“やはり私は、臥龍寺紗綾がりょうじ　さあやの中にいる！”

それが、このになって三度目の朝を迎えた時に彼の抱いた想だった。

頭まで被った布団は、生前からは考えられないほどにらかいりだ。

「考えはお変わりではありませんか、お嬢様……」

聲に反応して、彼は布団をしだけ上げる。

心配そうに目を伏せた老齢の男は、設定では・・・・紗綾の執事である。

紗綾――否、正確に表現するならばそのに憑依しているは、生前はイラストレーターだった。

彼は徹夜明けの碌に働かない頭で差點を赤信號のまま歩き、通事故により死亡したのだ。

初め、彼は悪い夢だと思っていた。

“閃きが丘”などという地名。

連日、テレビで放映される総合魔法格闘技の地方選手権。

そのどれもが、彼が原畫を擔當していた格闘ゲーム“魔法レジェンド★るきな”の世界観に酷似していた。

魔の親玉が倒され、魔法のマスコットキャラクター達が道連れに消された世界。

しかし、魔法はまだ変できたし、魔法も使える。

世界各國は魔法が兵として転用される事を危懼し、世界選手権という名目で彼らに代理戦爭をさせた。

それが、総合魔法格闘技。

広いフィールドの中で魔法を一対一で戦わせ、勝敗を競い合う。

頭の悪い設定だとも思ったが、あいにく紗綾の“中の人”は設定擔當ではない。

あくまでキャラクターデザインが、生前の彼の仕事だった。

（ああ、しかも悪い事に、日付は夏休みにったばかり。という事は、紗綾が挑戦狀をるきな達に叩き付けた後だ……）

ストーリーラインはこうだ。

高校一年の夏休み直前に、紗綾は臥龍寺財閥の力を以て人工的に魔法になった事を宣言。

挙句に紗綾は、魔の長を倒した魔法……早草るきなに挑戦狀を叩き付けた。

“わたくしがあなたを倒し、我が臥龍寺財閥の軍門に下らせてさしあげますわ！”

るきなは魔の長との戦い以來、一度も変していない。

平凡である事をんだ彼はしかし、その力をする紗綾に、次々と刺客を差し向けられるのだ。

ちなみにそのゲームではメイン要素としてシミュレーションも楽しめるのだが、紗綾はるきながどの男と関係を持とうとしても、橫慕を仕掛けてくる。

そう。

臥龍寺紗綾は、いわばラスボスであり、俗にいう悪役令嬢でもある。

最終的に、ゲームの設定では財閥は無理が祟って潰える。

そして過去の栄を忘れられないまま、紗綾は貧乏貴族として再戦に燃えるのだ。

ここまでが、ゲームの話である。

（気が重いなぁ……よりにもよって紗綾とは）

そして、過度に絢爛豪華な裝飾の施されたスマホのSNSの畫面には、ゲーム中では攻略可能キャラだった男の名前が表示されている。

（“応援しています、紗綾様”だと……ミカンもとい剣貫一め……、呑気にスタンプまで織りぜやがって。

こちとら二度目の一生を棒に振るか振らないかの瀬戸際なんだぞコンニャロバッキャロ！）

とはいえ、タダでやられる訳にも行かない。

どうにかして早草るきなとの和解の道を探りたい所だが、焚き付けてしまった後ならば進むしか無いのだ。

「……あの、お嬢様？」

「うっせぇなぁ、今考え事をしてるんだって……」

紗綾は言いかけて、はっとする。

あまりにもお淑やかさを欠いた発言を、今更ながら彼は悔やむ。

どうにか場を繕わねばなるまい。

「あ、いえ。爺や？　しお時間を頂戴してもよろしいかしら？　朝食までには答えを出しますわ」

「然様ですか。爺は、あのような怪しげな紙など、すぐにでも捨ててしまいたいものですが……」

「そこを何とか。ね？」

「良いお返事を期待しております」

紗綾は布団を跳ね除け、枕の下に敷いてあった紙を手に取る。

それは世界をにかける賞金稼ぎ、ビヨンドの依頼書であった。

「別に殺す訳じゃないんだ……ズルでもない」

確か取り巻きの子生徒達に支払う給金の金庫があった筈だ。

ビヨンドに支払う報酬の目安はクリアできるだろう。