輝の一等星》ゲーム開始

冷たい床の上で、篝火かがりび絆きずなは目を覚ました。

明るいの制服に、金と赤のり混じったの長い髪のは前髪をレース編み込みにしている、いつも機嫌が悪そうに見えてしまうきつい目に、しかし、顔は整っている、絆はそんなであった。

年は、16で、高校1年生である。あと、1月半もすれば2年生になるのだが。

絆は辺りを見回してみる。

そこには自分一人だった。

窓が開いているが今は夜なのか、明るいってくることはなかった。

ぼやけた記憶から、どうして自分がここにいるのか思い出そうとするが、わからない。

ここに來た覚え自がなかった。

使い込まれた木の機に椅子に囲まれ、正面には黒板。天井、壁の隅には小さなモニターがある。彼は高校生であったが、ここは、彼の知らない教室である。

教室に置いてある、機を見て、一瞬、絆の顔がこわばる。

一瞬、嫌な記憶がよぎった。

それを振り払って、代わりにここに來る前のことを思い出そうとする。

目を覚ます前の最後の記憶は、部員が一人しかいない部活を終え、一人で學校から帰ろうとして、急に眠くなって……。

何かしらの方法で、薬で眠らされ、拐された。

そして、拐犯にここまで連れてこられた、そう考えるのが妥當かもしれないが、絆は手足を縛られているだけではなかった。

あれこれ考えても、推測の域を出ないとわかった絆は、首に違和を覚えて、れてみる。

スカーフのような、首からとってみようと試みたが、思った以上に頑丈で、破ることもできそうになかった。

拘束はないと思っていたが、これは、もしかして首か何かだろうか。

ポケットの中を確認すると、スマートフォン、手鏡、部活で使うギターの金屬ピック、ハンカチと……學校鞄こそ辺りにないものの、服の中にあったもので消えたものは――唯一、音楽プレイヤーくらいだろうか。そして、自分の所有ではない一枚の紙きれもポケットの中であった。

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とりやえず、手鏡を開いて自分の首を確認すると、やはり、黒いリボンのようなものが巻かれていた。

結ばれているわけではなく、切れ目のない一本のになっているため、どうやらハサミか何かを使って、切り離すしかないしかないようだ。手だけではどんなに力をれても破れてくれそうになかった。

次にポケットにっていた唯一の自分のものではない所有である紙切れを広げてみる。

そこには、ワープロで大きく、

『ノルマ 黒1または白14

詳細は開始1時間後に説明』

とだけ書かれていた。

全くの意味不明なことだが、これはもしかして、拐犯からのメッセージか何かではないかと考える。

ノルマだとか、黒や白、その後に続く數字の意味はわからなかったが、最後の言葉。

それは、絆が起きてから一時間と解釈してよいのだろうか。それとも、既に何かが始まっていて、説明自が終わっていたりする可能もあるのか。

「あー、もう止めだ!」

々と考えそうになって、頭を掻く。

今の報量ではいろいろと考えても推測の域を出ることは無い。

つまり、何を考えても何一つ証明できない、簡単に言えば無駄だということだ。

それよりも、スマートフォンのGPS機能でここの位置を見て、わかるようならば自分で、無理そうならば警察に電話して、ここから出る方がいい。

さっそく、スマートフォンを取り出した絆は、いきなり出鼻をくじかれる。

電波が一本も経っていない、圏外であった。

この地下世界、電話ができない場所があるなんて聞いたことがなかった。

GPSを使おうとするも、現在地を特定できないと出ている。

つまりは、なくとも、ここは普通の場所ではないということだ。

教室の蛍燈はついているので、電気が通っていないわけではなさそうだが……。

立ち上がった絆は、教室の空いた窓への方へ行き、外を見る。

地下世界で攜帯が圏外になるとか、一どんな田舎だよ、と思いながら見たのだが、

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「なん……だよ、これ……」

まずわかったことは、ここはどうやら學校の三階のようである。そして、この學校は比較的高い位置に建てられていること。校舎の真下には大きな校庭があった。

地下世界で生まれ育った絆は本の月を見たことがなかったのだが、それでも、普通の月ではないと斷言できる――『赤い月』が空にはあった。

そこまでは、驚いたものの、聲に出るものではない。人が住む地下世界の頭上にある上空を映しているモニターがこの絶妙なタイミングで誤作を起こしたとか、いくらでも説明することができるからだ。

問題は、そこじゃない。

校庭の更に向こう側、三階というそれなりに高いところから見渡している限りは、そこには普通、住宅地など、人が生きている証拠が見えていなければならない。

に點く信號やコンクリートで舗裝された道路など、現代社會では當たり前となっている景がなければならない。

だが、絆が見渡す限り、この學校の外は森であった。

校門が見えるが、その先は木々が生い茂っており、その先を見ても、道路すら見えない、全く人工が見當たらないのだ。

何度も言うようにここは地下世界だ、ゆえに、できるだけ人間が住みやすいようにこの世界は作られている。

田舎の學校といえども、半徑一キロ以に人工が何もないと言うのはありえないだろう。

「本當に、どこだよ、ここは……」

の記憶の中にある地図では、見當もつかない場所であった。

そう呟いた絆は、これ以上ここにいても、良い方向には進まないと考え、教室を出ることにした。

廊下に出ると、教室よりも多薄暗い蛍燈が連なっていた。窓の外からは赤いしていた。

何もないのに気味が悪い、と思える景である。

そんな廊下の窓の外からは、彼が今いる校舎から、反対側に同じような大きさの校舎があった。

どうやら、二つの建は繋がっているようだが、これでこの學校がしばかり広いということが分かった。

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薄暗い廊下を、絆は歩いていく。

まず、絆が一番知りたいのは、ここに自分以外の人がいるかどうかということだ。

もしも、この閉鎖された空間で、一人ならば自分を保っていられるか、自信がなかった。

しかし、しだけ歩くと、すぐにその不安は解消されることになった。

目の前、水道の並ぶ場所に數人の人影が見えたからである。

人見知りである絆は話しかけようかと、迷ったのだが、向こう側から、聞き慣れた聲が聞こえてくるではないか。

「絆!」

「ゆっ、勇気!?」

それは、彼にとって、唯一無二といっていい人であった。

優しげな顔に高い背丈に、チャラチャラしたじが一切ない、特徴的な學生帽子をかぶっている。格好いいのに嫌みの一切をじない好青年ーー篝火かがりび勇気ゆうきは彼の兄であった。

ただ、雰囲気も見た目も違うように絆とはが繋がっていないのだが、決して仲が悪いというわけではない。

いや、むしろ、その逆。

彼は、篝火絆が他人にはない特別な思いを寄せる人である。

不安になっていた思いが吹き飛び、大きな嬉しさと、しの恥ずかしさを覚える。

スーハー、とその場でまずは深呼吸。

いつもの『義妹』の顔を作った絆は、兄の元へと走っていく。

兄たちの方へとくると、そこには7人の人間がいた。

誰もが絆よりも年上のようだが年齢はバラバラ、別も、容姿もバラバラであった。

ただ、兄も含めて彼らには共通點があり、その首に巻かれたリボンが白であったことだ。

「お前もここに來ていたのかよ」

「あたしも來たくて來たんじゃないんだけどな、勇気……もか?」

「そっ、そう、だな……」

兄の反応がいつもとはし違うような気がした。

変な場所に連れてこられたのだから、普通であるのは逆に不自然なのかもしれないが……。

勇気の後ろから、彼よりも一回り年上の男が話しかけてくる。

「俺たちさ、ここから出るために組んでいろいろ模索中なんだけど、お前も、一緒に來ないか?」

「ん? ああ……もちろんだ」

馴れ馴れしい口調の男に適當に返事をした絆は橫目で兄をみる。

やっぱり、勇気がいつもと違うような気がする。

絆を含めて、八人で學校の中を歩きだす。

明らかに學生ではないメンツがいるため、かなり違和のある集団となっていた。

「名前はなんていうの?」

「絆きずなだよ」

「兄貴って言っていたがもしかして、勇気君の妹さんかい?」

「そうだな」

絆は、まるで転校初日の転校生のように囲まれていた。両際を三十前後のと、中年の男に挾まれており、勇気は後ろにいた。

前には四人が『帰ったら何がしたいか』などという、どうでも良い話をしている。

そもそも、帰れるかわからないというのに。

「一階に、私たちのアジトがあるのよ」

「アジトって言っても、ただの調理室なんだけどね。まあ、水くらいは飲めるけど」

「そう、か……」

ガハハ、と男は笑い、もつられて笑っていた。

笑っている顔というのは、人間の表なかで一番安心できるもののはずなのに、今はその真逆、不安しかじない。

絆があまり人付き合いの良い方ではないというのもあるが、彼らには何か引っかかるものをじる。

その時、後ろから兄がじー、と絆を見ていることに気づいて、振り返る。

「…………何かあたしの顔についているか?」

「いっ、いや、何もないぞ」

「…………」

目を逸らす兄、明らかにおかしい行だ。まさか、義妹に惚れているのではあるまい。

兄を見ていると、また、前と左右から、また何でもない會話で笑い聲が聞こえてくる。

心が一人取り殘されたような覚を覚える。

その時、絆は一つだけ自分の、今この狀況で、不安を抱いている理由が分かった。

どうして、彼らはこんなに能天気に笑っていられる?

一つ疑問が出れば、すぐに新たな疑問が沸き起こってくる。

りである絆をこうも囲う必要がどこにある?

彼らは、どうして、絆を疑おうとせずにれたのだ?

わかっている。

今、湧いた疑問、前者は単に彼らが仲間外れを作らないようにしてくれているから、後者は仲間である勇気の義妹であるから、という理由で説明できる。

しかし、最初に沸いた疑問だけはどう考えても、答えが見つからない。

だから、他の二つの疑問も、信じられなくなっている。

素直に理由を聞く、それは、本當に彼らが信用に値する人なのかわかるまでは危険のようにじた。

もし――そう、もしも、彼らが絆に対する敵であるならば、変に勘ぐってはいけない。

今、自分はまな板の上の鯉なのだから。

ゴクリ、とつばを飲み込み、できるだけさりげなく、隣の男を見る。

男はすぐに絆の視線に気づいて、笑みを浮かべる。

「なんだい?」

「その調理室にはあとどれくらいで著くんだ?」

「そうね~、一、二分くらいかしら?」

答えたのは男ではなくであった、絆は、両側の男きを観察し、その後、前にいる連中もまた、同じように見る。

今、気づいたことだが、前を歩く奴らは、後ろを気にしていた。

そして、もう一つ。

彼らは、誰一人として、絆の顔を見ていなかったのだ。

彼らが見ていたのは、それよりもしだけ下、首についた黒いリボンであった。

彼らが付けているのは全部白である。だから、一人だけ違うものだから珍しい……というわけではないようだ。

そこには、明らかに何か裏をじる。

もちろん話はしているし、笑いかけても來る。

だが、そこには何一つとして中がない。気づいてみれば、まだ、彼らは絆に名乗ってすらいないではないか。

不安が恐怖に変換されていくうちに、彼らの言う『アジト』である調理室についた。

ここに來るまでに、結構の數の人を見かけたが、やはり、皆、首についているのは白いリボンであり、やはり、他の七人ではなく、絆を見ていた。

流石に、ここまでくれば、どうやら、この場において、良くも悪くも自分が周りとは違うということはわかる。

今すぐにでも逃げ出したい、一人の方が、まだ不安なだけだ。今、じているような恐怖はない。

「はい、水よ」

調理室にった絆は、椅子に座らされ、テーブルの上にコップ一杯の水を置かれる。

この水は普通のなのだろうか、それとも、何かっているのだろうか。

変な考えが頭を回る。

周りを見ると、やはり、七人は絆を見ている。その目は、本人たちはわからないだろうが、すでにやさしさの欠片もないものとなっていた。

ここで、拒否すればどうなるだろうか?

コップ一杯の水を飲めない、が渇いていないと言ったら?

ダメだ、言うことはできない。

周りの視線が言っている、早く飲め、と。

何もっていませんようにと、祈りながら、コップを手に取る。

心は処刑直前の死刑囚でであった。

心臓がバクバクと脈打っている。呼吸がれているのをじる。

コップを口元まで持ってきた絆は、クンクンと、臭いを嗅いでみる、何もわからない。

もう一度だけ、周りを見る、そこには、味方がいないようにじた。

唯一、兄だけが何かを言いたげにこちらを見て、時折目を外したかと思うと、チラチラと窓の外を見ていた。

拳を握りしめ、々と苦悩している様子がわかる。

そんな義兄の顔を見て、自分がこれを飲めば彼の表は和らぐのではないかと思う。

ゴクリ、と唾を飲み込んだ絆はこころのなかて深呼吸をして、手元を見つめる。

覚悟を決めた絆は、ゆっくりと、コップを傾けていく。

そして、水にれる瞬間であった。

ガシャン、と絆の背後にあった窓が割れたのだ。

「ダメだ! 飲むな!」

聲をあげたのは兄であった。そして、割れた窓からってきたのは、ピンクの短い髪の

突然のことに他の人々は何が起こっているのかわかっていない様子である。

「早く、こっちに來るんだ!」

「絆、いくぞ!」

かわいい顔からは想像できないほど、し低めの凜々しい聲で呼び掛けるピンク髪の

何が起こっているのかわからない、絆の手からコップを振り払った勇気が、絆の手を取った。

そして、そのままの後を追って、調理室から走って出ていく。

後ろから、『逃がすな』だとか、『追え』という言葉が聞こえてきて、やはり、あの水には何かっていたのだと確信した。ドタドタ、と數人が追ってくる足音がする。

「おいおい、大丈夫なのかよ」

「ボクに任せて」

そう言って微笑みかけてきたは、自分よりも低い長、華奢なに、ピンクのショート、きっと、年齢は自分よりも下だろうの子。

影だけだと、ボーイッシュに映るが、顔が可いので男には間違えないだろう。そして、彼の首に巻かれていたのは絆と同じ黒いリボンであった。

兄は手を引かれている最中、何度か後ろに詰め寄られる場面はあったものの、の後をついていくうちに、広い校舎を駆け抜け、なんとか、追手を巻くことができたのであった。

三人がたどり著いた場所は、初め絆がいた校舎とは違う校舎の會議室のような場所であった。

一つの大きな機にいくつもの椅子が並べてあり、丸くなって先生方が會議している姿が目に浮かんでくるようだ。

兄の手が離れていき、それを名殘惜しいと思いながらも、今、自分の言うべきことはそんな事ではないと考えた絆は、切れた息を整えながら、その中の一つに座ったを指さす。

「勇気、この子、一誰だよ」

「えーと、カル・エルザローナ、だっけ……」

「お前、今年で18歳だろ、この子どうみても小學生だから、完全にアウトだから!」

うちの兄貴がロリコンだったなんて……。

ショックをける一方で、こんなに近くに可い義妹がいるのに、気がある素振りすら見せないことに納得しかけたのだが、その所を、勇気に頭をポカンと毆られる。

「カルに失禮だぞ、お前こそ、助けてもらったんだから、ちゃんと禮を言え」

「ボクは別にいいよ、それよりも、君の名前を聞きたいんだけど……」

「……篝火かがりび、絆きずな―――絆でいい……」

「ボクは君のお兄さんが言った通り、『カル・エルザローナ』っていうんだ。よろしく、絆」

小學生相手に嫉妬するなんて、我ながらなんておとなげないことをしていたのだろうと、心の中で反省しているものの、発した絆の聲はぶっきらぼうなものであった。

握手をしながら、ニコッ、と將來何人の男を虜にしていくのだろうかと不安になるほどに、凜々しい笑みを向けてくるカルは絆の言葉にじているそぶりはなかった。

小學生相手に完敗したような気分になりながらも、一応、お互いに名乗ったので、絆はさっそく聞きたい事を訊いていくことにする。

「一、ここはどこなんだ? 何の目的で誰が連れてきたんだ? どうしてあたしが命を狙われないといけないんだ?」

「聞きたいことがたくさんあるのはいいけど、一つずつ、答えていこうか」

溜まっていた疑問が一気に噴き出してしまった。

絆の話をまるで聞いていない兄は追手を気にして廊下の方を見ていたので、代わりにカルがクスリと笑って、人差し指を一本立てて言ってくる。

どっちが年下かわからないような、余裕の差をじ、頭が冷えてきて、無に恥ずかしくなった絆は、「ああ、頼むよ……」と言って、そっぽを向いた。

「まず、ここはある怪が作った世界。地下でも地上でも、宇宙でもない。ボクたちが普段いる世界とは別空間に作られたものなんだ、って解釈してくれていい」

「いきなり突拍子すぎるな」

「でも、これ以上の説明はないな。信じる信じないはあなた次第ってやつだね」

どこの都市伝説だよ……、などと言っている事態ではないのはわかっているので何も言わない。

今はとりやえず、噓でも本當でもいいから報がしかった。本當かどうかの取捨はあとでいくらでもできるからだ。

「次に誰が何の目的で、そして、どうして絆が狙われていたのかってことだけど……絆はまだ、ここのルール知らないらしい」

「ルール?」

「たぶん、もうすぐ始まるよ」

カルがそう言うと、同時に、ピンポンパンポーンというデパートの案放送のようなはじまり方で、それは始まった。

どの教室にもあった、天井隅に組み込まれているモニター畫面がつき、何とも不気味な姿が映し出される。

『ゲームの世界に集まった、紳士淑のみなさん、君たち、お前たち、何でもいいけど始まるよ! 楽しい楽しいゲームの時間が!』

そこに映し出された姿は、全をマントで覆われた怪であった。大きなマントをかぶっており、それ以外は一枚の、とりどりに目も鼻も口もバラバラの位置に描かれた仮面だけ。

それが生きであると証明はできないだろう、しかし、畫面に映し出されたその怪は、畫面前で見ている絆たちへと獨特な話し方で語りかけてくる。

『僕の、あたしの、私の名前は、ははは! みんな大好き『パイシーズ』! ゲゲゲッ、ゲームの支配者、創造者、神様! 終わるも始まるも僕の采配! そうそう、楽しいゲームの始まりさ!』

頭がおかしいとかそう言うレベルじゃない畫面に映る奇人は、街中にいれば即職質、こんな発言をしていれば即病院送りだろう。

しかし、この場、狀況で生きるためには、彼の言葉は聞かなければならない。

『前回、いやいや、次回、いやいや、今回の! ゲームは……これこれ! 『首取りゲーム』!』

「首……取り、ゲーム?」

『君たち、僕たち、貴方たちの首に巻かれている『首』を奪い合ってもらうゲームさ!』

「これの……ことか………」

『ゲームを始める前に一つだけ確認、放送で流されるルールだけは『絶対』だよ。そこだけはよろしく~』

ネーミングセンスの欠片もない、ど直球の名前であったが笑っている余裕などなかった。

絆は自分の首に巻かれたものを手でなぞる。

は『首』といった、これは人の首に巻かれていた白や黒のリボンのようなもののことを言うのだろう。

『まずは自分の首を確認してくれよ! 僕みたいに首がな~い、みたいな人はいるかな? いないよね~』

何がおかしいのか、自分の言った言葉でケタケタと笑う『パイシーズ』。

隣にいるカルというの首を見ると、やはり、自分と同じ黒のリボンが巻かれていた。廊下近くの扉から見ていた勇気の首には白の首があった。

『まずは白の人! おめでとう! 君たちは羊だ。羊は様々なもので優遇されている、そう、集団でたった一匹のオオカミを刈ればいいんだからね……でも殘念、最初のバンテージを有効活用した人たちはいなかったみたい、本當に、殘念だね~』

白、とは、勇気たちのことか。アドバンテージとは一何だ、わからない。

に向かって聞きたいことは山ほどあるが、畫面に向かって何か言ったところで彼には屆かない。

だから、今は、彼の説明を聞くしかない。

『そして、黒の首を持っている君! 殘念、君たちはオオカミだとみなされたようだ。羊よりもちょこっっっとだけ、大変かもしれないね』

の背中から腕が生えてきて、『ちょこっと』を畫面前で表現していた。それは明らかに人間のものではない、手であった。

『ルールは簡単、白の人たちはみんなで黒を1人でも殺せば帰れるよ! 』

『そして、黒たちは、同じく黒を1人殺すか、白の人たちを14人殺せばいい!』

「殺、す……だって?」

殺す、それはあまりにも騒な言葉であり、日常では冗談としかけ取られない言葉であった。

初めに持っていた紙切れをもう一度広げる、そこの書いてあった『ノルマ』というのが、きっとその人が殺さなければならない數なのだろう。

つい先ほど、絆は、白の集団に何かを飲まされようとしていた。

その中を考えてしまい、顔のが悪くなっていく。

『次に出方法紹介! というわけで、既定數殺せた人はどうすればいいか説明するね――まずは、首を切って、首を外す! その首を腕に通すんだ、するとあら不思議、元の世界に戻れちゃうってわけ!』

「…………っ!」

『ああ、もちろん、白の人たちが使った場合、黒の首はこの世界に殘るよ――つまりは、何度でも使えるってわけ。當然、黒はダメだけどね』

人を殺し、その死の首を切斷する、そんな罪を重ねるような方法で、帰ったところで、果たして元の世界に戻ると言えるのだろうか。

いや、今はそれよりも、だ。

この説明を聞けば聞くほどに、『黒』の人間はどう考えても不利に思える。これは、運が悪かったと嘆いていればよいのだろうか。

そんなただこの世界に來た最初の運が悪かったと言うだけで、死ぬなんて真っ平免だ。

『ここで注意事項! 一度でも白が使った黒の首は他全員の白が使い終わらないと、黒は使えないから気を付けて!』

『ああ! それとまだまだ、忘れてたよ、そうそう、あと3つばかり……』

『一つは、この世界にってくるとき、一人につき一つ、一番大切なものを預からせてもらった! それらは、このボックス……『アイテムボックス』の中にっているぜ――ちなみに、このボックスの中には他にも食料など生きるのに必要なものがたくさんっているから、是非とも見つけてくれよ!』

『パイシーズ』の言葉と共に、畫面に映し出されたのは、プルボックスのようなメタリックな箱であった。

そう言えば、ここに來た時、音楽プレイヤーがなくなっていた。これがきっと『あずからせてもらったもの』なのだろう。

の言葉は続く。

『次に朗報!喜んで、このルールはもう一つだけ、後で追加されるから、君たちはまた僕に會えるんだよ』

『あともう一つ、これが楽しいところなんだけど、このゲームには一人ばかり『キラー』ってのが徘徊しているんだ、彼は首なんて見てない、本當にただの殺人マシーンさ……彼には気を付けてくれよ! それじゃあ! 楽しいゲームをご堪能あれ!』

言いたいことだけ言って、プツンとモニターは切れてしまった。『キラー』という名前からヤバそうな奴らの詳細すら言わずに、だ。

だが、今の説明で、どうして自分が殺されかけたのか、分かった。

白の連中は、誰でもいいから一人、黒の人間を殺す。そうすれば元の世界に帰れる。だから、彼らは絆を殺そうとしたのだ。

頭が痛く鳴ってきて、絆は自の頭を押さえる。

今説明されたことが、実際にこれから行われるなんて、考えられない、考えたくもなかった。

こうして、『パイシーズ』という怪が作った『首取りゲーム』などという、ふざけたものが始まったのであった。

「というわけで……だ」

「ボクたちは何するべきか、だよね」

喧しい聲のモニター畫面が消えて、靜まり返った部屋の中、勇気とカルが言う。

何する、そんなことは決まっている。帰るためには、白を14人か黒を1人殺さなければならない。

はここを『ゲームの世界』だと言っていた。それを信用するならば、幸い、この世界は自分の知っている世界ではないということになる。

つまり、ここで罪を犯したとしても、元いた世界で罪に問われることは、ない。

すぐ傍に居るを見る、その首には黒い首が巻かれていた。彼を殺せば、絆はこの世界、ゲームから抜け出すことができるというわけだ。

そう、簡単だ、カルというはどんなに澄ましていてても、きっと小學生くらい、高校生の絆が握力で負けることは無いし、今ならば不意を突いける。

確実に、殺せる。

ゴクリ、とつばを飲み込む。

カルだって、この世界から出たいに決まっている。いつ絆を裏切ってもおかしくはないのだ。

やられる前にやる、それは単純な論理だ。

「俺には人を殺すなんて、できない――が、」

「妹さんを帰らせてあげたい、かな」

勇気は頷く。彼の言葉に絆は我に返った。

(馬鹿か!……なんで、乗せられてんだよ、あたしは!)

魔がさす、と言う言葉はこういうところから來ているのだろう。確かに、悪魔が囁きかけてきた気がした。

勇気が傍に居なければ、『人は殺せない』という言葉がなければ、悪魔のささやきに耳を傾けてしまっていたことだろう。

人を殺す、そんな大それたことを一瞬でも考えてしまった絆はすぐさま後悔し、自分の頭を機の上にたたきつけた。

そんな絆の突然の自行為に対して、二人は驚いていた。

「お前、大丈夫か?」

「悪い、何でもない……」

心配してくれた勇気を手で制し、頭をさすりながら、絆は言った。

第一あの怪の言ったことが本當だという保証はどこにもない。この世界が絆たちの知っている世界の中にないという確信もないのだ。

そんなわけで、カルを襲うという選択肢を頭の外へと追い出した絆であったが、まだ、どうもイマイチ信用ならなかった。

そこで、絆は兄の首を引っ張ってきて、カルに聞こえないくらいの聲で聞く。

「こう言うことは言っちゃいけないかもしれないけどさ、カル……って子、信用できんのか?」

「あいつとは『妹守護同盟』というあまりにも固いもので結ばれている。俺を信じろ、カルは悪い奴ではない……と思う」

「なんだよ『妹守護同盟』って……」

兄の言葉は全くあてになりそうもなかった。

さて、この子と一緒に行するのと、別れて単獨行するのと、どちらの方が、危険がないだろうか。

一緒にいても彼は黒、裏切ってくるかはわからない。

だが一方で、兄と二人だけでいるのは(個人的には嬉しいことだが)白の奴らが集団で襲ってきた時に対処しようがない。

だから、なくとも今は、彼と一緒にいるのが良いだろう。

「なんで、そんなところでコソコソしているんだい?」

「いや別に……」

じー、とカルに睨まれるが、隣の勇気が曖昧な笑みを向けていると、はー、と息をついてから、絆に一枚の紙を渡してきた。

「なんだよ、これ」

「君の兄が持っていたものだ、きっと他の白のやつらも全員持っている。きっとこれがあの怪が最初に言っていた『アドバンテージ』なんだろうね」

一枚目には、この學校の地図が描かれていた。

そして、もう一枚には、先程初めて聞かされたルールが書かれていた。そして、その他にもいくつか、絆の知らない報もあった。

広げて読んでみると、今、自分たちはかなりやばい狀況なのだということがわかる。

『黒6人、白194人の合計200人でゲームは行われる。なお、黒のプレイヤーは開始一時間後に始まる説明まで知らない』

「なあ、冗談だろ。この人數差……」

「殘念ながら、本當らしいね」

それに、カルはこの紙が白の連中が持っていたと言っていた。

これは仮定なのだが、もしも、この二枚の紙が、絆の持っている『ノルマ』しか書かれていない紙と同じのであったとしたら。

黒の人間だけ、ルール自をゲーム開始から一時間後までは知らないということになる。

カルはこれを白の『アドバンテージ』と言っていた。

絶対的な報量の差、これがあの怪が、そしてカルが言っていた『アドバンテージ』ということか。

「なんで、あたしたちばっかり、こんな待遇なんだよ……」

初期の報、人數、ルール、どれを取っても『黒』には絶対的な不利なゲームとなっていた。

なにが『ちょこっと』だ、この差は決定的な者じゃないか。

絶対に勝てっこない、このままでは自分は殺されてしまう。

そんなことを考えていた絆に、隣を歩いているカルが変なことを聞いてきた。

「君は人とは違う力とか持っていたりしないかい?」

「…………うちの妹が魔法だとでも言いたいのか? まあ、俺はあと15年もすれば魔法使いにはになれるけどな」

「いや、兄貴、誰もそんなことは聞いてないから……」

カルが言ったのは、勇気の答えた意味ではなく、おそらく魔法だとか超能力とかの類だろうが、そんなものこの世にあるはずがない。

いや、この世界自変なところだし、そういうものは実はあるのかもしれない。

だが、そんな力を持っていたら絆は今、こんなに絶したりしないだろう。

「そう言うカルは、そう言うのが使えるのかよ?」

絆の質問に対して、ぴたりとカルは止まった。

「使えるって言ったら……絆は、そういう力を信じるかい?」

目の前で見られたらな、と絆が返すと、ふっ、と笑ったカルが「じゃあ無理だね」と返してくる。

どうやら彼に、からかわれたらしい。

一瞬、本當に魔法やらを見せられるのかと思って、変に構えちゃったじゃないか。

そうだ、何を自分は馬鹿なことを聞いているんだそんなものは、この世にない。

絆は、そう頭の中で反芻していると、「さて、」とカルが立ち上がった。

「協力するならば、各々の目的ぐらい、確認しておこう。そうでないと、お互い信用なんてできないからね」

まるで、絆が彼を警戒していることを気づいているかのような提案である。

といっても、突然変なゲームに巻き込まれて、命まで狙われた絆は、死にたくない、目的と言っても『死にたくない』ということぐらいしか思いつかない。 

當然、思ったままを言っても変に疑われるだけなので、口をつぐんでいると、代わりに勇気が絆に親指を向けて口を開いた。

「俺たちの目的は、こいつを元の世界に戻すってことだ」

「ちょっと待てよ、じゃあ、あたしの目的はこの馬鹿兄貴を元の世界に戻すことだ!」

「君たち、本當に仲がいいね」

カルの言葉に、まあな、と返している勇気を恥ずかしさで毆りたいぐらいだったが、自分のことを考えてくれたことが嬉しかったので、目を逸らすだけにしておく。

「というわけで、俺たちは頑張って兄妹仲良く一緒に出しようってことになったが――お前の方は?」

「僕の當面の目的は雙子の妹を探すことだね、その後は考えていないよ」

おいおい、利害が一致しないぞ。

なぜなら絆か兄が、外に出ようとする一番手っ取り早い方法がカルを殺すことだからだ。

ということは、彼とはここでお別れか……と思っていたのだが、カルと勇気が握手をしているではないか。

「協力できそうだな」

「そうだね、もうしばらく一緒にいようか」

「ちょっと待て、なんでそうなる!? カルにとって、あたしたちと一緒にいることは危険じゃないのか?」

握手している二人の間で、ツッコミをれた絆を、やれやれ、と言った様子でカルが見る。

「君たちの目的は『一緒に』ここから出ることなのだろう? 僕一人を殺したところで一緒には出られない――つまり、僕たちの目的はわっていないってことさ」

そうなのか……? と首を傾げながらも無理矢理絆は納得した。

義兄と二人っきりになれないことをし殘念に思うけれども、こんな変な世界の中では仲間は多いに越したことは無い。

絆たちは、三人でしだけ今後のことを話し合ってから、勇気とカルの意見により、ひとまず、休める場所へと行くことになった。

白の首を持った人たちのいた『アジト』があったのは、北、中、南の3つある中の、南校舎の一階である。なので、絆たちは逆の北校舎で、休める場所を探した。

幸い、白にも、黒にも、會うことなく、北校舎の一階の奧にある保健室につくことができた。

歩いている最中に妹に會えるかもしれないとカルは期待していたようだったが……。

保健室の中にって、まず目にってきたのは、普通のこの部屋には絶対にないものである。

「勇気、これ……」

「ただの鉄の箱ーーじゃないな、説明で言っていた『アイテムボックス』か?」

「たぶん、間違いないね」

箱の前にカルは來たのだが、勇気は保健室の中にある薬品を調べるだけで、絆たちの元には來なかった。

しムスッとした絆は、「勝手に開けるからな」と言い、箱に手をかけた。

箱には鍵はかかっておらず、スーツケースの止め金の要領で簡単に開けることができた。

カチッ、という音と共に開いた箱には様々なものがっていた。

乾パンに水、野菜ジュースにカップラーメン、ガスコンロ、布など生きていくのに必要なものがっていた。

この分なら、食べに困る必要はなさそうだ。

更に、中には見慣れないものたくさんあった。

まず取り出したのは、黒りしたずっしりと重量のある、金屬の塊である。

「なんだ、これ……」

「拳銃……だね、有名なイタリアのメーカーのものだ」

「モデルガンとかじゃ、ないよな?」

「おそらく」

こんなものまで『アイテムボックス』にはっているのか。

し怖いと思いながらも、更に中を見ていく。

どうやら武はこの拳銃しかっていないらしく、他には救急箱や拳銃の弾、紙とペン、タオルなどがっていた。

「これは……寫真、か?」

いろいろとを取り出した最後、箱の奧底に、一枚の寫真があった。寫真は破られており、正確にいえば、あるのは半壊した片方だけである。

そこに寫っていたのは、カルに似たピンクのツインテールのであった。雙子と言うだけあり、髪型以外では見分けがつかない。

「これは、妹のものだ」

そう言ったカルが見ていた寫真を橫から取り去った。

妹の、ということは、あの寫真がルール上で説明された一人一つずつ『預からせてもらったもの』なのか。

「それ、大切なものなの?」

「君には関係ないよ」

カルは隨分大事そうに、寫真を自のポケットの中にれていた。

なぜだろうか、カルは絆に対してし冷たい、というか、警戒心を持っているような気がする。

シャー、シャーという音がするので見ると、勇気が保健室全の窓にカーテンを引いているではないか。

カーテンは黒で、閉めてしまうと、外からもからも見ることができなくなる。

「何してんだよ、勇気」

「今日はここで休むからな、カーテンをしておけば外からの侵を防げるだろう?」

確かに外から見えなければ、人がいることを示すことができ、同時に、トラップを警戒させることもできる。

まあ、遠くから銃をぶっ放されてしまえば、外が見えないため何もできないのだが。

「ほら、夕飯だ」

いつの間にか沸かしていたお湯を注いだカップ麺と、水のった紙コップを渡されたので、け取る。

カルは乾パンをし、勇気は絆と同じカップ麺を一つだけ食べ、簡単な夕食を終える。食事中は特に會話はなかった。

スマートフォンの時計を見ると、既に十一時近い時間である。

その時間を知ってしまったためか、あるいは食事を取って糖値が上がったせいか、眠くなってきた絆が目をこすっていると、

「眠るのは順番だ、カルが見張りをしてくれているからな、俺たちだけ先に眠るとするか」

「ああ、わかった…………って、は?」

勇気は今、なんと言った?

俺『たち』と聞こえたのだが……。

「ほら、早く寢るぞ、絆」

「いやいや! ちょっと待ってくれ、あたしがどうして兄貴と一緒に寢なくちゃならないんだよ!?」

「お前、何言っているんだよ、ベッドが違う。俺とお前が一緒に寢るわけがないだろうが?」

そうだよな、と言ってホッとする。

同じ寢床でないにせよ、傍に勇気がいるだけで眠れなくなる可能もあるが。隣にいるよりかは、眠れる確率は格段に上がるはずだ。

このベッドを使え、と言われてし服を緩めた後、ベッドに橫になる。

つい二時間ほど前まで、ぐっすりと気絶していたのだが、思っていたよりもこの短時間で自分は疲れたらしく、しずつ眠くなってくる。

このまま意識せずに眠ることができるかのように思われたが、空気の読めない、いや、ある意味で非常に読めてしまう兄の聲によって絆の意識は覚醒してしまう。

「なあ、絆」

「なっ、なんだよ……」

「お前、本當の親のこと、覚えているか?」

ねえよ、とぶっきらぼうに答える。

覚えているはずがない、なにせ彼のない両親の元へ來たのは彼がまだ赤子の時。預けられたのか、拾われたのかはわからないが、どちらにせよ、當時のことを覚えていない。それよりも昔の記憶など、あるはずもなかった。

「そう言う兄貴はどうなんだよ、今の親とどっちが良い?」

「覚えてなんかねえよ、そんな昔のこと」

「覚えてないって、そんなこと……」

彼は絆と違い、篝火家に來たのは小學校高學年であったはずだ。それよりも前は本當の親と暮らしていたはずなのに……。

彼の父親が一家心中を図り、偶然彼だけが生き殘ってしまったということは知っていた。

もしかしたら、聞いてはいけないことだったのかもしれない。

しかし、考えてみれば、絆は彼の素を知らなかった。

もちろん、自の兄で好きなことや嫌いなことなど、彼に気にってもらえるような知識は持っていたのだが、彼が絆の義兄になる前の話は知らない。

「勇気は、昔の家の方がよかったか?」

踏み込んではいけないとはわかっていたものの、気になって、そんな質問が、いつの間にか口から出ていた。

しばらくの沈黙があった。

勇気は寢てしまったのではないかと、不安になるくらいの長い沈黙。

「――正直に言うとな、篝火の家に來る前の家庭は俺にとって幸せな場所だった。もう、何もかもが崩れちまったが、それでも、俺は家族をしていた、かな」

「……なんか、ドラマに出てくる熱パパみたいだな」

ははっ、と笑う勇気。

確かに篝火の家は絆もあまり好きではない。

けれども、彼の言葉ではまるで、前の家族に、自分の存在までが負けてしまったような気がして、嫌なが心を流れていった。

同時に、彼が、いつか昔の家族の方へ行ってしまうのではないだろうかという不安に駆られる。

「ねえ、勇気……」

「ん? なんだよ――って、なんでこっち來るんだよ!」

起き上がって絆はカーテンを隔ててある彼のベッドへと近寄っていった。

それは決していやらしい気持ちがあったわけではなく、どうしようもない不安からの行であった。

「ちょっとだけ、手、握ってよ」

いつもはかなり鈍な兄であったが、この時ばかりは絆の気持ちを汲み取ってくれたらしく、溫かい手で絆の手を握ってくれた。

そんな兄の手を絆も握り返しながら、

「今、あんたの家族はあたしだ――だから、お願いだからさ、あたしの元からいなくなるなよ」

一瞬目を見開いた勇気は、すぐに、ふっ、とらかく微笑んで、「わかったよ」とだけ言って目を閉じた。

その様子を見て安心したのか、眠気が襲ってきた。

ベッドで寢なきゃいけないとわかってはいたが、兄の手を放してしまうのも、なんだか不安であった。

そのため、絆は兄の寢ているすぐそばで、ベッドに突っ伏した形で、気絶するように眠っていったのであった。

自分一人だけが違う、そんな環境で篝火かがりび絆きずなは育ってきた。

赤子の時に今の親に拾われた絆は、小さい頃から両親とは違う容姿であることを知っていた。

それを問うたびに、父はのつながりがないからだといった。

純粋な日本人ではないらしい絆であったが、本當の親の名前は誰も知らなかった。

が小學校高學年になる前、同じくの繋がりのない兄が家にきた。

兄は見た目も中も普通の日本人であったためか、あるいは想のない絆が嫌われていたのか、両親は兄妹を差別するように育てた。

お前とは、本當の親子ではない。そんな言葉を何度も言われ続けて、育ったためか、家族とが繋がっていないということで、ショックをけることは次第になくなっていった。

だが、絆の両親はいつも、彼のことをまるで腫るかのように接しており、家族のなかで義兄、勇気だけが彼の味方であった。

ただ、人間、慣れとは怖いもので歳を重ねていくたびに、親が彼に向けてくる、なんとなく居づらい家の空気に慣れていった。

今思えば、両親は絆に対して暴力を振るうことはなかった。怒られた記憶さえもない。恵まれていた、と解釈することもできるかもしれない。

一番近い存在であるはずの両親が絆に対してずっと、無関心を貫いていたせいか、その環境は、絆をしばかり人間不信に陥らせてしまったらしい。

だから、彼は義兄以外に心を開くことは滅多になくなった。

いや、彼が他人を信じられなくなった本當の理由違う。

それは、中學校の時にさかのぼらなければならないだろう。

中學生というのは、自己顕示が芽生え、同時に大人たちに周りと比較され始める時期になる。

そんな中、周りとは違う容姿や、格、そして、境遇は差別の対象となる。

絆もそんな被害にあっていた一人であった。

親とのつながりがないという同すべき點、周りとの協調がない點、それなのに澄ましていれば綺麗で、男ファンが多い點。

あらゆる箇所に置いて、彼を妬む人間は多く、絆は、いつも周りから盛大ないじめをけていた。

學校に行けば、當たり前のように自分の機の上には落書きがしており、帰りに教科書忘れたら最後、二度と返って來なかった。靴はいつも持ち歩かなければ、靴下で帰宅することになる。

いじめをしている人間は分かっている、しかし、あまりも人數が多く、教師に相談したところで告げ口の代償にエスカレートするだけだ。

絆を心配してくれる生徒も、當然いた。

だが、自に被害がくることを恐れているおり、味方と言えるほどの人間は一人としていなかった。

そんな中、彼を癒してくれる、いや、ストレスを解消してくれるのが、音楽であった。

嫌なことがあるたびに、激しい音楽で自分をい立たせた。

絶対に負けてなるものかと、屈伏してなるものかと、絆は孤獨な戦いを選んだ。

ちょうどその頃、ギターを初めて、絆はのめりこんでいた。

そう、あの時は見て、話し、聞き、く、人間よりもこの手にあるギターの方が遙かに自分のことを知ってくれているような気さえした。

絶対に學校へは行き、誰かに何を言われても、何されても、文句ひとつ言わずにいようと思っていた。

だが、絆にはしばらく學校に行かない時期があった。

その日は、新譜を買ったので、放課後に部活で使っていない音楽室を使わせてもらおうと、學校へギターを持ってきていた。

今まで様々なものを壊されてきたが、まさか子供が弁償できないほどのものを壊すとは考えていなかったのは、彼の責任であるともいえた。

それが、甘え考えだと気づいたのは、全てが終わってしまった後である。

ほんの一時、そう、一時だ。

休み時間にトイレに行こうと、席を立ったほんの數分の間である。

教室に戻ってきた絆は愕然とするしかなかった。

教室の自分の椅子の上、そこにはむき出しのギターが置いてあった。

弦は全て切れており、ボディにはいくつものはさみか何かで切りつけられた跡があった。フィンガーボードには深い傷があった、大方壁に打ち付けでもしたのだろう。

そして、機の上には『格好つけるな、ブズ』と水マジックで書かれていた。

その後のことは、よく覚えていない。

ただ、カァーと頭が熱くなって、首筋から全に力がみなぎってきたのは覚えている。

そして、授業が始まるチャイムで気が付いたときには、そこは慘狀と化していた。

教室中の機椅子は、ぐしゃぐしゃでひっくりかえっている者あり、いじめに関わっていたと思われる、十數人が、例外なく皆倒れていた。を流している人も一人や二人じゃない。

無関心を貫いていた生徒は絆を見て怯えており、誰かが呼んできた教師に、すぐさま絆は拘束された。

骨折や歯が割れているなど、被害をけた生徒たちは例外なく、何処か大切なものを壊されていた。その人間が陸上部ならば足、部ならば指、帰宅部ならば攜帯であった。院を余儀なくされた生徒もいた。

教師の言葉に、絆は正直に『覚えていない』と伝えた。

いじめの事実を言ったらしは同されたが、同時に自のやったことに悔いはないと告げたところ、容赦なく、一カ月ほど神病院にれられた。

不謹慎かもしれないが、そこでの生活は楽で良かった。

自分のペースで勉強し、誰の邪魔にならないところを見つけて、新しく買ったギターを弾いていた。

病院の周りは、意味もなく彼にわけのわからないことを放し始めるような連中はいたが、學校の中のような直接的な被害はなかった。

親もたまにしか來ないし、しかも、あまり長居はしない。

もちろん、義兄が來たときは話もしたし、彼が自のバイト代で買ってくる新譜や本はとても嬉しかった。

そして、一か月後、名目上は『謹慎処分』ということで離れていた學校へと不本意ながら帰ってくることになったのだ。

またいじめに耐え抜く時間が戻ってくるのか、そう覚悟していたのだが、周りの反応は絆の考えていたものとは違うものであった。

彼らは、両親と同じ、絆に関わらないようになったのだ。

怖がられるということは、楽である。

誰も必要最低限のこと以外で話しかけてこないのだから。

たった一度のことであったのに、絆に対する周りは変わった。

教師からも暴力をふるう不良生徒、などというレッテルをられ、他生徒からは怖がられる。

絆が高校に進んだ後も、同じ中學校の連中がいたため、それは続き、孤獨ながらも不自由のない生活が高校の一年間でも続いている。

篝火絆にとって、自分のことを知っていて、彼を一人の人間として、接してくれるのは兄、勇気だけであった。

そう、だから、彼だけは絶対に死んでほしくはない。

この命に代えても、彼をこのゲームから救いたい、それが篝火絆の今の願いである。

「あれ……ここは…………?」

目が覚めると、絆は薄暗い保健室であった。

眠る前の記憶をしたどると、自分がなぜ今、ここにいるのかは把握できた。

狀況把握が完了すると同時に、絆は、近くを確認する。

先に起きてしまったらしく、傍には義兄がいる気配はなかった。

手を握りながら眠ってしまうとは、なんと恥ずかしいことを自分はしてしまったのだろうと後悔した。

絆の肩には布がかかっていた。兄が配慮してくれたということでいいのだろうか。

「なんだ、これ?」

眠る前、確かに兄の手を握っていた絆の手の中には、いつの間にか一対のイヤリングが握られていた。

の花が描かれている赤い石がついた、持っているだけで不思議なじをけるイヤリングであった。

いったい何でこんなものを持っているのか。

いや、それよりも、自分は一どれくらい眠っていたのか。

スマートフォンを取り出して、時間を確認すると、なんと4時になっていた。5時間ほど眠っていたらしい。

いつもよりもない睡眠時間であったが、急事態で張しているためか、あまり苦ではなかった。

それよりも、勇気の姿が見えないことに不安を覚えて、絆は立ち上がり、ベッドの前にあるカーテンを引く。

しかし、保健室の中には誰もいなかった。

トイレにでも行ったのだろうか、いや、カルと勇気の両方が同時にここを空けるなんてことがあるだろうか。

嫌な予がする。

そばに勇気がいないことが、不安で仕方がなかった。

その時、ガラガラと言う音と共に、誰かが保健室の中にってきた。

ってきた人の方を向いた絆は、絶句する。

その景はあまりにも、非現実的なものであった。

「…………ゆっ、勇気!」

扉の前で倒れた勇気の元へ行く。

だが、何をすればよいのか、絆にはわからなかった。

彼のにまみれていた。

すでに五満足ではない。

右腕、左足がなく、左の耳はそがれ、左の目はくり抜かれていた。

息はしているものの、これでは時間の問題だ。

兄が死ぬ、そんなことは信じられない、いや、信じたくなかった。

何とかしようと、れるが、ヌメリとしたを得て、驚いて手を引いてしまう。

自分が怖がっていたという理由で勇気が死ぬ、そんなことは嫌だ。

絆は救急箱を取って、彼を抱き上げる。

すると、勇気の口が開く。

「きず、な……、無事、か……?」

「勇気、しゃべるなよ!」

「馬鹿か、話さなきゃ、言も言えやしないだろうが」

「…………っ!」

勇気の言葉をそのまま解釈するなら、彼はすでに生きることを諦めていた。

絆は、包帯を取り出して、中からあふれてくるを止めながら、

「勇気こそ馬鹿だろ、死ぬとか決めつけてんじゃねえ! あたしが、助けるから……」

「きず、な……」

「うるさい、だから口を開く――」

「絆!」

怒鳴られて、絆はビクッとして、口を紡ぐしかなかった。

それでも手は、彼を一秒でも長く生かそうと慣れない手つきで、手當てをしていく。

彼が大聲を出したためか、はドクドクと流れていた。いくらふさいでも流れていく。

「くそっ、止まれよ、止まれよ!」

行き場のない怒りを聲に出しながら、絆は手當てしていく。

しかし、いくら抑えても白いタオルは真っ赤に染まっていくばかり。

傷口はどれも、まるでギロチンに切られたように綺麗なもので、プラモデルの手足が取れたような跡であった。

必死に介抱しても、一向に良くなる気配はない。むしろ、悪くなる一方だった。

次第に彼の目から涙が溢れてくる。

その涙をぬぐったのは、勇気の手であった。

「泣くなよ――お前には、力が、あるんだから……このゲームを、生き殘るだけの、力が」

「……なに、言ってんだよ」

兄貴一人を救えない自の無力をじていた絆に兄は、そんな言葉を告げた。

ゲームを、一人で生き殘ったところでどうなる、元の世界に勇気がいなければ、絆にとって帰る意味はなくなる。

「そんな力、いらないよ、あたしには勇気が必要なんだ」

「……まるで、する乙の、告白だな」

「どんな解釈をしてくれてもいい、だから、死なないで!」

「……無茶言うなよ」

絆にとって、兄という存在は彼とそれ以外の世界のすべてをつないでいた。

彼がいなくなるということは、絆にとって、この世に生きている意味がなくなるということである。

彼がいなくなれば、篝火絆の心は、きっと崩れていき、何も考えられなくなるだろう。

「あたしを、置いてかないでよ、お兄ちゃん!」

兄のの前で、ボロボロと泣いた絆に対して、勇気は「すまない」、とだけ答えた。

勇気のその回答に、絆は泣き崩れてしまう。

そんな義妹に兄はゆっくりと話していく。

「……俺の命は、長くない……俺の言は、ただ一つ――『絆、お前がゲームから勝って生き殘ること』、だ」

「そんなの……」

「……頼む」

彼の眼に、勝てるはずもない絆は、頷いてしまった。

それでも泣き止む様子がなかった絆に、兄は自の學生帽子を深々と被せた。

そして、勇気は、「ありがとう」と言った後、苦しそうに、続けた。

「お前は、ヒヤシンスの花が描かれている、イヤリングを持っているはずだ」

嗚咽をまえながらも、コクリ、と絆は頷く。

先ほど起き上った時に、いつの間にか持っていたイヤリングのことを言っているのだろう。

「そいつは、お前の、『力』だ……そいつがあれば、お前が負けることは、無い」

力……。

イヤリングを取り出すと、そこには、微かにも確かな溫かさがあった。

これが、勇気が、自分のために殘してくれる、生き殘る方法。

「このゲームを、クリアするために、必要なこと、は……」

「勇気!」

勇気は、息をするだけでも苦しそうであった。

絆は彼を抱き上げる。

「勇気……やっぱり、あたし――」

「世界を疑え……神を、疑え」

勇気なしでは生きていけない、そんなことを言おうとして、思いとどまる。ここでその言葉を言ってしまったら、彼のたった一つの願いに反することになってしまう。

それでも、耐え切れない絆は彼の頬に涙を垂らす。

「お前って、結構、綺麗、だったんだな……」

最後に、そう言った彼は、目を閉じる。

彼の名前を何度もぶも、二度と返答が來ることはなかった。

絆の腕の中で息を引き取った兄。

その顔に苦痛の表は一切なかった。

「あっ……ああ、あああああああああああっ!」

かなくなった兄を抱きしめながら、絆は聲を上げる。

記憶が混するくらい、頭がおかしくなるくらいにび、泣いた。

絆の聲は、いつまでも響いていた。

我に返った絆は、半壊した兄のを保健室のベッドに寢かせた。

本來ならば、埋めなければならないのかもしれないが、こんな世界に一人彼のを置いていくなんて、絆には出來なかったのだ。

ふらふらと、廊下を數歩、歩いた絆は、何もないところで崩れ落ちる。

これは、何の冗談なのだろう。

悪夢なら冷めてほしい。

(勇気が、死んだ……)

床を見ると、勇気のの跡が永遠と続いている。兄は、最後に義妹にあうために一どこから歩いてきたのだろうか。

ボーと、電気ので明るくなっている廊下の先を見る。

見ていると、段々と、自分が次に何をすべきか、頭の中で考えついた。

このの跡の先には――兄を殺した、人間がいる。

兄の手を、足を、目を、耳を、切ったそいつは、首を取っていなかった。つまり、ゲームの関係がなく、兄は殺されたということになる。

兄を殺した奴、そいつは、今ものうのうとこの世界の中で生きている。

それがたまらなく悔しい。

「あたしが……やらなきゃ、な…………」

ゆらり、と立ち上がった絆は、兄の形見のイヤリングを耳に著ける。

その瞬間、彼が、言っていた『力』というものを理解した。

これなら、やれる。

兄を殺した奴が誰かはわからない。ここには警察は來られないし、もうすでに証拠なども消してしまっているかもしれない。

だが、構わない。

それならば、自分以外の全てのプレイヤーを殺せば良いだけのこと。

絆は、學生帽子を深くかぶり、一歩、一歩と、廊下を歩き始める。

「あたしが斷罪する――皆殺しだ」

世界で一番大切なものを失った絆の歩みには、迷いはなかった。

『復讐鬼』と化した一人のは、赤い月の下で歩いていったのであった。

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