《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task6 囚われのお姫様を依頼主に提出しろ

俺はパンツ姫を擔いで、ロナと共に“赤い狗鷲亭”に辿り著いた。

來客用の勝手口を通るや、二人組の店員に地下室へと案された。

食品類の倉庫を通り過ぎた、その更に奧。

そこには鉄格子の牢屋があった。

「ボスをお呼びします。その間はお任せします」

店員コンビの片割れがパンツ姫を牢屋にれて鍵をかけ、鉄格子越しにバケツで水をぶっかける。

そのまま、元來た道をそそくさと帰っていった。

「ここは……そうか、ダーティ・スーに捕らえられて……!」

目を覚ましたパンツ姫は、鉄格子をがっしり摑む。

耳障りな金屬音が地下室に鳴り響いた。

「ボクをどうするつもりだ!」

おまけに凄まじい形相で睨んできやがる。

まったく、いい気味だぜ。

これでしは頭を冷やせるってもんだろう。

「それは依頼主が決める事さ」

「そうですね。あのヒゲはどこで油を売ってるのやら」

「ごめんよ、ロナ……ボクはキミを救い出せなかった……」

かと思えば、ロナを見て悲しい顔をする。

Advertisement

面白くなってきやがった。

是非とも期待以上の反応を見せてもらいたい。

俺がロナに目配せすると、ロナは念話も無しに俺の意図を察してくれた。

「何を勘違いしているのか存じ上げませんが、あたしは一度も、スーさんの奴隷とは言ってない」

「えっ」

「まず前提からして間違ってたって事。このクソ野郎は面白がってあんたの妄想に付き合ってただけ。

あたしは、この人を利用してるんですよ。自分の居場所を作る目的でね」

前半は正解だし、後半もロナ本人から最近聞いたばかりだ。

近頃はよりいっそう、俺の真似に磨きが掛かってきている。

「迷極まりない話だぜ。いい世界に引っ越せと何度も思ったんだが」

「まあその“いい世界”ってのがスーさんの隣だったってだけの話ですね、単純に。

不幸に溺れる毎日は、それなりに気持ちいいですよ?」

悪趣味な奴だぜ。

そのオナニーを目の前で見せられるこっちのにもなってみろ。

「ロナ……キミを止めるまでボクは諦めない」

「おぇっ。勘弁してくれよ。あんたはタイプじゃないんですよ。人と人との約束を守らない奴なんて……」

パンツ姫を冷たく見下ろすロナは、顔に見合うこれまた冷ややかな聲で吐き捨てる。

「やく、そく……」

「負けたんでしょ。決闘に。しかも自分が救った筈の人達を賭けに出して。

……あんたが條件を出された時點で引き下がるような奴だったら、あたしだってしは考えた。

必ず勝つ? 思い上がらないで下さいよ」

「でも、ダーティ・スーだって、約束を守るような奴には……」

反論するパンツ姫の聲は、ロナが眉を寄せて悲しく微笑むのを見て、すぼみになっていく。

「よくそれで“風の解放者”なんて名乗れますね……」

ロナの奴はただでさえ辛気臭いのに、余計に気ちまった。

パンツ姫は、それでも未練たらしい眼差しを送る。

どうしたものかと思った時、地下牢の扉が開かれる。

「話は聞かせてもらいましたぞ!」

ようやく、あのハラショーエルフのお出ましだ。

奴の手元には、拳大の金屬ケースがあった。

「ボクをどうするつもりだ」

「ほむ。やはり、見た目は完全に別人ですな……もうし、ジョジアーヌ殿の事を理解していれば」

「質問に答えてよ」

「ああ失禮。聞きたいですかな?」

「俺も気になっていた」

ロナの視線が「ホントかよ」と問いかけてくるが、俺は本気だ。

これだけ回りくどい真似をしくさってきたんだ。

々と思い當たるフシはあるが、一応は確認しておきたい。

「錬金士なんて名乗るんだ。ホムンクルスでも作るつもりかい」

「正解ですぞ! その材料集めを、ジョジアーヌ殿に協力してもらう予定だったのですな」

「けど、奴隷にしてたんですよね?」

「込みった事がありましてな。お家騒から救い出す為に匿う必要があったのですぞ。

錬金士といえば黒い噂は絶えませんぞ。その奴隷になれば命の保証もない。敵はそれで納得して、手を引いて下さったのですな」

「綺麗事は止よせよ、冬將軍」

「いやいや、本當の話ですぞ~!」

「だったら、雪ヘビ云々なんざほったらかして、さっさと本題にれば良かったのさ。だが、何らかの理由でそれができなかった」

「同志が依頼通りにいてくれるかどうかを試す必要があったのですな」

ヒゲをいじりながら、ハラショーエルフは涼しい顔で嘯く。

ロナは一瞬だけ首を傾げたが、やがて納得したのか、小さく頷いた。

「……まあ、筋は通ってますね」

ああ、その通りだ。

だからこそ、これは噓だ。

「……狐と狼の區別くらいはつく。両手にを開けられるのが怖くないなら、踴ってやってもいいぜ。ドブの神様」

消される前に捕まえたかった。

腕が良くて無茶振りにも対応できる奴に頼みたかった。

となれば、答えの候補はそんなに多くはない。

だが――。

「萬一、答えが間違っていたら、それはそれで癪に障る。

だから俺は何も言わない。お前さんが何かを企んでいる事以外は」

「さすが、お見通しですな。では、とりあえずターゲットが本かどうかを確かめますですぞ!」

ハラショーエルフは手元の金屬ケースから、棒狀の赤黒い寶石を取り出した。

それを見たパンツ姫は突然苦しみ始め、その場にうずくまった。

「あっ、うぐ……な、何を……!?」

「奴隷に苦痛を與え、全の筋を弛緩させる式ですぞ。

まだ効果はあるようですな。という事は、やはりこの金髪がジョジアーヌ殿と……」

厭らしい笑みを隠そうともせず、ハラショーエルフは牢屋を開けて中にった。

そして、パンツ姫の服をがす。

下著は……上下ともに黒のレース付きか。

いい趣味してやがるぜ。

は歳相応で、小ぶりだな。

サラシで平たくしているものかと思ったが。

「お前さん自は、そのについてどこまで知っている?」

俺は壁に寄りかかりながら、インタビューでも決め込むとしよう。

ハラショーエルフはパンツ姫を仰向けに寢かせて、何かを探しているようだしな。

「し、知らない……気が付けば、この、でっ、この世界に、あぐっ、くっ……」

パンツ姫は痙攣していた。

ハラショーエルフはといえば、理解が追いついていないようだった。

「い、一、ボク、どうなって……!」

「それは我輩の臺詞ですぞ。このような事は初めてですからな」

「ナターリヤさんもご存知ない? じゃあ、何が起きてるんです?」

ロナも眉を寄せる。

まあ見てろよ。

古今東西よくある話だ。

「とある作家が言っていたが、悪魔的な奴は時に善を裝う。または完全に善となる。

奴隷解放を謳うのは結構だが、花畑がどこまでも広がっていると信じて目隠ししながら歩けば、そのうちガケから真っ逆さまだって事を、考えないようにしてきた」

「その結果がこれですか」

「ああ」

……さて。

あとは、幸運にも転がり込んできた、こいつに関する真実を突き付けてやるだけでいい。

    人が読んでいる<ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください