《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Final Task 奴の引退試合に華を添えてやれ

「お涙頂戴展開で回復ってか? 予定調和の奇跡に助けられた気分はどうだい」

どうせそうなるとは思っていたし、回復しなけりゃ日を改めるという方法もあった。

だが、奴の正義を検証するには、こうやって挑発するのが一番だ。

「滝岡君、他の人達を安全な場所に! 剣先輩も!」

「ああ!」

「了解だ!」

二人の坊やはいそいそと、倒れた魔法共を安全圏へと運んでいく。

まったく、涙ぐましい努力だぜ。

「ロナ、適當に相手してやれ」

「はい、マスター」

だにしないまま返答してから、ロナは丸鋸を指先から出現させる。

タピオカ君とミカン君は僅かにたじろいだが、すぐに魔法共との間に立った。

『殺すなよ』

『解ってますって』

子供が泣き出す景は、この世界ではやめておくべきだ。

ロナもそれを理解しているのか、ミカンとタピオカに対しての攻撃は牽制だけにとどめている。

「たとえ作りでも借りでも、力を取り戻したのには変わりない」

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「借りの力で、この俺様を倒そうってのかい」

俺がバーボンのボトルを開けている間に、レジェンドガールは立ち上がる。

奴の右手には、俺が拾ったものより隨分と上質な杖が握られていた。

「力は道。私は、その使い方を誰よりもよく知っている……だからこそ――」

奴の左手が、俺を指差す。

「あんたをブチのめす!」

「いいぜ! お前さんの正義を検証してやる!」

俺はバーボンを飲み干し、ボトルを投げ捨てる。

ガラス製のボトルが割れた。

――死闘の始まりだ。

俺は今まで見てきた魔法共の戦い方を真似てく。

或る時はスピード型。

或る時はパワー型。

そうやって幾つもの戦い方を組み合わせて、更に俺のオリジナル戦法も織りぜる。

「この……!」

レジェンドガールは、実によくいてくれている。

特訓を積んだお嬢様も中々のもんだったが、こいつは別格だ。

的確に回避して、間合いを詰めてくる。

何より、魔法を完全に使いこなしてやがる。

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歴戦の猛者、まさしく伝説級レジェンドだ。

間近で直接相手にする分、屋上で観戦していた時よりもよく解る。

「……しぃッ!!」

奴は針のを通すかのように、僅かな隙を突いて回し蹴りを放ってきた。

俺はその足首を片手で引っ摑み、背中側に振り回して地面に叩きつけようと試みる。

ところが、奴は杖を上手く使ってをとった。

俺は咄嗟に、奴の頭上に煙の槍をいくつか作る。

そのままけたたましい音を立てて、煙の槍は突き刺さっていく。

「――!」

だが、レジェンドガールは後ろに転がって片っ端から避けた。

バック転で瞬時に態勢を立て直し、奴は再び杖を構える。

「普通、そんだけけば息が上がるもんだが」

「伊達に修羅場はくぐっちゃいない」

「力とは“役目”だ。同時に“呪い”でもある。背負い続けた気分はどうだい」

互いにかない。

肩で息をしてもいない、靜かな戦い。

だが、沈黙は続かなかった。

先にいたのは、レジェンドガールだった。

「……おじさん、石をどけろって言ってたよね」

奴は蛇行しながら杖を構え、更に距離を取ろうとする。

「ああ」

同時に、俺は煙の槍を上空に作る。

今度はざっと100本くらいの、とびきりのご馳走だ。

雨のように降り注ぐ煙の槍を、レジェンドガールはの傘を作って防ぐ。

ならばと、俺はあらゆる方向からミサイルのように飛ばす。

奴が防いでいるその一瞬を突いて接近、俺は拳を振りぬく。

だが――。

「本當なら、他の人でも良かったんだ。その役目は」

奴はもう片方の手で作った雷の盾で、俺の拳を押し留める。

ジェット水流に真正面から突っ込むような反発力が、俺の拳を容赦なく襲った。

「たまたま、石をどかすのが、引退していた筈の私だっただけ。

私は特別な存在なんかじゃない。10年近くも魔法やってたら、嫌でもこうなる」

「努力する時間が長ければ必ず報われるとでも?」

「そうとは限らないけれど、あらゆる意味で自分を特別視するのは傲慢じゃない?」

「強者の理屈はいつだって傲慢そのものさ。たとえお前さんがんでいなくても。

引退なんてしたら、お前さんを目標にしていた奴はどうする?

余裕ぶっこいてひんしゅくを買う勇気があるのかい」

俺の皮を、レジェンドガールは鼻で笑う。

「……その・・責任まで取らなきゃいけないの?」

「だが、それこそが、力と呪いが隣り合う所以ゆえんでもある。

圧倒的な力を示して、誰も逆らえないようにしてやるのが強者の務めさ」

「……それでも、小石はそっとどかす・・・・・・・・・。投げ捨てたら、誰かに當たるかもしれないから。

灼けた石? だから何? 火傷で済むなら上等でしょ」

「で? 結論は?」

がいっそう強くなり、俺は咄嗟に手を引いた。

挙句にレジェンドガールの奴は、俺の真似をして尖ったをいくつも落としてくる。

「お前みたいな奴がいると、枕を高くして寢られないんだよ!」

一発目、回避。

「お前さんが? それとも人かい?」

二発目は煙の槍で打ち返してやった。

「私の知りうる全員!」

殘りは煙の壁でけ流す。

「その割には、お友達が絡まれた時に変しなかっただろう?」

「変は最終手段。他にできる事はいくらでもある」

アスファルトの地面はあっという間にだらけになった。

それでもの雨は止まない。

視界が真っ白に塗り潰され、奴の姿を見失う。

避けるのも一杯な所に、後ろからの風をじた。

「――そこかい」

俺は、振り向かずに銃弾を一発お見舞いする。

奴が背後から杖で突き刺そうとしてきたのを、俺は蹴飛ばして防ぐ。

その勢いで、俺は奴のほうに向き直った。

奴の頬には、銃弾が掠めたらしい一本の傷があった。

「こいつぁ驚いた。普通のの子らしく、お嫁に行けない事を気にするかと」

「悔しかったらシャンプーに塩酸でも混ぜてみなよ」

眩しいツラをしてやがる。

……こいつなりに覚悟を決めてやがったんだ。

偶然・・手にしたスーパーパワーに溺れる間抜けとは違う。

やることやってさっさと楽をしたいだけの平和ボケとも違う。

てめぇの役目をてめぇでしっかり見極めて、ちゃんと責任を取らなきゃいけない部分を弁えてやがる。

そういうツラをしている。

「いいだろう。これで最後にしてやる・・・・・・・」

そら、気合いれろよ。

合格まであとしだぜ。

バスタード・マグナムを再び構えて、足元を狙う。

レジェンドガールはたたらを踏みながらも、間一髪で避けた。

ここで煙の壁を空中から地面へ垂直に落とすようにして作り上げ、即興の煙幕を張ってみた。

どんなものも防ぎきる、らかい煙幕。

消えるまで、しだけ余興を楽しもうじゃないか。

「防魔法? まどろっこしい!」

「……俺を倒したかったらクリント・イーストウッドと44マグナムでも手配してくるんだな。どんな魔法よりブッ飛べるぜ」

「ベッドで銃の手れでもしてな、マカロニ野郎」

「俺はマカロニより、スパゲッティのほうが好きだ」

壁が消えるまで、殘り3……。

2、1――。

消えかけの煙の向こうへ、俺は拳銃を二発・・ぶっ放す。

ややあってから、俺はその場に崩れる。

るきなの放った稲妻で、俺は腹に風を開けられていた。

同時にレジェンドガール――早草るきなの杖も砕け散り、奴はまた変が解けた。

「……今更、手をらせでもした?」

――俺が撃ったのは、ロナと杖だ。

何もかもを丸く収めるには、そうする必要があった。

「そのようだ……引退試合は、お前さんの勝ちだぜ」

「試合じゃなくて、戦い・・だよ。観客に見せる為だなんて、私は思いたくない」

俺は上空を指差す。

テレビ局のヘリが、いつの間にやらやってきていた。

「テレビ局にする言い訳でも考えな……何にせよ、杖はもう無い」

戦いに必要なのは象徴だ。

るきなの杖は“力と役割”を象徴している。

あれが無くなれば、るきなは今この瞬間に引退するという選択肢ができる。

俺の後に脅威が現れなきゃ、の話だがね。

「……」

俺は顔を上げて、お嬢様――紗綾を見る。

奴は俺には目もくれず、ロナを抱きかかえていた。

信じていた友人が、実はり人形だったなんて言われたらな。

紗綾が驚いたふりをしている線も捨てがたい。

奴は生前、演劇部の経験があるからな。

……だが、どっちでもいい。

『これで丸く収まる。後は好きにしな、紗綾……』

一方通行の念話だが、返事なんざいらねぇだろう。

お前さんの人生は、ここから始まるのさ。

視界がしずつに覆われていく。

どうやらあれだけの事を仕出かしたにもかかわらず、依頼は功したらしい。

俺は、賭けに勝ったって事だ。

賭けは、運命をブチのめすのが可能かどうか。

それは早草るきなに勝てるかどうかじゃない。

紗綾という貴婦人が、馬車シナリオと一緒に谷底へ転がり落ちないようにする事ができるかどうか。

俺は石にり代わった。

それを、るきながどかした。

足元に気をつけるようになったなら、いい旅路になるだろう。

せいぜい、次の石にいたずらされねぇ事だ。

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