《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task2 麻薬畑について報告しろ
作戦開始から二週間。
撹作業の実務はハラショーエルフに放り投げ、俺は地形を把握する為に散歩していた。
ついでに“煙の壁”と“煙の槍”を応用して、々とやりたいのもあった。
拠點にしている窟を北端に、地図と照らし合わせながら思い返す。
地図の中央にある村が、今回の生け贄だ。
何でも、森教という宗教団が幅を利かせていて、地図上だと東の隅っこにあるカーテンコール・・・・・・・帝國側が巡回ルートを確保できないとか。
見張り臺を設営したいが、住民共はそれを拒んだ。
で、俺が見てきたのは西側と南側だ。
西のはずれのほうをメインに見てきたが……これがまた素敵な出會いがあった。
今しがた、そのお土産話をロナとしていたところだ。
テーブルの上の地図とにらめっこしながら、俺は差しれのバーボンを呷る。
ちなみにハラショーエルフはお出かけ中。
「麻薬の売人が潛伏している? わざわざ、こんな辺鄙な場所に?
それでしばらく拠點を留守にしていたんですか」
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「製造工場も近くにある」
「売人さん達は、そこで補給して各所に売りさばくつもりと」
「で、俺はそいつを制圧しちまった」
「は!? 制圧!?」
「ああ。ダムダム団とかいうふざけた名前だったぜ。まとめてひねってやったら、あっさり尾を振りやがった」
「はあ……」
「途中で帝國騎士団とやらがやってきたが、協力者の売人共が罠にかけてくれたおで、奴らは仲良く檻の中さ」
派手な赤いサーコートも引剝ひっぺがしてやった。
屈辱的だろうよ。
「騎士団まで相手にしたんですか。人數は? 斥候だったりしませんか?」
「ざっと6人くらいかね。売人共の半分もいねぇ。
ああ、そういや売人共から口止め料も貰ったぜ。形を見る限りじゃあ、これは大麻だな」
収納指からブツを取り出すと、ロナはしだけ目を見開いた。
それから程なくして、いつものシケたツラに戻る。
「……麻薬王でも目指すつもりですか」
「オランダじゃあ合法だぜ」
「ここは地球ですらないんですが」
「焼き払うよりかは、証拠として殘しておくべきさ」
騎士団がやってきた時、売人共はお先真っ暗といったツラだった。
あの手の連中は場所さえ変えれば商売は続けられる。
ただし、後ろ盾がある限りは。
要するに、その後ろ盾が手のひらを返した結果があれだ。
「畑のオーナー……いや、黒幕を見付けたら、こいつをタネにゆすりを掛けてやろう。
とはいえ、俺のものだと言われたらそれまでだがね」
俺が持って行ったのが大麻だけだと思ってやがるなら、そういう手に出て來るだろう。
「……どうせその時は片っ端から収穫して、戦利品として提出するんでしょ」
「ああ。俺は別に、そっちのビジネスには興味が無い」
だが後ろ盾を示す証拠が、収納指にっている。
この命令書は、然るべきタイミングで見せつけてやろう。
それまでは、みんなにはだ。
酒も煙草もこの世界にはあるんだ。
それに、いいだって。
そのうえドラッグまで広げるなら、流石に俺も寢覚めが悪い。
生前に數ないダチから聞いた話が、俺のニューロンをかきす。
高校時代のクラスメイトの一人だった奴が、中毒を起こして事件までやらかした。
ニュースにもならない小さな事件だが、あんなのを増やすのは免だ。
嫌がる奴に無理やりなんて、そういうのは暴力だけでいいんだ。
それも、武を持った奴だけ。
ドラッグは金を持て余した豚共の餌にでもしてやるのが一番さ。
「……お前さんと話をすると、何故か俺まで辛気臭い気分になってくる」
「は? 人を晝ドラみたいに言わないでくれます?」
「だがお前さん、晝ドラも真っ青な人生経験だったろう」
「うん。知ってる。皆まで言うな」
―― ―― ――
さて。
とりあえずは周りの連中がヘマをやらかしたとしても、俺一人でもカバーできるようには仕込みを済ませた。
魅了の対策も確認済みだ。
ハラショーエルフいわく“不の心得”とかいう指を、配下共に付けさせている。
これがあれば、どんな間抜けでもパンツ姫の言いなりにはならないらしい。
俺自は、村の連中とは接しない。
直前まで匂わせておくだけでいい。
仮に異世界のシャーロック・ホームズがお得意の名推理をやってくれたなら、それはそれで大歓迎だ。
その時は「ご名答! 真犯人はこの俺だ!」と拍手しながら現れれば、全てが丸く収まる。
奴らは人數にを言わせて制圧しに掛かって來るか?
答えは常識的には・・・・・ノーだ。
ロナが潛して集めた報によれば、あの名無しの村はそういった面倒事を極端に嫌う。
できれば人數で解決したいというのが、村の連中の総意らしい。
だが、帝國の格を考えるとそんな紳士的なき方をしてくれるかどうか。
窟のり口から、ハラショーエルフが駆け寄ってくる。
「同志。魚が網にかかったようですぞ」
早かったな。
一、どんな手品を使ったのやら。
まぁいいさ。
「……どれ、ちょっくら塩焼きにして喰っちまうか」
「結構な量ですが、大丈夫ですかな? ご希とあらば、我輩の私兵を呼び寄せますが」
「どれくらいで來られるんです?」
ハラショーエルフの提案に、ロナは疑いの眼差しを込めて口を挾む。
それに対してハラショーエルフは、得意げに人差し指を振った。
「ほんの數秒ですぞ。既に村中に忍ばせていますからな」
「またご用意周到な……」
「木を見たら枝と落ち葉を見ろ。森に伝わることわざですぞ。それで同志、いかがですかな?」
「結構だ。冬將軍」
俺はその提案を蹴っ飛ばす。
ハラショーエルフは珍しく顔を青くした。
「え!? 恐れりますが、同志……正気ですかな?」
「一人あたり幾らだろうと、報酬から天引きされるくらいなら俺一人でやっちまうほうがマシさ」
ハラショーエルフが、わざとらしく顎に手を當てて俯く。
どこまでが演技だ?
まったく、こいつの白々しさは底が知れないぜ。
「ムムム……同志の仰る通り、確かに私兵を出したら金をとるつもりでしたが……。
一応、監視は付けさせてもらいますぞ。流石に今回は相手が悪い」
「売人共と人質はどうなってる?」
「何名かは私兵としてスカウトしましたぞ。その分はサービスしても大丈夫ですがな」
「ちゃっかりしやがって。俺は俺の使いたいように金を使うぜ。せいぜい高みの見でも決め込んでおいてくれ」
「ほむ。ではお言葉に甘えて。出しの準備もありますからな」
「どんな結果になろうとも、お前さんは損をしない……お前さん自、そういう風に運んでいるんだろ?」
「お見通しでしたな」
いつもの白々しいツラで、ハラショーエルフは首を縦に振る。
ただ使われてやるだけってのも、あまり気分のいいもんじゃあない。
せっかく奴の手の平の上で踴るんだ。
どういう演奏なのかを……奴の企みを解き明かしてみようじゃないか。
……行くぜ。
何だか嫌な予はするが。
一応、バーボンのボトルはテーブルから持っていく。
「おい、自重しろアル中」
ロナは低い聲で、ぼそりと毒づく。
ビヨンドはいついかなる時でも健康なのに、何を気後れする必要があるのかね。
「バーボンの味が好きなのさ」
「そうですか。ビヨンドに肝変もガンも無いでしょうから、好きにすればいいでしょうけど……いってらっしゃい」
「ああ」
敢えてハラショーエルフの奴に、俺達のキスを見せつけてやる。
互いの指を絡ませて、舌を舐め合う濃なキスだ。
「ふ、ふおお、なんと熱的な……」
ハラショーエルフときたら顔を真っ赤にして、両目を手で覆ってやがる。
そのくせ、指の隙間からしっかりと見ていた。
初心うぶな奴だな。
鼓が早くなっている俺に言えた臺詞じゃねぇが……。
「そんな酒より、あたしとのキスのほうが味しいでしょ」
「それはそれ。これはこれ」
「言うと思ってました。他のにもそれ言うんですかね」
「さぁね」
窟の外に出て、高臺に登る。
森を見渡せば、煙が出ている所があった。
方角から、一つの推測が頭をよぎる。
なるほど……連中、畑を焼いたな。
淺はかな野郎共だ。
いたずら小僧共にお仕置きすべく、俺は出発した。
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