《輝の一等星》の狂気
出會いがあるのだから、別れがある。
それはよく聞く當たり前の言葉であったが、実は途方もなく殘酷な言葉であるようにじる。
人の繋がりがいつかは切れてしまうという意味であり、また、『永遠の』なんてどこまでもキザで、ロマンチックで、それでいて魅力的な言葉を否定しているのだから。
だから、盲目的に『永遠』という文字を信じていたにとって、別れというのは、それも、心の矛先は決まっておらずとも、自の中で大きな存在であった人間の『死』というのは、理解しがたいことであった。
的になった彼を止めることができなかった琴織聖は、一人、自の部屋の大きな、まるでおとぎ話の中で出てくるような四方を薄いカーテンで包まれたベッドの中で眠っていた。
いったいどのくらいここにいるのか、自分が生きているのか死んでいるのか、どこからどこまでが夢で、現実なのか、わからなくなるくらいに長い時間彼はこの部屋にいて、耐えることなく、泣きはらしていた。
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彼のから毒が抜けきるのには數日がかかった。
その間の記憶は斷片的なものでしか覚えていなかったが、深い絶に耐え切れず、死にたいと思ったのは目覚めた瞬間と、その一日だけだ。
考えることもなく、手にあったナイフでリストカットを試みるが執事に止められ、その後、雇われたメイド三人による監視がつくようになっていた。
しかし、そんなが壊れていた聖も段々と、冷靜になるにつれて、そんな思い馬鹿な行は止める。
目覚めてから二日目には悲しさ、怒り、苦しみ、あらゆるが渦巻いて、かぬを呪い一日中、涼のことを思い、涙を流した。枕を濡らすという言葉があったが、真っ白だった枕は數時間で見事にびしょびしょになり、新しいものをメイドが持ってきてくれたのを切れ切れになっている記憶の中で覚えている。
三日目にはようやく手がくようになり、同時に足もくようになったが、寢かされた自室のベッドから出たいとは思わず、現実から逃避し、夢を見たいがために、ずっと淺く眠っていた。
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そして、四日目。毒は完全に抜けきり、の方は良くなってしまった。
食事には手を付けなかったが、様々な人が聖に會いに來て、食べや見舞いの品を置いていった。しかし、誰とも會う気がせず、聖はずっと部屋に閉じこもっていた。
涼が死んだあの晩のことを思い出すたびに、涙を流し、吐き、自分がどうして生きているのか不安になり、慘めに思い、死にたくなった。
しかし、死のうとすると、その瞬間に、彼の聲が脳に聞こえてきて、手が止まる。下をかみ切ろうと口をかそうとすると、誰もいないのに、いつも彼に頬をぶたれたような気がして、思いとどまる。
熊谷が、『オルクス』がいたということを知らせに來た。彼から送られてきたのは、初めに裏切り者である『アルデバラン』を殺すといったものであったが、生憎と余裕がなかった聖は何も考えることができなかった。
日に日に痩せていく自分のを見ていると、嫌になる。頬がこけているし、栄養を取っていないせいか髪のもぼさぼさだ。
これでは涼に會った時に気味悪がられてしまうではないか。
何とか、無理矢理にでも食べを口の中にれようとするが、心が食べをけ付けなかった。すぐに吐いてしまう。どこもは悪くないのにだ。
そして、五日目の朝、目を覚ました聖は、心がとても楽になっているのに気づく。
どうして自分は昨日まで、いったい何について悩んでいたのだろうか。うまく思い出せなかった。
いつものように、朝食を食べてから、鞄をもって學校に行く。
熊谷に心配されて、止められたが、なぜ心配するのかわからない。自分はどこも悪くないのだ。
今日は、涼に會えるだろうか。
そんなことを思い、一瞬チクリ、と心を痛んだことも忘れて、學校へ行く。そして、いつもの部屋で夕方まで勉強して、帰る。
家に帰ると機に向かって、し勉強を進めてから、ふと、涼のことを思い出す。
スマートフォンを取り出した聖は、涼の攜帯番號を表示させる。
彼は出てくれるだろうか、突然かけて気持ち悪いとか思われないだろうか。
そんなことを一瞬思ったが、勇気を出して電話をかける。
プルルルル、と永遠と、コール音が続く。忙しいのかと思っていると、彼の聲が聞こえてきた。
『何かしら?』
「涼、あの、今何をしていましたか?」
『なにもしてないわ、夏休みにってからずっと、とんでもなく暇よ』
「規則正しい生活をしないとダメだと、いつもいっているでしょう?」
『わかっているわ、まったく貴は私のお母さんか何かかしら』
ふふっ、と笑いながら、迷ではないようで安心した。
ベッドに座りながら、他のない話をして、最後には「おやすみなさい」と言って、電話を切る。傍にいた執事の熊谷は青い顔で、メイドたちはまるで頭がおかしな人を見るようなで目で聖を見てきたが、彼は特に気に留めはしなかった。
今日は聲が聴けたから、とても良い日だと思って、聖は高揚した気分のままに眠りについた。
翌日、昴萌詠が家に訪ねてきた。
どうして家の位置を知っていたのだろうと疑問に思ったが、拒む理由もない。
もちろん、中にれて、客間で迎える。熊谷においしい紅茶とお菓子を用意させた。
こんにちは、靜かに言った彼は聲に元気がなかった。いつもの可らしい笑顔もない。しやせたのではないか、頬が痩せこけていた。
「どうしたのですか、元気がなさそうですね」
「セイ姉ちゃんは、もう、平気なの……?」
「私はずっと、元気ですよ」
まるで病人に送るような言葉であったが、平気もなにも、自分はどこも悪くない。いたって健康だ。
お菓子好きな彼にしては珍しく、詠は出された紅茶にもお菓子にも手を付けなかった。
もったいないと思いながら、紅茶の香りを楽しみながらのみ、甘いお菓子を堪能している聖を無言で見ている。
詠からは何も言ってきそうになかったので、彼と一番弾む會話の種をまくことにする。
「そういえば涼はどうしていますか、今、貴は涼と一緒に住んでいるんですよね?」
しかし、詠は意外なことに食いついてこない。
驚いたような様子で聖の顔を見るだけであった。
いつもならば、涼のことを聞いただけで、どこがカッコいいとか綺麗だとか、可いとか、まるで百合を與えた翔馬のように、永遠と語るというのに。
「本當にうらやましいです、涼と一緒に住めるなんて、私にはできないことですから」
怪訝な顔をしている詠の顔の意味をしているところがよくわからず、「どうしたのですか?」と訊いてみる。
「ねえ、それって本當に言っているの?」
「私、変なことを言ったでしょうか……?」
彼の言っている意味が分からず、聖が眉をしかめていると、ギリッ、と詠は歯噛みをした。
彼の怒りにれるようなことをしただろうか。いや、人間調が悪い時というのは、緒不安定になるものだ。
「詠、貴見るからに調が悪そうですよ、病院に行ったらどうですか?」
「……のは……でしょ……」
ぼそり、とつぶやいた詠の言葉はよく聞き取れなかったので、「何と言いましたか?」と聞き返すと、詠はバンッ、と機をたたいた。
「おかしいのは、セイ姉ちゃんの方でしょ!」
彼は何を言っているのだろうか、自分は正常だ、どこも悪くはない。
詠が思い切り機を叩いたことにより、こぼれてしまった紅茶が彼のスカートを濡らしたのを見て、ハンカチを差し出しながら、
「何を言っているのかわかりませんが、これで吹いてください」
「……っ!」
パシンッ、と差し出したハンカチを振り払われる。詠はこんなに理不盡な怒り方をするような人間だっただろうか。
さてどうしたものか、と怒りのお姫様への対処法を考えてみるが、一つしか思い浮かばなかった。
「やはり熱があるみたいですね……今、涼に電話して迎えに來てもらうように頼みますから」
「えっ……」
信じられないようなものをみているかのような目で見てくる詠を無視して、スマートフォンを取り出して、涼に電話をかける。
電話はすぐにつながった。
『なによ、今お晝を食べているのだけど』
「もう夕方ですよ、昨日も言いましたが休み中とはいえもうし規則正しい生活を――とそういう話ではありませんでした」
『用は早く正確にお願いするわ』
「詠がうちに來ているのですが、し調が悪いみたいなのです。迎えに來てはもらえませんか?」
『まったく……世話が焼けるわね』
やれやれといった様子であったが、了承してくれたようだった。
話もついたところで、詠に向き直った聖は、笑顔で彼に向けて、
「よかったですね、詠。涼が向かえに――」
「ふざけないで!」
そうヒステリックにんだ詠は彼のスマートフォンを払って床におとし、ぐらをつかんでくる。その目には涙すら浮かべていた。
「もうやめてよーーリョウちゃんは、もう……」
何を言っているだろうかこの子は。
今日の詠は本當にどこかおかしいと思った。面ではなく、神面が。
「ショックなのは私も同じだよーーでも、目を冷まして。前を見なきゃダメ……」
「私は正気です、貴こそ!」
摑んできた詠の腕を振り払う。彼の手には力はなく、簡単に払うことができた。
詠はそのまま、倒れるようにを預けてくる。泣いているようで涙が服から伝わってきた。
「リョウお姉ちゃんは……死んだんだよ……」
そんな馬鹿な話はない、そう反論しようとしたとき、何かの記憶が頭を過った。
まるでスライドショーのように寫真を繋ぎ會わせた斷片的な記憶たち。和服のアンタレスと、彼に敗れた涼、巨大な蛇にその彼のが食われる景が一瞬流れる。
急に頭が痛んで、その場に倒れこむ。
涼が死んでいる、そんな馬鹿げたことを否定できないのはどうしてだろうか。
そうだ、と思い、まだ繋がっているはずのスマートフォンを取って耳に當てる。
しかし、聞こえるのはプープーという、規則的な音だけであった。
切ってしまったのだろうかと思い、リダイヤルでかけてみるがなかなか繋がらない。
そんなはずない、今の今まで話していたのに、と思って辛抱強く待っていると、ガチャ、という音のあと、ようやく出たと一瞬安心したのだが、
『現在この電話は使われておりません、恐れりますがーー』
急な絶と恐怖が襲いかかってくる、何がどうなっているのか、理解できない。
なぜ、涼は電話に出てくれない?
この世のとは思えない、頭の中にちらつく記憶は何だ?
どうして、詠はそんな目を向けてくる?
「セイ姉ちゃん!」
自分の名前を呼ぶ詠が怖かった。
なにがなんだかわからなくなった聖は、得の知れない何かから逃げ出すように、部屋から出ていったのであった。
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