《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task3 一泡吹かせてやれ
俺は列車の天井を、ゆっくり歩く。
銃口は、遠くのスパイ野郎を捉えたままだ。
このトンネルの中はガス燈のオレンジのが照らしてくれている。
さて、そのスパイ野郎は多分本部のアドバイザーか何かと相談中なんだろう。
ここで三流は「無駄な足掻きを」と嘲笑う。
俺は違う。
何かをしようとしたら全力で叩き潰して、相手の真っ赤なツラを拝むのが俺のやり方さ。
まもなくスパイ野郎が程圏にる。
お前さんの足掻きは無駄じゃない。
一泡吹かせてやるから、俺をたっぷり楽しませてくれ。
それじゃあ挨拶代わりに、ズドン!
當然、避けられたな。
「スパイ野郎。お前さんが何かを企んでいるのは解っている」
「止めても無駄だぞ」
やけに強気だ。
ハッタリをかましているわけでも無さそうだが……さて、どう打開するのやら。
お前さんが追い掛けている、列車の中の大統領閣下。
その真実を知れば愕然としてくれるに違いない。
言わないがね。
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せいぜい頑張って、その末に絶するがいいさ。
「犬死にする事になる。君も、私も」
「死に意味を與えたがるのは、弱者の悪い癖だぜ、スパイ野郎」
「墓前で祈る為の言葉くらいは、考えさせてくれ」
「人殺しが殊勝な事を言いやがる」
ズドン!
お互いの銃が火を噴く。
だが、相手の弾が僅かに早かった。
放たれた奴の銃弾は俺の手に命中し、そのせいでプラズマ弾の軌道が逸らされた。
降り注ぐ瓦礫が、俺達を分斷する。
狙えるか?
やってみせよう。
「……」
撃てないだって?
違和に気付いて、俺は右手を見る。
ワーオ!
右手がドーナツになっちまった。
完全にオシャカだ!
大した蕓當だぜスパイ野郎、惚れさせやがって!
だからこそ、潰し甲斐があるってもんだ!
……右が駄目なら左手でやるしかない。
果たしてやれるかね。
手元が狂って頭をやっちまったら、それはそれで面白みが無い。
スパイ野郎はまだまだ進んで行く。
俺はホルスターにバスタード・マグナムを収めて、奴の視界を掻い潛って下に降り、貨車両の中から追い掛ける。
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そんな折、いいを見つけちまった。
いわゆるRPG-7とかいう、使い捨てのロケット弾さ。
戦車と戦う想定でもしていたのかね。
そいつを一本拝借して、肩に擔ぐ。
先頭車両に辿り著いたスパイ野郎は、無造作に寢かされたそれ・・を調べていた。
「……なるほど、臓まで再現した巧なマネキンに、一定のリズムでナノマシンを作する事で鼓まで再現するとは」
「影武者・・・とご対面した気分はどうだい、スパイ野郎」
「最悪だ。休暇中だったのに」
「ストライキでもすりゃ良かったのさ。代わりは幾らでもいるだろう?」
「生憎、うちも人手不足でね」
そういや先頭車両にたむろしていた連中の姿が見えないが、奴らはどこに消えた?
まさか、俺だけ殘して消えやがったのか?
まあ、構わんか。
「……じゃあ、有給申請の準備でもしてくれ」
左手に持ったバスタード・マグナムでまず狙ったのは、先頭車両の窓ガラスだ。
オゾン臭と、ガラスの熔ける香りがたまらない。
そしてその大から、RPG-7をぶっ放す。
ただのレールじゃあ、ロケット弾頭に耐えられる筈がない。
煙を吹いて飛んでいった弾頭は、金屬の棒を容赦なくブチ壊した。
視界が橫転する。
それはすなわち、列車が橫転したという事実に他ならないのさ。
背中をしこたま打ったが、スパイ野郎は?
……ざまあみろ!
外に飛び出したのはいいが、満創痍だぜ!
詰めはしっかりと、相手が悔しがるように。
それじゃあ、ラストだ。
ズドン!
「うぐおッ!?」
HELL YEAH!!
ジャックポットだぜ!
奴の右手よりし外側を狙って、見事狙い通りの場所を撃ち抜いた。
そう、直撃じゃあ命に関わるからね。
銃はどろどろに溶けて発……ああ、可哀想に!
高級な仕立てのスーツに焦げ目がつき、の焦げる匂いが鼻をくすぐる。
まったく、惚れ惚れする威力だね。
奴が飛び退いても、しっかり當てられる俺様の腕前。
我ながら恐ろしいぜ。
右手を押さえてうずくまるスパイ野郎に近づき、俺は屈む。
「ダーティ・スー。それが俺の名前だ。ご同行願おうか、スパイ野郎」
「ロイド・ゴース……」
「じゃあロイド。続きは基地で……――おっと!」
上空から降り注ぐ弾。
見れば、四機のヘリが機銃を構えてやがった。
スパイ野郎の、お迎えか?
それとも、漁夫の利を狙って、奴を俺ごと消し去ろうっていう第三勢力でも湧いて出やがったか?
「こちとら一仕事片付けたんだ。休憩くらいさせてくれよ」
ぼやいた所で、上を悠々と飛び回るヘリ共までは聞こえないだろう。
うち一機のヘリからこっちを見ている妙なは気になるが……。
あのブロンドのは、誰の友達だ?
切れ長の目は、いかにも挑発的じゃないか。
とにかく、ここは一つ生存戦略を練る必要がありそうだ。
ロイドのお持ち帰りは諦めるか。
幸いにも、現在位置はトンネルから出てきたばかりだ。
俺は踵を返してねじれた連結部を伝い、貨列車の中を走る。
天井にが幾つもブチ開けられ、金屬の破片が降り注ぐ。
そういう役柄は、あのスパイ野郎にでもくれてやりゃいいのに。
いやはや、參ったね。
「アニキ! こっちです!」
聞き覚えのある聲と、エンジン音。
連結部から覗けば、そこにはガス燈の薄明かりに照らされた暴走族の連中がいた。
やれやれ、俺はまた幸運に助けられちまったらしい。
悪いね、正義の味方諸君!
バイクのサイドカーに飛び移り、俺は元來た道を戻っていく。
サイドカーとはいえ、バイクはトラウマなんだがね。
努めて平靜を裝う為に、道中の俺はバーボンのボトルを片時も手放さなかった。
―― ―― ――
そんなわけで、アジトへと帰ってきた。
途中からはバイクを拝借したがね。
(片田舎の警察じゃあ飲酒運転も取り締まれなかったようだ)
流石に依頼主も、ゾクを家にはれたくないらしい。
ゾクのボスに「依頼主一人で戻れとの司令が下った」と伝えてお別れを済ませた。
ついでに、一人でモーテルに泊まって冷たいシャワーを浴びて、予備のコートに著替えた。
こんなナリでも、人目を気にしながら帰るくらいの警戒心はある。
帰宅までに數日を要するのも、追手を巻くための必要経費って事で許してほしいね。
「遅いぞ、雇われ」
アジトのミーティングルームに著くなり、依頼主……“ナンバー2”はしかめっ面で挨拶代わりにそう抜かした。
整った金髪のオールバックも、気苦労が絶えないと生え際がどんどん後ろに行くだろうに。
「終わらせたんだから、カリカリするなよ。あの野郎がサイボーグにでもならない限りは、しばらくおとなしくしてるだろうさ」
「中継映像は確認したよ。隨分と派手にやっていたな」
「お前さんも人が悪いね。俺にも腕時計型電話の一つくらい、用意してくれてもいいじゃないか。
そうすりゃ狀況に応じてオーダーを確認できる」
「それでは通信の位置を逆探知されるだろう? 生憎、奴らの電子戦は未知數だ。
対策を取るとしたら、そもそもを作らない。これに越したことはあるまい」
こりゃあ大層な理屈ですこと。
肩でもすくめてみりゃいいのかね。
「とにかく、足止めは功だろ? あのヘリがしゃしゃり出て來なけりゃ、ここにスパイ野郎をしょっ引く事もできたんだが」
「あれはおそらく、海兵隊傘下の特殊部隊だろう。正面から相手取るのは無理な話だ」
すると、何だ?
俺が生きて帰ってきたのは奇跡だったと。
「いやはや、おっかないね。じゃ、次のお仕事ができたら呼んでくれ」
スライド式の自ドアを通り、俺は鼻歌じりにサロンへ向かう。
今回あのスパイ野郎を陸路で向かわせるように仕向けた上、更にはゾク共まで手配してくれた最大の功労者……ロナに、お禮をしなきゃならん。
プレゼントは何がいいかね。
くまのぬいぐるみとか?
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