《輝の一等星》地下組織
あの世で姉に會えるのならば、と、発した詠の言葉に対して年は「は?」と返してきた。
「馬鹿じゃねえのか、俺はルードでもなきゃリベレイターズでも、ましてはてめぇの大好きな飛鷲涼の仲間でもなきゃ、それらの敵でもねえ。そんな俺にお前を殺す意思があると思うかよ? あったらすでに、てめぇはあの世に行っているだろ」
「……じゃあ、どうして不意打ちで襲ってきたの?」
「てめぇさんの実力を見るためだよ、まっ、初めから期待しちゃいなかったが……実際に會ってみると、想像以上にひどかったがな」
そういった年は詠の上から足を離して、銃を下したかと思うと、ポケットからドロップの金箱を取り出してガラガラと音を立てながら、一個の緑の飴を出して口に含み、そんな彼を見ていた詠がどうやらものほしそうに見えていたらしく、「いるか?」と聞いてきたので、詠は立ちながら首を橫に振ると、年は、ふん、と鼻を鳴らして、
「死にたきゃそいつでさっさと頭ぶち抜け、俺は止めねえよ」
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彼のあごの先には彼の銃があって、詠が手をばせば屆くような位置にあった。一瞬だけ迷った詠は銃に手をばして銃を拾う。
そして、年のほうを向いたかと思うと、慣れた手つきで拳銃をクルクルとまわして、年へと返す。拳銃は見た目よりもかなり重いのだが、こういう重心が肝心になる蕓當は『アルデバラン』の『結界グラス』でも使っていたため、詠にはまるでおもちゃのように回すことができた。
「お気遣いありがとう、でも、私にはまだいらないや」
「……そうかい」
詠からけ取った拳銃を彼に真似て年はクルクルとまわそうとしたのだが、手がったのか、その場に銃を落としたので、詠はクスッと笑ってから、
「じゃあ、貴方は誰で、何のためにここに來たの? 実力を見るってどういうことかな?」
「えーと……まずはだな、軽く自己紹介から行こうか」
コロコロと口の中で飴玉を転がしながら、ドロップを懐に戻し、代わりに攜帯のようなものを取り出した。
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「俺は獅子神ししがみ信一しんいち。真・きし――とこりゃあ言わねえほうがいいな。まあ、とある『組織』に所屬している。好きなタイプは年上の人なお姉さんで、嫌いなタイプは自分のことしか考えてねえ。趣味はゲームで、ご飯派かパン派かと聞かれれば麺派だな」
どうでもいいような報をつらつらと話していく年、獅子神信一は手に持っていた端末をボールのように両手で遊ばせた後、詠に見せる。
「こいつは俺の仲間のドクターKが作った『インビジブル』っていう裝置で、こいつを持つとを明化できる。つまりは人口の神ってやつだ。俺たち人間は普通にやってりゃどうころんでも『結界グラス』の力には勝てないわけで、だから、こいつを武としてるわけよ」
「ちょっと待って、さっき貴方はルードとも敵対していないって言ったよね? リベレイターズでもないって、じゃあ、どうしてプレフュードの持つ『結界』と戦うことを考えているの?」
「……まっ、そいつは場所を移してから話そうぜ」
そういった獅子神信一が詠の肩をつかむと、詠のが床の中へとっていくではないか。
「えっ? えっ? えっ?」
詠が驚いていると、彼のはまっすぐ下へと降りていく。重力に引き寄せられてというよりもエレベーターに乗っているような覚に近い。
彼のは下の階の部屋を通過していき(幸い、部屋の主は帰っていなかった)、そのまま下へ下へと落ちていく。地面についてもなお、彼のは落ち続けていく。彼の肩をつかんでいる目の前にいる年は慣れた様子で、無言で変わっていく景を大してした様子もなく、見ていた。
そして、彼たちはとうとう地下世界の更に下へと到著した。こんな場所があるとは知らなかった詠は、目の前に広がった景にポカンとするしかない。年が肩を離すと、それ以上詠のは地面をけて落ちなくなった。
その空間には小さな村があり、人々が普通に生活していた。ただ、いつも詠たちが生きている場所と違っているので、空にはビジョンで映し出された偽りの空はなく、電燈や松明などで、明かりがつけられていた。
「ここは……?」
「ちょっと前まではリベレイターズの基地だったけどな、報を隠しやすいんで俺たちの隠れ家もこっちに建てたってわけだ」
「そういえばリョウちゃんがセイ姉ちゃんを助けたところだっけ?」
「ん? ああ、そうだな……」
集落を抜けて、窟のような雰囲気がある通路を進んでいく年の後についていくと、神殿のような場所につく。そこはまるで歴史の教科書に出てくる地上の跡のような趣があり、しくも威圧的な建だった。
所々崩れている箇所があるが、し前、涼がここを一人で襲撃したことを知っていたため、その名殘ではないかと思う。
「ねえ、どこ行くの?」
「お前、あのにわれただろう? あの青い著を著たちっこい刀娘によ」
「……黎のこと?」
「そうだよ、あいつ、一度決めたことは曲げねえからな、お前に選択権はねえだろ」
ご愁傷さま、とか言っている年の前には大きな扉が表れており、その前で年は立ちどまる。
扉からは禍々しい雰囲気が漂っており、その扉の絵には地獄の炎のような烈火が描かれていた。
「こいつは鬼門って呼ばれてる、見た目は大したことねえただの扉なのに――だが、俺には、いや、俺達にはその意味は分かるぜ、理由は簡単、こいつを超えられるのは相當の覚悟が必要だったからだ。世界の全てをぶっ壊すくれぇの覚悟がな」
「……どういう意味?」
「んなこと、行きゃわかる。俺たちの仲間になることがどれだけ過酷かってこと……だが、殘念ながらお前には選択権も拒否権も、黙権すらねえ、あの修羅に見初められちまったお前は不幸なことにどんなに拒絶し、後悔したところで、俺たちの仲間になる以外の未來はねえってわけだ」
意味が分からずに、詠は閉口する。
そういった獅子神信一は、ニィ、と悪い笑みを浮かべたかと思うと、その手で思い切り扉をたたいた。その衝撃で、扉はゆっくりと開いていく。
「ようこそ、鬼の道へ」
ギィ、という音と共に空いた扉の先の景を一言で言えば『異様』である。
部屋の一面には奇妙な絵が描かれており、中央には燃え盛る火柱と、あとは怪しげな木像でもあれば変な儀式をやっているようにも見えるだろう。
火柱を囲んで3人の人間が座っており、こちらを見ていた。部屋の中心だけを見ると去年中學一年生のときにやったキャンプファイヤーを思い出してしまうのは、詠だけだろうか。
天井は空いているようには見えないが、煙が室に充満することはなかったが、ただ、炎の熱さで、室はかなり暑くじた。
「ほらよ、お待ちかねの新りだ」
「……獅子神どの、妾はここに連れてきてほしいと言っただけだ。まだ、妾たちの仲間にるかどうかは決まってはおらぬぞ」
獅子神信一の言葉に返した火を囲む一人は知っている、賭刻黎だ。しかし、殘り二人は詠は初対面であった。
「お前がここに連れてくると言い出した時點で無関係ではいられなくなっただろうが? 俺は娘との約束があるんだ、早くしろ」
「いいパパ気取りって、似合ってねえっすよ、先輩」
「誰が先輩だ」
そんな応答をしているのは、巨の男と、短い茶髪の、綺麗な顔をしている可い、アイドルのようなである。歳はどちらも大學生か、若くて高校生かくらいに見えるが。
「學帽に學ランみたいな格好の男が武虎一郎で、茶化してんのは鷺宮さぎのみや飛鳥あすか。ああ見えて俺たちよりずっと年上だ」
小聲で信一が説明してくれる。武虎一郎は確か、涼と戦った男だったっけ。聞いた話なのであまり詳細な個所は覚えてはいないが、龍の神を持っているのだけは覚えており、それに涼が幻覚を見せられたのも知っていた。
もしかして、今見ている不可思議な部屋も幻覚かと思い、目をこすってみるが何も変わらない。それならばと、バチンッ、と頬を叩いてみたが痛いだけだ。隣で信一が「なにやってんだよ」とつぶやいていたが、無視した。
そして、もう一人のに目をやると、彼は何処かで見たような気がする。鷺宮飛鳥といったか、いや、そんな古風な名前ではなく、もっとポップな名前でどこかで……。
詠がそんなことでうんうんと頭を悩ませていると、「詠どの」黎が名前を呼んだので、彼のほうを見る。あまりにも不可思議な空間の中だというのに、普段の彼が日常に溶け込んでいないように思えるためか、あるいは、彼の纏う重圧がこの部屋の空気と調和しているためか、彼はここにいてもあまり違和のない存在だった。
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