《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task3 奴らに稽古をつけてやれ

準備は整った。

早速、中庭で特訓を開始する。

俺が気になったのは視力だ。

このお嬢様は、その部分が鍛えられていない。

或いは、乗り移ったを上手く使いこなせていない。

どちらの場合であっても、トレーニングでのすり合わせが最適だ。

今よりマシにはなるし、いずれを返す日が來ても何かの足しにはなるだろうさ。

お嬢様とロナは準備運にストレッチをしている。

俺はその間、ベンチに座ってトレーニングメニューを考える。

「で、なんでブルマなんですか……」

ふたりとも上は半袖の著だが、下はハーフパンツじゃなかった。

の生地に、サイドは白のラインが二本っているブルマだ。

「開発者の趣味ですわ」

お嬢様も未だに納得できていないらしく、口元が引きつっている。

確かに、今時じゃその手のビデオやら漫畫やらでしかお目にかかれない代だからな。

「なんであたしまで著なきゃならないんですか……」

「折角ですし、一緒にやりましょうよ。ところでロナさんは、どうしてタイツをお召しのまま著に?」

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ロナに至っては、紺の生地から、薄手の黒い布に包まれた腳がびている。

「基本的に、腳を見せるの好きじゃないんですよね」

「あら、いけませんわ。せめてスー先生と二人きりの時くらいは素足を曬すべきでしてよ?」

「そりゃ、考えなくもない、ですけど……」

ロナは耳を赤くして言葉を濁すが、俺の知った事じゃない。

さて、どうしたものか。

トレーニングをするにあたって道を使うのは、今から用意するのも面倒だ。

やっぱり煙の槍を、威力を下げて使うのが手っ取り早いかね。

「終わりましたわ。スー先生」

「いいだろう。ロナ、お前さんも來てくれ」

「あたしまでやる意味」

「てめぇで考えな」

「この鬼畜」

俺は中庭の、土の出している部分に靴で線を引く。

ロナとお嬢様をその上に案して、立たせる。

それから、俺は十メートル程度の距離を開けた。

「煙の槍を必死に避けな。當たっても中斷はしない」

回數は記録するべきだな。

遠目に見ている爺さんにも協力してもらおう。

「爺さん。お嬢様に命中した回數を數えておいてくれ」

「お嬢様のお顔に當てたりでもしたら、解っているな? 當主が帰國したら、貴様は首が飛ぶどころでは済まされんぞ」

「そんなのはお嬢様の頑張り次第さ。じゃあ、始めようか」

指をパチンと鳴らし、大量の煙の槍を空中に展開。

流石にこれは持ってかれそう・・・・・・・だぜ。

ぐらっと來やがる。

「3、2、1……GO」

同時にじゃなく、一発ずつ順番に飛ばしていく。

速度で言えば毎秒二発。

煙の槍はそんなに大きくない。

「あ、わ! きゃ!?」

「ふぬ、このっ!」

―― ―― ――

かれこれ三時間くらいは続けた。

すっかり日が落ちて、連中も腹を空かせた頃合いだ。

俺は、さっきのベンチに腰掛ける。

お嬢様は息を切らせて地面にどっかり座り込み、ロナは土汚れを気にしているのか棒立ちのままだ。

「いくらホーミングが甘いとはいえ、容赦もクソも無いですね」

「ぜぇ、はぁ……ええ、こんなに激しいのは、ゲホッゲホッ、初めて、ですわ」

こりゃあたまげた。

こいつが接近戦を選ばなかったのは、そういう理由だったのか。

「お前さん、運は」

「こ、このでは、ば、バレエを、々……っ」

「道理できがサマになってたわけだぜ」

殘念ながら、ロナは大層な慌てぶりだった。

優雅さの欠片もないガニのステップには、腹を抱えて笑いたくなった。

「けっ、悪かったですね、どうせあたしの前世は引きこもりですよ」

そこに爺さんが相を変えて飛んで來る。

「お嬢様、お怪我はありませんか!」

「彼の魔法では傷はつきませんでしたわ。けれど、転んでりむいた傷が。あら、ロナさんも」

指摘をけたロナは、ぎょっとした顔で足回りを確認する。

相変わらず、表かで楽しませてくれる奴だぜ。

「派手にやっちまいました。怪我なんて何年ぶりだろ。

……あー、破れてるし。替えのタイツが必要ですね」

「バレエ用のでも良ければ、お貸ししますわよ」

「流石にそこまでは悪いですよ」

ロナは思い出したかのように、著の橫腹を指でつまむ。

汗で気っていた。

「とりあえず、お風呂にしたいです」

「爺! 今すぐ浴室の準備を!」

意に!」

爺さんは懐からインカムを取り出し、指示を飛ばす。

これだけ広い豪邸だと、口頭で直接やるより早いだろうからな。

「わざわざすみませんね。久々に大汗かいたもんですから、ベタベタすぎて」

「行ってきな」

「あんたはいいですね。いつも汗をかかない。臭大丈夫ですか?」

「嗅いでみろよ」

腕を差し出すと、ロナは指先から順番に、背中や頭の匂いまで嗅いできやがった。

犬じゃねぇんだから。

そしてロナは後ずさり、神妙なツラでうつむく。

「……臭わない、だと……!?」

「本気で嗅ぐ奴がいるかよ」

「だって」

「さっきベンチでお前さんから漂ってきたのは、シャンプーと、甘い香りだけだったぜ」

「気分の問題です。気分の」

解らんでもないが。

ロナと俺は、しのあいだ見つめ合う。

するとおもむろに立ち上がったお嬢様が、ロナの両肩を後ろからがっしりと摑んだ。

「ロナさん! お背中、流しますわよ。今夜はメイドも下がらせて、二人っきりですわ!」

「あー……別の仕事をしていた時に、ピンク頭に絡まれたのを思い出しました」

まるで錆び付いたボルトのように、ロナはぎこちないきで首を回す。

「マジかぁー……ピンク……この世界でその単語を聞くとは思わなかった。

……コホン。お泊りしたの子がの付き合いをするのは、別に普通ではなくて?」

「あいにく、學生時代はぼっちでしたので。元カレはノーカンな」

ロナ……俺を見て言われても困るぜ。

お嬢様が、また要らぬ勘ぐりを始めちまうだろう。

「一度目の釣りで長靴を川に落としたからといって、人參を魚に見立てる必要は無い」

「失禮、その、今のは?」

「どうせ“今までの人生で得られず失敗しても、後でいくらでも取り戻せる”って意味でしょう」

「なるほど! 仰る通りですわね! では、取り戻しましょう! 今すぐ!

わたくしとロナさんは、マブダチになりますわよ!」

両脇を抱えて、ロナを引き摺っていく。

ロナは怠そうな顔を隠そうともしないまま、俺に手を振った。

「苦節十六年……紗綾様が斯様なまでにお喜びになられるとは……!」

いつの間にか、爺さんは俺の隣にいた。

ハンカチでこれ見よがしに涙を拭いてやがる。

「常に支配者たるべきという臥龍寺家の家訓ゆえ、お嬢様は同年代のご友人がいない。

お嬢様の周りには常に、上か下かのどちらかしか存在しなかった……」

長くなりそうならレジュメで頼みたい所だが、おとなしく聞いておくかね。

俺の勘が言っている。

この長話は使える・・・と。

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