《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task8 隠しボスとして君臨せよ
「お前は……あの時の、ダーティ・スー……!」
レジェンドガールが憎々しげに顔を歪める。
そうだ、その顔だ。
「いやぁ、いい絵になってたぜ、お嬢様がた! おで手間が省けた」
第二ラウンドは、これからだ。
手負いの獣をいたぶるのは紳士的じゃあないが、黒幕っていうのはそういう事を平気でやるもんさ。
せいぜい頑張れよ。
お前さん達のような魔法共は、俺みたいな奴を倒さなきゃいけないんだから。
「爺!」
顔を上げたお嬢様は、爺さんを見る。
ロナに手振りで示し、しきりにく爺さんをお嬢様の隣に置かせる。
「お嬢様は、お前さんを保護しようとしていた。不用すぎて空回りしていたがね」
「ちょっ、待っ……いえ、お待ちになって! 先生、そんな話……――」
お嬢様の頭を踏みつけて黙らせる。
爺さんは鬼の形相で俺を睨む。
「“そんな話、どこで知ったのか”って? そんなのちょいと調べりゃすぐさ!」
“そんな話、聞いてない”なんて言わせないぜ。
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お前さん達には話さなかったからな。
最後の最後で、とっておきをぶっ放すというのが俺のプランなのさ。
後で爺さんに叱られてめられとけよ、お嬢様。
「このジジイは俺の邪魔をした。後で殺す」
「こんな真似をして、何をしようとしているの!?」
レジェンドガールが吠える。
「いいかい。俺が特別に長講釈を垂れてやる。
最強の魔法を見つけ出し、その力を奪う。それこそが俺の目的だ」
「どういう……」
「面白くもない話さ。の、それもガキ共が、大人の男である俺達より優れた力を持っている。しかも!」
レジェンドガールを指差す。
「才能のある奴がそれを持て余しているとくらぁ! 
下を見てみろよ。ああっ、可哀想に! あいつらはその花がしぼむ最後の瞬間まで、日で咲き続けるしかないのさ!
蝶も寄り付かない、徒花あだばなとして!」
俺は片手で目を覆い、天を仰ぐ。
実に芝居がかった仕草だが、今に始まった事じゃあない。
周りの連中がくたびれ果てて俺に手出しのしようがないなら、演説は続けるべきだ。
奴らが再び牙を剝く、その時まで。
「……そんなの、黙って見てられるかい? いいや無理だ、我慢ならん。
だから俺はそいつらの力を吸い取って、世界中に売り捌く!」
「不可能だよ、そんなの!」
「果たしてそう言い切れるかね。このお嬢様だってついこの間までは、金と地位しか持っていなかったぜ?」
足元のお嬢様を、もう一度蹴飛ばす。
くぐもったき聲が俺のを痛めるが、そこは我慢すべきだ。
「研究を進めれば、男が持つのも不可能じゃない。るきな。お前さんは既に目の當たりにしている筈だ。俺の、力を!」
指をパチンと鳴らして、煙の槍をいくつも呼び出す。
降り注ぐ煙の槍に、魔法共は為すもなく地に伏した。
可哀想な連中だぜ。
口々に月並みな臺詞を喚いても、みんなして餌食になっちまった。
目論見通り・・・・・、お嬢様は爺さんをしっかりかばってくれた。
「これを世界中の男が持ってみろ! 男の支配する正しい世界に戻せる!」
……ただ、レジェンドガールだけは上手く避けやがった。
奴の見開いた両目からじ取れるはただ一つ。
それは、憎悪だ。
「そしてもう一つ、夢のある話を聞かせてやろう」
演説には、まだ続きがある。
続いてのサプライズだ。
俺は、ロナを顎で示す。
「こいつは、ロナ。俺が改造、洗脳して作り上げた、人造魔法の兵士だ!」
ロナはそれに応じて、前に出た。
こいつは空気を読んでくれているのか、一言も発さない。
顔を上げたお嬢様は、聲を絞り出す。
「う、噓……!?」
重苦しい雰囲気が、曇り空をより暗くさせている。
にもかかわらず、ロナは気楽だ。
『……アドリブに付き合わされるにもなってくださいよ』
なんて、念話で毒づいてきやがった。
『いい演技ができたら、主演優賞をくれてやってもいい』
『帰ったらベッドな』
ロナは念話を打ち切ると、すぐに切り替えた。
まるでり人形のように、
「私はマスターに従い、あのように演じていただけです。マスター、次のご命令を」
と、の篭もらない聲で俺に問うてくる。
即興劇にしては上出來だ。
「お嬢様を捕まえとけ。次の素・・にする」
「はい、マスター」
「せいぜい、わたくしを捕まえて、いい気になっていなさいな……! 配下を勝手に使った借りを返してやりますわ!
たとえ人形にされても、いつか、必ず……!」
羽い締めにされたお嬢様は健気にも、枯れた聲で憎まれ口を叩く。
奴も大概、役者だからな。
どこまでが本心なのかは俺にも解らん。
ロナは無表のまま、そんなお嬢様を屋敷のほうへと引き摺っていく。
「お嬢様! くそ、だから私は反対だったんだ! 紗綾お嬢様を返せぇッ!!」
いつの間にか轡の外れていた爺さんが、絶する。
……心の底から慕っているんだな。
俺はレジェンドガールが落としていた杖の所まで歩き、それを拾い上げた。
「早草るきな。お前さんの力は頂いた」
ペン先のように、くるくると回す。
「ついでに言えば、お前さん達はくたばっていようが関係ない。どうせ別の世界で人生をやり直すだけさ!」
あからさまな挑発だ。
それでもレジェンドガールは、へたり込んだままこうとしない。
杖で肩を叩きながら、俺はバスタード・マグナムをホルスターから抜き取り、構える。
狙いは奴の心臓だ。
実際に撃つつもりは無いが、奴らからすりゃあそんなの知るよしもないだろうな。
「――あばよ、レジェンドガール!」
と、そこに。
「「――待て!」」
レジェンドガール達の背後から現れたのは、ミカン&タピオカだ。
わざわざ二人して自転車でやってきたのか。
まぁ、タクシーよりは近道がしやすいか。
「早草さんは、渡さない!」
「紗綾様を返してもらう!」
レジェンドガールは思わぬゲストに驚く。
「た、滝岡君!? それに、剣先輩まで……」
もちろん、俺にとっては想定の範囲だ。
何故ならここに來るよう仕向けたのは、他ならぬ俺だからさ。
使用人の一人に、電話させた。
だから次のタピオカの返答も予想通り。
「非通知で電話が來たんだ。早草さん達が危ないって」
「俺も電話が。まさか、こんな事になっているなんて」
ミカンの奴は爺さんの縄を解く。
タピオカ野郎は震える足取りながらも、ゆっくりと俺に近付いて來る。
泣かせるね。
だが、だからこそ歓迎する必要がある。
「隨分とお早いご登場で。もう宴も酣たけなわだぜ」
「知った事か!」
勇ましいタピオカ君を、レジェンドガールは足を引きずりながら追いすがる。
「待って! 滝岡君じゃ勝てないよ!」
そして、這いずったままタピオカ君のズボンの裾を摑む。
タピオカの奴は振り向いてしゃがみこみ、レジェンドガールの両肩を摑む。
「早草さん……いや、るきな。僕だって、張りたい意地の一つくらいはある。
商店街の時はごめん、僕が臆病だったばかりに……けど、もう逃げたくないんだ」
「無理だよ……お願いだから逃げて! 私は、どうなってもいいから!」
「僕も、るきなを守れるならどうなってもいい。お揃いだね」
「こんなのお揃いでも、私、嬉しくないよ……!」
レジェンドガールはついに、嗚咽をらす。
頬を伝う涙に、噓はじられない。
『あー、妬けますね、まったく。あたしも最初からああいうのと付き合ってたら、こんな歪まなかったのかな』
見れば、ロナは屋敷の扉に爺さんを座らせていた。
仁王立ちで辺りを油斷なく見回している。
使用人共は縛ってあるから、おいそれと増援は來ないと思いたいが。
『出來上がった壺の形は変えられないぜ』
俺は杖を収納して、代わりにバーボンのボトルを取り出す。
余興は酒を片手に見るのが一番だ。
『よし、後であたしをめろ』
……わかった、わかったよ。
お前さんは主人の帰りを待つ犬か何かかね。
まったく、世話の焼けるお嬢さんだぜ。
それよりも、レジェンドガールを見ろよ。
奴ときたら、に包まれて何かおっ始めるつもりだぜ。
ボロボロの制服姿が、あっという間にピンクと白のフリフリドレスに早変わりだ。
「あ、あれ……!? 変、できた……!?」
レジェンドガールは自分の両手、続いて自分の姿を見て驚愕する。
……奇跡を起こす、真実のって奴だな。
そう來なくっちゃ、主人公ってのは務まらない。
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