《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task1 依頼主と接せよ

ごきげんよう、俺だ。

いやあ、VRゲームとやらの発達した世界というのは凄いな!

苔むした砦の殘骸!

ひび割れた石畳!

周囲の土が剝き出しになった地面には、剣が何本も突き刺さっている。

の質までリアルだ。

さすがに気溫と匂いまでは再現できなかったようだが、こういう世界も存在するんだな。

スナージの野郎は、他にも俺の前世に似たような世界は幾つもあると言っていた。

異能使いが日常的にバトルをしている世界に、変ヒーローと悪の結社が戦う世界……。

それらは俺の前世と同じ地球だが、どこかで分岐して変化していったものだ。

犬と貓みたいなもんさ。

四つ足歩きのむくじゃらである事に何ら違いは無い。

で、このゲームの唯一の不満は、ぶっ殺してもその手応えが無いって事だ。

まるでスポンジケーキにフォークを刺したかのような

ハイファンタジーな世界観らしく、隨分とファンシーな仕様だな?

まあ、ここまでリアルだと現実との區別が付かなくなる阿呆も出てくる。

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運営會社なりの、一杯の気遣いなんだろうよ。

それでも、何より大きいのは遠慮なくぶっ殺せるという事だ。

流石に俺も、実際に死ぬような場所で無差別殺人をやるのははばかられる。

だが今回は文字通り、ゲーム。

勝負の結果はあくまで電子の箱庭の中だけでやり取りされる。

データに記録されるだけだ。

のペナルティはあるかもしれんが、人生をやり直すハメにはならないだろう。

やるほうも、やられるほうも、そういう意味では気楽だ。

……やれやれ。

俺らしくない。

ここで一つけない言い訳をさせて頂くとしようじゃないか。

格好良く戦い、勝利するという求は誰もが持ちうる自然なものだ。

よく考えろ。

ですら、周りの別種を長させないようにあれこれ手間をかけるくらいだぜ。

だったら脳味噌を持つ俺達、獣の末裔なら尚更じゃないか。

勝利への求は、ごくごく普遍的なものなのさ。

そしてその過程にある、闘爭も。

格好良く在りたいという“力への意志”を失えば、人はしおれていくだけだ。

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そういう意味では、今回は俺もゲームに參加しているだけと考えてもらってもいいじゃないか。

なんて、目の前に迫り來る青い鎧の集団を見ながら、言い訳がましく逡巡する俺!

あまりにも慈悲深いがゆえの、悲劇というものさ。

「街道警察だ! 処刑する!」

なんて、先頭の奴がんでいる。

事前報にあった街道警察っていうのはこいつらか。

大方、さっきの“ジェントル某・”を倒そうとやってきたんだろう。

そいつぁご苦労なこった。

數にして10人くらい。

まあ、さっきの連中よりかは楽しませてくれるに違いない。

だいたい、地下通路のアンドレイとか、ベリー・ザ・キッドとか、ウド・ゲインとか、ジャック・ザ・ストリッパーとか……。

実在の犯罪者をもじった名前を名乗るなら、もうちょっと頑張ってしかった。

ジャックに至っては、バケツのヘルメットを被っただけのビキニパンツマッチョマンだったしな。

センスってやつが、あまりにも足りない。

俺を見習ってしいぜ。

いくら名前を間違えても、ネタには困らないのだから。

―― ―― ――

……三分でケリが付くとは思わなかったぜ。

街道警察の連中、あれが平均的な実力なんて事は無いよな?

頼むぜ、お巡りさん。

世界の平和はお前さん達が擔ってるんだ。

おや?

まだ食い殘しがいたようだ。

砦の壁からを乗り出して、俺を見ている奴がいる。

「ごきげんよう、俺だ」

俺が左手を挙げると、壁から覗かせていた人影がビクリと跳ねる。

近寄ってみれば、長が150cmくらいの小娘だった。

背中まである長い金髪は、首の後辺りで赤いリボンで纏めている。

だがエメラルドグリーンの目は、まるで死んだ魚だ。

それに目の周りのクマや仏頂面といい、黒と赤を基調としたバニーガールじみたボンデージファッションといい、退廃的な雰囲気がたっぷりだ。

綺麗なツラも、まるきり臺無しだぜ。

「なんなんですか、いきなり」

黒タイツに包まれた足を震わせながら、小娘は後ずさる。

上目遣いの眼差しには、懐疑のがたっぷりだ。

「ゲーム中であろうと挨拶はコミュニケーションの基本だろ? どこに驚く要素があるのかね。

それに、お前さんのキャラクター名を見れば、素は丸わかりだ。ハッキングで偽裝でもしない限りは」

その辺りで、小娘はようやく俺が何者かを把握したらしい。

小ぶりな一杯に歪め、地面につばを吐く。

「あたしにそんな技があったら、あんたなんかに頼りませんって。はじめまして、異世界からやってきた侵略者さん」

アバターの頭の上に力ゲージと一緒に表示されている、黒縁に囲まれた白い文字。

その文字は今回の依頼主と同じ、“ロナ・ロルク”と記されていた。

「で、俺はこのまま殺を続けていればいいのかい?」

「もちろん。あたしも含めてですが」

「じゃあ、遠慮無く」

ドロップ品のナイフで、依頼主の首を掻き切る。

俺のやっている事は完全にサイコ野郎だ。

一応の合理が無ければ、という前提で見ればだが。

ここでコイツを見逃せば、コイツが依頼主である事が誰かにバレる。

どんなに目撃者を排除しきったと思っていても、伏兵は必ず意識の外側に存在するものさ。

だったら保険はかけておいたほうがいい。

……という理屈を、おそらくあの依頼人も頭の中で組み上げていたのだろうよ。

だから自分を含めて殺せと言った。

『やれやれ、本當に躊躇なくやってくれますね。まあいいんですけど、それで』

姿は消えたが、聲だけは俺の頭の中に響いてくる。

「念話機能か。こっちの世界のゲームってのは、進んでいるな」

『あんたの世界がどうだったかは知らないですけど……こっちのほうが都合がいいでしょ?』

「運営側に逆探知はされないのかい」

『毎日イベントに夢中で、そんなの記録しているワケないじゃないですか。それに……あー、々あるんですよ』

隠し事の下手な奴だ。

あからさまに「何かあります」と言って、そこに興味を持たせるつもりだろう?

お前さんの私生活なんざ、知ったことじゃない。

「詮索はしないよ。おっと、これじゃあ獨り言だな」

こういう時は、メニューを呼び出して……。

スキルの一覧を確認してみよう。

スキルの購オーダーは、派遣先でもできる。

拠點でやる場合に比べて割増料金をとられるが、さほどの痛手じゃないさ。

それに、拠點ではメニューに表示されなかったものもある。

念話なんかはそうだ。

このメニューがまた凝った作りで、派遣先限定のものはご丁寧にアラベスク模様で飾り立てた枠線で囲ってある。

をスキル名に當てて……。

『そら、できた』

自転車を漕ぐのと同じように、自然に心の中で聲を出せる。

ロナは、嘆したような溜息をつく。

『まるで、別のシステムでいているみたいですね』

『実際そうなんだから始末が悪いだろ?』

『まさしく悪魔ですね。すごいぞー、かっこいいぞー』

賛辭の言葉は、棒読みだ。

『心にもないお世辭じゃため息も出ないぜ、お嬢ちゃん』

『やめてくださいよ。二十代半ばのレディに向かって、お嬢ちゃんだなんて。

おだてたって何も出ませんからね。ましてやオフパコとか決め込むつもりなら、素直に諦める事。あたしは、あのとは違う』

どのと違うんだ?

……なんて言うとでも思ったかい。

今回のメインターゲットの、こっちの世界じゃ有名なギルドのマスターの事だろう。

報は抜かり無く集めるものさ。

街道警察はいくつかの支部に分かれている。

いや、PKをするプレイヤーを狩るギルドの総稱が、街道警察であると言うべきか。

そのうちの一つ……“Big Spring”が、今回のメインターゲットだ。

■概要

依頼名:“Big Spring”攻撃

依頼主:ロナ・ロルク

前払報酬:0Ar

功報酬:8000Ar

作戦領域:VRMMOアクションRPG Sound of Faithゲームフィールド

敵戦力:治安維持ギルド“Big Spring”

作戦目標:“Big Spring”に恥をかかせろ / 依頼主を満足させろ

依頼文:

周囲の信用を失わせねばならない相手がいます。

場所はVRゲームの中。

非道徳的な方法で勢力をばしているギルドがあるんです。

アレをのさばらせておくのは……ゲームの存続に関わります。

依頼を請ける方々にとっては下らない事でしょうけど。

詳しくは現地で、直接お伝えします。

以上。

■枠外追記

世界管理番號:18533

世界名稱:地球966號

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