《輝の一等星》雨降る夜
琴織聖の後を追ったものの途中で彼を見失ってしまった昴萌詠が、走ったことによってれている息を整えていると、頭に水滴が落ちてきたような気がして、空を見上げる。
日が落ちる前まで快晴だったというのに、日が暮れて、暗くなるにつれて、まるで闇が世界を支配していくように、黒い雲が空を覆い、雨が降っていた。
ここは地下世界なので、真上で急激に変わりを見せていく天気は何処かの誰かの仕業なのだが、その誰かも悲しいのかな、なんて考えてしまう。
曇天の空を見たのはいつ以來だろうか、前に頭上へ降ってくる雨をじたのはもうずいぶん昔のことのようにじる。思えば、しばらく空なんて見上げている暇なんてなかったように思う。
そういえば、姉も空を眺めるのが好きだった。なぜかここしばらくは、その姿を見ていなかったが。
詠のもう一人の姉である琴織聖は、リョウお姉ちゃんが死んでしまったことで壊れてしまった。
彼は強いように見えて、年下の詠でもわかるくらいに脆く弱い部分がある。
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だから、自分がなんとかしなきゃならない。
夏特有の、冷たくない雨をに浴びながら詠は聖の姿を見落とさないように眼をかしながら住宅街を歩いていく。ずぶ濡れになりながらも、不思議と不快に思うことはなかった。
「リョウちゃん……」
つい、まるで真夏日に思わず『暑い』と言ってしまうように、詠は姉の名前を呼んでいて、自分の言葉を自の耳で聞いて驚く。
そして、まだ、やっぱりこの思いがぬぐい切れていないと気付く。
孤児院で生活しているときにできた飛鷲涼という『お姉ちゃん』は詠にとって、唯一無二の存在であり、他の誰にも代えることができない大切な人だった。詠にとってのすべてだったと言ってもいい、重すぎるくらいのだとは自分自でもわかってはいたが、姉は一度たりとも拒絶することはなかった。だからこそ、甘えてしまっていたのかもしれない。
涼が死んだことを聞いた詠はまず、信じられなかった。どんなに過酷なことが目の前に広がっていても涼しい顔で前を向ける彼が、敗北することへの恐怖を知らない彼が、そう簡単に死ぬはずがないと、怪我により全包帯でミイラのようになっている青年に対して、力説し、彼の見たことを否定しようとした。
だが、1日、2日、と経っているのに姉が帰ってこないことに、苛立ちを覚えながらも、青年の言葉が真実なのではないかと、思うようになっていった。
リョウちゃんが帰ってこないかもしれない、そう思って一日中泣いたし、周りの人に八つ當たりもしてしまった。
そして、勝手に踏ん切りをつけた気になっていたのだが……。
「私も……セイ姉ちゃんのこと、言えないや……」
長い間彼を追っていたせいか、一日や二日會えない程度では、涼がもう二度と戻ってこないとは思えなかった。
自分の場合は聖よりも深刻かもしれない。
聖は、涼の死をけれ、何度も彼のもとへ行こうとし、命の危険をじた彼の脳が記憶を一時的に抹消させたのだ。
しかし、詠は今でもどこかで涼がひょっこり帰ってくるのではないかと無意識下で思っていた。
それはつまり、このが朽ち果てるまで、彼を待つという意味だ。
詠がただただ純粋に信じている、といえば聞こえはいいが、その真実は一生をもういないかもしれない姉のためだけに捧げる呪いに他ならなかった。
「リョウお姉ちゃん、どこにいるの!」
彼の名前をんでみる、詠そばを通るサラリーマンが変な顔をしていつの間にかずぶぬれになっている詠を見ていた。
その場に立ち止まって詠が佇んでいると、目の前に一つの人影が表れる。
「なに泣いているのよ、しっかりしなさい」
「えっ……」
そこには涼の姿があったのだが、詠はすぐに自分も幻覚を見ているのだとわかった。
なぜならば、目の前にいる涼はいつも傍にいてくれる優しいだけの姉の姿ではなく、し大人びて、しくも格好良く『化されすぎている』一人のだったからだ。
しかし、それでも関係ない。
幻覚だろうが、夢だろうが、目の前に大好きだと堂々と公言できる姉がいるのだ。
何かを伝えなければと思い、口を開きかけるが、何も言えなかった。
「どうしたのよ、いつもニコニコしている詠らしくないわよ?」
不敵な笑みを浮かべながら、詠の頭に手を乗せた涼が言う。そんな彼の前にいてはいけないと思った詠は一歩下がって彼と距離をとる。
「……ここはリョウちゃんがいない世界なんだよ? 笑ってなんかいられるわけないじゃん!」
詠に拒絶された涼はし困した様子だったが、詠はそのまま続ける。
「私は涼お姉ちゃんと、セイ姉ちゃんに助けられてここにいる。でも、それなのに私はリョウちゃんを守るどころか……一緒に戦うこともできなかったんだよ? リョウちゃんが死んだ瞬間だって、傍にいられなかったんだよ?——私、こんな思いをするために生きたかったわけじゃない!」
確かに、を蝕んでいた『アルデバラン』のはほとんどなくなり、詠の壽命も延びた。それを詠は確かに喜んだ。
でも、それはただ生きながらえることができたからじゃない。
「生きてたって、そこにリョウちゃんがいなきゃ――生きている意味なんて、ないよ……」
こんなことならば、あの日、し違和を覚えたときから涼から離れなきゃよかった。
そうしたら、格好良く彼を守ることはできなくとも、代わりくらいにはなっていたかもしれない。
「なら、強くなりなさい。詠なら――私の大切な自慢の妹なら、それができるわ」
「……っ!」
その言葉は幻聴にしては頭にバットで一発ガツンと毆られたような衝撃が來るものだった。
まるで本當に涼から言われているような気がして、うつむいていた詠が前を見ると彼はすでにかなり遠くへいた。
わけがわからないまま、その背中を詠は追っていく。
これが病的なまでの幻覚であったのならば、おとなしく、神病院にでもなんでもる。
でも、今見えているところにいるは涼と思わなければならないような気がした。
その背中を追いながら、思う。
會いたくて、會いたくて、ようやく再開できたのに、どうしてまた行ってしまうの?
どうして、自分は、いつものように抱き著いてまで彼を引き留めようとしないの?
見通しの悪い雨の中、が路地を曲がったのを確認して、詠もその後を追って曲がる。
しかし、その先は行き止まりで彼の姿はどこにもなかった。どうやら、本當に醫者に診てもらう必要があるらしい。
ただ、その場からすぐに立ち去ろうとは思えず、涼の幻覚が消えた後を前にして、雨に打たれながら呆然と立ち盡くしていると、
「どうして泣いておるじゃ、詠どの?」
「……え?」
背後から聞こえた聲に振り返ると、そこには和傘を持った一人のの姿があった。きれいな青の和服を著ているは『賭刻黎』という名前こそ知っていたが、直接的な接點はなかったため、こうやって聲をかけられたことに驚いた。
いや、それよりも、自分がいつの間にか泣いていたことに雨ですでに濡れていたせいか、全く気付いていなかったことのほうが驚きだった。嗚咽まで混じっているというのに。
「もう手遅れかもしれぬが……っていくか?」
自分よりも年下のに気を使わせてしまったらしい。黎は、詠を傘の中にれてくれる。
そして、こぎれいな乾いたハンカチを渡されたので、詠はに遠慮することなく涙を拭いた。
雨に直接當たっていないだけでしだけ落ち著くと、なんだか一気に現実に戻された気がした。
若干の冷靜さを取り戻した詠は、ふと思ったことを黎に聞いてみる。
「ねえ、今ここに誰か來たのを見なかった?」
そう言って行き止まりを指さすと、黎はその先を見ながら首を橫に振った。本當に涼はおろか人ひとりいなかったのか。
じゃあ、あの懐かしい覚はいったい……と考えていると、『亡霊』なんて言葉が真っ先に出てしまい、縁起でもないとすぐに頭を振る。
そんな詠の行を橫で不思議そうに見ていた黎が、
「そんなことより詠どの、早く行くのじゃ、早く著替えなければ風邪をひいてしまう」
「えっ、ああ、うん……」
黎に促されて、詠はその場から立ち去っていく。どこまでも降り注いている雨の音にじって、涼の聲が聞こえてくるような気がして、何度も振り返ったがそこに彼の姿はなかった。
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