《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task5 役人共の誇りを証明してやれ
「……であるからして、貴殿らにもご協力願いたいのだ。
ひいては、月に300グランカを納めて頂く」
ひなびた小さな村落のはずれから、俺はその中央を覗き見する。
それにしても腹を下すような演説だ。
こんな廃村の、ゾンビ寸前の連中に何を期待してやがるんだ?
數字にこだわりのない俺でも、ここからは石ころくらいしか取れないと解るというのに。
「ふざけんな! 村が干からびちまうよ!」
役人を囲んでいた村人から聲が上がる。
案の定、これだ。
「しかしだな! これは王國側の決定なのだぞ!」
「お役人さん……儂らがいつも何を食べているかご存知ないのかね。
食事は一日に一度だけ。芋を煮詰めたスープと、塩漬けのパンだけじゃ」
「そんな俺達から搾取して、まだアンデッドを増やすつもりか!」
「あれは反逆者の振りまいた呪いだ! 我々は異界より現れた彼奴を排除すべく、一杯の準備を進めている!」
「噓だね! 隣の村から聞いたよ! 魔石の実験が原因なんだろ!
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うちらの村からをかっさらったのも、どうせ怪しげな実験をしたんだろう!」
「どこでそんな報を! 流言とは卑怯な……!」
可哀想な役人さんだ。
報の出どころがまさかあの亡者とは、つゆと知らずに!
「ヘイズ……調べるべきだ」
役人仲間が、ヘイズの肩を叩く。
「駄目だ。余計な詮索をすれば、妻と娘が……」
ヘイズは首を振って、演説を再開する。
「とにかく! 協同で事にあたるべきだ! 私の友人は勇敢だった!
民を生かすべく、たった一人で悪魔の大群に立ち向かった!
その犠牲を無駄にはすべきではないのだ……」
「どうでも良い。そんなものより日々の生活じゃ」
「お前達! 全國民の未來が掛かっているのだぞ! 誇りは無いのか!」
やれやれ、下手くそな連中だぜ。
説得するならもっと上手にやりやがれってんだ。
これは俺の出番かな。
銃聲を一発。
びびった村人は、俺が道を通るだけでどいてくれる。
「右手には“試練Trial”を」
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バスタード・マグナムを指で回す。
「左手には“裏切りBetrayal”を」
指から出したダリアの花を摑む。
「かしているのは、どちらも“現実Real”という名の心臓さ」
そして両腕を差させる。
徴収に來ていた役人も、それを取り囲む聴衆も、例外なく俺に釘付けだ。
これだからビヨンド稼業はやめられねぇ。
「ごきげんよう、俺だ」
「おお、あの時の賞金稼ぎじゃないか! 屋敷では世話になったな!」
「そういや見た顔だな、ヘイズだったか?」
「ああ。それにしても丁度いい所に來てくれた! 亡者退治の腕前を持つ貴殿なら――ぎっ!?」
ヘイズの首元を摑み寄せる。
どうでもいいが、鎧を引っ摑むと側に寄せるのが大変だな。
「二度目の誤解だぜ。俺に與えられたタスクは勇者殺しだ。
お前さんを守れとは言われてないし、そこの阿呆面引っ提げた貧乏人共に事の手順を教えろとも言われてない」
「貴様、何を! 迷ったか!」
剣を向けるお仲間さん共。
ああ、いいぜ。
その視線だ。
「誇りがあればパンを買えるんだろ? じゃあそれを見せてやればいいじゃねぇか」
『何をするつもりですか』
ロナは勇者様と同じく、まだに隠れていた。
『今に石橋が崩れるぜ。川を流れるのが嫌なら、目を逸らせ』
「よく見ておけ。こいつの誇りが本なら、口から金の“誇り”というものが出て來る筈さ。
きっとそいつは300グランカなんざ目じゃない。ちょいとに訊いてやろうぜ」
「や、やめ……ぐっほぁ」
腹に一発、かましてやる。
ちょいと弱かったか?
俺が見たいのは誇りであって、き聲じゃねぇんだ。
「馬鹿な……鎧を貫通する武があるとでもいうのか!?」
「ご明察の通りだ。今俺が毆っているヘイズとやらの腹には、生と同じ威力が通っている」
特別に解説してやったが、実際のところ煙の槍は便利だ。
手に纏わせれば、煙の槍に拳の威力を乗せられる。
いを毆るには持ってこいだぜ。
スナージの野郎、使いこなすのが難しいなんてホラ吹きやがって。
「もう一発だ」
「げへぁ……う、ぶッ……」
口から垂れ流された容を指差す。
いいをしてやがる。
「ほら、出たぜ。拾えよ。天日干しすりゃあ金に輝くだろう」
村人共はすっかり腰を抜かしていた。
それとは対照的に、同僚連中は目を走らせて剣を向けてきた。
「これ以上の狼藉は許さん! 陛下に報告する!」
「そこのヘイズが抜かしやがった“クソッタレ・・・・・陛下”に?
やめろよ、みっともねぇ。せめて“この場で処斷する”くらい言えないもんかね?
それがお前さん達の名譽を回復する唯一のタスクだったぜ」
「狂っている……!」
―― ―― ――
殘る二人にもヘイズと同じ目に遭ってもらった。
ご協力・・・ありがとう、役人共。
村の中央から數メートル程度の所に三本ほど、おあつらえ向きのカカシがあった。
一人ずつ縛り付けるのは大変だったぜ。
たった三人とはいえ、鎧を著込んだ大人の男だからな。
白目を剝いたままカカシに縛られている役人共の口からは、もう恨み言のたぐいは出て來なくなった。
大きなハンマーで鎧の腹を凹ませても、まだ駄目だ。
「そーれ、もう一丁!」
あーあ、ヘイズを縛り付けたカカシが元から折れちまった。
頭は打たなかったから、死にはしないだろう。
「こりゃ駄目だな。おーい、村人さんよ」
……誰もいねぇ。
いつの間にか観客共は家にこもってやがったらしい。
なるほど、察しのいい奴らだ。
「な、なにかご用でしょうか……」
腰の曲がった爺さんが杖を片手にやってくる。
飯がどうとか言ってた奴だが、存外に勇敢だ。
「いけすかねぇ役人を懲らしめてやった。お禮をしてくれよ」
「そうですな! 何もない所ですが、せめて寢床は」
「あー、いらん。そんなものより、手伝ってしい事があるんだ」
「手伝ってしい事とは?」
さて、本題だぜ。
「若い衆を順番に呼び寄せてくれ」
「土木作業ですね。畑仕事から呼び戻しましょう」
「違う。もっと崇高で、希に満ちた偉大なる目的だ」
「はて……では何を――」
「――そこのクソ役人共と同じ目に遭ってもらうのさ」
「ひっ……!」
「ほら、出せよ。若い衆。いるんだろ? 頼むよ。実験しないと解らないんだ。
そいつらの口から出て來るモノが、クソ役人共と同じモノなのかが」
「いっ、一、こんな事をして何になるというのですか!」
「勇者様を匿っているのは解ってるんだ。見殺しにした罪滅ぼしか?」
「知らん! さっきから、何を――」
「――そうだよなあ! 知ったこっちゃないなら、若い衆とやらが武裝してさっさとお役人さん共をとっちめておけば良かったのさ!
そうすりゃお前さん達は、そのちっぽけなパイントに雨水一滴分くらいは満たせた筈だ」
「あ、う……」
「俺が裏切り者の処理を、わざわざサービスでやった理由が解らねぇのかい。
殘さず灰にしてやってもいいんだぜ。お國のお偉方は俺の暴走と決めつけるから知ったこっちゃねぇ。
そして俺はたっぷり暴れてストレス発散。誰も損をしない。これが取引って奴なんだよ、老害共」
……まぁ、やらんがね。
そんなつまらない事は。
近くにいるんだろ、勇者様。
それとも、見殺しにするつもりかね。
「そこまでだ、サイコ野郎」
近くの家のからやってくるのは、ゾンビの勇者様。
「お! ようやくお出ましかよ!」
そう來なくちゃ。
あらすじは、こうだ。
國に不満を抱えた役人が仕方なく徴稅にやってきた。
そこに現れた俺。
大義名分でっち上げ、役人はサンドバッグに。
騙されてくたばった奴には、お似合いのセッティングだろ?
これでもう、お前さんの正義を検証する土臺はしっかり出來上がった。
「お前は、やり過ぎた」
「お前さん程じゃないさ」
「俺は違う……!」
「違う? 何が違う? 復讐なんて悲劇じみたお題目を唱えちゃいるが、結局は同じさ。何もかも・・・・!
復讐を遂げて、それからどうするつもりだ? 刺し違えてカーテンコールか? 観客は誰に金を払えばいい?」
「言っている意味がよく理解できない」
「あまりウミガメを陸に上げるな。俺は砂浜が苦手なんだ」
『スーさん、多分それ、伝わらないです』
ロナからの念話は、バツの悪そうな聲音だ。
『ウミガメがどうとかって……“キャラじゃねぇ事をさせるな”って言いたいなら、別の表現のほうが』
『サメにすりゃよかったかね』
『やっちゃったもんはしょうがないです。ほら、喧嘩して』
オーケー……茶番はここまでだ。
踴れよ、勇者様。
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