《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task4 騎士団を草原地帯に導しろ

「イスティ! ボクも戦うよ」

「……恩に著る!」

パンツ姫はバッタみたいにひとっ飛びで、イノシシ娘の隣に並び立つ。

ほんのちょっとだけ、イノシシ娘はパンツ姫から離れた。

すると、パンツ姫はその分だけ近寄ろうとする。

なかなかシュールな絵面だ。

さて、ロナも考える事は同じ……だと思う。

俺と似たようなツラをしている。

「あたしはどうします? 依頼主の所に戻ります?」

「こいつらを片付けてからにしよう」

「あんた一人でも片付きそうですけどね……」

そんな気はするが、それじゃあ進歩がないってもんだ。

しは強くなったんだろ?

或いは、強くなったと信じたいんじゃないか?

イノシシ娘も、パンツ姫も。

そして、ロナ……お前さんも。

「……俺が引き寄せる。ロナ、お前さんはついて來い」

「了解」

「させるか! 絶対に逃がすな!」

イノシシ娘が突撃すると同時に、騎士団は隊列を組んで距離を詰めてくる。

あっという間に包囲網の完だ。

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四方八方から斬りかかってくる。

この団さん、恐ろしい連攜だぜ。

イノシシ娘のいた冒険者パーティとは格が違う。

だが、それだけだ。

バリエーションに乏しい。

ロナもこの前の依頼で視力を隨分と鍛えたから、型にはまりきった攻撃はするりと避けた。

更に、木々を蹴った三角飛びを使って、撹に徹する。

俺はいつもどおり、距離を取りながら煙の槍で応戦だ。

面白みなんて欠片も無い。

「この前みたいに、誰かさんに魔法を使わせたらどうだ?」

「ほざけ!」

言葉を紡ぐ余裕が無いのか、それとも隠しておいた作戦でもあるのか。

どちらにしろ、問題はただ一つだ。

どうやってこいつらの心を折ってやるか。

一人ずつ片付けてやってもいいが、単なる腕っ節の比べっこというのも蕓が無い。

怪力と狡猾さの両方が、この20名あまりの集団という一つのユニットを遙かに凌駕していると思わせたい。

の知れない化けと戦っているという事を、そのを以て思い知って貰おう。

……タネは、ちゃんと作ってある。

『ロナ。ここから北に真っ直ぐだ』

『今あたしが逃げている方角ですね』

『丸鋸で木を切り倒してもいいぜ』

『了解』

念話で指示を飛ばし、移を開始する。

ロナは指示通りに、尚且つ自分で判斷して木々に丸鋸を飛ばしていく。

「うわっ、危なっ!? ロナ! 無闇な森林伐採はやめようよ!」

パンツ姫はあまり用な飛び方ができないようで、倒れてくる木々に何度かぶつかる。

ざまあないぜ。

ご自慢の跳躍力がアダになっちまっている。

「サイアン殿の言う通りだ!」

この森に道は無い。

そこかしこにっこが張って足場の悪い所に、更に丸鋸が飛んできて、木が倒れてくる。

連中からすりゃあ、これほど戦いにくい場所も無いだろう。

不幸中の幸いは、今が晝下がりって事だ。

夜中だったら転んでいたに違いない。

だが、俺達にとっては晝も夜も関係ない。

これからやろうとしているサプライズは、奴らが晝を甘く見ていてこそ、より効果的だ。

森が途切れ、開けた場所に出る。

ざっと100メートル走のトラック程度には広さのある、腰くらいの高さの草が生い茂る草原だ。

きっと上からだと、森の中にぽっかりと薄緑が開いているように見えるだろう。

この場所こそが、俺の罠さ。

村の連中は木々の屋がないこの場所には、近寄ろうとしない。

や騎士団がうろついていると思っているらしい。

だから、罠の存在を知る奴は俺を除いて誰もいない。

『――ロナ、見えるかい』

『この警告表示、道端のうんこ以來ですね』

今、俺とロナの視界には、草原のところどころに三角形に囲まれた“!”が見えている。

この警告表示が、罠の場所を指している。

『踏むなよ。足が汚れる程度じゃ済まされん』

草原の中心地まで辿り著き、振り向く。

ようやく追い付いた一行様の姿が、続々と木々の合間からご登場だ。

「ドーテイ・スー! わざわざ自分から姿を曬すとは、何と愚かな!」

「俺が貞? そんなもんは、くれてやったよ」

誰とやったかまでは言わないが、イノシシ娘は俺の相手が誰だったのかに想像が及んだらしい。

ロナとパンツ姫をしきりに見比べて、顔を赤くしている。

『恥ずかしいから話さないで下さいよ?』

『もちろん』

「いつ・・くれてやったのかが気になるのかい」

「知るか! 総員、弓を構えろ!」

「「「オー!」」」

ならば、こうしよう。

煙の壁を斜めに発生させてやる。

そうすりゃ、相手は線を遮らない所からる必要がある。

必然的に、奴らは移する。

「う、うわああ!? ほぐっ!」

弓を構えたうちの一人が、前のめりに倒れて草原に沈む。

一つ前の依頼で良家のお嬢様……臥龍寺紗綾に魔法を教えていた時、俺はこれを編み出した。

煙の槍を設置する、という罠を。

「――罠か!? 総員、退避!」

一度通って無事だったとして、二度目も同じとは限らない。

走って逃げようとした奴が、地面から飛び出た三角錐に顎を毆られる。

「べげぇ……はうっ」

効果はバッチリだったらしいな。

イノシシ娘はさっきまで真っ赤だった顔を、今度は真っ青にしている。

きょろきょろしながらも一歩もけないそのサマが、実に痛快だ。

「ど、どういう事だ!? 見えない何かが移しているとでもいうのか!?」

「俺にそれを訊いて、答えが帰ってくるとでも?」

「……」

「イスティ。ボクなら、キミだけでも範囲外に逃す事はできるかも……」

「い、いや、ならん。それは駄目だ。仲間を見捨てるのは、私の矜持に反する」

隨分と悪魔的な提案をするんだな、パンツ姫の奴は。

言葉はよくよく選んで使うべきだぜ。

さもなきゃ數秒前までお友達だった奴が、まばたき一つしている間に敵になる事だってある。

「……ボクが一人で戦うよ」

「よせ! 危険だ!」

「じゃあどうしろっていうの!?」

「奴らをとにかく走り回らせよう。罠の位置さえ見えるなら、戦えん事も無いだろう」

イノシシ娘が腕組みをして、誰に隠すでもなく結論を述べる。

どうやっても30メートルも無い距離だ。

俺の耳にるというのは覚悟の上なんだろう。

「面白い。やってみな」

「言われずとも! ……放て!」

奴らの放った矢の半分が俺に、もう半分がロナを目掛けて飛んで來る。

本気で當てに來ているようなじは無い。

いや、そもそもそんな技量も無いのかね。

「こんな時にリッツ殿がいてくれたら……」

「そのリッツって人は弓の名手なの?」

イノシシ娘のつぶやきに、パンツ姫が首を傾げる。

だが、イノシシ娘はご機嫌斜めだ。

「……後にしてくれ」

「ごめん」

當然、そうなるだろうよ。

何せ今は、みんなで頑張って俺をハリネズミみたいなオブジェにしようとしている真っ最中だ。

余計なおしゃべりで手元が狂えば、何が起きるのやら。

とはいえ、どう足掻いても既にこの“煙のダーティ包囲網”からは逃れられない。

たとえフィールドのあちこちに矢が突き刺さっていても。

俺もロナも、罠を丁寧に避けて逃げ回っている。

そして、矢が當たった所で罠は作しない。

「ノイル卿。もう、矢は盡きま――」

剣山の如くびっしりと集した煙の槍が、報告していた騎士を張り倒す。

「何!?」

俺が設置した煙の槍は、二種類ある。

一つがその場に留まる、普通の固定型。

もう一つが、あちこちをゆっくりとき回る移型だ。

一度目が安全だった所も、二度も同じく安全とは限らない。

「もう我慢なりません、ノイル卿、我々は突貫します!」

「ま、待て!」

イノシシ娘が止めようとするが、無駄だった。

騎士団は武を突き出して、走り出す。

の気の多い連中だぜ。

ハラショーエルフの寄越した監視共は、どこまでこれを記録できている?

どこまで奴の計算通りだ?

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