヤリと笑う粋河。サングラスのせいで目が見えないため、表が読み取り辛い。だから、彼がどこまで、冗談を言っているのか、本気なのかわかりづらかった。
「で、何の用でしょう。私たちと共にここに殘ったということは、何か私たちに用があったのではないのですか?」
話が早いんで助かるわ、と言った粋河は、窓の傍まで歩いていき、窓の手をかける。
「わいが言いたいんは、この賭けに降りてくれへんかちゅうこっちゃ」
男がしてきた願いは々、意外なものであった。というのも、『オルクス』が言い始めたこの賭けは、人數的にも、報量的にも圧倒的に彼らに有利なものであったからだ。
「……私たちにとって、リスクはありませんし、見返りも大きい。けることこそしろ、辭退なんてありえませんよ」
せやでな、と言った粋河は、振り返って涼たちの方を向くと、信じられないことを始めた。
「……えっ」
深呼吸をした後、その場に膝をつき、頭を地面につけた男の姿を見た涼は、驚きの聲がれた。
「頼みます、この通りや」
いきなり、土下座をされた涼は戸いながらも、何か良い返答をしようと思った。しかし、涼が口を開く前に、
「どうして、初対面である私たちにこのようなことを……?」
「男が頭下げるときなんて、一つしかあらへんやろ」
「…………」
男は明確には言わなかったが、聖と『オルクス』の間の賭けで唯一損をする人を考えれば、たった一人だ。
それは、雙方から標的にされる『アルデバラン』である。
粋河が『アルデバラン』とどういった関係なのかはわからないが、この男は、知人を護るためにこうやって頭を下げているのだけはわかった。
しばらくの靜寂、涼は、選択を隣にいるに任せていた。
「すみません、私たちにも目標がありますので、降りるわけにはいきません」
靜かに、聖は言った。
涼は、この賭けについて本當のところはあまり乗り気ではなかった。誰かの命を賭けの対象にすることも嫌だった。
しかし、このプレフュードが支配する世界で、涼たちの立ち位置を変えるためには、この賭けに勝たなければならないということもわかっていた。だから、々非常なことだとわかっていても、否定はできない。
それに対して、粋河は何も言わなかった。ただ、頭は下がったままで起こそうとはしない。
行きましょう、と言った聖は、頭を下げた粋河をそのままにして、その場から立ち去る。
「ごめん、なさい」
何か他に言葉が思いつかなかった涼は、そう言うと聖の後を早足で追いかけていく。痛む心を押さえつけながら。
聖に追いついた涼が、隣に行くと、
「先に出てしまって、すみません。あれ以上、あそこにいれば、要らぬ発言をしてしまいそうでしたので」
そう言った聖は、あえて表を変えないように努めているのがわかった。
しかし、隣にいる涼はじていた。彼が、悲しんでいることを。
別に聖は間違ったことを言っていない。もしも、粋河の言葉を聞いていたらせっかくの與えられたチャンスをふいにしてしまっていただろう。
聖は、この子は、優しすぎるのだ。
優しいことは、必要以上に自分を傷つけてしまう。他人を傷つけても、それ以上に、誰も知らないところで勝手に自分を痛めつけている。しかも、質の悪いことに、それは自分の意思ではどうにもならない。
この優しいお姫様のために、飛鷲涼ができることは、あまりにもないようにじた。
彼の心の傷を治療することなど、涼にはできない。
かといって、忘れろ、などと無責任なことを言うつもりいもない。
「溫泉にでもって、今日はゆっくりしましょう」
笑顔でそう言った涼は、聖のその小さな手を握って手を引いていく。
割れのような王様に対して、今のところ涼ができることは彼が一人にならないように、その手を離さないようにすることぐらいであった。
覚というものは、當然人によって異なるものである。一人一人異なっている、生まれ育った環境により、考え方や思いは十人十となる。
その最たるものが金銭覚である。
日本人は地下に住んでいるため、今は繋がっていないのだが、世界中別々の國から百人の人間を連れてきたと仮定すれば(その時の通貨レートにもよるが)、その百人に一人一人、千円札を一枚渡したとき、その反応は各々違ってくるだろう。同じ國の中の人間であっても、貧富の差は當然あるため、やはり、金銭覚には違いが生じてくるだろう。
知らない運転手の運転で、一度どれ程の値段なのかきいてみたい(きっと聖はさらりと目の飛び出るほどの値段をいうのだろう)黒りする長い高級車にのった涼たちは溫泉宿に帰ってくる。
ちなみに運転手が熊谷さんから代わっていたことについて、どこにいったのか、聖に聞いてみたが何か別のところでやってもらっているらしい。その容は聞けなかったが。
「おかえり、リョウちゃん」
そういう昴萌すばるめ詠よみは売店近くを彷徨っていた。その手に持っているものを見るに、これから溫泉にるようだった。
「どこか行っていたの?」
「いろいろと観してきたのよ」
「別に面白いものなんて、何にもないところなのに?」
「そう? 私は結構楽しめたわよ?」
ふーん、と言って一瞬、聖をみた詠は、
「リョウちゃんと、デート……」
「だから、デートじゃないわよ。気苦労が絶えないんだから…………疲れたし、私もお風呂りに行くわ」
「一緒に行っていい?」
「當たり前よ」
何でもない日常會話をして、詠と別れたのだが、詠と會う前後で隣にいた聖の機嫌が変わったように見えたのは勘違いではないだろう。まだ朝のことを引きずっているらしい。
そんなし不機嫌になったお姫様であったが、どうやってその機嫌を直してもらおうかと考えながら、昨日まで使っていた部屋に帰ってきたわけだが、った瞬間に、愕然とする。
予想の斜め上をいった人がそこにいたからであった。
部屋についているテレビの裏側で何やらコソコソとしている、一見泥棒にも見えるそいつは、涼の良く知っている人であった。
「この回路はどこにつなげば……」
「何をしているのかしら――翔馬?」
後ろから肩を叩いて、靜かに涼が言うと、ビクッ、とした男、夏目翔馬は、
「驚かせるな、今、俺は隠しカメラを設置していて忙しい。邪魔は困る」
堂々と、子の部屋にって。隠しカメラを設置、それを注意されて怖じするどころか邪魔するな、と。やはり、間違いなく翔馬である。
「あんた、何でここにいるのよ! というか、いい加減手をかすのを止めなさい!」
彼をテレビの前から無理矢理に引きはがすと、ため息をついた翔馬は眼鏡を直し、こちらを向く。
「何を馬鹿なことを聞いている。夏休み、子、二人、お泊り、これらのキーワードから導きだされる答え、それは――」
「もう言わなくていいわ、あんたの來た理由はわかった――わかってしまう自分が悲しいけど……」
要するに、涼と聖の関係が進むというか、行くところまで行くのを期待して、それを目で確認するために來て、記録を殘すために、ここにカメラを設置したというわけか。
頭が痛くなってきた涼の目の前で、翔馬は「そう言うわけだ」といって、再び作業に戻ろうとする。
もちろん、首っこ摑んで再度引き剝がす。
「だから、盜撮は立派な犯罪よ!」
「なら、俺の目の前で見せてくれるのか?」
「何をよ!」
「もちろん、二人のをで――」
顔を赤くしながら涼は、平手打ちを頬に直撃させる。グーじゃなくて、パーなのは、一応、部屋は借りなので、部屋のを壊さないように配慮した形である。
バカバカしくなった涼は、二人分の浴と浴用を持って、聖の手を引く
「行きましょう、どうせ、この馬鹿の思うようなことにならないし。疲れるくらいなら放っておいた方がいいわ」
後で熊谷さんにお願いすれば隠しカメラなんて取り除いてもらえるし。
しかし、聖は、ついてこなかった。
「ちょっ、ちょっと待ってください。涼、すみません。私はしやらなければならないことがありますので……さきに行ってください」
「? わかったわ?」
妙にあせり始めた聖を不思議に思いながらも、涼は部屋を出ていったのであった。
※
涼が部屋から出ていくのを見屆けた琴織聖は、ホッと靜かに息をついた。
聖が、涼と一緒に溫泉に行かなかった理由。用があるというのは、當然噓であった。
本當の理由は簡単である。気まずいからだ。
確かに涼のを見るとか、意識し始めたら絶対に無理だが、一緒にお風呂くらいで、同姓なんだし、拒否することはない。意識しなければどうということはない。
しかし、涼は先ほど、廊下で昴萌詠と一緒にいく約束をしていた。
朝の一件、聖の隣で何もなかったことは知っていた。なぜなら、彼は晝間の晝寢のせいと、知らないの子が部屋にってきたため、ずっと眠れていなかったのだから。
けれども、あの二人の間にるのはなんとなく、気が引ける。二人と聖との間には壁があるような気がしたのだ。
しかし、考えてみれば、當然だ、時間でいえば、詠は聖よりも、遙かに飛鷲涼との時間が長いのだから。
「なぜ、お前は涼と行かなかったんだ?」
「カメラを仕掛けるなら、いなかった方がよかったですね。私と涼が一緒にお風呂にれば妄想も膨らんだようですし」
違う、といった翔馬は先ほど涼に平手打ちされた頬をっていた。
「確かにお風呂デートには心弾むが……お前も疲れているんだろう、一緒に行きたかったんじゃなかったのか?」
「…………」
翔馬の言葉に聖はすぐに返答することができなかった。いつも馬鹿なことばかり言って、変なことばかりんでいるが、案外人を見ているのかもしれないと思った。
「私は、彼には勝てませんから」
「勝つ?誰にだ?」
「………………昴萌すばるめ詠よみです」
一瞬、いって良いものかどうか迷ったが、その迷いの答えが出ないうちにその名は口からでていた。
詠の名前を聞いた翔馬は、し意外な表をしていた。
「涼と、彼は昨日、當たり前のように一緒に寢ていました。そんなこと、私にはできません」
「そうだろうな、お前とあの二人じゃ年期が違う」
めの言葉ひとつ降ってこなかった。しかし、期待していたわけではなかったので、失もない。
「隨分とバッサリ言うのですね」
「當たり前だろう、あの二人で何回妄想したと思っている」
クイッ、とメガネをなおしながらいう翔馬の言葉に突っ込むことさえ忘れた。
「彼を、知っているのですか?」
涼には、昴萌詠は孤児院での妹のような存在だと聞いていた。翔馬は、小學校が涼と同じだったとはいえ、孤児院で育った詠とは面識がないと思っていたのだが。
「詠は、俺をこの『百合』の世界に目覚めさせた張本人だ」
「……………………は?」
彼の言葉に対して、一どんな反応すれば良いのかわからなかった。
「といっても、あいつが百合好きなわけじゃないぞ」
ますます意味がわからないと、可らしく首をかしげている聖に対して、翔馬は懐かしむように、窓の外を眺めながら、衝撃的な言葉を告げた。
「過去の俺が終わり、そして、今の俺が始まったのは、詠が涼とキスをしているところを見たところからだ」
「ちょっと、待ってください!貴方がどうなったのかは別にいいですが、涼と彼が……えっ?」
目を白黒させながら、揺する聖。
確か、記憶では涼は、誰とも付き合ったことはないと言っていたはずだが。
いや、まだ、みを捨ててはいけない。キスならば、聖もしたはずだ。頬だけれども。
それに、翔馬の妄想であるという可能も捨てきれない。
「とで、キスしてたんだ。その瞬間、俺の魂は震えたんだ、今までずっと何かが足りないとじていた日常にーー」
翔馬の言葉は聞こえなかった。聞く余裕がなかったからである。
目の前が暗くなっていく。頭痛がする。立っていられなくなる。
(なぜ、こんなに…………)
友達がキスしたという事実を聞いただけで、中がおかしくなっているのだろうか。
心が痛む、どうして、自分は傷付いているのだろうか。ドロドロとしたが生まれていくのだろうか。
痛む頭で考える。無理矢理でも理由をつけなければ自分が壊れてしまうような気がした。
「おい、聞いているのか?」
ハッ、として、目の前でずっと講義していた翔馬を見る。泣いてしまいそうな、目を見られまいと、目を伏せていると、
「もしかして、調子が、悪いのか……?」
「大丈夫、ですよ」
出てきた聲は明らかに大丈夫ではなかった。自分でも驚くほどにひどい聲。
「まさか、詠に何かされたんじゃないだろうな?」
どうしてここに彼の名前が出てくるのだろうか。そんな頭にすぐに浮かんだ疑問は、いつの間にか口に出ていたらしい。
聖の疑問の言葉を聞いた翔馬は、しまった、と言う顔をしていたが、聖の視線に負けたのかため息を一つ、ついた後、ゆっくりと話し始めた。
「昔、俺が涼とずっといたときがあったんだ。あれは……そう、小學校の學園祭の準備の日だったか」
この男が涼と一緒に、と言う時點で、あまり聞きたくないと思いながらも、なぜか、耳は彼の言葉に向いていた。
「準備を終えたあと、遅いからという理由で、俺の家に一日家に涼を泊まらせた――と、誤解するなよ、當時の俺は覚醒前とはいえ、まだ小學生だ。変なことなど考えてもいない一日中テレビゲームをしていた」
一瞬殺意の籠った目で彼を見てしまったが、すぐに元に戻る。もしかして、この男は涼と一緒にいる時間が多いことを自慢したいのだろうか。
(それはないですね……)
心の中で湧いた疑問をあっさりと切る。この男は涼と十年以上も一緒にいるのだ。二人の間に何もないことが証拠である。
そもそも、聖と涼の間の……小説(ちなみに、聖は結局最後まで読んでいた)を作っているのだ。ありえない。
「その日、涼を孤児院に帰らせなかったことを誰よりも怒っていたのが、詠だった。ヤンデレ屬の存在など、目覚める前の俺にはわからなかった」
「よくわかりませんが、結局何が言いたいのですか?」
翔馬の話の収束點がイマイチつかめなかった聖が訊くと、驚くべきことを彼は聖に告げた。
「數日後、あいつに呼び出された俺は毆られた。金屬のバッドで、生まれて初めて救急車に乗ったな」
「それは、傷害事件ではないですか!?」
聖の言葉に、きっぱりと翔馬は「違う」と言い切った。
「ただの子供の嫉妬心だ、大した傷ではなかったしな、俺は恨んではいない……まあ、今でもし苦手ではあるが……」
ようやく、彼の言わんとしていることが分かった。
「私が涼と一緒にいる時間をあの子、昴萌詠が嫉妬していて、危害を加えたかもしれない、そう心配していたのですね」
ああ、といった翔馬。この男、涼の近くにいないときは、意外と頼りになる男なのかもしれない、そう心しかけたのだが。
「お前に落してもらっては困る。今から、『ユリユリの大三角関係』が始まりそうなんだ」
「なんですか、って!」
「俺、個人的には涼に量を持ってもらって、好意を寄せてくる二人のどちらもをけ止めてもらい――」
ペラペラと止まることのない話を聞き流しながら、はあ、と聖は深いため気をつく。
翔馬と涼が何年も一緒にいるのに、どちらもがを持たない理由が分かったような気がしたのであった。
現実でレベル上げてどうすんだremix
ごく一部の人間が“人を殺すとゲームのようにレベルが上がる”ようになってしまった以外はおおむね普通な世界で、目的も持たず、信念も持たず、愉悅も覚えず、葛藤もせず、ただなんとなく人を殺してレベルを上げ、ついでにひょんなことからクラスメイトのイケてる(死語?)グループに仲良くされたりもする主人公の、ひとつの顛末。 ※以前(2016/07/15~2016/12/23)投稿していた“現実でレベル上げてどうすんだ”のリメイクです。 いちから書き直していますが、おおまかな流れは大體同じです。
8 183【書籍化】萬能スキルの劣等聖女 〜器用すぎるので貧乏にはなりませんでした
※第3回集英社WEB小説大賞にて、銀賞を獲得しました。書籍化します。 剣も魔法も一流だけど飛び抜けて優秀な面がない聖女ソアラは、「器用貧乏」だと罵られ、「才能なしの劣等聖女」だと勇者のパーティーを追い出される。 その後、ソアラはフリーの冒険者業に転身し、パーティーの助っ人として大活躍。 そう、ソアラは厳しい修行の結果、複數スキルを同時に使うという技術《アンサンブル》を人間で唯一マスターしており、その強さは超有能スキル持ちを遙かに凌駕していたのだ。 一方、勇者のパーティーはソアラを失って何度も壊滅寸前に追い込まれていく。 ※アルファポリス様にも投稿しています
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