盛り上がっていたライブの熱が一番集まるのは、それは一どんな時だろう。

それは、きっと歌手やグループによって違う。

初めを一番盛り上げることもあるし、最後の場合もあるだろう。あるいは中盤を山場に持ってくることもあるかもしれない。

しかし、『GRB』はいつも必ず最後、それもアンコールの一曲の時、會場の熱は最高に達する。

『じゃあ、アンコールはいつもの曲だ！ 皆、最後までついて來てくれよ！』

そうんだは、學帽を被り直し、ギターを持った。他三人のたちに目配せをして、彼は曲名を言いあげる。

「じゃあ行くぜ――『black　rings』」

いつも音楽プレイヤーで聞いているはずなのに、無に懐かしくじる曲が聞こえてくる。

昴萌詠は無意識にの前で手を握りしめていた。

ゲームが終わる直前に『パイシーズ』の放った一発の弾丸。

鉛玉は彼のを正確に抜いていたはずだった。

詠にとって、彼が武を持って傷つけてきたことは予想外であり、回避することなど、當然、できなかった。

彼の弾丸が詠のをつらなかった理由。

まるでドラマのワンシーンのような奇跡であった。

彼たちの演奏を聞いてそのを震わせながらも、詠のの前にある手だけは決してその前からかすことなく、開くこともなかった。

曲が終わり、殘響さえもが會場から消えたとき、詠はそっとその手を開いた。

そして、手の中にあるものを見て、ふっ、と笑う。

彼の小さな手の中には理的に曲げられた後のある一つの金屬ピックが握られていたのであった。

詠は『パイシーズ』のゲームが終わった日から一度も彼たちとは會っていなかった。

同じ『ルード』であったカルとルッカにさえ、會えず仕舞いであった。

だからといって詠が彼たちのことを忘れたのかと言うとそうではなく、むしろ毎日彼たちの音楽を聞いていた。

靜かに彼たちのファンであり続けた。

だから、今回も四人の作る歌を聞けるだけでよかったのだが……。

『昴萌すばるめ詠よみさま、楽屋の前で、待っている人たちがいます、だから早く來てください』

ライブが終わり、『GRB』を絶賛している二人の姉と共に、帰ろうとホールの付の前を通り過ぎようとしたときであった。

場アナウンスとは思えない言葉が流れた直後、周りのファンたちが騒ぎ出す。

當然だ、この聲は篝火絆本人のものだったのだから。

人前で自分の名前を呼ばれたことに、恥ずかしくて赤くなっていた詠に、自分とさほど変わらぬ長の姉である琴織ことおり聖せいが、

「詠、呼んでいますよ？」

「うっ、うん……」

思わず期のない返事をしてしまう。といっても、彼たち會うのは半年ぶり、どんな顔をすればいいのかわからなかった。

助けを求めて、もう一人の姉である飛鷲とびわし涼りょうを見るが、彼は今の放送に普通に驚いている様子で頼りになりそうになかった。

詠が放送で言われた通りに行くべきか迷っていると、一人のが走ってくるではないか。

「詠！」

「えっ、ちょっと、わっ！」

特徴的な學帽を見たと思ったら、その人は詠に飛びついてきたではないか。

ぎゅぅ、と痛いくらいに抱きしめられる。

涼に勘違いされたくなかった詠は、とりやえず、彼を引き離そうとするが、中々離れてくれそうになかった。

恥ずかしくて、飛びついてきた――篝火絆を押し戻そうとしたのだが、彼がボロボロと泣いている顔を見てしまって、その手を止める。

「あたし……ずっと、もう、死んじまったのかと…………」

「……ごめんね」

今更だが、生きていることぐらい知らせておくべきだったと後悔する。

ただ、雙子は詠の生存を知っていたはずだったが……。

「でも、どうして私がここにいるってわかったの？」

「……だって、ライブ中に見えたから」

見えた？

本日、この會場は一萬人以上っているのだ。

そんな中から見つけ出せたというのは、偶然を通り越してもはや運命すらじる。

「本當に、知り合いだったのね……」

「だから言ったでしょリョウちゃん。私、絆たちとは友達なんだよ」

し誇らしげにを張って言ってみるが、絆がまだ話してくれなくてし間抜けな格好になってしまった。

「えーと、絆、そろそろ放してくれないかな」

「……いやだ」

「えっ？」

思いもよらない絆の返答に驚いてしまう。

絆は、ギュッと、詠のを抱きしめたまま、涼の方へと向いた。

隣にいる聖と共に、その姿をじー、と絆は見る。

そして、の勘と言うものが働いて何かをじ取ったのか、次の瞬間、絆は大変なことを言い出した。

「渡さない、詠はあたしのもんだ！」

そんな宣言を堂々と、ファンが一杯いる前で絆はしていた。

暴走する絆の頭をポコリ、と手刀で叩いたのは、やはり巫服の長峰朱音であった。

「貴様はもうし人前だってことを自覚しろ！」

その後ろからはしだけ大きくなったような気がする雙子の姿があった。

「仕様がないんじゃない、これが普段の――と、これは言わない方がいいね」

「こっ、こんにちは！」

カルは何か言いかけたみたいだが、絆の目を見たら何故か、途中で言葉を切っていた。

一方で、雙子の片割れ、ルックはしだけしっかりした印象をけた。

「いいじゃねえか、別に……」

印象と言えば、口をとがらせながらも、まだ放してくれない絆だ。

もうしもろくて、格好良くて、悪く言えばとっつきにくい印象があったはずだが、人はたった半年で変わってしまうものらしい。

でも、そんな年上の彼を可いと思ってしまっている自分もいるわけで……。

一瞬考えてしまって、詠はすぐに頭を橫に振る。

（ちっ、違うよ、これは浮気とかじゃない）

昴萌詠にとっての一番は飛鷲涼、彼は王子（）？様なのだ。これは揺るがない。

なら絆は……と考えて、頭上を見る。

「お姫様、かな？」

「ん？何言ってんだよ？」

なんでもない、と言った詠は、じゃあ自分は一どんな分の人なのだろうと軽く脳パラドックスに迷い込む。

どうでもいいことを考える詠に、朱音が聞いてくる。

「そちらの二人を私たちにも紹介してくれないか？」

「……絆のライバル登場って、ところかな」

「でも、私たちはね、絆を応援するから！」

じない朱音に、からかうカルとルックに、抗議の目を向ける絆。

半年の間に、彼たちの間もしは進展しているようだった。

「えっとね、二人は私の大切なお姉ちゃんたちなんだよ。それで――」

詠は自分のことを救ってくれた大切な二人の姉のことを、半ば自慢話のようにして語りだす。

途中真っ赤になった二人に止められたが、彼の口が止まることはなかった。

二人の話をしていると、絆が、何が気に食わないのか、膨れながら必要以上に抱きしめる力を強めてくる。

あの日のライブ前と同じぬくもりであった。

それをじた途端、半年前の何処か別の世界で行われたライブの直前に止まっていた時間が戻っていく。

すると、半年の間に変わったはずの彼たちの見え方が違ってきた。

彼たちは実際の、幹部分は変わっていない。

そのことに今更ながらに気づいてしまった詠はなぜか、し安心してやんわりと笑ったのであった。