《輝の一等星》砕かれる檻
涼がに問うと、妖義と呼ばれたはコクリと頷いて『結界グラス』を展開させた。
この子も使えるのか、と詠が驚いている目の前で、倉庫にあった布切れたちがあっという間に形を変えて鳥に変わっていくではないか。布が大きいせいか、鳥たちも大きく、小さな妖義や信一は彼らが運ぶことができるだろうと思われる。
「なら、あとは上にいる簡単リブラを倒すだけね」
姉の言葉に「うん」と頷いた詠は落としてしまったサングラスを取りながら、「でもさ……」と続ける。
「それは私に任せてよ」
「どういう意味よ、私にここに殘って居ろっていうの?」
ううん、と首を橫に振った詠は「これ……」といって、その手のヴィルーパーを涼に渡す。
それをけ取った涼は、怪訝な顔で見てきた。
「それよりもリョウちゃんはこれで梅艶たちのいる最上階の様子を見ていて、きっと二つ上の階に行けばギリギリ見える範囲になるはずだから」
「何で、見る必要があるのよ」
「リョウちゃんにはあそこで行われている戦いを見る権利と義務があるからだよ」
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「? 言っている意味がわからないわ?」
涼は何も知らない様子だった。目に見えたひどい仕打ちをけていないところを見るに、てっきり、梅艶は涼との関係を教えていたと思っていたのだが。
眉間にしわが寄って、ますます意味が分からないといった様子の涼に、詠はあっさりと告げる。
「リョウちゃんと、梅艶は異父の姉妹なんだよ」
「……っ!」
涼はし揺した様子だったが、すぐに「そう……」と呟く。どうやら、知らなかったものの、推測してはいたらしい。
その後、し考えていた様子であったが、「でも……」と、詠の眼を見た。
「貴一人でリブラを相手するのは――」
「大丈夫だよ! 今の私はリョウお姉ちゃんよりも強いから」
自のをポンと叩いて力強く言う。
しばらくの間、涼は何か考えるように詠の眼を見ていたが、はぁ、とため息一つつくと、「わかったわ」と了承した。
「でも危なくなったらすぐに助けを呼びなさい、一つ下ならすぐにフェンリルであけて助けに行くわ」
「大丈夫だって、心配しないでよ」
じゃあ行こうか、と涼の手を握った詠は、『エルナト』で加速し、外に開いたから城の壁を伝って上り、涼をもう一つ上の階まで投げて、自はこれもおそらく涼が開けたのだろう上の階にっていく。
かなり強引な手段を取ってしまったが、悲鳴を上げつつも涼はちゃんと上の階についたようだった。
「今度は子豚がり込んできて……ここは家畜小屋じゃないわよ?」
「……よくもまあ、そんな軽口叩く余裕があるね」
詠が部屋にると、黒い煙が辺りを包み込んでいて、部屋の奧半分はほとんど燃えていた。
そこに立っているリブラは不気味なことに平気な顔をしている。このままでは彼のところまで火が回るのも時間の問題だろうに。
「元ルードとはいえ所詮あなたは家畜、さっさと燃えれば私が味しくいただいてあげるわ」
微笑みながらそう言うリブラには狂気さえも見え隠れしており、彼の言っていることが冗談には聞こえなかった。
リブラとは星団會にて面識があるものの、プレフュードとしてのプライドが高い彼が人のでルードになった詠を許すはずもなく、星団會のメンバーの中では一番歳が近いのに一度も話したことがなかった。
だからこそ、敵と味方のこの狀況であったとしても、初めて話したことにしだけ嬉しかったりする。
「何言ってんのさ、私は死ぬつもりないから――貴の方はどうかわからないけどね」
「……私を殺せるつもりかしら? 『食われる側』の分際で?」
ううん、と首を橫に振って、彼の言葉を否定する。
「違うよ、私は貴には絶対に負けないけど、殺さない――だって、リョウちゃんに怒られちゃうからね」
涼は彼がここをいていないのだ、と言っていた。目の前にいる彼は別に怪我をしている様子もなく、けないわけでもない。詠はその理由がなんとなくわかっていた。
涼に分からなかったのは、きっと彼がリブラのことを知らなかったからだ。そして、彼があまりに優しすぎたから。
「貴を殺すのは貴自、でしょ?」
「……私に自殺願があるとでもいうのかしら?」
「ううん、そんなものはないよ。でも、私は貴がオルクスだけには絶対に逆らわないこと、彼の命令ならばどんな手を使ってでも、どんな犠牲を払ってでもし遂げるってことを知ってるから、きっと、こうするしか方法がなかったんじゃないかな?」
おそらく、彼はオルクスに命令されていたのだ『飛鷲涼を殺せ』と。しかし、彼には涼を殺し切るほどの力はない。範囲を檻で囲むだけの能力ではないと警戒していたこと、妖義が傍にいること、その二點さえなければ、涼は逃げなかった。
彼がその気になればフェンリルの力だけで押し切ることもできただろう。
しかし、彼が逃げたことにより、リブラにもオルクスの命令を完了する手段が生まれた。
飛鷲涼を殺せる唯一の手段。
それは、彼がここに殘り、死ぬこと。
彼たちの持つ『結界グラス』は一度展開させてしまえば、自が再びまぬ限り閉じることはない。眠ろうが気絶しようが死なない限りは。つまり、彼がここにいる限り、たとえ彼が一酸化炭素中毒で気を失ったとしても閉じられることはない。
炎は下から來ているため、下の方が早く燃える、つまり、自が生きてさえいれば、涼を殺せるというわけだ。
「それならば、なぜ私はさっさと火の中に飛び込まないのかしら?」
確かに、彼が移すれば、下にいる涼たちもかざるを負えない。その方が早く彼たちを殺せるだろう。
でも、それを彼がしなかった理由、そんなの簡単だ。
「本當は死にたくないから、でしょ?」
リブラは無表のまま、無言でそんなことを言った詠の方を見る。何を考えているのかわからなかったが、口を開いた彼は一言「大外れよ!」と呟いたかと思うと、両手の鋼の爪をばして、飛びかかってきた。
「そんなの噓だよ。オルクスだって、貴に死ねとは言っていないはずだよ、ううん、オルクスだって死んでほしくはないはず」
煙を吸っているためか、そのきは遅く、『エルナト』で楽に躱すことができる。
そのまま蹴り上げ、加速した足は簡単に彼の片爪を壊した。
「だって、こんなに簡単に壊れちゃうんだよ」
リブラの『結界』の力は、檻や爪のさは、心の強さによって変わる。涼を前にして、勝てないかもしれないと考えた爪は簡単に壊れ、しかし勝てるかもしれない主のために勝たなきゃならないとじたとき、涼のフェンリルでも壊れないほどのさを誇った。そんなほんのしの気持ちの差で彼の力は変わってしまうのだ。
しかし、今はこんなにも、もろい。『干將・莫耶』を使うまでもないくらいに。
それはまぎれもなく、孤獨に死を待っていた彼が死を恐れ、生を願ったからであった。
どうやら、無表で天邪鬼な、誰の考えも寄せ付けない彼の心は、表よりも目に見えるよりわかりやすく反映されているらしい。
「私は……私は!」
そうんだリブラはすぐさま新しい爪を生やして詠に攻撃を仕掛けてくる。
それに対して、もう詠は何もしなかった。
「……勝手に自己解釈して、死を選ぶなんて、それこそバカだ」
「……っ!」
そんな心じゃ、絶対に誰にも勝てない。
パリンッ、爪は詠のにれた瞬間に砕け散る。
それは、彼が、敗北を認め、死にたくないとんだ結果だった。
「ほら、生きたいんでしょ、こっから逃げるよ!」
割れた爪を見ながら呆然と自分自に驚いているリブラの裾を暴に引っ張っていく。
やはり、リブラの表は変わらないままであったが、抵抗することなく、詠の後についてきた。
ちょっと手間取ったけどようやく、出できる。
そう詠がをでおろそうとしたとき、頭上から姉の聲が響いたのであった。
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