《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task2 王子様と渉せよ
ターゲットが潛伏しているらしいギズウィックの街へと向かう道すがら、俺とロナは例のハラショーエルフについて話していた。
依頼書が何らかの形で第三者の目にれた時に面倒だからっていうのが、俺達と直接話し合いたい理由だ。
奪還する前に暗殺されるリスクが高いっていうのなら、用心するに越した事は無い。
ただ、連れ戻したい奴隷の名前が気掛かりだ。
ジョジアーヌ・エヴァン・ドラクロワ。
どこのお貴族様だ?
そしてそんな奴隷を奪還して、あのハラショーエルフは何をしようっていうのかね。
「まったく、錬金士ってのは理解に苦しむぜ。この前の雪ヘビといい」
「錬金士かぁ……実際會ってみて、どう思いました?」
「トンガリ耳にしちゃあ珍しく金屬マニアだな」
あのハラショーエルフは、ミスリルやオリハルコン、他にも々と見せびらかしてきた。
わざわざ手提げのケースにれて持ってくる程の気合のれようだ。
よっぽど自慢したかったに違いないぜ。
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「ですよね~。まさかエルフの口からアルミニウムとか超合金って言葉が出て來るとは――って違う。そうじゃない」
お前さんはノリツッコミ蕓人でも目指しているのかい?
俺達が歩くだろうカーペットは、きっと灰だぜ。
「異世界の魔道を集めているなら、どうしてカメラを持ってないのでしょうね。そしたらターゲットの人相も簡単に解るのに」
「ヘビがわざわざ玉ねぎを食いたがるかね?」
「興味のない事をしようとはしないって事ですか。
でもナターリヤさんに限って言えば、玉ねぎだろうが唐辛子だろうが構わず食べそうじゃありません?」
「そうでもないだろう。壁を超える羽は、萬人に與えられた素質じゃあない」
「ですかね」
「クラサスの野郎がおかしいのさ。生き字引を気取りやがって。今度長講釈垂れやがったら眼鏡に付箋紙をりまくってやる」
「いいですね、ふふ……あ、思い出した。さっきちょろっと話した、クラサスさんの講義についてなんですけどね」
「ああ」
「ビヨンドはある程度、自分で転生先を選べるって話はご存知なんですよね?」
「そうだな」
その為にお前さんを、こうして連れ回しているのさ。
「で、転生する時に種族とかも選べるらしいんですよ。エルフをお勧めされました。
なんでも、あたしの臓を売ったお金でスキルを付けるんですけど、エルフならその恩恵が一番大きいんだとか」
自殺はロナの落ち度だが、それに付け込んだクラサスの野郎も大概だ。
ろくなもんじゃねえ。
「あの野郎は攜帯電話のショップの店員にでもなるつもりかね」
「売りたいを提案してきて、変なオプションを片っ端から付けたがるって事ですか」
「正解だ」
「やった」
ロナはガッツポーズをしながら微笑むが、そんなに嬉しいのかね。
「でも、あたしは気が進まないですね。転生したら、しばらくはポイント……みたいなものを貯めないと、死んでも他の異世界に転生できないらしいですし」
「気が進まないのかい」
「だって普通、転生先で碌でもない人に絡まれても、気軽にマスタードパイを顔面に叩きつけられませんって。
あたしには、ここしか無いんですよ。結局」
ロナは首元を指し示した。
そこには、大型犬に付けるような立派な赤い首がある。
俺がさっきマロースブルクで買い付けた、とびきり上等な首だ。
せいぜい恥を曬しながら、獨立の算段でも立てておけよ。
などと談笑しながら、しばらく歩いていた。
いいかげん話のネタも盡きてきてお互いだんまりといった所だ。
――そんな時、俺をすれ違いざまに睨んでくる奴がいた。
そいつは、腰にかけたレイピアに手をやっていた。
「……」
青い両目が映える中的な顔立ちと、肩口で切り揃えた金髪、小綺麗な服裝。
まるで、おとぎ話に出て來るような白馬の王子様だ。
背はロナよりし高いくらいだ。
「キミが連れているのは、奴隷かい?」
オマケに見た目相応の高い聲をしてやがる。
そっちの趣味を持った奴が、ヨダレを垂らして喜びそうだな。
「まあそんなもんだ。見ろよ、いい首を付けているだろ?」
俺はロナの首元を指し示す。
ロナはと言えば、し顔を赤らめてそっぽを向いた。
王子様は、額に手をやって首を振る。
「彼を放してやれるかな」
「ロナ、どう思う? 白馬の王子様だぜ」
「いやあ……別に。あたしはもう白馬の王子様に出會いましたし」
「そいつは興味深い。誰だ? 俺の知ってる奴か?」
「あんたが一番よく知ってる人ですよ」
「クラサスか」
「ぶっぶー」
夫婦漫才なんてやってる場合かよ。
「ボクの質問に答えろ」
「さっさとお城に帰って馬の手れでもしてな」
「そんな邪険にしないであげましょうよ。奴隷と言えば、依頼に関係ありそうですし……あ」
間抜けめ。
こういう時こそ念話を使えば良かったのさ。
「依頼……つまり、冒険者……? いや、違う。ボクの知ってる冒険者は、こんなんじゃない」
「一言に花と言っても、溜めの隣に生える奴からお城の庭に埋めている奴まで々あるぜ」
「ならばキミは前者だ。奴隷を解放するつもりが無いなら、ボクにも考えがある。これを」
手渡された紙切れを見る。
“決闘チケット”だとよ。
ここでやりゃいいだろ。
七面倒臭い真似しやがって。
「ああ、そこのお方。決闘保証人になってくれるかな」
王子様はそんな俺の悩みも他所に、通りすがりの中年に紙切れを渡す。
「わ、私か!」
「日時と場所はここに書いてある。上手くオッズが集まれば、キミの手元にも金が。大儲けのチャンスだ」
「しかし……」
言い淀むおっさんの両手を摑み、王子様は微笑む。
「“風の解放者”が出る決闘だよ」
「な……に……!」
王子様が肩をぽんと叩くなり、おっさんは相を変えて走り去っていった。
風の解放者ねぇ……。
「なんだったんです? その、決闘保証人って」
「ルーセンタール帝國では、この方式が主流なんだ。勝敗が曖昧にならないようにね」
「こいつは驚いた。怪しげな壺を売りつける為に特別な努力は必要ないと來たもんだ。
玄関先に置いて“壺は置いた、金を貰う”だとよ! お前さん、俺に決闘を申し込んだ意味を理解しているのかい?」
「知ったことじゃない。三日後、夕刻の鐘が鳴る頃、ギズウィックの街にある“蒼天の柱”で待ち合わせをしよう。
ボクの名前はサイアン。キミは?」
「ダーティ・スー。こっちの連れは、ロナ・ロルク」
「ボクが勝ったら、ロナを解放してもらう。それと、依頼の詳細も洗いざらい吐いてもらう。いいね?」
條件が二つも!
こりゃあいい。
最高のアイデアが閃いちまった。
カタギじゃねぇ相手に厚かましくモノを言える、この膽力。
なるほど、こいつが勝ったらロナの世話を任せてもいいかもしれない。
俺に負ける相手なら、そこまでの奴だったって事さ。
「じゃあ俺からは一つだけだ」
そしてそれに相応しい役回りをくれてやる。
手間が省けるなら萬々歳だ。
「今まで解放した奴隷を俺に寄越せ」
「……! キミという奴は!」
「そっちは二つも出してきたんだ。それに比べりゃ、良心的だろ? 勝てばいいのさ、勝てば」
「解った……條件を飲もう。けれど、ボクは必ず勝つ!」
王子様はさっそうと去っていく。
大した自信だ。
「あの、この前みたいに自殺しないで下さいよ?」
「ちゃんとお手らか・・・・・に教育・・してやるさ」
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