輝の一等星》賭刻家にて

「……はぁ~」

寒いに頭から熱いシャワーをかぶり生き返る気分を味わいながら、詠はぼんやりと考え事をしていた。

ここは賭刻家。

風邪をひくからとかいう理由で、家の近かった黎にお風呂を、彼の半ば強引な押しによって貸してもらえることになったのだが、知らない人の家というのはどうも落ち著かなかった。

しかしながら、どんなところだろうと冷えたはまるでの中にあった氷の個が解けていくような覚とともに、溫まっていく。

賭刻黎とは初対面と同然のはずなのに、どうしてこんなに親切にしてもらえるのだろうか、彼のまっすぐな行為に若干の気持ち悪さをじたものの、なんとなく、斷る気にはなれずにここまできてしまった。

「バスタオルと服はここに置いておくのじゃ」

「えっと……ありがとう?」

「例などいらぬ」

明のプラスチックの扉の向こう側から聲がして、詠が答えると、すぐに影は消えていき、その後ろから「レイ様~」なんて聲が聞こえてきていた。

Advertisement

この家には黎のほかに可らしい姿をした、彼よりもし年下の盲目のがいるのだが、彼のほうは詠が家に來てかなり警戒していたので、逆にし詠は安心した。

姉妹にしては似ていないが二人はいったいどういう関係なのだろうか、と考えていると、真っ先に自と涼に似た関係というのを想像してしまった。彼たちの年齢のころは詠も涼にべったりだった記憶があり、涼が誰かほかの人と話していたりするとかなり嫉妬して相手に対して敵対心を持っていたことを思い出した。

どれだけ心が狹かったんだよと思いつつも、今でも、姉がほかの子と一緒にいるのはあまり良い気分ではなかったりするので、もしかしたら、あまり長していないのかもしれない。

クスッ、と過去の自分に対して思い出し笑いした詠は目の前の鏡を見て、自の笑った顔をずいぶん久しぶりに見たような気がして驚く。

自分が笑顔を取り戻したからではない、始めてくる場所で、詠にとって決して気を許せる場所ではないというのに、自分の警戒心が徐々に薄れていっているとじたからである。

Advertisement

なんとなくだが、安心できてしまうこの違和について考えながら湯につかってしのぼせるくらいまで溫まり、し自分のからすると小さめの誰かの服を著て、浴場を出ると、リビングには四人分の食が並べてあることに気付く。

食べていくじゃろう? と問われて、詠が振り返るとそこには小さなエプロン姿でお玉を持っている奧様スタイルの黎がいたのだが、どう見ても家庭科の調理実習中の小學生にしか見えなかった。

「えっ、でも……」

「詠どのの服は今洗濯乾燥機にかけておるからな。どのみちし待ってもらわねばならぬ――それにうちはいつも両親が遅いし、兄も遅くなるかもしれないのだ。いてくれた方がシノノも喜ぶじゃろう」

そういう黎に隠れていたは明らかに不満そうな顔をしていたものの、何も口にすることはなく、閉じられた目で抗議の眼を作り、詠へと向けていたのだが、まるで昔の自分を見ているようで可らしく思った詠はなんとなく、「うん、わかった」と黎の行為をけ取ることにした。

「そういうわけじゃから、シノノ、ご飯ができるまで詠どのと遊んでいてくれぬか?」

「レイ様がそういうなら……」

おずおずと黎の後ろから出てきたシノノというらしいエメラルドグリーンの獨特な髪は若干の頬を膨らませながら、「こっちです」と、詠を何処かへと案していく。その後についていきながら、どう見ても同じ親から生まれた姉妹には見えない彼に、無に黎との関係を聞きたくなったが、複雑な理由があるかもしれないといくらの詠でも予想できたので、空きかけた口は閉じられた。

シノノが案してくれたのは、どうやら彼たち二人で使っている部屋らしかった。機に本棚、ベッドと最低限の家しか見つからず、ゲームやパソコン、おもちゃなどが一切見當たらないあたり小學生にしては子供っぽさのない部屋のようにじる。変に落ち著きのある黎からすれば普通といえば普通、意外といえば意外な部屋で、というのも、いつも和服を著ているイメージが強いからか、畳が敷かれている和室を想像していたからだ。

テーブルの前に置かれた座布団に座ると、一つしかないベッドにポスンと座ったシノノは、詠のほうを向いて、いきなり聞いてくる。

「お前はレイ様のなんなんですか?」

「えーと、初対面だし赤の他人なんじゃないかな……?」

「そんなやつをレイ様が家にれるわけないです」

敵対心と嫉妬心がバリバリ伝わってくるシノノにもしかして自分もリョウちゃんのことになったら他人に対してこんな対応をとっていたのだろうかと、思って若干の反省をしながらも、詠の言うことは噓偽りのないことのわけで……。

しかし、彼の言う通り、いくら仲間といわれているとはいえ、知らない人間を家に招きれ、ご飯まで食べさせるなんて抵抗はないのだろうかとも思ってしまう。詠が借りている涼の住んでいる子寮まではそこまで遠くないはずだし。下心しかないエロ親父や慈悲深いマリア様のような人はもちろん別だが。

「シノノ……ちゃんは黎さんのことが好きなんだね?」

「もちろんです、レイ様はシノノにとって神様ですよ」

よく考えると、賭刻黎が詠を招いたことにも何か意味があるのではと考えてしまい、黎がいかに魅力的な人間であるかを長々と語るシノノの話を聞きいていると、いかに彼が黎に心酔しているのかわかった。怖いくらいであるが、彼を真っ向から否定できる立場に自分がいないことくらいわかっていたので、口を閉じたままにしておく。

そして、語らせておいたらきっと永遠に終わらないと思いながら詠が、ふと、部屋の中のがきになってキョロキョロと詠は質素な部屋の中を見回してみると、一つだけおかしなことに気付く。

「レイ様はシノノの命をすでに二度助けてますです、その優しく力強い聲を聴くだけでシノノは生まれてきてよかったと思うですよ。レイ様は目の見えないシノノであっても自然に接してくれますですし、でも、レイ様の兄の剛志という男はレイ様とは真逆の格で――」

「……ねえ、シノノちゃん」

「——なんですか? せっかくレイ様について教えてやっているですのに」

「本棚の本、見たことある?」

シノノは首を橫に振る。彼は目が見えないのだから當たり前か。

しかし、目が見える詠は、本棚に若干の違和があることに気付いた。広辭苑の大きな箱れ箱があるのだが、その中であるはずの本自はその橫に並べてあるのだ。箱がいらないのならば捨てればいいのに、本棚に、それも中を見られまいとするかのように裏向きで置かれてあることが非常に気になった。

「ねえ、シノノちゃん、ここの本棚の本って読んでいいかな?」

「? レイ様には特に何も言われていないですけど……」

らしく首をかしげているシノノの言葉に、彼もこの違和については知らされていないようだと考えて、詠は手をばし、広辭苑の大きな箱に手をかける。ずいぶんとずっしりと、シノノよりも年上であっても、所詮は中學生の、それもの子の詠には非常に重く、取り出すのに苦労しながら、結局引きずるように取り出した。

やはり箱だけではないようで、中に代わりに何やら一冊の本がっているではないか。こんな大きなものだ、CDのれ違いのような簡単な理由ではないということは想像に難くない。

(これって……アルバム、かな?)

「なにやっているですか?」

「ちょっと私のずっと読みたかった本があってね、しだけ読ませてもらおうかなって」

盲目のの目を盜んで、だますのはし気が引けたが、それ以上に気になってしまった詠はアルバムを開いていく。

一ページに3,4枚の寫真がってあるのだが、そこに寫っているのはシノノでも、ましては黎でもなかった。

詠はそこに寫っているよく知っている人間の寫真の數々に思わず目を見張る。

「これって……」

そこに寫っていたのは、飛鷲涼のものだ。數年前のものらしい、中學時代の彼のものから、つい最近に撮られたと思われるものまである。

驚いてペラペラとめくっていくが、すべて涼お姉ちゃんのもの。しかも一枚たりとも、目線がカメラとあっていないところを見るに隠し撮りとかいうやつではないだろうか。かなり久しぶりに見たような気がする姉の寫真を懐かしく思うよりも先に、得のしれない恐怖が詠を襲う。

なんで、こんなものを……。

「ねえ、本當に本を読んでるですか?」

シノノの言葉にびくっ、とがはねた詠はすぐにアルバムを閉じる。焦りからか、アルバム特有のビニールのペラペラという本を読む時とは違う音を出しすぎたようだ。

もうし見たかったが、シノノの前でこれ以上怪しいきをするわけにはいかないと思い、すぐにアルバムを広辭苑の箱の中に戻して元あった本棚に置く。

「? なんか急いで何をやっているですか?」

「いや、えーと……そろそろご飯かな~、なんて」

シノノの様子だと彼は何も知らないらしいが、いったいどうして黎は涼の寫真を大量に持っていたのだろうか……?

一気に居心地が悪くなってしまったこの家の中、詠がそんなことを考え始めていると、階段を昇ってくる音とともに、黎が夕食ができたことを知らせに來たのであった。

      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください