《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task4 サイアンについて報を集めろ
「いやぁ、ゲンナリですね、ほんと」
俺達はマロースブルクの“赤い狗鷲亭”に戻ってきた。
今は、食事を楽しんでいる。
ハラショーエルフがロシアかぶれなのにそいつの店が中華料理っていうのも変な話だが、それはさておく。
さっきのパンツ姫とのやり取りですっかり時間を潰された俺達は、朝の奴隷市場に行きそびれた。
まあ、あのパンツ姫が負ければ奴隷を寄越してくれるらしいからな。
そっちのお土産に期待しようじゃないか。
「それより気掛かりなのは、あの赤の娘は元からあんな格だったのかについてさ」
「はい? 世の中、変な人はいっぱいいるでしょう」
「だが俺達は、パンツ姫に助けられる前の赤を知らない。途中で変な人にさせられた・・・・・可能は果たしてゼロだったかい」
なにせ、既にコトを済ませた後だったからな。
ゴブリンの死骸は十中八九、パンツ姫の仕業だろう。
「言われてみれば……最初に會った時だって、通りすがりのおじさんも、途中から様子がおかしかったような」
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「あのパンツ姫は、必ず勝つと言っていた。海のを金と言わせるような何かを使ってる可能は高いぜ」
「でも、もしそういう魅了とかのスキルをあいつが持っていたとして、なんであたし達には使わなかったんです? 通用しなかったから?」
「他に何かあるかい」
「いえ。思い當たらないですね」
「或いは、それが使える事を知らないという可能もある」
「自覚が無い?」
「俺の目に狂いが無けりゃ、あいつは酸・・だ」
「あんたが狂ってるのは、ココでしょ」
ロナは口元を三日月形に歪めながら、こめかみをトントンと叩く。
そりゃ言いっこ無しってもんだぜ。
ここで、個室のドアが勢い良く開かれた。
「ズドゥルァーストヴィーチェ! タヴァリーシチ、ダーティ・スー!
冬將軍のお出ましですぞ~! ごめ~ん! 待った~?」
「いや、今來たところだぜ。酒も、料理も、俺達も」
努めて平靜を裝うが、俺はこのハラショーエルフが苦手だ。
俺と同じ匂いがするからな。
「そうですかな。それで、どうですかな! 進捗のほうは!」
「大変喜ばしい事に、これっぽっちも進んじゃいねぇぜ!」
しかと見屆けやがれ。
俺の渾のサムズアップを!
「親指立てながら言う臺詞ですか!」
「じゃあ、こうする」
地面に親指を向けてやった。
「隨分と嫌われてしまいましたな! 參った、參った!」
「あたし、もう突っ込みませんよ……」
「突っ込んでもらえよ。パンツ姫に」
「おぇ……絶対やだ。タイプじゃない」
「パンツ姫? ほむ。どなたですかな?」
「ああ、困ってるの子を助けて、代わりにその子に緒でパンツの匂いを嗅ぐスケベな奴がいるのさ。王子様みたいな格好をしてやがったぜ」
「それは興味深いですな。我輩の本日の下著である赤い虎柄Tバックの香りを如何様に表現して下さるのか」
ロナはハラショーエルフの弾発言に眉をひそめるが、俺からすればこんなジョークは朝飯前だ。
赤が好きならそれらしい言葉を並べ立ててやればいい……。
「革命的な香りがするんじゃないかね」
「ハラショー! 革命は心の清涼剤ですぞ!」
ほらな?
ダンスは相手のステップに合わせてやるものさ。
「あの、そろそろ線するのやめてくれません?」
「はい……」
あーあ、ハラショーエルフの奴、しょぼくれちまった。
ロナは暗い顔で微笑むと、話を続ける。
「で、そのパンツ姫っていうのは“風の解放者”サイアンと名乗っていました。
スーさんが言うには、えっと、さっきの酸がどうのって話は、要するにカマをかけたら転生者だったって事でいいんですよね?」
「他に何があるのかい」
「今回のターゲットである奴隷も、サイアンが匿っていると見て間違いないと思うんです」
「ほむ。その手の専門家は、我輩の知り合いにいなくもないですな。できればご対面は避けたいところですが」
「まさかその知り合いってのは、右肩にカラスを止まらせてませんかね……」
「……よ、よく、ご存知ですな」
「あたしにとっても、因縁淺からぬ相手なんですよ」
「あのうんこエルフは正直、もう二度と口も聞きたくないと申しますかな、その――」
「――私を糞便と同列視できるほど、君の所業が清廉潔白とは思えんのだが」
噂をすれば何とやら。
カラス野郎が窓からやってきやがった。
だが、ここは二階だぜ。
こいつ、たまに自分がトンガリ耳である事を忘れちゃいないだろうな。
カラスは右肩に止まっているそいつだぜ。
お前さんじゃあないんだ。
「ギャ~~~! 出た! ゴキブリ野郎!」
ほんのしの間を置いて、ハラショーエルフはび出す。
店員達がクロスボウを構えながら、何事かとドアを蹴破ってきた。
勘弁してくれよ。
荒事は決闘まで取っておこうぜ。
「ごきげんよう、私だ。クラサス・リヴェンメルロンと呼びたまえ」
「いやですぞ!」
さり気なく俺の前口上を真似しやがったな。
許可を取れ、許可を。
俺は無許可で誰かから奪ったが。
「あー、従業員の皆様は通常業務で大丈夫ですぞ」
ハラショーエルフが手で制すと、店員達は手慣れた作で下がっていく。
「……それで、何をしに來たのですかな。
てっきり我輩、よその世界でよろしくやっているものと邪推しておりましたが」
「そう邪険にしないでくれたまえ。君もサヴァンダールだろうに」
「トンガリ耳の単語を並べ立てられても話が読めないぜ」
「あんたが言えた義理ですか。毎日ポエムで會話しやがって、付き合うあたしのにもなってみろ」
「いつもありがとう」
「――っ! くそ、おかしい、あたしがこんなにちょろい筈は……」
ロナ……存外面白いな、お前さんは。
そこで照れてもだえる意味が解らないぜ。
「ところで、先生。見ての通り俺達は食事中だ。同席したけりゃ金出しな」
「それには及ばん。ここの小籠包しょうろんぽうはラムを使っているだろう。私も、親友のイヴァーコルも、あの臭みが苦手でね」
「うるさいですぞ、菜食主義者め」
「鹿は好きだ。ミスロネールの連中には軽蔑されるがね。
さておき、これを君に渡しておきたい。件のサイアンとやらについてだ。きっと役に立つだろう」
無償で提供なんて酔狂な真似を、こいつがやる筈が無い。
まったく、この先生は惚れさせてくれやがる。
「お前さんの裏側は、その髪のによく似ているぜ」
「謝および褒め言葉としてけ取っても差し支えないかな?」
「好きにすりゃいい。お前さんの事だ。対価はこっそり持っていくつもりだろ、いつものように」
「無論、そのつもりだ。それでは、また」
窓枠からりこむように、クラサスは帰っていく。
そこにハラショーエルフは駆け寄って、窓の外にぶ。
「二度と來るなですぞ~!」
「知らんな! 彼の言い方に倣えば、鳥の行き先は風が決めるものだ!」
外から返事が。
相変わらず律儀な野郎だ。
「やったじゃないですか。ファンになってくれたみたいですよ」
「こいつは素晴らしい。ちっとも嬉しくないぜ」
だが、あの野郎がくれた書類は俺達にとって衝撃的だった。
と同時に、決闘と依頼にケリを付けるには充分過ぎる容でもあった。
まったく、惚れさせてくれやがるぜ。
何がおみなんだ、先生は?
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