《輝の一等星》新たな力
ババ抜き、それは一枚の疫病神ジョーカーを自の元から相手に押し付ける心理ゲームである。相手の表や視線、呼吸音、些細な作に注意し、現在誰がババを持っているのか、どのカードがババなのかを推測し、押し付けられないように注意する、一番近な心理ゲームであるといっていい。
しかし、一対一ではこのゲームは面白くない。最低3人、最大8人くらいか。そのくらいの人數で初めて、心理戦というのが出てくるのだと思う。
確かに、つまらないゲームではない。つまらないのならば、誰でも知っている、ここまで人々に浸するはずがないのだから。
しかし、しかし、だ……。
「なんで、私たちこんなことしてるのさ!」
目の前でカードを広げる賭刻黎のカードを選べずに自のカードを持ったまま立ち上がった昴萌詠は、んだ。
すると、彼の周りの三人の視線が一気に彼に集まる。
「なんでって……そりゃ、當然暇だからに決まってるだろうが。迷だろ、さっさと席著け」
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「いやでもさ、ほら、作戦會議とか他にすることあるよね? 出たとこ勝負とかじゃないよね?」
「こんな人目のあるところで作戦會議なぞ、するわけがないじゃろう……」
まるで妹をたしなめる姉のようにため息じりにそう呟いた黎は、やれやれ、といった様子だ。でも、その手にトランプを持っていると、し間抜けに見えてしまうのだが。
しかし、黎の言う通り、シャウトしてしまった詠には彼の周りにいる三人以外の、一般人の乗客からの視線もあり、むぅ、とうなった詠は仕方がなくその場に座った。
ここは、第11バーンへ向かうための新幹線の中。
ちなみに、詠たちのいた第9バーンから直接この新幹線に乗ることはできないので一度、第8バーンのターミナルを経由していく形になっていたりする。
『飛鷲涼をアンタレスは殺せない……いや、殺さないといった方がより正しいかのう』
そういった黎の言葉は簡潔ではあったが、何か確信めいたものをじ、その理由は知らされなかったものの、微かな希が見えたような気がして、言われるがまま、詠はここまでついてきたというわけだ。
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その新幹線の中は時速300キロで走っているというのに、とても靜かで確かに退屈なのだが、全然説明されていないため、落ち著かない。もどかしい気持ちを押さえろという方が無理。
そんな詠の心を知ってか知らずか、黎が「詠どのの番じゃそ」と裏返した二枚のカードを突きつけてくる。ちなみに、二人席を向かい合わせているので、詠の隣に獅子神信一、向かい側に賭刻黎、その隣に可いくせに『っす』という口癖と真っ白の道著(ちなみに黒帯)という暑苦しい服裝が特徴の、馬場ばば水仙すいせんである。ちなみに武虎一郎は別の車両らしい。
仕様がないと言った様子で、黎の適當にカードをとると――それはババだった。
詠が揺していると、パッパッパッ、とカード換は行われていき、隣の獅子神信一から、バジョーカーではないカードを取られてしまう。
仕方がなく、黎のカードを取ろうと手をばしたのだが、彼の手元にはすでにカードはなく、その隣の水仙も、獅子神信一もカードを持ってない。
「お前わかりやすすぎだろ、弱すぎ」
獅子神信一に言われて、はぁー、と軽くため息を吐いた詠は窓の前のスペース集まっているカードを集めて束にしていく。
それなりに暇にもかかわらずババ抜きがつまらないとじるのは、彼の相手があまりにも強すぎるからだ。まるで、最初から最後までジョーカーの位置を知っているかのようにカードを回していくのだから、何かしらの超能力を持っているのでは、なんて、考えてしまう。
続きをやるみたいな空気なので、詠がしぶしぶカードをシャッフルしていると、黎の攜帯が鳴りだす。すぐに取り出して、スイスイと畫面を指でらせる。そして、彼が「詠どの」と呼んできたので、「なに?」としだけ不機嫌な聲で答える。
「上にある荷を取ってくれ」
「? 刀のこと?」
「違う、妾たちが持ってこなかった荷だ」
意味がわからず立ち上がって、頭上の荷置きに手をばす。背が小さい(というかこれから長するはず……たぶん)ので、何が置いてあるのかは見えずに手さぐりになるが、それでも、黎は馬鹿でかい刀だけ、獅子神信一は大きな荷はなく手元にある手提げ鞄だけ、馬場水仙のものはそこそこ大きな荷だが、それだけにすぐわかる。
手さぐりで見つけようとしていると、確かにリュックサックサイズらしきものが手に當たって引き抜いてみる。かなり重いが、こういうことは年上で男の詠よりも背の高い信一にやらせるべきじゃないだろうか。
とりやえず手繰り寄せてみるが、ここまで來るのに黎たちの荷は一応全部見ていたはずだが、これは知らない。つまり、なくとも黎たちが持ってきたものではない。もちろん、詠のものでもない。
つまり明らかな不審というわけで、普通に考えれば、車掌さんかあるいは駅員さんに言わなきゃいけないのだが、黎は何がっているのか知っているのか「開けてみよ」という。
発したらいやだな、なんて思って、おっかなびっくり緑のリュックサックのファスナーを引いていく。
「えっと……靴と、サングラスと……あと、これは……」
「短剣じゃな、二本あるということは雙剣じゃろう」
何の共通もない三品、ピンクの可らしい靴に、赤のレンズのスポーツサングラス、そして、桃のホルスターにっている騒な雙剣。
これらがどうかしたのかと、黎の方を見ると、彼は説明してくれる。
「妾たちの仲間に『ドクターK』という科學者がおる。姿は見せぬが中々に信用できる男での、神の改良をはじめ拠點の確保など妾たちの見えぬところで働いてくれておるのだが――そこにある全てはその『ドクターK』が作ったものじゃよ」
確か獅子神信一の持っていたものをすり抜けられる裝置もその人が作ったんだっけ。
黎は信用できるとは言っているが、詠は過去にモルモットにされた経験があるためか、科學者という生きは嫌いだったので、すぐにつけてみようとは思えなかった。
「でもさ、私にはこれあるよ?」
そう言って、首に下げたピンクのヘッドホンを黎に見せる。
この力は使えないのだが、しかし、地下での黎の説明が真実ならば、また使えるかもしれないのだ。
「私ってしだけだけど『アルデバラン』のがっているみたいだしさ、きっとまたすぐに『結界グラス』が使えるようになるんじゃないかな?」
「それは、無理じゃろう」
なんでさ、と詠は黎に聞き返す。即答される理由がわからなかった。
飛鷲涼の例を見ればわかる通り、詠よりも遙かには薄まっているはずの彼でも『結界グラス』を使えているのだから、詠に力が使えない道理はないはずだ。
し借りるぞ、黎は詠の首からし強引にヘッドホンを取ると、説明していく。
「確かに、詠どのにはアルデバランのが流れておる。ゆえにアルデバランの『結界グラス』をお主は使うことができるじゃろう――なら、なぜ、今お主は力を使えぬのか」
「……私の問題?」
「違う、お主のはアルデバランの『結界グラス』を使える――問題は、こいつにあるのじゃ」
そう言って黎はなんとヘッドホンを力づくで引っ張り、壊してしまった。
「ああ! 私のヘッドホン!」
「帰ったら新しいのを買ってやるから黙って見ているのじゃ」
バラバラになっていく用のヘッドホンの中から黎の小さな手は一つのキラキラと輝くオレンジの石を取り出した。
そして、詠の前に寶石を出すと、ギュッ、と握りしめる。
パキパキ、という不吉な音がしたかと思うと、黎がこぶしを開くと、見るも無殘な姿になった石の姿があった。
ああ! とんだ詠に対して、冷靜に黎は告げる。
「これは偽じゃ、本の『結界グラス』は決して割ることができぬ」
「えっ……?」
々になってしまった自の『結界』に涙を浮かべていた詠であったが、その言葉に黎の顔を見る。
「一時的に力を宿しておったみたいじゃが、もう消えておる。つまりこいつはただの石じゃ。そもそも、考えてみよ。オルクスにとってお主は所詮アルデバランの代用品、そして、捨て駒じゃ――そんな輩に本の『結界グラス』を渡すと思うか?」
「あっ……」
じゃあ、本のアルデバランの『結界』はまだオルクスの手の中にあるってこと?
それを取り戻せば、また、『結界』の力が使えるということか。
早々と理解してそこまで考えた詠はいやいや、と頭を振る。あのオルクスから『結界』を取り戻すなんて、無謀ではないか。第一、時間がかかりすぎる。
大切な姉を助けるためには『今』力が必要なのだ。
深呼吸をした詠は手元のリュックサックの中ともう一度向かい合う。
使い慣れた力ではないものの、無力よりはずっとマシか。
そう思った詠は、靴を履き替え、サングラスを頭にさして腰にホルスターを巻き付けていると、黎が説明してくれる。
「『干將かんしょう・莫耶ばくや』の二対は100年前に憲牛寺種秋が使っていた神を改良し研ぎなおしたものじゃ、靴、『エルナト』は『六連減隠ろくれんげんいん』という兵用いて作られたもので、『ヴィルーパー』は涼の左目にもなっておる『千里眼』を元に作られた空間把握能力に優れた神じゃ」
それがどういう名前の武かだとか、どういう経緯で作られたとかではなく、使い方を教えてほしいのだが。
使用方法は――、と黎がようやく一番教えなければならない容を話し始めたとき、急に彼の表は険しくなり、言葉を區切ったかと思うと、
「伏せよ!」
黎の言葉が聞こえた瞬間、詠の目の前の世界は反転した。
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